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第131話 年の瀬デート

 クリスマスは恋人達にとって、特別な日だと言われている。恋愛経験がまともに無かった俺には、何となくのイメージでしかないけど。

 それにクリスマスは平日で、ギリギリ冬休みより前だ。だから特別何が出来る訳ではなく、美佳子(みかこ)さんと普段通り過ごしただけだ。

 もちろん一緒にケーキを食べたり、2人の時間を過ごしたりもしたけれど。その後は園田(そのだ)マリアとしての、クリスマス配信を自宅で観て終わりだった。

 だけどクリスマスを過ぎてから、改めて休みの日にデートをしたら良いだけだ。俺達は今年最後の日曜日に、美羽(みう)駅前に出て映画を観に来ていた。


「流石に年の瀬ですし、結構席が空いてますね」


「そうだねぇ。皆家でゆっくりしたいだろうからねぇ」


「お陰でどこもすぐに入れて良いですけど」


 スーパー等は買い出しで盛況の様子だったけど、アミューズメント施設は人がそんなに多くない。

 予約も取らずに良い席に座れたし、売店で飲み物を買う時も並ぶ必要が無かった。後は映画が始まるのを待つだけだ。

 数日前に映画を観たいと言い出したのは美佳子さんの方で、どんな映画なのか聞いたら意外な作品だった。

 女性らしく恋愛モノかと思いきや、まさかの恐竜映画であった。その手の作品では超有名な『ダイナソーワールド5』である。

 俺が生まれる前から続いているシリーズで、ワールドの前にミュージアムという3部作が出ている超大作だ。


「意外でしたよ、美佳子さんがこの手の映画を観たがるなんて」


「そうかな? 人間はちっぽけな存在だなぁって知れて良いじゃない?」


「それはまあ、確かにそうですけどね」


 この最新作を観たいと言う事だったので、俺もサブスクで4までの全作品を視聴して来た。

 冬休みだったから、初代から7作品をパパッと観るのは簡単だった。何作かは小学生の頃に観た記憶があったけど、改めて観てみたら結構面白かった。

 命の大切さとか家族愛とか、色々なテーマが表現されている映画だ。自分に恋人が出来てから視聴すると、昔とは見え方が違っていた。

 小さい頃に観た時は、ただ恐竜がデカくてカッコイイなって程度の感想だった。男のロマンと言うか、その手の何かを感じていただけだ。


「本当に恐竜が現代に蘇ったら、ちょっと見てみたくない?」


「チケットを取るのに苦労しそうですけどね」


「その時はボクに任せてよね」


 そんな話をしている間に、上映時間となり映画が始まる。注意事項の喚起に新作映画のCMが何本か流れてから、本編の映像が始まる。

 昨日までに過去作を観ていたので、映像の進化に驚かされる。そして今作も例に漏れず、家族愛や命の大切さを描く物語になっている様だ。

 そう言えば疑問なんだけど、海外の映画は離婚する話が多い様に思う。もしくは既に離婚済みであるか。

 再婚する所から始まる映画も結構ある。恋人と観る内容として相応しいのか、少し悩む内容だ。

 ただ結局最後は家族の絆が元に戻る話で、ハッピーエンドだったから良かったけど。迫力も凄かったし映画としては十分楽しめた。


「面白かったですね!」


「うんうん、ボクも満足だよ」


「続きが出る様なら、また観に来ましょうよ」


 一応綺麗な終わり方をしていたけど、続編も作れそうな内容でもあった。現代に復活した恐竜と人間の共存がどうなるのか、まだまだ色んな展開がありそうだ。

 映画の事は詳しくないから、どれだけウケれば続きを作る判断が下るのかは分からないけど。

 でもまたやるんだったら2人で観に来たい。同じ人と続編を観られるという事は、それだけ関係が続いていると言う事だ。

 この映画は30年近く続くシリーズだけど、この先も10年20年続くのであれば2人で追い続けたい。

 あの時はこうだったよね、とかそんな会話が出来るぐらい共に過ごし続けたい。そんな風に思うのは、この映画を観たからなのだろうか。


「でも凄いですよね。俺が生まれる前から続いているんですから」


「ゔっ……そ、そうだよね。咲人(さきと)の年齢的に」


「はい。ミュージアムの頃は生まれてないですし」


「ワールド世代……ははは……」


 美佳子さんはまたジェネレーションギャップでダメージを受けているらしい。もう気にするのは止めたら良いのに。

 どう見ても美佳子さんはおばさんじゃない。ただの大人の女性でしかないのに。でも女性にとっては重要な要素らしいから、仕方ないのかも知れない。

 30代や40代でも綺麗な人は世の中に一杯居るのになぁ。美佳子さんだってその内の1人だと言うのに。

 20代の女性とそう大差はないし、見た目だけでは分からない。何度もそう言い続けているのに、まだ自覚出来ていないのだろうか。

 そもそもこの容姿でおばさん扱いをしたら、世の中の女性達が大いに怒るに違いない。


「大丈夫ですって。美佳子さんは今も若くて綺麗ですよ」


「そんな風に思うのは咲人ぐらいだよ」


「例えそうだとしても、良いじゃないですか。俺の気持ちは変わらないんですから」


 実際に美佳子さんは、その美しさから目立っている。きっと視線に慣れ過ぎていて麻痺しているのだろう。

 十分に魅力的な女性であるのだから、そこは自信を持てば良いのに。変な所だけは謙虚なんだよな。

 無駄にダメージを負っている美佳子さんを慰めながら、俺達は普段より人の少ない繁華街でデートを続けた。

元ネタの特別前売り券が売り切れてて買えなかった圧倒的敗北者です。

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