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叔父様の興奮と、忘れていた何やかんやの話。

「叔父様、これから出張なのでしょう? 行くなら早く行かないと」

「今、この状態を目にして出ていけると思うのですか?」


 叔父様の目の前に居るのはルナとアビスだ。

 厳密に言えば、光の精霊と闇の精霊の姿。

 叔父様は大袈裟に腕を広げると、天を仰いだ。


「精霊が二人! それも光の精霊と闇の精霊!! 豪華キャスト! 精霊の契約者がこの医務室に集結するなんて素晴らしい! なんたる僥倖! 世界が僕を祝福している!! ああ……! 黒猫なんですね! そして、ルナ様が今日も尊い! 光の精霊になっても麗しい!! ああっ! あああああ!!」


 ルナが光の精霊になったことは知っていたが、実はルナ、叔父様の前に姿を晒すのは初めてだった。

 アビスも姿を現すことは避けていた。

『こうなるのが分かっていたから、あえて姿を現さなかったのだ』

『狼殿が、やめておけと仰るので、従っていました』

 それは、クリムゾンが己の精霊を公表してから数日後のこと。


 叔父様は今日、これから出張だということで、医務室から先程出ていったばかりだった。

 そして三分後くらいに突然、戻ってきた。

 それは警戒を解いたルナとアビスが床に座ってくつろいでいる時だった。

『ひか、ぴか、ひかり、ぴかりの! 光のせいれれれれれれれれれ! 新たな闇の精霊!? ねこ!! ねこ!! しっぽが、猫!!』

 訳の分からない叫び声を上げた後、叔父様は軽い足取りでウロウロし始める。

 叔父様の顔はしばらくニヤニヤしていて、ふと違和感を覚えて問い詰めてみれば、どうやら不意打ちを狙えば精霊が見られるのではと、一芝居打ったらしいことが発覚した。

 そこまでするのか。それから避けられる自覚はあったのか。

 やけに大人しいなとは思っていたが、まさか機会を虎視眈々と狙っていたとは。

 意外と冷静である。

 おそらく、ルナの変化に加えてアビスの登場は棚からぼたもちだったのだろう。


「それにしても光の精霊……! 精霊の謎が深まりますね……! レイラの魔力が変わったことと何か関係があるんでしょうね!」

 ギクリ。

 私が光の精霊を伴っていると世間で知れ渡っているのは、いつかバレるくらいなら、今のうちに大々的に公表しようということになったからだった。

 何かの緊急事態時に、ルナの存在がバレることもあるだろうし、その時に周囲を混乱させるくらいなら、という考えである。

 ただ、リーリエ様の立場に私が丸ごと入れ替わったみたいで何とも言えない気持ちになった。


 多くの者は上位精霊の接触後、光の魔力に変化し、新たに光の精霊と契約したのだろうと思っているらしいが、叔父様はルナが以前は闇の精霊だったということを知っている。

 好奇心旺盛なので、真実がバレたらどうしようかと思うことが稀にある。

 と言いつつも。彼はフェリクス殿下の嘘八百を信じ切っている。フェリクス殿下の開き直りっぷりが最強だったおかげだ。

「上位精霊の恩寵ってすごいですよねー! 人も精霊も、属性を変えられるだけの干渉力!記録を見ると、王家に入ると上位精霊の恩寵を受けることが多いみたいですね! 属性が変わった方が何人かいらっしゃったりして、王家に入ることにより、上位精霊は何か接触理由を得るのでは? 王家と精霊には何か深い繋がりがあるに違いありませんよ!」

