第124話 激動の3日目
修学旅行の3日目も平和にスキーをして過ごしていた。流石に3日目ともなると慣れて来た生徒が増え、中級者コースから上でも頻繫に見掛ける様になった。
別のクラスに居る陸上部のメンバー達と、上級者コースで顔を合わせる機会が増えている。
見知った顔と挨拶を交わしたりしながら、俺達は雪山の斜面を滑り降りた。上級者コースから一番下まで滑り降りるのは、やはり一番の醍醐味と言える。
雪山の冷たい空気を感じつつ、爽快な気分になっていた。冬休みの間に、美佳子さんともスキーに行けたら良いのだけども。
本人に聞いたらスキーもスノーボードも出来ると言っていたので、機会さえあれば是非とも行きたいと思う。
「なあなあ咲人! 今の出来てたか!?」
「うーん、もうちょっと綺麗に足を揃えないと駄目かな」
「今のでも駄目なのかよぉ」
飲み込みが早い一哉と澤井さんには、既にパラレルターンを教えている。ただやはり難易度が高い為に、まだ完璧とは言えない。
これはシンプルに経験不足が原因であって、慣れるしかない。何度も滑って繰り返し練習するしか上達する道はないだろう。
俺は見た事がないけれど、早い人だと2日程度で出来る様になる人も中には居るらしい。
それを思えば、一哉達もそろそろ出来る様になっても不思議ではない。実際に2人とも惜しい所までは来ている。
他の初心者組も似た様な習熟度であり、結構良い感じに滑れているのは間違いない。後は体力の許す範囲で滑り続けるだけだ。
「仕方ないさ、練習あるのみだよ。澤井さんもまだ平気?」
「私は大丈夫だよ」
「じゃあ全員揃ったらまた上がろう」
まだ降りて来ていないメンバーを、リフト乗り場の近くで待つ。最近は日本のスキー場を目当てに来る海外の人が多いので、結構な人数のお客さん達がいる。
見た感じ欧米の人が多いのだろうか。聞いた話では、カナダ等の立派なスキー場がある国の人達にも人気らしい。
何が魅力なのか、俺には良く分からないけどね。海外に行った事がないから比較しようがない。
雪の状態が海外と日本では違うらしいけど、雪なんてどこの国でも同じなんじゃないのか?
そんな事を考えていたら、滑り降りて来た雄也が綺麗なパラレルターンで俺達の前で停止した。大量の雪を撒き散らしたのはわざとだろう。
「宮下! お前なぁ!」
「はははっ! 俺の方が早く上達したみたいだな!」
「本当に上達したな雄也。河田さんが教えるの上手いんだな」
澤井さんが意図して組ませた組み合わせだったけど、そんな思惑と関係なく雄也は上達している。
元々運動神経は良いのだから、何も不思議な事ではない。ただそれも教える側が優秀であってこそだ。
指導者としては、俺よりも河田さんの方が優秀だったと言う事だろう。その点は少しだけ悔しいけれど、それよりも雄也との関係が良好な様で安心している。
このままいい関係に進んでくれたら良いなと俺は思っていた。この日の夜になるまでは。それは夕食後に始まった、些細な話題から発展した会話だ。
「で、宮下はやっぱり河田と?」
「だから違うって。そう言うのじゃない」
「でも最近お前ら仲良いじゃん」
一哉を筆頭にクラスの体育会系達で、廊下で恋バナめいた会話をしていた。俺達は修学旅行で舞い上がっていたのは否めない。
修学旅行中に良い雰囲気になった男女は多く、その中の数名が冷やかされている。それはいつものノリと言ってしまえばそれまでだ。
彼女が出来たとか告白したとか、そんな話題で盛り上がる事は珍しくない。だからつい油断してしまっていたのだ。
確かに今俺達は、男子で集まっている。だけど同じホテルには当然ながら女子達も居る。だから今この場では、こんな話をするべきじゃ無かった。
部屋に戻ってからでも良かった話題を廊下でしてしまった。俺の視界には、こちらに向かって来る女子達が映った。
「だから、俺は別に!」
「待て雄也! 今は!」
「河田の事なんて別に好きでも何でもないって」
最悪のタイミングだった。丁度俺達に気付いて近付いて来た女子グループに、完全に話を聞かれてしまった。
やらかした事に気付いた雄也も、固まってしまっていた。それはそうだろう、悲しそうな表情で走って行った河田さんが、俺達にもバッチリ見えてしまっていた。
完全な藪蛇、大きな失態。雄也だって、揶揄われたからつい言ってしまっただけの事。本当にそう思っているのでは無く、照れて誤魔化しただけだ。
しかし会話の流れを知らなかった河田さんには、そんな事を理解出来る筈もない。やっちまった、そんな空気が俺達を包む。
そして厳しい女子達の視線が、雄也の下に注がれる。珍しく怒った表情で、澤井さんが口を開いた。
「追いかけなさい!」
「あ、ああ!」
「全くアンタ達さぁ~~」
斎藤さんが一哉を筆頭に、揶揄っていた男子達に説教を始めた。止めなかった俺も悪いので、こればかりは反省するしかない。
結局また俺はやってしまったのか。そう思っていたら澤井さんに腕を掴まれ、その場から連れ出された。
どうやら行ってしまった河田さんと雄也の2人を、俺達で追い掛けるつもりらしい。俺なんかが何の役に立つのか分からない。
だけど昔の様に、友人の恋路を邪魔したままで終わりたくもない。同じ過ちで終わらせない為に、俺は先行する澤井さんの背中を追い掛けた。
友達の恋愛トラブルもあるあるかなと。
そして本日3/11が投稿1周年になります。1年で書いた総トータル文字数は、全登録サイトと未発表込みで165万文字でした。
読書感想文の400文字すら大嫌いだったのに不思議なものです。




