第121話 スキー教室初日
長野県のスキー場に来た俺達は、ホテルに荷物を降ろして早速ゲレンデに来ていた。綺麗に積もった雪が、山の斜面を真っ白に染めている。
久しぶりに来たスキー場で、俺は思う存分に冬を満喫していた。俺達は現在、事前に決めていた11人の班で行動している。
拘る事では無いと思うけど、スキー教室と言う名目なのに生徒だけで行動出来るのは良く分からない。
初心者が集まっている班には先生が着いているのに、俺達の様に経験者が所属する体育会系は放置である。まあお陰で自由に行動出来て助かっているけど。
「いやー咲人は教えるのが上手くて助かるわ」
「そうかな? 一哉達が元々センスあるだけだと思うけど」
「そんな事ないよ~東君の説明が上手なんだよ」
うちの班でスキー経験者は俺を含めて4人だ。11人で行動しつつ、滑れる人間が2人から3人ほど受け持って教えている。
俺の担当は同じ陸上部で、いつものメンバーである一哉と澤井さんだ。2人ともスキーに向いていたのか、早い段階でちゃんと滑れる様になった。
今から上級者コースは少々厳しいかも知れないけど、中級者コースなら問題なく滑れている。
それでも明日には上級者コースであとうとも、2人は滑れる様になっていそうだ。スキーは結局、足腰が安定して怖がらなければ何とかなる。
その点においては、2人とも両方を持ち合わせている。極端に恐れる事もなく、足腰の使い方も問題は無い。
「なあ咲人、あれも教えてくれよパラなんちゃら」
「パラレルターンか?」
「そうそれ! 何かカッコイイやつ!」
相変わらず理由が雑だけど一哉らしい動機だ。スキーの滑り方には色々とあるけれど、有名なのはパラレルターンが一番だろうか?
あれが出来たら一人前というイメージがあるからか、他の滑り方よりも認知度が高い気がする。
最初に教わる筈のボーゲンは知らなくても、パラレルターンは知っていたりするんだよな一哉みたいに。
カッコイイと言えば確かにそうかも知れないけど、教わってすぐ出来る様になるかは本人次第だ。教えるのは構わないけど、先ずは段階を踏まないとな。
「良いけど、それより先にシュテムターンだぞ」
「……何だそれ?」
「私も聞いた事ない」
最初に教わる滑り方は、八の字と呼称したりするボーゲンだ。スキー板の先を閉じて後ろ側を大きく開き、上から見た時に漢数字の八になる状態を作る。
見方によってはVの字とも言えなくもない。この滑り方は速度が出にくく、曲がるのも停止するのも簡単だ。
スキー板は開くほど速度が低くなり、閉じる程にスピードが出る。更に言えば腰を後ろに落とす程に速度が増す。
この原理を利用したのがパラレルターンで、敢えて足を閉じてスキー板を並行にして滑る。適度に腰を落とせば速度もかなり出る。
カーブする際も足は閉じたままであり、一切板を開かず速度を維持したまま滑る事が出来る。
「で、このボーゲンとパラレルターンの間にあるのがシュテムターン」
「えっと、どう言う事かな?」
「カーブする時だけ板を並行に揃えるんだ」
この滑り方から学ばないと、パラレルターンを覚えるのは難しい。俺は実際に軽く滑りながらやって見せる。
ボーゲンでゆっくり滑り始めて、カーブする時に斜面側に来る足を反対側に揃えて閉じる。
足を揃えたまま曲がる為の重心移動に力の入れ方、この感覚を掴まないとこの先の技術には進めない。
特に重心移動は非常に重要で、慣れない内は思った以上にスピードが出てしまったりする。変な覚え方をするとケガの元だ。
特にパラレルターンを使用して滑ると速度が出るので、他のお客さんと衝突でもしたら大変だ。
余計なトラブルを回避する為にも、教える以上はちゃんと責任を持つ。
「こんな感じ! 2人ともやってみてよ!」
「分かったー!」
「よっしゃ! 行くぜ!」
澤井さんと一哉の2人は、思い思いに見よう見まねのシュテムターンを披露する。見た感じ一哉は力業過ぎで、澤井さんは恐怖心が残っている感じかな。
動きが綺麗なのは澤井さんの方だけど、スピードは一哉の方が早い。初めてやったにしては上出来だと思う。
まだ慣れていないぎこちなさはあるけど、何度か練習していれば出来る様になるだろう。
教える側としては、2人は飲み込みが早いので助かっている。他のメンバーが降りて来るのを待ちながら、ゆっくりと練習を続ける。
「これ、むずくね?」
「足の力だけじゃなくて、重心移動で動かすんだよ」
「重心ねぇ……」
先に降りて来た一哉の前で、体の動かし方を教える。こればかりは経験が全てで、自分で掴んで貰うしかない。
言葉にするのは非常に難しく、ジェスチャーが多めになってしまう。インストラクターをやれるぐらいの経験があれば、もっと上手く説明が出来るのだろうか。
俺にそんな経験はないので、想像でしか物を語れないけれど。続いて降りて来た澤井さんの改善点も指摘しつつ、まだ降りて来ていない班のメンバーを探す。
すると経験者である河田さんが、雄也と霜月さんにスキーを教えている姿が目に入った。俺と澤井さんが共謀して、そうなる様に仕向けた結果だ。
陸上部3人で組む、と言うのは無理のない理由だったので特に怪しまれてはいない。そんな河田さんの姿を見ていたら、澤井さんがボソッと囁いて来た。
「あの2人、上手く行くと良いね」
「そう、だね」
どうなるかは分からない河田さんと雄也の恋模様。かつての様な失敗をしない様に消極的な協力に留めている。
どうせ関わるなら、雄也には上手く行って欲しい。友人の恋愛を影ながら応援しつつ、俺は2人にスキーを教え続けた。
スキーとスノボは面白いので布教していきたい




