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第101話 料理の練習

 文化祭で喫茶店をやる以上は、ある程度料理が出来る人間が必要になる。俺を含めた5人しか料理が出来ない状況では手が回らない。

 その為、簡単な料理に関しては他にも何人か作れる様になって貰おうと練習を少しずつ行って来た。

 本日も学校の許可を貰って、家庭科室で軽い調理実習をやっている。火の管理があるので、家庭科の先生にも同席して貰っている。

 主に昼休みや放課後に30分から1時間程度の時間を使って、簡単な調理に関する練習を続けているが概ね順調と判断して良いと思う。

 本日は小柄で可愛いと人気の水泳部所属である倉田(くらた)さんと、サッカー部の雄也(ゆうや)を筆頭に数人が参加している。


「なあ咲人(さきと)、こんなもんで良いか?」


「雄也、もうちょい綺麗に切ってくれ」


「えぇ~十分じゃね?」


 美佳子(みかこ)さんのお陰でメイク用品の費用が浮いたので、サンドウィッチ作成の練習に使うお金を捻出する事が出来た。

 ただサンドウィッチ用の耳が無いパンを買うと割高になるので、普通の食パンから耳を落として使用する予定だ。

 だから耳を落とす練習からやっているけど、個人差が結構出てしまっている。人によってバラバラだと見た目が不格好になってしまう。

 ミリ単位までは指定するつもりはないけど、学生の手作りで通用する範疇には収めてはおきたい。

 お金を貰う以上は、最低限のクオリティは担保しないと不味いだろう。適当な商品を出してお金を貰っていたら問題になりそうだ。


(あずま)君、これでどう?」


「うーん、大丈夫だと思うよ。倉田さんは先に進んじゃって」


「おい咲人、女子だけ優遇してないか?」


「だったら比べてみろよホラ」


 倉田さんが切った食パンは綺麗に切れており、大きさも殆ど変わらない。対して雄也の方は不揃いで切り口も綺麗とは言えない。

 雄也の切った食パンは全く使えない訳ではないけど、このまま本番を迎えるのはあまりよろしく無い。

 不器用って訳ではなく性格によるものだろうし、もう少し気をつけるだけで改善は可能だろう。

 自分の切ったパンと倉田さんが切ったパンを見比べた雄也は、何故こうも違うのかと首を捻っていた。

 仕方がないので再び雄也の目の前で実演しながら説明をする。多分まだパン切包丁の使い方が分かっていないのだろう。


「良いか雄也、パン切包丁は普通の包丁とは少し使い方が違う」


「ああ、さっきも言っていたな」


「少しだけ温めるのがコツだ」


 沸騰する温度までは行っていない、少し熱めのお湯に少しの間だけ浸しておく。刃が温まったのを確認してから、水分をしっかり拭き取る。

 そのまま食パンの耳に当てて、手前にすっと引く様にして刃を動かす。それだけであっさりと耳が切り離される。

 同じ事をあと3回繰り返す事で、綺麗に耳だけが落ちた食パンが出来上がる。更にそのまま真ん中で真っ二つに切ってサンドウィッチ用のパンが出来上がりだ。

 本来なら完成させてから切る方が早いのだけど、包丁を使い慣れて居ない人の方が多いからこの手順を採用した。これなら予め切れている食パンを使うだけで済む。


「良いか、こうして手前に引いて切るんだ」


「綺麗に切るなぁ」


「どっちかと言えば、お前が雑なんだぞ?」


 この程度は大した技量が無くても出来る事だ。魚を三枚におろすのとは訳が違う。食パンの耳を落とす程度は初級も初級だ。

 普段料理をしない人だとしても、慣れてしまえば誰だって出来る様にな……いや、美佳子さんは無理かも知れない。

 そもそも怖くて包丁を持たせたくない。とてもでは無いけど、出来る様になるビジョンも浮かばないしな。

 うん、雄也ならまだ大丈夫だから頑張って欲しい。ちゃんとお前なら出来る様になるよ、美佳子さんとは違うんだから。

 ただ作業が雑なだけな人と、台所に立たせられない人の間には大きな壁があるからな。


「さて、俺は今日もパンの耳を処理しますか」


「お、何かやんのか?」


「雄也は練習を続けておけよ」


 サボろうとする雄也に釘を刺しつつ、皆が練習で切ったパンの耳を調理する。適当な大きさにちぎって、沢山ストックしていく。

 一口サイズになった食パンの耳に、纏めて砂糖をまぶしていく。良く馴染ませてからフライパンに火を入れて軽く焼き上げる。

 簡単調理のラスク風に仕上げたパンの耳を、適当な皿の上にのせて完了だ。昔は良く母さんが作ってくれていたんだよな。

 これは死んだ母さんから学んだ料理の1つだ。他にも幾つかあるけれど、それは今日ここで披露する様なものではない。

 とか思っていたら、倉田さんがジト目で俺を見ていた。何でそんな目で見られているのか理由が分からない。


「うわっ、また東君が女子に優しくない事してる」


「え、なっ、なんで!?」


「こんな時間に甘い物を作るなんて鬼畜だよ」


 他に参加しているクラスの女子達も頷いていた。いやだってそんな事を言われても。ただ捨てるのは勿体ないと思って、食べやすくしただけだし。

 ほらフードロス問題とか言うじゃありませんか? という俺の主張はどうやら許されなかったらしい。

 あとで知った事だが、俺のラスクは女子達の間でダイエット殺しと言われていたらしい。そんな事を言われましてもねぇ?

 そもそも皆、痩せないといけない様な体型をしていないじゃないか。しかし悲しいかな、女子に体重や体型の話はご法度である。

 中学時代に幼馴染の夏歩(なつほ)から学んだ鉄則だ。そしてそれが原因なのかは知らないが、このラスクも販売する事となり俺の仕事が増えた。なんでやねん。

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