第116話 修学旅行の班分け
12月になれば俺達は修学旅行に行く。1年生で修学旅行ってのは少し変わっているが、美羽高校ではこの時期に行われる。
受験に力を入れられる様に、1年生の間に済ませるのだとか。理には適っているのかな? ちょっと早い様な気はするけれど。
そんな俺達の修学旅行は長野県でスキー教室だ。修学旅行の定番である京都は中学で行ったから丁度良い。
駅伝大会でも行く事が多いので、修学旅行まで京都だったら正直つまらない。飽きたとまでは言わないが、行き慣れた感は否めない。
「それじゃあ班分けを決めるぞ~」
本日最後のホームルームでは、スキー教室で一緒に行動する班を決める事になっている。
担任教師の関谷先生が黒板の前に立ち、スキー教室での班分けの基準について説明している。
運動能力やスキー経験の有無で分ける事になっており、極端に実力差がある組み合わせには出来ないらしい。
そりゃ当然の措置だよな。初級者コースでしか滑れない生徒と、経験者を組ませても仕方ない。
経験者は挙手を求められたので俺は手を上げる。父さんがウィンタースポーツ好きで、子供の頃から良くスキーに連れて行かれた。
スケートだって滑るだけなら出来る。流石にフィギュアスケートレベルには到達していないけど。
「は? 咲人お前、滑れるのか?」
「出来るよ。小学生の時に教わったから」
「じゃあお前に着いていくわ」
前の席に座っている一哉が、早速メンバーに加わる事を決めた。班分けは経験者を起点に、自分で誰の班に入るかを申し出る形式だ。
そうなると俺の班に入るメンバーは大体決まっている。男子は一哉の他にサッカー部の宮下雄也、野球部の川上陽介にバレー部の安達慎吾。
女子からは澤井さんと女子バレー部の霜月さん、水泳部の倉田さんに斎藤さんと山本さんのギャルコンビが加わる。
大体いつものメンバーが揃った所に、澤井さんが女子ハンド部の河田さんを誘う。その意図は言うまでもないだろう。
先日俺が報告した雄也のリアクション。それを思えば何を考えての行為かは俺でも分かる。
「ね、良いよね東君?」
「良いじゃない? 先生、11人でも良いですよね?」
「あ~~~まあ、綺麗に分かれたみたいだし構わないぞ」
10人の班が2つに9人の班が1つ、そしてウチの班が11人と40人全員が分かれた。見事に体育会系とそれ以外がバラけた形になっている。
特に誰からも不満は出ていないので、これで問題はないだろう。関谷先生の許可も出たので、これにて班分けは完了だ。
ただこれはあくまでスキー教室での班分けだ。流石にホテルの部屋は男女で分かれている。
そちらは男女別に出席番号順で4人部屋に配置が決まっている。まあそれも結局誰かの部屋に集まるだろうから意味は無いだろうけど。
修学旅行で律儀に部屋割りを守る生徒がどれだけ居るだろうか。大体の生徒は仲の良いメンバーで集まるだろう。
「それじゃあ次はバスの座席を決めるぞ~。車酔いする奴居るか~?」
それからも続々と決めるべき部分が埋められていく。うちのクラスは平和なもので、揉め事は何も起こらずあっさり終わった。
少し規定の時刻より早いけれど、チャイムが鳴る前にホームルームは終了した。関谷先生が教室を出ていくと、皆が修学旅行の話題で盛り上がり始めた。
正直な話、修学旅行自体は俺も結構楽しみにしている。5日間も美佳子さんに会えないのは残念だけど、友人達との旅行だって楽しい時間に変わりない。
恋人との時間とはまた違う楽しさがある。それにスキーそのものだって、俺は結構好きなんだ。
「ね、東君ちょっと良い?」
「澤井さん? どうかしたの?」
「ちょっと協力して欲しい事があってね」
澤井さんが言うには、雄也と河田さんをなるべく一緒に居させたいらしい。修学旅行を切っ掛けに2人の距離を縮めようと。
それは流石に俺も悩む所だ。過去に失敗した経験があるだけに、これ以上の深入りはあまりしたくない。
雄也はどうやら河田さんを好意的に見ているらしいが、だからと言って強引な真似はしたくない。
同じ班にする程度であれば協力するけど、その先は2人が決める事だろう。俺が余計な手を出して、大変な事になったら中学時代の二の舞だ。
「今まで言って無かったけど、俺は昔友達の恋愛に関わって失敗したんだ」
「そうだったの?」
「だからさ、あんまり期待しない方が良いよ」
美佳子さんと付き合えたのは偶然の産物に過ぎない。大人のお姉さんと付き合っているからと言って、特別恋愛に強い訳では無い。
むしろ最近になって、漸く恋愛というモノを知ったぐらいだ。友人の恋路なら応援はするけど、積極的に何かをしようとは思わない。
そもそも俺に何が出来るとも思わない。その手の協力だったら、一哉達の方がよほど上手くやるだろう。
澤井さん達も着いているなら、俺が関わる必要性なんてない。上手く行ったら良いなとは思っているけど、だからって介入しようとは思わない。
「うーん、そんなに難しい事は頼まないよ?」
「本当に些細な事だけにしてよ? 俺は恋愛に疎いんだから」
「大丈夫だって! 東君は良い人だし」
それは根拠になっているのだろうか? 何故にこうも澤井さんの中で俺の評価は高いのだろうか?
信用してくれるのは嬉しいけれど、やや過剰な気もしなくはない。本当に俺は些細な事しかやらないからね。
俺は純粋にスキーを楽しんで、帰ったら美佳子さんにその話をするだけなのだから。
修学旅行がスキー教室なのは母校がそうだったからです。1年生で行く理由付けは私が勝手に決めた内容ですが。
それから咲人君が男子は下の名前も認識しているのに、女子は苗字しか認識していないのは彼の性格上の問題でわざとそう書いています。
幼馴染の夏歩と美佳子さんぐらいしか下の名前をまともに意識していないのは、彼にとって特別な相手が現状ではその2人だけだからです。
特に今回は人名が一か所に固まっているので、混乱を招くかなと思い念の為。




