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第111話 どうやって聞き出すか

 雄也(ゆうや)の気持ちを確かめる任務を頼まれてしまったが、やるからには無難に穏便に済ませたい所だ。

 だけど俺に良い案がそう簡単に思いつく筈もない。なので家事代行をしつつ美佳子(みかこ)さんに相談する事にした。

 こう見えてVtuberとして、恋愛相談で何度も成功を収めている。美佳子さんのお陰で付き合えたという報告は何度も見た。

 私生活は残念でも、大人としては頼りになる人だ。経験不足の俺が足りない知識で考えるよりずっと良いだろう。


「と言う訳で、どうやって気持ちを確認しようかなと」


「なるほどねぇ。高校生じゃ酒の席で~なんて無理だしね」


「ファストフード店でそれとなく、までは考えたんですけどね」


 一番楽そうなのはそんな感じで、何となく聞く方法なのかなと。あくまで日常会話を装って確かめる無難な方法じゃないだろうか。

 ただ問題なのはどうやって確かめるかだ。例えば一哉(かずや)の様に、普段から他人の色恋に興味を示すタイプなら違和感がない。

 でも俺はあんまり自分から聞く事はない。皆で集まっている時に、誰かが始めたら答える程度だ。

 今になって俺が急にそんな話を振り始めたら、どうしても違和感が残るだろう。何より俺は既に学外に恋人が居る身だ。

 今更クラスの女子で誰が好みか、なんて言い出すのは変な話だ。突然どうしたのかと思われ兼ねない。


咲人(さきと)が聞いてもおかしくない方法ねぇ」


「意図がバレたら河田(かわだ)さんに迷惑が掛かるので……」


「難しい所だねぇ。まあでもファストフード店は悪くないね。それなりに騒がしいし」


 過去に失敗している経験があるだけに、どうしても慎重になってしまう。深く考えずに、ストレートに聞いてしまっても良いのかも知れない。

 だけどそれで、もし良くない方向に向かったら。どちらかが傷つく様な事になってしまったら。

 そう考えるだけで嫌な思い出が蘇る。ある意味ではトラウマ、なのかも知れない。恋愛に抵抗感があったのはそれが理由なのだから。

 そんな俺が今ではこうして恋人と居るのだから、人生ってのは分からないものだ。いや、それだけ恋愛が複雑って事なのかも知れない。


「咲人が恋愛相談をする側を装うのはどうかな?」


「え? 俺が相談するんですか?」


「だってその子モテるんだよね? なら相談する相手としておかしくはないし」


 その方向性は考えていなかった。如何にして聞き出すかを重視し過ぎて、絡め手なんて考えもつかなかった。

 確かにそこから話を持って行くのはありかも知れない。いきなりから雄也の好みを確かめるよりも、話の流れとしては自然に見えるだろう。

 それなら無理なく一哉達を巻き込む事が出来るし、よりスムーズに話を運べるかも知れない。

 皆はどう思う? みたいな感じで話題を振れれば、俺が普段しない恋バナを始める不自然さは消える。

 あくまでも皆の話を聞いただけで、特定の誰かに絞って確認した訳ではない。あとはどんな風にそこへ話題を持って行くかだが。


「手を繋ぐタイミングが分からない、とかそれっぽくて良いんじゃない?」


「お、おお! 確かに。実際分からないし」


「……咲人、ボクはいつでも良いんだよ?」


 少し拗ねた表情で指摘を受けてしまった。いつでも良かったんだ。ムードを作るとか、何かしらのお膳立てがいると思っていたよ。

 そんなに気軽に行って良いものだったのか。毎回勇気を振り絞って手を繋ぎに行っていた。

 だって分かり易い触れ合いだし、作法とかあるのかと思うじゃないか。デートをする所から初めて、手を繋ぐ様になるまでの距離の詰め方とか凄く気にしていたよ。

 いやまあ早い段階でキスまでしているのだから、そんなの今更ではあるんだけど。でもなんかこう、手順っていうか段階は踏むものかなって。

 雰囲気作りは大切だって言うし、俺なりに気を遣ったんだけどな。そんな事を考える事自体が、童貞故なのだろうか。


「え、じゃあ、今とか良いんですか?」


「構わないよ。作業もしてないし」


「そ、それならせっかくなんで」


 美佳子さんの隣に座って手を繋ぐ。俺の右手と美佳子さんの左手が恋人繋ぎで交わっている。彼女の体温が掌を通じて伝わって来る。

 絡められた指の感触から、女性としての柔らかさを意識させられる。美佳子さんの指が俺の手の甲を優しく撫でて来た。

 それだけで何故かゾクリとした感覚に襲われる。別にエッチな要素はどこにも無いのに、異様に性欲を刺激された気分になる。

 妖艶な大人の女性らしさを、ただ手を繋ぐだけの行為から強く感じている。好きな女性と触れ合っている事に意識が集中する。

 2人きりの空間で、こんな事をしていたらどうにかなりそうだ。って今はそれどころじゃないだろう。


「あ、す、すみません! 夕食の準備がまだなのに」


「え~別に良いじゃんもう少しぐらい」


「いや、でも……」


「まだ離してあげないよ」


 そう言って体重を預けて来た美佳子さんは、俺の右肩に頭を乗せている。それと同時に、柔らかい感触が俺の右腕を襲う。

 豊満なそれはもう半端じゃない柔らかさである。正直な本音を言えば、是非ともしっかり触ってみたい。

 両手に収めてみたいと思ったのは、一度や二度ではない。だが今はまだ我慢するしかない。


 だってそんな事をしたら、きっと暴走してしまうだろう。それでは今日まで我慢して来た意味も無くなるし、約束を破ってしまう事になる。

 どうにか耐えている内に、俺は1つの答えを見出した。彼女が魅力的過ぎて辛い。これを雄也達に相談する内容にしよう。

 だって本当に大変なんだよ、彼女の大人としての魅力が尋常じゃないから。手を出せないこの辛さを、嘆きを訴えつつ目的を達成するとしよう。

手を繋ぐって、シンプルだけど奥深いエロスがあると思うんですよね。相手との体温差を感じる瞬間や握り返して来る感触とか。

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