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第133話 1月1日

 新年を迎えた俺は、朝から美佳子(みかこ)さんの家に来ている。目的はもちろん1つしかない。1月1日と言えば初詣である。

 今日は新しい1年の始まりを、2人で満喫する予定だ。そう長い時間を掛けるつもりは無いので、マサツグには留守番をしていて貰う。

 正月の朝食と言えば、やはりお雑煮は外せない。父さんの分を作ると同時に、美佳子さんと2人で食べる分も用意して来た。

 片手鍋に入れて持って来たお雑煮を、IHコンロで再び温める。完全に冷めてはいないけれど、このまま食べるには少し温いから。


「そう言えば、結局振袖は着ないんですか?」


「実家に放置したまんまだしねぇ。もしかして、見たかった?」


「……どちらかと言えば、まあ」


 どちらかと言わずとも本音で言えば見たかった。美佳子さんの様な綺麗な女性が振袖姿になれば、それはもう良く似合うだろう。

 ただ本来小柄な女性が着る装束である為、高身長である点がややネックか。それでも美しいであろう事は想像しただけでも分かる。

 似合う体型かどうかは問題にならない筈だ。最近では観光に来た海外の女性が、着物を着ている姿を見掛ける事だってある。

 背の高い女性でも、似合う人は少なくない。だからと言って、どうしても着て欲しいとも思っていない。

 詳しくは知らないけど着付けは大変らしいから、無理をしてまでは望まない。見られるなら見たいと言うだけで。


咲人(さきと)が見たいなら、来年は着ようかな」


「あ、いやでも、大変ですよね?」


「ふっふっふ~ボクは自分で着付けが出来るんだよ!」


 どうしてそう多芸なのに、家事だけは壊滅的なのだろうか。出来る事と出来ない事の振り幅が滅茶苦茶過ぎる。

 美佳子さんらしいと言えばその通りなんだけど、何とも言えない気分になる。ただ美佳子さんがこうして家事が出来ないからこそ、俺と知り合う余地が出来たんだ。

 この壊滅的な家事能力だからこそ、俺達の関係は成り立っている。だからこれで良いってのも変かも知れないけど、俺としてはこれからもそのままで居て欲しい。

 その為の苦労なら、俺は幾らでも買って出る。最初から俺はそのつもりで一緒に居るのだから。


「さ、出来ましたよ」


「お正月と言えばやっぱこれだよねぇ。数年ぶりに食べられたよ」


「そんなに食べて無かったんですか?」


 聞いてみればこの辺りの家事代行サービスは、年末年始がお休みらしい。なるほどそれが理由か。

 そして俺と知り合う前に使っていた家事代行の人達は、美佳子さんが年末年始に溜め込んだゴミの処理を……いやよそう。

 余計な事は考えなくて良い。新年早々から誰も幸せにならない想像はしなくても良いだろう。

 そんな事よりも、新年のフレッシュな話題について話していたい。今年はどんな所に行きたいかとか、そんな楽しい話だ。

 マサツグが1歳を迎えたら、ペット可の施設に一緒に行くとか良いんじゃないかな。楽しそうだよね、そんなデートも。


「そろそろ初詣に行きますか?」


「そうだねぇ。今日は車で行こうか」


「分かりました。マサツグ、大人しくしてるんだぞ」


 朝食を済ませた俺達は、出発の準備を始める。俺が家事を済ませている間に、着替え終わった美佳子さんが車のキーを手に寝室を出て来た。

 振袖姿では無くとも、ベージュのロングコートがとても良く似合っている。お出かけモードなので、メイクもばっちりキメている。

 どこからどうみても美人で完璧な大人のお姉さんだ。残念な言動を幾ら見て来ても、やっぱりこの姿はこの姿で良いなと思う。

 これがギャップというモノなのだろうか。ちゃんとしている美佳子さんは、いつもとは違った魅力がある。

 ぐうたら生活な普段の美佳子さんも、それはそれで味があるんだけどね。


「お待たせ、行こっか」


「あ、その……似合ってますよ」


「ん? ふふ、ありがと」


 俺達は手を繋いで家を出ると、エレベーターで地下の駐車場へと向かう。美佳子さんは車を2台所持しており、普段乗るのはアメリカ製の高級車だ。

 俺はあんまり車に興味がないので、詳しくは知らないけどSUVのハイブリッド車らしい。

 SUVって何だろうと思って美佳子さんに聞いた事があるけど、知らないという答えが返って来た。

 適当に良さそうな車を買っただけらしい。流石はお金持ちって言えば良いのか、随分と適当で豪快な買い物をしている。

 ちなみに金額を聞いたら、1千万ぐらいだと言っていた。既に何度か乗せてもらっているが、絶対に汚さない様にしようと心に決めている。


「じゃ、出発~」


「いつもすいません」


「良いの良いの。でも免許を取ったら咲人が運転してね」


「……え、俺がこの車を?」


 いやあの、最初は中古の軽自動車とかが良いなって言うか。いきなりから誰でも知っている様な高級車は怖すぎると言いますか。

 この車に初心者マークを付けて俺が運転するの? 新年早々から恐ろしい未来を宣告されてしまった。

 18歳で1千万もする車を運転する人が、この世界に一体どれだけ居るのだろうか。よし、最初は父さんの車で一杯練習をさせて貰おう。


 俺に高級車を擦ったり凹ませたりする勇気は持てない。美佳子さんにはある程度練習をしてから免許を取ったと伝えよう。

 でないと俺の心臓が持ちそうにない。そんな事を考えながら、俺達は初詣に向かった。何を願ったか?

 そんなのずっと美佳子さんと一緒に居られる様にってベタな願いだよ。

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