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第128話 事務所の手伝い

 冬休みを目前にした12月中旬の日曜日。俺は美佳子(みかこ)さんの手伝いでとある倉庫に来ていた。

 ここは美佳子さんが所有している建物であり、主にVB(ブイビー)関連のグッズが保管されている。

 他社とのコラボ商品以外の、自社で販売しているアクリルスタンド等が主に置かれているらしい。


 本日はここで棚卸と、年末分の出荷を行う予定になっている。美佳子さんに連れられて、マンションから車で10分ほど掛けて移動して来た。

 何度か近くを通った事はあったけど、ここに美佳子さんが持つ倉庫があったなんて知らなかった。

 という現実逃避から意識を戻すと、俺の目の前には少しキツそうな黒髪の美人が居た。


「ふぅん……貴方が篠原(しのはら)さんの彼氏ですか」


「え、えぇっと」


「この子は稲森美桜(いなもりみお)ちゃん! うちに所属している寺町(てらまち)こなたの中の人だよ」


 あ、ああ。この人がそうだったのか。美佳子さんの家の隣に住んでいるらしいもう1人の女子大生。

 VB所属の寺町こなたは、和服が似合う京美人という設定のキャラクターだ。一見すると柔和な雰囲気に見えるが、口を開くと滅茶苦茶ストレートな物言いをする。

 美佳子さんとはまた違った、ストレートな発言が多い女性Vtuberだ。歌が上手い事で有名であり、物怖じしない言動が人気を博している。

 ただ口調が厳しいだけではなく、厳しさの中に真摯さや優しさを持っているのは間違いない。頼れるお姉さんキャラとして、男女共にファンを獲得している人だ。


「あ、東咲人(あずまさきと)です。よろしくお願いします」


「礼儀正しいのはエエ事やね。よろしゅうね」


「ささ、それじゃあ始めようか」


 稲森さんは寺町こなたのイメージと全く違和感のない、高貴さを感じさせる女性だった。

 単にキャラ作りとしてだけじゃなく、演じている本人が元々こうなのだ。京都出身の人だとは聞いていたけど、もしかして良い所のお嬢様なのだろうか?

 普通の女子大生にしては、纏っているオーラが違う。生まれがお金持ちっぽい事はファンの間でも有名な話だ。

 美佳子さんの周りに居る女性は凄い人ばかりだ。やっぱり自分で事務所を持つ様な女性の下には、やり手の美人が集まるのかも知れない。

 それはそれとして、自分から志願した以上はちゃんと手伝わないと。ちょうど暇だったからと、手伝いますと言って着いて来たのだから。


「咲人ごめん、これ運んでくれる?」


「分かりました。どこに置けば良いですか?」


「そこの棚にお願い」


 今回の俺の主な仕事は荷物運びである。女性だけでは運ぶのが大変な荷物を、指示に従って移動させる。

 グッズが入った段ボール箱は、結構な重量がある。意外とポストカードみたいな、単体では軽い小さな物ほど大量に入るので1箱が重い。

 思っていたよりも、これは重労働になるかも知れない。ただ棚卸ってものがあまり良く分かっていないから、他に貢献出来る事はそう多くない。

 何がどれだけ在庫として残っているのか、それを調べる作業らしい。スーパーとかでバイトでもしていたら分かるのだろうか?

 何となく理解は出来て来たけど、商品ごとの違いが俺には良く分からない。黙って指示に従う方が良いだろう。


「彼氏さん、これもお願いしますね」


「はい!」


「あ、咲人! それはあの大きい箱に入れておいて」


 倉庫の奥にある大きなプラスチック製のコンテナに、言われた通り段ボール箱を運び入れる。

 配信者として10年近くやって来ただけに、美佳子さんが保管しているグッズは結構数が多い。

 初期から販売していた物もあるので、古い箱は中々の年季が入っている。それだけに配信者としての歴史を感じさせられた。


 普段は美佳子さんが自分で発送しているらしいけど、この量を自分達だけで管理するのは少々厳しいのではないだろうか。

 事務所運営に関しての知識は持っていないけど、そろそろ従業員を雇っても良いんじゃなかな?

 マネージャーも美佳子さんが兼ねているみたいだし。ちょっと1人で頑張り過ぎだと思う。


「美佳子さん、そろそろ誰か雇ったらどうです?」


「あぁ~まあねぇ。そうなんだけどねぇ」


「ウチもそう思います。いい加減無茶なんとちゃいますか?」


 本格的に従業員を雇うとなれば、きっと色々と大変なのだろう。雇用契約とか? なんかそんな感じのアレコレとか。

 労働基準法とかも関係してくるだろうし、色々と複雑そうだ。年間休日数とかボーナスとかも考えないといけないもんな。

 配信者を集めるのとはまた違うだろうし。下手に変な人を入れて、滅茶苦茶になったら本末転倒だろう。

 あんまり無理はして欲しくないけど、厄介事に発展するのも望ましくない。その辺りのバランス取りは、ただの高校生に過ぎない俺には分からない世界だ。


「そうだねぇ、雇うなら女の子が良いかなぁ」


「女性だけの事務所ですもんね」


「何より可愛い女の子の方が、ボクとしては嬉しいからね!」


 そっちだったかぁ。わりと私利私欲が反映されている雇用条件だった。まあでも、今から男性が入るよりは良いだろう。

 今日まで女性達だけでやって来た事務所なのだから、どうせなら美佳子さんの趣味で決めてしまっても良いんじゃないかな。

 こうして力仕事なら俺が手伝えば良いだけの話なのだから。ついでとばかりに、バイトをしたい女子が居たら紹介して欲しいと頼まれてしまった。

 今の所は周りにそんな女子は居ないんだよなぁ。もう既にやっているか、学業と部活に専念している女子ばかりだ。

 進級してクラスが変わったらそんな女子と知り合うかも知れないけど、現状では候補がいない。

 その件については頭の片隅に残しつつ、美佳子さん達の作業を手伝い続けた。

ちょくちょく美桜が手伝っているので、倉庫はちゃんと綺麗です。美佳子さんが定住しなければ安心安全。

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