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本日、2回目の投稿を失礼しますm(_ _)m
「レイラ!?」
名案だと思っていたのに、フェリクス殿下は予想外のことを聞いたというような顔。
「このまま彼女と行動しますと、殿下が婚約者を放置して他の女と逢瀬を重ねる男性になってしまいますし、それよりはマシかと思いまして」
正直、リーリエ様の前で私が殿下と話すことは、色々と刺激しかねないと思ったのだが、そうも言っていられない。
「そうなんだよね……。ただ、それだとレイラに多大な負担がかかる」
「有力な他の貴族の方に頼むのも無理でしょう?信用出来る協力者はいらっしゃるのですか?」
「……まあ。今から候補を探すのも時間がかかるし、そうなんだけどね」
殿下は乗り気ではなさそうな顔をしている。
「もしかして、何か問題があるのでしょうか?」
提案してみたは言いものの、私はあまり状況をよく知らないのだ。
だけど、どうやらそういう訳ではないようで……。
「……リーリエ嬢と私の例の噂を掻き消すためにも、婚約者であるレイラ本人が一緒に行動した方が、正直助かる。……だけど、リーリエ嬢に何を言われるか……レイラに風当たりが強いかもしれない」
どうやら私をこれ以上巻き込まずに、どうにかしようと思っていたらしい。
確かに彼女との接触は、憂鬱だ。風当たりが強いというか、かなりの精神疲労を伴うだろう。
なるべくなら私も距離を置きたい。
婚約者になった時点で、既に巻き込まれていると思うし、そのくらいの覚悟はあった。
「このまま殿下に不名誉な噂が流れ続けたら、私も婚約者として責任を問われますし、どっちにしろ蚊帳の外では居られません」
「レイラ……」
フェリクス殿下は悩ましげな顔をした後、小さく溜息をつくと、こんな事情を打ち明けてくれた。
「実は、リーリエ嬢との熱愛疑惑が深刻で。それを後押しするかのような状況になっているし、正直、婚約者のレイラに一緒に居てもらうのは助かるんだ。それが1番だと本当は気付いていたし」
殿下のことだから、やはり1度は考えたらしい。
それでもそう言わなかったのは、迷惑をかけたくなかったからなのか。
彼は机に指で軽くトントンと音を立てて、独り言のように紡いでいく。
「それに、レイラは婚約者だからとリーリエ嬢に突撃される可能性もあるし、それなら最初から一緒に居た方が良いかもしれない。どうせいつかは知られることだし、ならばいっそ……」
そして、直後。フェリクス殿下は申し訳なさそうに頭を下げた。
「まさかここまで迷惑をかけるつもりはなかった。だけど、どうか協力して欲しい」
「殿下。私などに頭を下げるのはお止め下さい! ……私は貴方に忠誠を誓ってもいるのですから当然のことですよ」
思わず周りを見渡すと、廊下に続く扉は開いていたけど気が付けば誰も居なかったので、ひとまず私は安心した。
こういうのあまり見られたら良くないんじゃ……?
「忠誠……忠誠か……」
少し切なそうにそう呟いた後、フェリクス殿下は、私の髪に手を伸ばして、そっと梳き始めた。
「殿下?」
「いや、なんでもないんだ。……私と貴女の仲だ。そうやって堅苦しくならなくて良いんだよ」
「……そのつもりはございませんよ?私は殿下のことを本当に尊敬しています。無駄なことを嫌っているお方なのに、私のことを気遣って一緒に来て欲しいって仰らなかったり……」
「中途半端で優柔不断で、申し訳ない」
殿下が少し気まずそうにしていたので、私は慌てて否定した。
「いいえ! むしろそういうお人柄が素敵だと思うのです。ただ頼んでくれればそれで良いのに、貴方は情によって時折、非効率的な判断をされる……」
今回だって真っ先に私に頼めば良かったのに、そうはしなかった。恐らく、私が気付く前からその方法に気付いていただろうに。
私はそういう効率的になりきれない殿下が好きだ。
殿下の立場上、非情な判断をくだすこともあるだろうし、するしかない状況ならするかもしれない。それは重々承知。綺麗事なんて言っていられないだろう。
だけど……。
「人間を止めてしまったら、人々はついて行くことはない……と私は個人的に思っているので」
だから時折非効率になっても良いと私は思っている。
時折、無駄なことをしたって良い。
それに殿下は必要な時は必要な行動を取れるお方。
殿下は私を驚いたように見つめていたけれど、しばらくしてから、おずおずとこう切り出してきた。
「レイラ。ちょっと良い? 抱き締めても良い?」
「へ?」
思わず変な声を上げてしまって、すぐにフェリクス殿下は横に居た私の肩をゆっくりと引き寄せて自らの腕の中に閉じ込めた。
え、ぇぇぇぇ!?
どういう状況!?
待って!? 抱き締められてる!?
「少し、疲れてしまった」
すぐ近くから、声をかけられた。穏やかな声や
呼吸の音とは裏腹に、殿下の胸元に寄せた耳に、トクントクンとほんの少しだけ早い鼓動の音が伝わってきた。
自分のしていることに戸惑いつつも誰かに縋らずにはいられないのかもしれない。
本当に疲れているのかもしれない。
思わず感極まったように抱き締めてくる殿下の背に触れて、ゆっくりと摩ってみた。
そうすると私の手に驚いたのか、彼の体がぴくりと反応した。
「……」
私はというと、彼の腕の中で身じろぐことも出来ないまま、大人しくしていた。
「あの……殿下」
「今は2人しか居ないから名前で呼んで」
周りに誰も居ないことに、彼も気付いていたらしい。
「フェリクス様。突然ですが、貴方にお渡ししたいものがあります」
なんとなくこのまま、リーリエ様の話を続けるのも忍びなくて、私は例の贈り物を出すことにしたのだった。




