第103話 文化祭初日
やって来ました文化祭当日。俺達のクラスは予定通り、男装と女装のメイド&執事カフェである。
衣装班が製作したメイド服を男子が、執事服を女子達が着ている。順番に女子達のメイクを終わらせた俺は、一旦休憩をしていた。
男装及び女装をしないのはごく一部のクラスメイトだけだ。裏方には回らない15人もの女子に男装メイクを施すのは結構な労力だった。
だがその甲斐もありバレー部に相応しい高身長を誇る霜月さんを筆頭に、中々なイケメンに仕上がったので女子達が盛り上がっている。
そして男子の方は当然女装してメイド服だ。意外と一哉のメイド姿が似合っていてちょっと嫌だ。もちろん俺もメイド姿になっている。
複雑な気分に浸っている俺とは違い、大いに盛り上がるクラスメイト達。その姿を取材に来ている竹原さんが写真に収めていた。
「はい皆こっち向いて~」
「「「は~い!」」」
「男装風ファッション、良い特集が組めそうだわ」
女子に人気のファッション誌というだけあって、彼女達は非常に協力的である。雑誌に載るわけではないのに、凄く楽しそうに撮られていた。
そして男子の方はと言うと、美佳子さんによるメイクの最終チェックが入念に行われている。
自分が売る商品だから当然真剣なものになるが、美人に顔を見られるからってお前ら浮かれ過ぎだろ。その人は俺の彼女だからな、勘違いするなよ。
恋人ならここに居るから、お前達にチャンスは無い諦めろ。美人でスタイルが良いからと、邪な目を向ける奴はしばく。それだけは絶対に許さないぞ。
「ふーん、東君って独占欲が強いタイプなんだね」
「さ、澤井さんっ!? いつの間に!?」
「少し前から。呼び掛けても返事しないんだもん」
クラスメイトの男子達に視線で釘を刺していたら、澤井さんの接近に気付かなかったらしい。
どうやら俺も、文化祭だからと浮かれているのかも知れない。本番はこれからであり、俺はこれから隣の教室で料理に集中せねばならない。
変な失敗をしない様に、意識を切り替えないといけない。人が口にする物を作るんだ、異物混入などには細心の注意を払う必要がある。
美佳子さんが教室にいるのが新鮮だからか、つい意識が行ってしまっていた。美佳子さんと一緒に文化祭を周る時間はあるんだ。今から焦る必要なんてない。
「篠原さんと出会って無かったら、私の事もそんな風に見てくれたのかな?」
「えっ!? あ、その、えっと……」
「冗談だよ~。ただ一途なんだなぁって思っただけ」
急に何を言い出すのかと思ったじゃないか。心臓に優しくない冗談はやめて頂けないだろうか。
夏歩とのギクシャクした関係が解消したとは言え、女子との付き合い方は良く分からないままだ。
思わせ振りな態度を取っているつもりは無いし、勘違いさせない様に俺なりに注意はしている。
だけどそれも夏歩との関係性から学んだ程度で、実際何が勘違いを生ませるのかは理解し切れていない。
多分これ以上は駄目なんだろうな、というぼんやりとした認識しかない。それが正解なのかは分からない。
大体澤井さんが俺のどこに良さを見出したのか、今もハッキリとは分かっていない。改めて本人に聞くのもどうかと思うし。
「あんな美人を連れて来られたらねぇ。他の子も諦めるしかないよね」
「えっと? 何の話、それ?」
「東君はもうちょっと、周りからどう見えているか自覚した方が良いかもね」
全然理解出来ないんだけど。結局澤井さんは何が言いたかったのだろうか。どう見えているかって、このまんまじゃないのか?
どこにでも居る体育会系男子って以外に、何か見え方があるのだろうか? この間のアレか? 女子の苦労が分かる人扱い?
でもそれと美佳子さんと何の関係があるんだよ。大体アレも殆ど勘違いというか、女子達が盛り上がってしまっただけだ。
全く意味が分からずに悩んでいると、澤井さんは教えてあげないと言い残して女子達の集まりに戻って行った。
相変わらずわかんねぇなぁ女子って存在は。やっぱり俺にはまだまだ経験が足りていないみたいだ。
恋人が出来たぐらいでは、すぐにどうなる訳でも無い。かと言って何時までも悩んでいても仕方ないので、俺は隣の教室に設置された調理スペースに移動した。
「ブフッ! 咲人ちゃん良く似合ってるよ」
「うっせぇ! お前も変わらないだろ雄也!」
「2人とも結構良い感じだけどなぁ」
馬鹿にし合う俺と雄也を、倉田さんが褒めてくれる。それは喜んで良いのだろうか。陸上部とサッカー部の男子が女装してメイド姿だぞ?
どう足掻いてもネタにしかならないと思うけど。まあそれはともかく、最初の調理係は俺達体育会系3人と裏方役の数名が担当する。
埃が立たない様にブルーシートが敷かれた空き教室に、簡易的な調理場を用意している。後は注文が入るのを待つだけだ。
洗い物だけは、家庭科室まで行かないといけないのがやや面倒ではある。ただまあそれも含めて、文化祭を楽しみ始めている自分がいる。
皆で協力して何かをするのはやっぱり楽しい。ただ普通に遊ぶだけとは、また違う楽しさがある。
そうして待機していた俺達を含めて、学校の生徒全員が文化祭開始の放送を耳にした。
「よし、後は待つだけだな」
「任せたぞ咲人」
「お前も働くんだよ!」
こうして始まった文化祭の初日は、特に問題も無く進んでいった。合間の休憩時間で美佳子さんと校内を周ったりしながら、楽しい1日目を終える事が出来た。
思っていたより体力を使っていたらしく、その日の夜はいつも以上にすんなりと眠れた事にすら気付かなかった。
咲人は露骨にモテてはいませんが、そこそこ人気があります。積極性では一哉が勝り、誠実さでは咲人が勝るという感じです。
2人を足して2で割ると丁度良いバランスの取れた男になります。