 元は闇の魔力だった王族と結婚した人のことだろう。元の属性については書かれていなかった気がするので、この辺りは情報を曖昧にするために処理したのかもしれない。

 というか、叔父様。

 その記録、どうやって調べてきたの。

 あまりにもな情報は見られないように書庫で処理されているはずなのだけど、叔父様なら禁書を覗き見るスキルがあってもおかしくない気がする……。


 ルナの近くでウロウロ。アビスの近くでウロウロ。

 あまりにも鬱陶しかったのか、ルナは光り輝く人間の手のひらみたいなものを空中から出現させると、無理矢理叔父様を部屋から追い出した。

『この私が物理的な対応をするなど……なんたることか……』

 そして何か落ち込んでいた。

 アビスは横で尻尾を振りながら欠伸をしているし、その契約者であるクリムゾンはポツリと呟いた。

「俺の存在に気付いていたんでしょうかね」

 叔父様は私の騎士であるクリムゾンに手伝いをしてもらうこともあるため、こういう時でもせめて挨拶くらいはしても良いんじゃないかと私は思う。

 今度言い聞かせて置かなければ。


「……?」

 コンコン、とノックされた音に、すかさずクリムゾンが扉を開ける。

 その先には緋色の瞳を持つ少年の姿。

「ノエル様、お久しぶりです」

「ああ、レイラ久しぶり。……それとブレインも」

「お久しぶりですね。ここ最近姿を見せませんでしたね」


 ところで煽り癖のあるクリムゾンだったが、私の騎士になってからは、鳴りを潜めた。

 基本的には物腰が良い青年の対応をしており、フェリクス殿下以外には愛想も良いので、人見知りなノエル様相手にもそれなりに仲良くやっていた。

 本業である私の手伝いを出来るくらいには医療や薬品、魔術に詳しいので、どうやらノエル様的には、私をアトリエに招けば必然的に手足が増えると考えているらしい。

 クリムゾンへの愛想はなかったが、普通に話すので、まあ平和である。

 かつて、私たちは学園の廊下でやり合った仲なのだが、幸か不幸かノエル様は気付いていない。

「お仕事でしょうか?」

 呑気に問いかけた私は馬鹿だったのかもしれない。

「ああ。人身売買の──レザレクションの後始末をしようと動いていたんだ」

『諸々の犯人がここにいる件について』

 ルナの声が聞こえなくて本当に良かったと思う。

「そ、そうだったのですね?」

 それ以外何が言えよう。

「痕跡を辿った結果、リザレクションそのものが壊滅していてな。僕も探ってみたんだが、復活する兆しがないようだ。リザレクションなのに」

 ちらりとクリムゾンを横目で確認してみたら良い笑顔だった。

 これは確実に何かしたとしか思えない。

 どうやら後始末までしっかりと行っていたらしい。

「クリムゾン=カタストロフィの行方も見つからない。これはトンズラされたとしか思えないな」

「むしろ死んだのではないですか?裏社会で名前が消えたら、命もない場合って多いじゃないですか。死んでスッキリですね」

『この男、しれっと自分を殺したぞ』

『しかも満面の笑みでいらっしゃる』

 精霊たちの言う通り、爽やかに微笑みながら、とんでもないことを言い出した。

「なるほど。消息が知れないということは、そもそも消された可能性が……。でもあそこまで抜け目ない奴が」

「フェリクス殿下に消されたとか?」

『とんでもない嘘を平然と』

 とんだ濡れ衣である。


「なるほど。今度殿下に聞いてみるか。あの人ならやれるかもしれない……」

「さすがにそれは……」

 フェリクス殿下に対する風評被害が酷い。


「俺としましては、案外病死かもしれないかなと。あっ、虫歯で死ぬとかでも面白いですね。爆殺されたなら死体も残りませんね。整形されて別人として殺された説も捨てがたい」

