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誤字脱字報告、いつもありがとうございますm(_ _)m
人生、よく分からないことが多いと思う。
シナリオ補正? それとも厄介を引き寄せる体質か何かなのだろうか?
「レイラを屋敷に置いて行くなんて有り得ない。ブレイン=サンチェスター殿がレイラを訪ねて来たらどうするんだ」
今のところは、どうもしないと思います。
彼の目的が見えない限り、何も出来ないけれど、彼の方は何かをするつもりはなさそうだ。
「だから! リーリエ嬢の護衛には、君を連れて行くよ! レイラ!」
『この兄、早くなんとかした方が良いのではないか?』
ルナは冷たい声でぼそりと言った。
「学園は通常、関係者以外は立ち入り禁止だからね。あのブレインとかいう男が来ることもないだろうけど、今は休み。レイラを守るようにしたところで向こうは公爵家。手も足も出ない。それにおそらく、奴は今日来る。何故なら、僕の今日の予定はそれなりに有名だからね」
なかなか言いにくいけれど、クリムゾンは、どこに居ても来たい時に来るような人だと思います。
精霊を駆使して異界の通り道を通って。
「レイラ、護衛と言ってもただリーリエ様の後ろからダラダラ付いて行けば良いんだ。ほとんど名目上のことだし、元は王家との繋がりを求める貴族の陰謀だし」
これもシナリオ補正? いや、私がついていくエピソードなんてなかったと思う。
それにしても、何故、レイラとヒロインが仲良くするルートが1つもないのだろう……?
まあ、そういう訳の分からない理由で私は連れ出され、訳の分からないまま、引っ張られて、訳の分からないまま、リーリエ様の前に引き摺り出された。
格好はシンプルなワンピースといつもの眼鏡姿である。
学園の私から白衣をそのまま取り去ったような風貌なので、他のメンバーも一目で私だと分かっただろう。
馬車から出てきた瞬間、私の目が死んでいたらしいとノエル様に聞いた。
フェリクス殿下とハロルド様は、同情するような目で見ているし、ユーリ殿下に至っては「そんなこともあるさ」と慰めてくれた。
肝心のリーリエ様は私を見て、きょとんと目を瞬かせ。
「よろしくね、レイラさん」
何事もなかったように笑う。
色々あったけれど、彼女の中ではなかったことになったらしい。
怯えられたらどうしようと思っていた。
緊張されるよりは、やりやすいから良かった。
お兄様がリーリエ様の前で挨拶をしている。
「君がリーリエ嬢だね。よろしくお願いします」
『詐欺だな。普段は粘着質な笑顔を浮かべるくせに』
人好きのする爽やかな笑みを浮かべるお兄様をこっそり見ていたルナは、そう切り捨てた。
そして……。
「ところで、何故レイラさんと手を繋いでいるんですか?」
リーリエ様は首を傾げてお兄様に問いかけた。
誰しも聞きたかったけれど、誰しも聞けずに居たことをサラリと聞ける純粋さに私は痺れる。
そんなのむしろ私が聞きたい。
リーリエ様の質問にお兄様は、当然と言わんばかりに答える。
「それはね、この子が僕の妹だからだよ」
「仲が良いんですね!でも妹だからっていう理由だけで手を繋ぐんですか?」
答えになっていない答えにリーリエ様は不思議そうである。
いや、この場に居る皆がそうだったかもしれない。
「それはね、妹の傍に近付く悪い虫から守るためさ」
「なるほど」
リーリエ様、納得しないでください。どう考えてもおかしいと思います。
そんなことしていたら、お兄様の方が結婚出来なくなりそうで心配である。
「僕の妹は女神ですから」
「…………」
『頭は平気か、この兄』
もはやルナは罵詈雑言を吐いていた。
堂々としたシスコン発言に、誰も何も言えなくなっているし、この妙な空気をどうにかして欲しい。
