第140話 再びワンダーパークへ
俺が和彦の事で悩んでいるのを知っている美佳子さんが、息抜きに出掛ける事を提案して来た。
マサツグは近所のペットホテルに預けて、今日は夜まで美佳子さんとデートだ。美佳子さんの運転で、俺達は久し振りに美羽ワンダーパークにやって来た。
俺と母さんの最後の想い出が詰まった場所であり、美佳子さんが園田マリアとしてコラボしている遊園地だ。
美佳子さんは優待チケットを所持しているので、いつでも好きな時に遊びに来る事が出来る。
ただそんな頻繫に遊園地に行きたがる年齢でもないので、あんまり利用はしていなかった。最近マサツグを飼い始めたと言うのもあるけど。
「流石に2月は人が少ないですね」
「まあねぇ~~だから狙い目でもあるんだよ」
「大体のテーマパークって、この時期が良いって言いますもんね」
美羽ワンダーパークに限らず、全国の遊園地やテーマパークは1月や2月が閑散期と言われている。
だから敢えてこの時期を狙うのは悪い判断ではないだろう。やっぱり寒い時期に出歩こうとする人は減る。
特に基本的に室外の遊園地は、その傾向が強いと聞く。そりゃあ目玉となるアトラクションは大体室外だしな。
主役であるジェットコースターなんて、低い気温の中で風を更に感じる訳だし。だからこうなってしまうのは当然としか言えない。
特にウォーターライドなんて尚更厳しい。夏場に乗ると気持ちが良いけど、冬に乗りたいとは思わない。
「あれ? こんなイベントやってました?」
「ああ、ここはねぇ~~お化け屋敷がB級映画コラボを良くやるんだよ。」
「随分と変わった事をしますね?」
この遊園地の親善大使である園田マリアとして、美佳子さんはワンダーパークに非常に詳しい。
マニアックな企画をする事で、他にはない目新しさを出しているとか。実際にそのお陰で熱心なファンが着いているらしく、B級ホラー好きの間では有名だそうな。
今やっているのは『キラー特集』みたいだった。しかしその内容が、俺には全然理解出来なかった。
カブトエビとかジーパンとかトイレとか、果てにはトマトまであるんだけど? これのどこにキラー要素があるの?
首を思わず捻る内容だけど、どうやらこれらは全部ホラー映画として実在するらしい。
「百歩譲ってカブトエビはまだ良いとして、他は意味不明なんですけど?」
「まあ、それでこそB級映画だからねぇ。あんまり深く考えちゃ駄目だよ」
「は、はぁ。そうなんですか」
良く分からない世界だなB級映画って。俺は有名なアクション映画とかしか観ないから、全く着いていく事が出来そうにない。
あまりに意味不明過ぎて逆に興味が湧くとも言えなくはないけど、お金を払ってまで観たいとは思わない。
だけどそれを好き好んで観に行く人が沢山居るから、このコラボが成り立っているんだよな。世の中って分からない事ばかりだな。
こんな酔っ払いが考えましたって言われても、普通に納得出来る映画でも作品として世に出るんだから。
美佳子さんが言うには、物によっては面白いらしい。このラインナップで言われてもなぁ……ギャグとしてなら面白いのかも知れないけど。
「後でサブスクで観れるオススメを教えてあげるよ」
「サブスクならまぁ、観るだけなら」
「『ジョーズサイクロン』とかバカみたいで面白いんだよね。ホラーが苦手なボクでも観れるぐらいだし」
なんだそのタイトルはと思ってしまった。B級映画は変なタイトルを付けないといけない決まりでもあるのだろうか。
世界の広さを思い知らされているよ、だいぶ妙な方向から。まあインド映画は突然歌って踊り出すから、観ていて面白いなんて話も聞いた事あるしな。
案外映画って、そんな風に気にせず観れば良いのかも知れない。そんな会話をしながら、俺と美佳子さんは普段よりも人が少ないワンダーパークを周って行く。
俺にとって特別な場所だと知っている美佳子さんは、きっと気を遣ってくれたのだろう。
和彦の件で悩んでいた事とか、タイムの伸びとかで疲弊していた精神的な問題はかなり緩和された。
最後は以前来た時の様に、夕日を浴びながら2人で観覧車に乗っている。
「少しはスッキリしたかな?」
「はい、ありがとうございます」
「無理はしないでね、大変だろうけどさ」
前回は向かい側に座っていたけれど、恋人になった今は隣に座って手を繋いでいる。
母さんとの想い出の場所だから、守って行くと約束してくれたあの日。それからの俺達は、少しずつ関係に変化が出ていた。
思えばあの時からなのだろうか? 美佳子さんを異性として好意を持っていたのは。何時からだったのか、今となってはもう分からない。
時間が経った分だけ、その辺りが曖昧になって行く。初めて出会った時から、異性としては認識していた。
本当に気が付いたら好きになっていたから、この時だって明言するのが難しい。でもそれで良いのかも知れない。
何時からなんて分からないぐらい、自然に惹かれたと言う事なのだから。違和感のない無言が少し続くと、美佳子さんが頭を俺の左肩に預けて来た。
そんな風に甘えて来た彼女の良い香りにドキドキさせられながらも、俺達は2人の時間を目一杯楽しんだ。
特別な時間が生み出す癒し効果は大きいのだろう。観覧車を降りる頃には、かなり晴れやかな気分になれていた。
「それじゃあ、帰ろうか」
「はい! マサツグも待ってますからね」
ワンダーパークの広報担当の方と少しだけ話をした後、俺達はマサツグを迎えに行ってから美佳子さんの家に帰った。
ちなみに後日観てみた『ジョーズサイクロン』は、確かにちょっと面白いと思わされたのは何だか少し悔しかった。
ちょっとマニアックなネタを使ったので解説です。
『キラーカブトガニ』『キラー・ジーンズ』『アタック・オブ・ザ・キラートマト』『デストイレ』という映画をネタに使いました。
他にも『キラーコン〇ーム』『キラーソファ』なんかもあるので、興味が湧いた方はアマプラへGO!
サブスクで観れる作品で言えば、オススメは『キラー・ジーンズ』です。
そうはならんやろ! なっとるやろがい! ってB級映画が観たい人にオススメです。
※トマトとカブトガニは有料です。(2025年3月27日時点)




