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 予期せぬ贈り物をいただいてから2日後、これから殿下が来られるということで、私はそわそわしながら待っていた。


 何を差し上げるべきか迷ったあげく、実用的なものが1番良いだろうという結論になり、夜空の魔法石を使った連絡用魔具をお揃いで作ってみた。

 刺繍の贈り物をするには時間がなかったため、その機会はまた今度だ。

 刺繍は魔術とは関係ないため、普通に時間がかかるものなので。

「ルナ。これどう思う?」

『先程から似たような質問ばかりだぞ』

「……ご、ごめんなさい。つい」

 机の上には対になる指輪。

 銀の指輪に夜空の色をした宝石が嵌っている。

 何かあった時にお互いに助けを求められるものが良いと思ったのだ。

 指輪型の通信魔具。


 私にも死亡フラグが立つかもしれないし……。

 クリムゾンなどは魔力を抑える魔術を使っているし、お兄様は吸収するし、自分の魔力以外の連絡方法も確保するべきだと私は判断した。


 夜空の魔法石は、以前に私が採集に行った時に洞窟で発掘した微弱に魔力を生み出すだけの、宝石の原石を加工したものだ。

 何か大掛かりな魔術具にはならないけれど、あまりにも綺麗だったので持って来てしまったのである。

 夜空を切り取ったみたいな夜の色に、その中を星と星屑が混ざったような小さな光がきらめく不思議な宝石。

 夜空をバックにまたたくように、よく見ると小さな光が絶えず移動している。


 本当に微弱なので、ささやかな魔具しか作れなかった。

 ただ、この魔具のおかげで、指輪を付けた者同士は魔力がなくても連絡をすることが出来る。

 魔術師以外にはよく使われているものだ。


 それは贈り物というにはささやかなものだけれど、備えあれば憂いなしというし!


 指輪なのは、ポケットに入るから。

 それと、非常事態の時、私以外の誰かが使う時に便利かな?と。


『兄はどうした? 2人で会えば、ぎゃあぎゃあうるさいだろう』

「少し遅れて駆け付けると思う。今は、仕事をバリバリ捌いているところかな」

 そこはさすがフェリクス殿下。お兄様に『行くよー』と連絡を入れていたらしい。


 今でも実感は湧かないが、私たちは婚約者である。

 婚約者……って言っても何をすれば良いのだろう?どんな顔をしていれば良いのだろう?

 肩書きだけなのに、何かが大きく変わった気がする。

 少なくとも、彼のことを無邪気に友人と言う訳にはいかない。

 フェリクス殿下は、「今まで通りで構わない」って言ってたけど、そういう訳にもいかないと思う。

 仮とはいえ、婚約者としての責任だってもれなくついてくるのだから。

 その振る舞いの1つで彼に迷惑をかけることだってある。

 分からないことはきちんと聞いて、協力出来ることは協力させてもらう。とりあえずそのスタンスで間違いないはずだ。

 そうして、うんうんと頷いていればルナが影の中へと引っ込んで行った。


『どうやら来たようだぞ』


 来賓室に顔を出せば、フェリクス殿下の輝く笑顔。

 今日も絶好調というか、最近の不調は本当に何だったのかというくらい、満面の笑みである。


 まさしくご機嫌。


「御機嫌よう。フェリクス殿下」

「久しぶりだね。……実際のところ久しぶりではないんだけど、そんな気分だな」


 使用人の者たちも多いので、名前呼びは免除してもらう。

 彼の方も特に文句はないようで。相変わらずご機嫌なまま。

 少しでも気が楽になったのなら、何よりである。


 ヴィヴィアンヌ家御用達の紅茶とお菓子を振る舞いつつ、殿下から色々と情報を聞いておく。

 贈り物は、渡せるタイミングの時にさりげなく渡そう。うん。


 私は彼の正面のソファに座る。


「婚約発表があると思いますけれど、その……リーリエ様にその件はお伝えしたのですか?」


 そう切り出した瞬間、フェリクス殿下の目が死んだ。

 すうっと光がなくなっていく様を私は目の前で目撃してしまったのだ。


 これは……贈り物どころじゃないかもしれない。


「……私が婚約する……って伝えたら、目を輝かせるから何かと思えば、『これからよろしくね』と言い出して……。相手が自分だと勘違いをしていたのかな? とにかく、その誤解を解くところから始まって──」

 うわあ。ここまで来ると、すごい。


 年頃の男の子たちに囲まれて、殿下に特別扱いされていたら勘違いしてしまうのも仕方ないところもあるけれど。

 フェリクス殿下本人は気付いていらっしゃるか分からないけど、彼の微笑みは破壊力があるのだ。


「さすがに誰と婚約するとは言えなかった。言ったら突撃しそうだし」

「まあ、その前科がありますからね」


 穏便になんて、元々無理だったんだろう。

「彼女は、私が婚約すると言っても身を引くことはないようだった。本人から一言もらえれば、リーリエ嬢との行動も減らしていく流れだったけど、期待通りにはなかなかいかないね」


 婚約者の居る身で2人きりはマズいのではないかと思っていれば、彼は苦々しげにこう言った。

「仕方ない。私の護衛ということでハロルドを召喚するか。ああ……でも彼には騎士団内部を洗ってもらっている最中だったか。さて、どうしたものか」

 騎士団内部、ということは犯人と関わりのある者が身近に居るということ?


「ノエルもちょうど、魔術の痕跡を辿ってもらっているところだし。違法な魔術具の流通は、魔術に長けて、良い目を持っている者が最適だし……」

 違法な魔術具。不穏すぎるワードばかり出てくるんだけど……。


「今、キリが良いのはユーリかな。だけど、王家の者が2人付くのはどうなのか……。以前と同じメンバーの方が違和感はないんだけど……。うん。問題はあるけど、なんとか情報操作してどうにかしよう。うん。消去法で行くとユーリかな。なるべくユーリにも迷惑をかけないように対策をするとして……」



 悩む殿下に、私は声を上げていた。


「殿下の婚約者で、女性の私ではどうでしょうか?」


 妙案な気がした。

『自ら重荷を背負うのか、ご主人』

 ルナの言う通りだった。

 恐らくコレは茨の道な気がした。

 それでも他に方法は思い当たらなかったし、リーリエ様に必要なのは、女性な気もしたのだ。


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