『自分の死因を嬉々として語る男……』

『狼殿。突っ込んだらキリがないですよ。我が主的には面白がっています』

「虐待死かもしれません」

『……』

『………………』

 ごめん、クリムゾン。笑えない。

 酷いジョークである。


「ブレイン様、人の生き死にのことを満面の笑みで語るのはどうかと思いますよ」

「そうですね。レイラ様がそう仰るのであればそうかもしれませんね。ふふ、では黙ります」

 とりあえず窘めておいたら、あっさりと話は止めた。

「……なんとも個性の強い男だな。そんな男をよく手懐けているというか、お前の周りには変な奴が多い」

「手懐けている……。それはそれで良い響きですねぇ。手懐けられている……受動態にしたら尚良し。甘美というか、これは是非、フェリクス殿下に聞かせてみたい」

『とりあえずそこの男は黙れば良いと思う』

『基本、ワタクシの主は、楽しいか楽しくないかという雑な判断基準の人間でしたから、発言をいちいち気にしていたらキリがないですよ』


「それを殿下に言ったら気にするんじゃないか?」

「だから言うんですよ」

『相変わらずブレないな』

 ノエル様は、クリムゾンをじっと観察した後、私に向き直る。

「レイラ、お前、二人の喧嘩に辟易したりしないのか?」

「もう慣れました」

「お前、なんか悟った目をしてないか!?」

「問題ありません。私や他の方々が居る前なのでお二人とも自重してくださっているんだと思います。たぶん」

 手を出しあって肉弾戦とかになっていないだけまだマシだろう。


 だけどよく毎回飽きないものだと思う。

 まあ、その……フェリクス殿下にあれだけ言えるのもクリムゾンだけな気がする。


 まあ気を取り直してということで、ノエル様に頂き物の茶葉を振る舞いながら、しばし談笑するのだが、近況報告の後に、ノエル様が思い出したようにポツリ。

「そういえば、前に僕とお前が戦った学園への侵入者も精霊持ちだったな。ほら、レイラが戦ってた相手」

『その侵入者もここにいるがな』

 話題内容があまりにもあれすぎて、どきどきしてしまう。

 淑女の微笑みを貼り付けているが、実は内心ガクガクブルブルしている。


「精霊持ちってどこにでも居るものなんですねぇ。髪の毛赤いなら火の精霊か何かじゃないですか? 色的に」

 クリムゾンの精神が強い件。

 そんな奴知らんと言わんばかりの、しれっとした態度。

「精霊持ちであそこまで強い相手が未だ野放しっていうのも、どうかと思って、一応捜索しているんだ」

 ふと、クリムゾンの横にトコトコと黒猫が歩いていく。

 機嫌が良いのか尻尾がピンと立っている。

『我が主。偽装死体でも作って、ひとまず殺されておけば良いのでは』

「そうですね。その方が良いですね」

「やはりな。僕も最善を尽くすが、レイラも周辺には気をつけて欲しい」

 アビスに答えるクリムゾンだったが、ノエル様は自分に返事をしたと捉えているようだ。

 噛み合ってないようで噛み合っているこの会話。

 神妙にしているノエル様にはとても申し訳ない。

『早速あの王太子に罪人の死体を用意させましょう』

 妙に慣れているなと思ったが、それは言わないで置いた。

 私たちの知らない二人の過去には、血腥いことがたくさんあったのだろう。

 ルナもそれをしってか口を噤んでいた。



 そして三日後、赤髪をした男の白骨死体が発見された。

「フェリクス殿下もノリノリでして、なんとも再現度の高いブツが出来ました。なんと、本物にそっくりな精巧すぎるレプリカなんですが、表面は擬似的な骨の成分で覆われていたのです。完璧でしたね。あれは職人技です」

『偽装と聞いて、王太子は腕が鳴ると仰っていたのですよ。我々としては罪人の死体を使うと思っていたので、まさか一から作るとは思ってみませんでしたが。王太子も凝り性ですね』

「あれはあれで後々の参考になりそうです。フェリクス殿下と証人を何人か連れて、弔いまでやって来たんですが、笑いそうになりました」

『我が主はずっと目が笑っていましたけどね』


 ルナはジト目で二人を見つめていた。

 私もジト目で二人を見つめていた。

 フェリクス殿下とクリムゾンは普段仲が悪くて喧嘩ばかりの癖に、不謹慎なことで悪ノリして意気投合するってどういうことなんだろうって思った。

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