第139話 園田マリアのゲーム配信⑤
今夜も園田マリアのゲーム配信が行われている。本日のゲームは世界的な人気を誇る『マリンクラフター』と言うサバイバルクラフト系ゲームである。
殆どが海の惑星が舞台で、海上や海中に拠点を作成して生活をすると言う内容だ。釣りや漁をしても良いし、アクアリウムを作成しても良い。
メインストーリーも一応設定されてはいるが、気にせずひたすらクラフトを続けていても良い。
VB所属のVtuberが全員集合している専用サーバーで、本日も美佳子は配信をしていた。
危険な生物も生息しているので、油断は禁物だが雑談しながら配信がし易い作品である。基本的には雑談半分ゲームプレイ半分の配信になりがちであった。
「1月も終わりだねぇ。皆は今年の目標とか決めてるの?」
『受験勉強頑張る!』
『4月から社会人デビューする!』
『今年こそ彼氏作るんだ……』
『脱ニート』
『貯金する! 来月から』
新しい1年が始まり、早くも1ヶ月が経とうとしていた。リスナー達の今年の目標について触れつつ、拠点作成を進めていく。
水中に豪邸を作ろうと言う目標に向けて、素材を集めては海中の仮拠点にストックを増やす。
建設に必要な鉱石を集める作業が、配信画面に流れている。広大な海の美しさを感じさせる背景と、穏やかなBGMによりゆったりとした時間が流れている。
そんな空気とリスナー達の反応から、ふと美佳子は話題を変える。咲人に相談された内容と、流れて来た一部のコメントが被っていたからだ。
「え、学校に行きたくないって? まあね~今って不登校が凄く多いんだよねぇ」
『そうらしいね』
『ワイらの学生時代とは全然違うわ』
『うちの子供が大丈夫か心配』
『クラスメイトに不登校居るよ』
『やっぱSNSがアカンのとちゃうか?』
様々な意見がコメントとして配信画面に流れて行く。インターネットが無かった時代とは違い、SNSが原因のトラブル等が幾つも起きている。
シンプルなイジメだけでは無く、ネットで知り合った人間との関係が問題になる場合も多い。
そんな今の時代だからこその不安や生き辛さが、社会全体の大きな問題となって暫く経った。
子供は減っているのに不登校は増え続ける状況だが、明確な解決策は未だ見つからないままだ。
全ての原因がインターネットではないのも、事態をややこしくしている。ネットの無い時代にもあったトラブルと、現代だからこそのトラブル。
その二重苦が今を生きる子供達に襲い掛かっているのだ。学校や教育委員会だけで解決するのも限界が来ている。
「嫌なら嫌で良いんだよ。でも独りにはなっちゃ駄目だよ。ボクの配信を観に来るだけでも良いからね」
『そうだよ、ここなら皆が居る』
『孤独が一番アカンって言うしな』
『ぶっちゃけ配信ってぼっちを救ってるよな』
『ワイが学生の頃にあってくれたら良かったのに』
『自分だけじゃないって思えるよね~』
ネットが原因でトラブルが起きる事もあれば、ネットがあるから救われる者も沢山居る。
配信業はその象徴でもあり、同時にトラブルの元でもある。売名目的の過激な行動に出てしまう若年者も居るからだ。
美佳子がやっている様に、視聴者を楽しませる純粋なエンターテイメントなら問題はない。
しかし明らかな犯罪行為や宗教勧誘、陰謀論が絡む物は悪影響が大きい。ネットには良い面と悪い面が同居しているので、冷静な判断力が求められる。
だがそれは若い世代ほど、人生経験の少なさ故に間違い易い。現代の子供達を取り巻く環境は、ある意味では近年で一番難しいのかも知れない。
「人に相談したら解決するとは限らないけど、だからって独りで抱え込んでいても解決はしないからね」
『その辺がムズイよな~』
『言っても無駄って思っちゃう時はあるね』
『困ったらマリアに相談や』
『珍しく聖職者らしい配信やん』
『確かにwww迷える子羊を導こう』
咲人の幼馴染である馬場和彦に対しても、画面の向こうに居るリスナー達に対しても、美佳子が物理的に何かをするのは困難だ。
出来る事と言えば、相談に乗ったりアドバイスをしたりする程度しかない。ただそれだけしか出来なくても、可能な限り信用に応えたいと美佳子は考えている。
不登校になり人生に悩む子供達を、全員まとめて救う事なんて出来ない。それでも1人でも多くの人々の救いになるならば。
そう思って美佳子はこうして配信をしている面がある。性に合っていたのが始まりであっても、今の美佳子はそれなりの影響力を持っているのだから。
「そうだねぇ。学生のお悩み相談をやっても良いかもね。恋愛だけじゃなくて」
『おっさんの悩みも聞いてよ』
『BBAも居ますよっと』
『ニートでもエエか?』
『お前らwwwwww』
『なんかもう全員で良くね?w』
そんな雑談から発展した会話により、園田マリアの懺悔室と言う企画が行われる事に決まった。
むしろ何故今まで企画としてやらなかったのか、今更ながら不思議な内容ではある。
本人のインパクトが強過ぎる上に破戒僧もびっくりな生活から、そんな清貧さや貞淑さを感じさせる企画は行って来なかった。
そもそも雑談でも、十分にその役目を担っていたのもある。それでも敢えて企画とする事によって、それはそれで人気が出たので定期的に行われる事が決まった。
ヘビースモーカーで酒豪で汚部屋暮らしの残念なアラサーだが、そんな美佳子のアドバイスが悩める子羊達を導いていく。




