第126話 お土産を買おう
昨年末から開催されていたカクヨムコンテスト10にて、本作が中間選考を通過しました。残念アラサーゲロインが最終選考行き???????
河田さんと雄也の問題が解決してからはトラブルもなく、俺達は無事に修学旅行の最終日を迎えた。
結局あの後、一哉達も正式に2人へ謝罪をした。よほど斎藤さん達に怒られたのか、揶揄っていた男子達は随分と大人しかった。
それに関して雄也と河田さんは怒っておらず、案外あっさりと事態は収束したので平和そのものだ。
俺は俺で過去の自分を反省する良い機会にもなったから、これからの人生に活かそうと思う。
俺自身の恋愛では無かったけれど、また少しだけ恋愛と言うモノについて理解が進んだ。
人によって色々な恋愛があるのだなと、ぼんやりと考えながら俺はホテルの売店でお土産を選んでいた。
「なあ見ろ咲人、木刀売ってるぞ」
「絶対いらないって。やめとけよ」
「でも気になるじゃん?」
一哉がお土産コーナーの木刀に反応している。定番ではあるけれど、間違いなく要らないお土産第1位だろう。
買って帰って誰にあげるでもなし、自分で使う訳でもない。陸上部の俺達が木刀なんて買って何に使うつもりだよ。
剣道部ならまだしも、正しい持ち方すら俺達は知らない。先ず間違いなくただの置物になるだけだ。
中学の時にも居たんだよな、木刀を買って帰った奴。もちろんそいつも剣道部では無かった。
今どうなっているのかは知らないけど、そいつはテニス部だったから使い道はないままだろう。
「てか咲人は何買うんだ?」
「野沢菜だな。美佳子さんと父さんに」
「……地味じゃね?」
地味でも良いんだよ。お土産なんてのは、華やかさと関係がない。そもそも美佳子さんから頼まれていた品だ。
長野に行くと教えたその日に、野沢菜が食べたいと言っていた。じゃあどうせなら父さんも同じで良いかなと。
お酒が好きな者同士、好みはそう変わらないだろうから。まだ飲酒をした事がない俺には、漬物を摘まみながら酒を飲む良さが理解出来ない。
その感覚は分からないけど、大人は好きなのだろうと納得はしている。後は適当にお菓子類でも買って帰ろうか。
どうせならシルバージムの山崎さんにも何か買って行こうかな。お世話になっている人の1人なのだから。
「山崎さんに渡すなら何が良いかな?」
「ちょっと待て咲人。大人のお姉さん枠はもう十分だろう。ここは俺に譲って貰おうか」
「そんな下心なんてないわ!」
単なるお土産であって、特別な贈り物とかじゃない。何を勘違いしてくれているのか。俺は別に年上の女性なら誰でも良い訳じゃない。
年上の方が居心地は良いと感じているけど、俺はあくまで美佳子さん一筋だ。綺麗な女性とあらば、先ず関わりを持とうとする一哉とは目的が違う。
と言うかお前は山崎さんも狙う対象だったのかよ。阿坂先生だけでは懲りていないらしい。
それぐらいアグレッシブな方が恋愛する機会は多いのだろうけどさ。だけど同じ生き方をしようとは思えない。俺は1人の女性で十分幸せなのだから。
「東君達は何を買うの?」
「お、澤井か」
「ちょうど良かった、3人で山崎さんにお土産を買わない?」
良いタイミングで澤井さんが声を掛けてくれた。同じジムに通う3人が揃ったから、共同で買って帰る案を提示する。
この方法なら負担も減るから一石二鳥。それとは別に、一哉が私的に用意するのは好きにしてくれれば良い。
本気でアタックすると言うなら応援ぐらいはする。ただどこまで本気で言っているのかは怪しい所だけど。
一哉の思惑はともかくとして、澤井さんも賛成してくれたので山崎さんのお土産を3人で選ぶ。やっぱりお菓子系が無難なお土産だろうか?
「スポーツトレーナーだし、カロリーとか気にするかな?」
「確かにそうかも」
「でも食べ物以外って、選ぶのむずくね?」
マグカップとかも選択肢にはなるけど、使うかどうか分からない物を選ぶのは確かに難しい。
それならやっぱり適当なお菓子が良いだろうか? 他にも善光寺の七味唐辛子とか、信州蕎麦なんかもあるけれども。
色んなスイーツ系も沢山並んでいるので悩ましい所だ。山崎さんのお土産を選んでいたら、美佳子さんが好きそうなお菓子があったので追加しておく。
一旦目的が逸れてしまったけど、その間に澤井さんが信州リンゴのタルトを発見していた。
余計な糖分が無い素材の味を活かした品で、健康にも良さそうだったのでお土産はタルトに決定した。
「山崎さんには澤井さんが渡してくれない?」
「良いけど、どうして?」
「同性から渡される方が良いかなって」
多分俺や一哉が渡しても気にはしないと思う。ただどうせ渡すなら、その方が良い様な気がした。
余計な気遣いかもしれないけれど、気持ちよく受け取って貰う方が良い。俺と一哉はお金だけを澤井さんに渡して、その後の事は任せておいた。
そしてふと目に付いた、カップル用と思われるお揃いのマグカップ。リンゴ等が描かれた少し可愛らしいデザインだけど、これもお土産として買う事にした。
美佳子さんの家で飲食をする機会も多いから、この手のアイテムを持っておくのも悪くはない。
一度考え始めたら、お箸だとかスプーンだとか色々と気になってしまう。お土産コーナーはカップル向けのアイテムが多くて困る。
流石に全部は無理だし多過ぎるから、この手のアイテムは美佳子さんと2人で改めて買いに行こう。
ペアのマグカップだけを追加した俺は、お会計を済ませて帰りのバスへと乗り込んだ。




