第129話 園田マリアの雑談配信⑧
そろそろ学生達が冬休みに入ろうと言うタイミングで、園田マリアの雑談配信が行われていた。
今夜の配信では年末年始の予定について、細かいスケジュールが発表されている。それから事務所の社長として、公式ストアの営業についても告知を行っていた。
配信自体は年末年始であっても行うが、事務所の業務は流石に美佳子も1週間程は休むつもりだ。
部屋が汚くても仕方ないと思えてしまえるぐらいに美佳子は多忙である。ただし同じぐらい多忙でも、家事を自分でやっている女性は世の中に沢山いるけれども。
「こっちが年末年始の予定だよ~。コラボ系のグッズはコラボ先の営業予定を確認してね~」
『お年玉でアクスタ買います!』
『お、年越しFSO14か~俺もログインしよ』
『大晦日にMMOで集まるの良いね』
『でもあれ月額制だよね?』
『月額そんなに高くないよ~』
今年の大晦日は大人気MMORPGのゲーム内で、皆で集まろうと言う企画が発表された。昼間から夕方までの長時間配信となっている。
現在無料で遊べる期間が始まっており、2ヶ月間特定の進行度までは月額を払う必要がない。
お金を自由に使えない学生であっても、ゲーム機かパソコンさえあれば誰でも遊ぶ事が出来る。
企画の内容は初めて間もない初心者でも集まれるエリアで、視聴者参加型のイベントを行うというモノ。
この件についてはゲーム会社から来た案件であり、VB所属のVtuber全員でここ最近はこの作品の配信を行っている。
もちろんそれに合わせて咲人もプレイを始めた。なにせこのゲームは、ゲーム内で結婚が可能なゲームだからだ。
「あとウチの公式ストアは12月27日から1月6日までお休みね~。この前在庫整理したんだけど大変だったよ」
『お疲れちゃん』
『社長自ら在庫管理をする代表の鑑』
『無理せんでや』
『仕事面は有能なのに……』
『私生活はね……しょうがないね』
他にも所属Vtuberの配信予定も発表し、今後の動きを説明して行く。雑談配信ではあるものの、半分は業務連絡に近い。
年末年始はどうしても対応し切れない場面が出て来てしまうので、説明が多くなるのは仕方がない。
その分ゲーム配信などで、しっかりと楽しんで貰おうと美佳子は考えている。この辺りは配信者としても、社長としても外せない義務とも言える。
美佳子はただ配信していれば良いだけの立場ではないのだから。やる事はちゃんとやって、遊ぶ時は遊ぶ。
そのメリハリとバランス感覚は非常に重要である。そう言った部分はしっかりとしているのが篠原美佳子という女性だ。なお私生活。
「クリスマス配信もちゃんとやるから安心してね。まあボクは独り身じゃないけど」
『は???』
『急にマウント取るやん』
『彼氏が出来たらコレである』
『アラサーイキリおばさん』
『ここ数年居なかったんや、許したれ』
クリスマスと配信者の関係は非常に複雑な問題がある。クリスマスに配信をしないだけで、恋人が居ると判断して怒る人達が一定数居るからだ。
これまでにも様々なVtuberが、邪推からお気持ち表明をされてしまう事件が起きている。
そもそもクリスマスが土日になるのは数年に1度しかなく、その大半は平日である場合が殆どだ。
クリスマスに恋人と2人で過ごす時間が取れるのは、せいぜい冬休み中の学生ぐらいである。同棲していれば大人でも何とか、という程度か。
働いている大人であれば、その大半は翌日も仕事である。そんな日に夜通し恋人と過ごすカップルは果たして全体の何割だろう。
有給休暇を取れば社会人でも何とかなるが、そんな忙しいタイミングで取得すれば角が立ち兼ねない。
「クリスマスに恋人が居ないのを嘆くのも変な話だと思うけどね~」
『毎年嘆いてた奴が何を言っとる?』
『彼氏なんて必要ないって言ってた友達を思い出す』
『で、で~~~www恋人出来たら強気奴~~~www』
『恋人が出来たら皆、変わってしまうんや……』
『結婚する気はないって言ってた奴ほど結婚するねんな』
今年は咲人が居るからと、敢えてリスナー達との戯れに走る美佳子。しかしそんな程度で園田マリアのファンを辞める人は居ない。
これもまた遠慮のないやり取りの1つであり、そんな意図的なやり合いがまた視聴者達の笑いを誘っている。
元から園田マリアのファン層は、誰かコイツを貰ってやれよというスタンスであったのだから。
だからこそ成立する殴り合いであり、ガチ恋営業ではないからこそ取れるスタイルなのだ。
ガチ恋はガチ恋でメリットは大きいが、アイドル路線はその分苦労も絶えない。どちらが良いとは言い難い複雑さが配信者にはある。
「まあでも、また皆と1年の終わりを迎えられそうで良かったよ。今年も残り少ないけど、体には気をつけてね」
『おまいう』
『若いからって油断するなよ学生達』
『大学のサークルで飲み会して、そのまま救急車コースもあるからね』
『会社の忘年会行きたくない』
『ニートワイ、今日も元気にゴロゴロ』
園田マリアとして、篠原美佳子として過ごして来た1年間。今年は咲人との出会いによって、様々な変化が美佳子に訪れた。
自分の様な生き方では、受け入れてくれる男性なんていない。そう諦めかけていた美佳子と、自分に恋愛なんて出来ないと思っていた咲人。
2人が出会って幸せな日々が続いていたが、良い事ばかりが続くとは限らない。それぞれが過去と向き合わねばならないその時が、少しずつ近付いていた。




