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第132話 初めて過ごす恋人との大晦日

 12月31日、それは全世界で今年の終わりを迎える日。殆どの人々が自宅で家族団欒の時を過ごす。

 これまでは俺もそうして来た。だけど今年はちょっと違っている。高校生になって最初の大晦日は、美佳子(みかこ)さんの家で過ごしていた。

 俺がそうすると決めたら、父さんの方も会社の同期と知人が経営するバーで過ごす事にしたらしい。

 お陰で年越し蕎麦を作るのも、美佳子さんと俺の分だけで良い。2人分しか作らない点だけは例年通り変化がないけれど。


「山菜ときつね、どっちにしますか?」


「う~~ん……きつね、いややっぱ山菜で!」


「じゃあ山菜蕎麦にしますね」


 あと数時間で今年が終わる、そんな夜を恋人と共に過ごしている。彼女の為に年越し蕎麦を作るのは初めての経験で、何とも不思議な気分だ。

 今までは父さんと自分の為にだけ作っていた。それがこうして特別な女性の為に作っている。

 これまでに何度も美佳子さんに料理を提供して来たけど、それらとはまた少し違う感じだ。

 まだ家族になった訳じゃないけど、まるで家族になった様な錯覚を覚える。大晦日というのはそれだけ特別な日だ。

 今年が終わって新年が始まる瞬間を、一緒に迎える相手。それがあの日、路上に倒れていたお姉さんなのだから面白い。


「うん? なんだマサツグ、また生野菜か?」


「うにゃー!」


「はいはい、今切ってやるから」


 俺が台所に立ったのを察して、マサツグが生野菜を要求しに来た。食べすぎにならない様に注意しつつ、食べやすいサイズにレタスを小さく切って与える。

 最近のマサツグは、レタスがお気に入りらしい。レタスの葉を齧っているマサツグを尻目に、俺は山菜蕎麦の調理に移る。

 買っておいた蕎麦を煮つつ、少しだけ水菜を細かく切って鍋に投入する。良い感じに煮て来た所に、用意しておいたワカメも追加で投入。

 一般的な山菜蕎麦とは少し違うかも知れないけど、俺はこのアレンジが気に入っている。

 後は山菜の水煮を大体半分ずつになる様に分けておき、それらを全て丼に入れて完成だ。


「お待たせしました」


「ありがとう! へぇ、咲人(さきと)の家じゃワカメを入れるんだ?」


「うちって言うより、俺の好みですね」


 ネットにあるレシピによっては、大根おろしやネギを足す場合もある。人によって違うバリエーションの多さが馬鹿にならない。

 うどんや蕎麦は一見単純でシンプルな料理だけど、具材や調理方法は多岐に渡っている。

 それこそ麺のゆで方や出汁の取り方から、色々と違っている事が多々ある。麺を茶蕎麦にして京風にするパターンだってある。

 このアレンジの幅の広さが面白いと俺は思う。作る人のやり方次第で無限大の可能性を秘めているから。

 ちょっと大げさかも知れないけど、それぐらい自由度が高い料理だ。そう言う意味ではラーメンも似ている。あちらも少し調べるだけで、色々なラーメンが出て来る。


「うん! 咲人の料理はいつも美味しいね!」


「口に合ったみたいで良かったです」


「咲人の作る物で合わなかった事なんて無いよ」


 作る側としては、やっぱり美佳子さんが美味しそうに食べてくれると嬉しい。そう思うと、俺の進むべき道はやっぱり料理方面なのだろうか?

 でも俺が作りたいのは美佳子さんのご飯だ。より沢山の人々に、それ程の思いかと言うと微妙なラインだ。

 興味はあるけど、今はそれほど強い気持ちではない。なんて事を、俺がこうして考える様になったとは。

 本当に今年1年は驚きと変化の日々だった。美佳子さんと出会ってから、俺は随分と変わった様に思う。明らかにそれ以前の東咲人(オレ)ではない。


「美佳子さんに出会えて、本当に良かったです」


「きゅ、急だね咲人。どうしたのかな?」


「いえ、今年1年を思い返していただけですよ」


 最初は変なお姉さんだと思った。無防備だし滅茶苦茶だし、ヘビースモーカー兼酒豪で部屋が汚くて。

 家事代行をやらないかって誘われて、金額に惹かれて始めてみた。最初はただ社会経験と家計の為を思ってやっていた。

 それが少しずつ、この人の為にやる様になって行った。夏歩(なつほ)に言われるまで気付かなかった、美佳子さんに対する感情。

 人を好きになると言う経験を、周囲よりちょっと遅れて体感した。恋愛とは何か、以前よりは理解出来る様になったと思う。

 百戦錬磨の人達から比べれば、まだまだ初心者マークは取れていないだろうけど。


「ボクだってそうさ。咲人と出会えたのは人生で一番の幸運だったよ」


「それはちょっと過大評価じゃないですか?」


「いいや、間違いなく一番だったよ」


 年越し蕎麦を食べ終えて、後は日付が変わるのを待つのみ。残された時間を2人で寄り添い合いながら、俺達は1年の終わりを過ごしている。

 繋いだ手から感じる美佳子さんの体温は、最近少し感じ慣れて来た。俺の体温よりも少しだけ低い、だけど冷たくはないささやかな温もり。

 こうして過ごす何気ない時間が、いつの間にか宝物の様になっている。俺達が何をしているのか、全く知らないマサツグが見守る中で俺達の距離は近付いていく。

 1年が終わる数秒と、新年を迎えた数秒間。昨年最後であり、今年最初となるキスを俺達は交わした。

どうもここ数日なろうへのDDoS攻撃が行われている様です。カクヨムでも全く同じ内容で掲載しているので、もし大規模な障害等が起きた時はあちらにどうぞ。

広告収入関係は全部オフにしているので、使用感はそう変わらない筈です。

少し前のKADOKAWAさんに対する攻撃と言い、迷惑な話ですね。

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