第110話 嫌な予感はそれとなくしてたんだ
■お詫びと訂正
109話で咲人の誕生日を11月10日にしていましたが、11月に17歳だと浪人している事になると気付きました。
シンプルに設定ミスです。失礼いたしました。4月10日に変更し、109話ラストは誕生日まで半年を切ったので改めて確認したという流れに変えています。
朝から美佳子さんにハグをされて、浮かれていた俺は少々厄介な問題に巻き込まれていた。
女子の味方扱いをされたり、竹原さんと美佳子さんを連れて来たり。そんなアレコレが影響したのか、最近色々とクラスの女子から相談を受ける機会が増えている。
ファッション関連の話であれば、美佳子さんに聞けば済む話。特にメイク関連の相談が多いので、大体は美佳子さんに丸投げで済む。
そろそろ美佳子さんに直で連絡出来るグループでも作ろうか、しかしそれは流石に迷惑か。
そんな悩みもあるけれど、それ以上に厄介な相談がある。俺は昼休みの校舎裏で、澤井さんとクラスの女子に呼び出されていた。
「ええと、澤井さん? これは一体?」
「ほら河田さん、頑張って」
「あ、あの! み、宮下君って恋人居るのかな?」
澤井さんの隣に居るのはクラスメイトの河田さん。確か下の名前は真奈美だった筈だ。やや地味な印象のあるハンドボール部の女子だ。
ウチのクラスは派手めな目立つ女子が多いので、比較的に地味に見えるだけで十分に可愛いと俺は思う。
長めの黒髪をポニーテールにしており、良く居る体育会系女子と言った雰囲気だ。そんな彼女が知りたい事は、一哉の次ぐらいに一緒に居る事が多い男子生徒。
サッカー部の宮下雄也に恋人が居るかどうか。いやね、恋愛経験の乏しい俺でも分かるよ流石に。今の会話がどういう意味を持っているのかぐらい。
「雄也は居ないって言ってたよ」
「じゃ、じゃあ、宮下君ってどんな女の子が好きなの?」
「深い話はした事ないけど……スポーツをやってる女の子が好きだとは言ってたかな」
俺の返答で澤井さんと河田さんが若干の盛り上がりを見せる。最近増えて来たこの手の相談が俺の悩みだ。
人の恋愛に口を出せる程に、俺は経験豊富じゃない。むしろ過去に一度大失敗をしている。だから出来る限り他者の恋愛に関わりたくはない。
また失敗をしたら、夏歩の時の二の舞になってしまう。今回は恋愛の対象が俺じゃないけれど、問題なのはそこじゃない。
付き合わせようと画策した相手が、上手く行かなかった時のあの空気は非常に重く辛かった。
あの最悪の空気をまた味わう事になるのは避けたい。あんなの誰も幸せにならない不幸の連鎖でしかない。
「あ、その、でも上手く行くかは……雄也に詳しく聞いた訳じゃないし」
「ねぇ東君、それとなく聞いてあげてくれない?」
「お、俺が!? そういう経験は無いんだけどな」
恥ずかしそうにしている河田さんを、澤井さんが援護している。やって欲しい事は分かるけど、俺に上手く出来るかは微妙だ。
一哉なら上手くやるだろうけど、アイツの場合は余計に掻き回しそうで巻き込むのは少々不安だ。
かと言って俺1人で聞くのも困るけど、だからって澤井さんを連れて行くと逆に怪しいよな?
どう考えても女子を交えてする話ではないし、雄也だって本音を話辛いだろう。これまた厄介な事態に巻き込まれてしまった。
今の内に断る……雰囲気じゃないよなどう考えても。ここでノーと言える男がどれだけ居るか。
「俺、恋バナとか上手くないから期待はしないでよ?」
「脈アリかナシかだけで良いからさ」
「……お願い出来る? 東君?」
何となく嫌な予感がしていたんだよ。女子達からの評価が高いのは有難いけど、その分厄介な立ち位置になってしまった。
澤井さんの他にも、霜月さんや斎藤さん経由で似た様な相談を受けたばかりだ。正確に言えば彼女達の友人なのだけれど。
特定の体育会系男子の好みについてとか、女子の好みとか。今日ほど露骨では無かったけど、あれらもきっとそう言う事だ。
違うのはどこまで本気の恋であるかどうかだけ。そして河田さんは間違いなく本気で雄也が好きなのだ。
アイツは適当な所があるけど、性格は良いし女子にも優しい。一哉とはまた違うタイプのモテ方をしている。
「河田さんはその、どうして雄也を?」
「あの、電車が一緒で……前に痴漢から助けてくれて……」
「あぁ~~雄也なら助けるだろうな」
なるほどねぇ、そう言う展開から恋愛に発展したのか。アイツはズルい事や卑怯な事を嫌うから、痴漢なんて見掛けたら先ず助けに入る。
俺だってそれは変わらないけど、スマートに気付けるかは微妙だ。その点雄也は良く周りを見ている。
サッカー部故の視野の広さなのか、生まれ持ったものかは分からないけど。困っている人を見つけるのが上手いんだよな。
そのお陰で良く誰かを助けている所を見る。一哉ほどお調子者ではなく、一見クールに見える所も人気の理由なのだろう。
その割に口を開くと案外適当で軽口を叩く。そんなギャップが女子に刺さるって所だろうか。
「やるだけはやってみるけど、期待しないでね? しつこい様だけど」
「う、うん! ありがとう東君!」
「やっぱり東君に頼んで正解だったよ」
その評価は本当に上手く行ってからにして欲しいかな。今から重荷を背負いたくはない。
期待しないでと念のために2回も口にしたけれど、本当に大丈夫だろうか? 俺が動いたからって、絶対に成功する訳じゃない。
むしろ過去の失敗を思い出して、ちょっと吐きそうなぐらいだ。今だけは俺が美佳子さんみたいになりそう。
何事もなく無事に済んでくれ、頼むから。俺、神様に見放される様な生き方はしてないつもりだよ?
実際このポジションは色々と大変なんですよね。色んなアレコレに巻き込まれるので。