皆、私に向ける視線が同情心に溢れているし、居た堪れない。
どうするの。この空気。唯一リーリエ様だけが不思議そうに首を傾げている。
身内のことながら恥ずかしくなって縮こまっていた折、勇者が居た。
「メルヴィン殿が、妹を大切にしている話は有名だからね。仲が良さそうで何よりだよ」
何事もなく会話を続けてくれた神は、フェリクス殿下だった。
仲が良いという程度で済ましてくれるところもナイスだ。
兄のドン引き発言を軽くスルーして普通に会話を続けてくれるところが、もはや神。
「殿下……。僕と妹のことをそのように仰ってくださったのは貴方だけです……」
『普通はドン引きして終わるからな』
ルナの容赦のない一言は誰にも聞こえない。
良いのか、悪いのか。
フェリクス殿下はお兄様から会話を引き出すためか、心なしか気遣うような顔をして問いかけた。
「恐らく、メルヴィン殿は何か心配ごとでもあるのだろう?」
「そうなのですよ!! フェリクス殿下。最近、サンチェスター公爵家の跡取りがうちのレイラに馴れ馴れしいので兄として心配で、心配で」
「ああ、なんとなく分かるよ。メルヴィン殿は妹さんに無理な結婚を強いたくない。それに相手は公爵家。逆らうことも出来ないだろうから色々と苦労されているようだね」
スラスラと口から出てくるフェリクス殿下の台詞に内心、舌を巻いた。
「得体の知れず、どこの馬の骨とも分からない男など近付けたくないのですよ、殿下」
いやいや、公爵家令息だから得体は知れてるでしょうと内心突っ込みを入れる。
フェリクス殿下は、相槌を打ちながらお兄様に付き合ってくれている。
「メルヴィン殿にとって、大切な妹なのだろう?過保護になってしまうのも頷ける。貴方のような兄が居るなら安心だろう。……事業のこともあるし、揉めたくはないのも分かる。こちらとしても揉めてもらっては困る。サンチェスター令息のことは私も良く見て置く」
「殿下!」
お兄様は感激したように目を輝かせている。
『何の茶番だ、この会話は』
ルナの声は呆れているし、周囲も「うわあ……」というような顔つきである。
「まあ、私が出来ることは、学園でサンチェスター令息が押しかけて来た時に追い返すことと、時折彼女の様子を見に行くことくらいかな。あまり王家が介入することも出来ないから、ささやかなものになるけど」
「殿下! ありがとうございます!公爵家に対抗出来るのは、王家だけですから! でも、そのような手間を……」
「ああ。問題ない。彼女の叔父を通して、ヴィヴィアンヌ侯爵に連絡も出来るからね」
もう、何が何やら……。
ええと、この会話の内容的に、学園に居る時は、殿下が医務室に来てくれることもあるということ?
どのような理由だとしても、医務室で会える機会があるのなら、嬉しいことだ。
一目会って、すれ違うことくらいは出来るということだ。
『私は時折、この王太子が末恐ろしいと思う時がある。……あの兄を……あの末期な兄の警戒網を潜り抜けるとは』
ルナは諦観と驚愕の混じった声で呟いている。
確かに、シスコン状態真っ只中のお兄様と普通に会話をしている時点で凄い。
先程から痛い程、握り締められていた手が少し緩くなったことに私は感謝しつつ、王都散策はお兄様のシスコン状態から始まったのである。
ちなみにこの話が終わるまで、ユーリ殿下がリーリエ様に王都観光ガイドブックを渡していたので、リーリエ様はそれに夢中になっていたようだ。
後の皆は、お兄様とフェリクス殿下の会話の様子を「なんだこの会話は。ヤバい」とでも言いたげな顔で眺めていた。
確かに色んな意味でヤバい。
シスコンすぎて発言と顔がドン引きレベル兄と、見事にアレな感じの相手と会話を続ける手腕を持つ殿下。
お兄様の目がイっていたり、急にギラギラと輝いたりと、落差がありすぎて怖かったのは私だけではないはずだ。




