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 ついに筆記試験が始まったけれど。


  私は試験よりもその後のことが心配だった。

  ゲームのシナリオなんてあってないようなものだけれど、参考にしない訳にはいかないから。

  リーリエ様が選んだらしいお相手はフェリクス殿下。

  実は、フェリクス殿下ルートの場合、試験の後に一悶着あるのだ。

 

  試験自体は特に問題ない一幕だ。

  うん。むしろ、平和だと思う。

  試験勉強をしていたから遠征とかもないし、怪我人はぐっと減る。


  ちなみに、試験中、学園内ではフロアごとに雰囲気が違う。

  2年生や3年生は慣れたもので、憂鬱そうな雰囲気で留まっていたが、1年生にとっては初めての筆記試験。

  ピリピリとした空気の中、参考書に齧り付く者が多数。

  成績が張り出され、順位も付けられるということで、皆必死である。

  フェリクス殿下やノエル様など普段と変わらない人も居るけれど、大方の人は緊張しているようだった。


  医務室勤務の私はあまり関係ないと思いきや、叔父様が試験監督に駆り出されたので留守番をしたり、体調不良の人が医務室で試験を受けるので、そういった対応だ。

  今回は数人居る。

  前世でいう、保健室対応である。


「うう……こんなはずでは……」

  試験当日に熱を出した人に解熱剤を差し出しつつ、本人の希望により様子を見つつ試験を受けさせる。

  ベッドには折りたたみ式のテーブルが付いているので、それを使ってもらう。

「色々な人に申し上げているのですが、睡眠時間の確保は必須ですよ」

「徹夜しなければ良かった……」

  後悔しきった男子生徒。問答無用で寝かしつけたいところだが、成績に関わることなので私がどうこう言うとしても限界がある。

  追試の時に高得点を取ればそれなりにカバー出来るとは思うのだけれど、どうしても試験を受けたいらしい。

  無理だと判断したら強制終了と言い置いて、問題用紙を渡した。

  そういった生徒は他にも居て、何の不幸か試験当日に突然の腹痛の男子生徒も居る。

  さすがに席を何度も立ってトイレに籠るので、試験実施は不可能。早めに寮に返すことにして、付き添いとして人間姿に変身したルナに行ってもらった。


  終わりの合図の鐘が鳴り、問題を解いていた生徒たちが、筆記用具を投げ出した。


  うわあ。体調不良なのに何故こんなに皆、問題用紙を埋めているのだろう。

  1年生の生徒が特に本気だ。

  今回の魔法薬が効いたのかもしれないけれど、気休めに過ぎないものなので、早く睡眠を取って欲しい。


「ご主人、帰ったぞ」

「ルナ! お帰りなさい」

 帰ってきたルナに念の為、学園内の様子を聞いて、特に問題がないことを確認したり。


  とまあ、こんな風に1日目は終わって。

  試験は3日間続き、1日数科目こなさなければならない。

  そしてなんと2日目は何故か、私までもが試験監督に駆り出された。

  どうやら人が足りていないらしく、猫の手でも借りておきたいくらいらしい。

  叔父様は1日目に終わったばかりの答案用紙の確認のため、試験監督は出来ず、医務室対応をしつつ、確認作業を行っていたらしい。

  同い年の医務室勤務の私が、彼らの試験場所に顔を出すのは違和感しかないというか、場違い感しかない。

  それもこれもクリムゾンが侵入して来て防犯強化に人員を割かれたせいである。


「……こんにちは。試験監督の者です」

  ある教室に顔を出して、30名程の特進クラスの前に顔を出して、視線を一斉に向けられた瞬間、なんかもう帰りたくなった。

  注目されるのは嫌だ。

「レイラさんいらっしゃいませ!」

「まさか試験監督とは思いませんでした」

  予想外の歓迎ムードだ。

  試験前のピリピリした空気が少し和らいだというか、たぶん私の威厳のなさが原因だと思う。


  特進クラスに居る見覚えのあるメンバーは私が来たことに少し驚いたのか、目を丸くしていた。

