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第109話 朝見た夢は大体すぐ忘れる

※訂正

咲人君の誕生日を11月10日から4月10日に訂正しています。よく考えたら高校1年生で17歳って留年しとるやないかーい!

 妙な夢を見た気がする。詳しくは覚えていないけど、中学時代の夢だった。楽しかった事や悲しい想い出が混ざり合った闇鍋の様な内容だ。

 何の意味があったのかは全く分からないし、高校の友人まで登場するカオス具合だ。何かの予兆、なんて事もないだろう。

 俺はそんなオカルトは信じない。ただ少しだけ、和彦がどうしているか気にはなった。夏歩(なつほ)とは和解出来たけど、和彦(かずひこ)とは結局微妙な関係のままで終わっている。

 だけどアイツも今更俺に用なんてないだろう。今じゃ連絡先も分からないし、どうするつもりもない。それより朝の準備を進めよう。


(あ、今朝は父さんが早い日だっけ。ま、お昼は適当に何か買うだろ)


 午前7時になったばかりの平日の朝。月に何度か父さんの出勤が普段より早くなる日がある。

 そんな日の朝食はもちろん、昼食も父さんは自分で適当に買って済ませる。そんな日は俺1人で朝食を済ませて来た。美佳子(みかこ)さんと付き合うまでは。

 今では1人で朝食を済ませる日が殆ど無くなった。父さんの出勤が早い日は、美佳子さんの家で一緒に食べている。


 朝練がある日はもっと早く起きないと不味いが、今日の朝練はないので急ぐ必要もない。

 昨日の夕食の残りを適当に弁当箱の中に詰めて、余りは美佳子さんの家に持って行く分としてタッパーに詰める。

 朝のスキンケア等を済ませたら着替えて一旦和室に寄る。そこには死んだ母さんの仏壇がある。


「……行って来ます」


 朝の日課を済ませて俺は自宅を出る。オカルトは信じないけど、仏壇を拝むのは忘れない。霊の存在を信じるのと、死者を悼むのは別の話だ。

 母さんが守護霊になって、今も見てくれているとは思わない。だけど母さんに顔向け出来ない生き方だけはしないと決めている。

 これが日本人特有の考え方なのか、仏教圏なら普通の思考なのかは俺には分からない。ただ俺の人生観において、大きな意味があるのは間違いない。

 人によっては死者に縛られている様に見えるかも知れないが、俺はそんなつもりはない。

 心構えの問題であって、拘りとはまた違うものだ。仮に俺が縛られているとするならば、それは母さんではない別の女性だ。


「おはようございます、美佳子さん」


「おはよ~~咲人(さきと)


「また寝ないで仕事をしてましたね? ちゃんと寝ないと駄目ですよ」


 明らかに寝ていない時のテンションと格好である。この人はだらしない様に見えて、仕事に対しては物凄く責任感が強い。

 不眠不休で作業をしている日がそれなりにある。30代で過労死をする人も居るのだから無理はしないで欲しい。

 でも仕事熱心な美佳子さんの邪魔はしたくないので、その辺りのバランス取りが難しい。

 今は女性が家計の中心を担う事だって珍しくない時代だ。出来るだけやりたい様にやらせてあげたい。

 俺が稼ぐから配信業を辞めてくれ、なんて絶対に言いたくないし思ってもいない。今のこの姿こそが、美佳子さんらしい在り方だと思うから。


「咲人~~()()


「それは良いですけど、本当に寝て下さいね?」


「へへへ~分かってるよ~」


 仕事で疲労が溜まった時に求められる充電という行為。それはただひたすらに、俺が美佳子さんに抱き締められるだけ。

 正直かなり刺激的なので、思春期の男子としては辛い。タバコの匂いとアルコール臭の向こう側にある、美佳子さんの良い香りが非常によろしくない。

 手は出せないという地獄と天国が同時にやって来る。美佳子さんの体は非常に細く、しかし脂肪があるべき場所にはしっかりある。

 そのせいで抱き心地の良さは殺人級である。もし理性にレベルの概念があったら、俺は高校生男子の中でトップクラスに違いない。

 この状況に耐えられる思春期男子が、この世界に一体どれだけいるだろうか。


「ふぅ、ありがとう。暫く大丈夫そう」


「じゃ、じゃあ朝ごはん用意しますね」


「いつもありがとうね」


 俺はキッチンに向かい、朝ごはん兼美佳子さんの昼食を用意する。その間に美佳子さんはマサツグに餌をあげていた。

 美佳子さんの充電を行ったからか、こうしていると本当に家族になった様に錯覚してしまう。

 朝好きな人とハグをして、こうしてご飯を作ってマサツグの世話をする。子供が居る夫婦の生活みたいで幸福感が凄い。

 そう言う意味では、俺も充電されていると言っても良い。頑張ろうって気持ちが湧いて来るし、大人になる為の学業に真剣みが増す。

 そろそろ行く事になる修学旅行の間だけは、この空気を味わえないのが悲しいけれど。


「ねぇそう言えば咲人の誕生日って、来年の春だったよね?」


「そうですよ、4月10日が俺の誕生日です」


「今の内から色々考えておくから、期待しておいてね」


 美佳子さんの誕生日は8月29日で、俺は4月10日。4月まで半年を切っているけど、それまでは俺達の年齢差が16歳になる。

 気にしても仕方がない事だし、それが何だって話だけど少しだけ辛い。俺達の年齢差をより強く意識させられるからだ。

 たった1歳の差なんて今更だけど、歳の差が縮まるから誕生日が待ち遠しい。来年の春には32歳の美佳子さんと、17歳になる俺達の年齢差が15歳に戻る。

 傍から見れば些細な事だろうけど、俺にとっては重要な事だ。そんな事を考えながら美佳子さんとの朝を楽しんでいる内に、今朝見た夢の事なんて記憶の彼方へと消えて行った。

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