  でも、1つだけ勘弁して欲しい。

  フェリクス殿下、私と目が合った瞬間に王子様スマイルをするのを止めていただきたい。

  王子という職業は、目が合ったら微笑むという習性でもあるのだろうか。

  大勢の前で醜態を晒すところだった。なんとか取り繕ったけれど。

 まあ、そういう訳で2日目も問題はなかった。


  3日目。問題の日がやって来た。

  3日目は1日目と大方同じ業務内容。

  医務室対応のため待機をし、体調不良の生徒を見守りつつ、特に大事になることはなかった。

  試験が終わり、医務室にやってきた叔父様に早速、申し出た。

  なるべく早く行動しなければ。


「叔父様。薬草などの補充をしに、外出許可が欲しいのだけど」

「レイラ、店に行ってきてくれるのですか?ちょうど、面倒だと思っていたのですよ」

  叔父様は出不精。こちらから申し出れば、私に補充を頼むことは確実だ。

「気晴らしに外に出たいとも思っていたの。付き添いは、ルナが居るから大丈夫よ」

「精霊様は素晴らしいですね。使用人の姿にもなれるので、レイラの付き添いとしても完璧です」


  てきぱきと準備をしている間、黒い小鳥姿になっていたルナが戻ってきて、私の前で狼姿へと戻った。

『ご主人。そなたの懸念していた通りだ』

「やっぱり……」

  目をキラキラとさせる叔父様を総スルーしながら外に出る。

『そなたの思っていた通り、王太子はもう間もなく視察に出るそうだ』

  シナリオ通りって訳ね。


  試験が終わった直後、それぞれのルートごとに多少の差異はあれど、何かしら事件が起こるのだ。

  確か、フェリクス殿下ルートだと、視察に出たフェリクス殿下とリーリエ様が集団誘拐事件に遭遇するのだ。

  市民の中から魔力持ちの者だけを狙った誘拐事件。2人はその現場に居合わせるのだ。

  その犯人は政治貴族の中でも有力な某貴族で王家に反旗を翻そうとしている悪の萌芽。

  その犯人は大掛かりな闇の魔術で生贄から魔力を吸い上げ、その力の恩恵を受けようとしている。



  フェリクス殿下のルートは王家ならではの政治的なあれこれというか、王家周辺の渦巻く陰謀や陰険な政治とか、王家の闇についてのルートというか。

  王家なので裏切りや暗殺などがもちろんある訳で、簡単に言ってしまえばその辺りをどうにかしていくルートである。狐とか狸しか居ない。


  つまり、今日の誘拐事件。これをどうにかすれば、先のゴタゴタはなくなる可能性がある。


  ゲームのシナリオをぶち壊すことになり、フェリクス殿下とリーリエ様のお互いの好感度にも影響が出るだろう。

  それはある意味、ヒロインの見せ場を奪うことに繋がるのだが……。


  いやいや、陰謀に気付いていて止めないとか、ないでしょ!

  関わりたくないけど、この国の未来が関わっているのに静観する訳にはいかない。

  ゲームはゲームで、この世界は現実。


  当たり前のことである。


『王太子が視察に出ていたからな。ご主人の指示通り、匿名で通報しておいたぞ』

「これで犠牲者は減るかな……」

  シナリオ通りの可能性が高いため、誘拐事件の現場を数箇所を指定して、「怪しい者が居る」という目撃談として匿名でルナに通報をさせておいたのである。

  シナリオはシナリオでそんな事件などないと言われればそれで良し。杞憂だったと笑えるけれど、そうでない場合は悲惨だ。

  生贄ということは、無辜の民が襲われて、生命を落とすということなのだから。

  そして、私は、ルナと辺りを巡回する。


  杞憂なら、それで良い。

  この世界がゲーム通りでなければ、それで良いのだけれど。

  悪徳貴族も居ない可能性だってあるのだし。

 

 ……だけど。

  現状で、私しか知らない可能性もある。

  半信半疑の今、この目で見たものしか信じることは出来ないのだ。


  どこまでがシナリオ通りなの?

  とにかく出来ることをするしかない。

 

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