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「さて、首尾は上々のようだ」
次から次へと入ってくる念話に指示を出すフェリクス殿下の口元は人が悪そうに微笑んでいた。
じっと見ている私に気付いたのか、ふっと顔を和らげると、私の頬を再びするりと撫でる。
「分かっていると思うけど、レイラ」
「はい、ここで大人しくしています」
「うん……いい子だ」
「……んっ」
指先がするりと移動して耳をさわさわと愛撫するように撫でる手がくすぐったくて、思わず小さく肩を揺らした。
それから耳元で内緒話をするように声をひそめられ言われた。
「危険度は低いし、相手はヤケを起こしているから余計に扱いやすい。だからね、私たちのことは心配しないでね」
私の心配はどうやら見破っていたらしい。
低くてゾクゾクするような吐息混じりの声には色気がふんだんに込められていて、こんな時だというのにドキドキしてしまう。
動揺する声を隠しながら、平然とした顔を装い問いかける。
「……ば、爆弾魔を捕まえるというのが任務ですか?」
フェリクス殿下は、私と密着している体をそっと離す。
ほんの少しだけ寂しいと思ってしまったのは内緒だ。
「そう。それが第一任務。怨恨か愉快犯かはともかく、貴族の屋敷に入られたなら放ってはおけない」
フェリクス殿下は私に部屋で待っているようにと言い含め、コクリと頷く私の頬に躊躇いがちに、軽く唇を落とした。
「色々とバタバタするとは思うし、今のレイラの周りも騒がしいからね」
「そうですね。前よりも気軽に出歩けなくなったような気がします」
だけど、どちらにせよフェリクス殿下と結婚したら王太子妃になる。
そうしたら自由に歩けなくなるだろうし、それが早まっただけと考えれば、まあ仕方ないことなのかも。
「……ごめんね」
「何故、殿下が謝罪なさるのですか?」
「元はと言えば、婚前交渉をしたせいだから。私が我慢できなくなってレイラに手を出して、あんなに……。薬の副作用とはいえ、私は……嫌がるレイラに──」
「フェリクス殿下」
フェリクス殿下の唇に人差し指を添えると、ピタリと彼は黙り込んだ。
「何故、貴方だけの責任になるのですか?手を出したのが殿下なら、受け入れたのは私です。それにこうなることは遅かれ早かれ決まっていましたし、カーニバル期間に発覚したのは良いタイミングだと思います。薬の副作用だって、誰のせいでもありません」
「……」
理屈としては分かっているが、感情面では納得出来ないと言わんばかりの表情。
フェリクス殿下は自分のせいで私の人生を狂わせたとでも思っているのだろうか。
確かに婚約者になることで私の人生は大きく変わったけれど、切っ掛けはどうあれ、受け入れたのは私だ。
一つ一つの選択肢の積み重ねが今であって、現状の責任を誰かに押し付けるのはちょっと違うのではないだろうか?
フェリクス殿下は、責任感が強い性格のせいか、そうやって責任を全て抱え込む。
王族ならではの責任感。普段から押し付けられていたせいで、全てが自分の責任だと無意識に抱え込んでいる?
もしかしたら、最近触れる時に躊躇いがちだったのは、そういう理由もあったからなの?
私に申し訳ないと思って?
薬の副作用の件だって、殿下は何も悪くないのに。
「確かに私の人生は大きく変わりましたけれど。でもね、フェリクス殿下」
ゆっくりと深呼吸をして、緊張を押し隠して、言葉を続けていく。
言わなければ、伝えなければ私の気持ちなんて分からないのだから。
「それ以上に私は、貴方の傍に居られて、幸せを感じているんですよ?私の中の真実はそれだけです。それでは、駄目ですか?」
普段は改まっていうことのない台詞だ。
これを言うのに私の中の勇気を振り絞った。
そっと彼の表情を窺い反応を見ようと顔を覗き込もうとした瞬間。
「きゃっ……」
私は物凄い力で肩を引き寄せられ、たたらを踏んだ。
気が付けば抱き竦められ、彼の腕の中にガッチリと閉じ込められ、ぎゅうっと痛いくらいに腕の力が強まっていく。
まるで縋るように余裕のない息遣い。
「殿下……あの?」
トントンと背中を叩いてみれば、彼の蚊の鳴くような声。
「私をどうしたいの。レイラ」
「え?」
「私をこんなに夢中にさせて、私をどうするつもりなの?もう、私はレイラなしでは生きていけない」
彼の表情はよく見えない。
「はい、私も貴方なしでは、きっと生きていけません」
「……レイラ」
「あっ……あの、でん──んっ…」
それから、ほんの少しだけ強引な口付けをされた。奪うように唇を合わせられ、何度か食むようにゆっくりと味わわれた後、そっと離れていった。
まだ少し私に遠慮しているらしいのが分かって、彼の中では薬の件や一連の騒ぎについてまだ思うところがあるのだと察した。
確かに短い期間で色々あり過ぎた。
「レイラ、それじゃあ、私は行くよ」
「はい、お気をつけてくださいね」
扉がゆっくりと閉まっていく。
彼の後ろ姿を眺めて、しばらく立っていたが。
「ルナ」
『呼んだか?』
呼ぶとすぐに出てきてくれる私の精霊。
相変わらず白銀の色のままの毛並みをそっと撫でる。
「サンチェスター公爵家の様子が知りたいの。私の目の代わりになってくれる?」
『承知した』
「基本的に手出しは無用よ。私たちは殿下に手伝うように言われてないから。……だけど、見るなとは言われてない。それにルナが代わりに行くのも駄目とは言われてないよ」
『ご主人は、これがただの事故や事件だとは考えていないのだな』
「うん。なんとなく。なるべく私も情報を仕入れて置いた方が何かあった時、役に立つかなっていう些細な理由だけど」
それにルナとの感覚共有の精度も上げておきたいのだ。
こうしてルナは爆弾犯対策隊の中にこっそりと紛れ込むことになった。
フェリクス殿下はルナの姿を見て軽く目を見開き、それから苦笑していたけど、特に何も言わなかった。
サンチェスター公爵家の前に騎士団が重装備で出動していく。
フェリクス殿下は保護魔術をかけた後、公爵家の表の門の近くで見張りをしている私兵に何やら話をつけていた。
それから、騎士たちの元へ戻ると、一人の騎士にこっそりとこんな指示をした。
ルナの聞いている声は、部屋に居る私にも鮮明に聞こえてくる。
「秘密部屋を探してくれ。犯人や爆弾などは一切探さなくて良い。公爵家の闇の第一発見者はニール、君の仕事だ」
「はっ……何なりと」
公爵家の闇を探す?もしかしてフェリクス殿下は、今回の爆弾事件を演出した……とか?
公爵家に囚われたらしい人たちを助けるために?
「この屋敷の間取りで怪しい部分をいくつかと、偽造した術式の特徴を伝えるよ。ニール、じっとしていて」
フェリクス殿下は騎士の額に指を当てると、伝達魔術を行使した。
これは、頭の中に情報を直接刻み込み、記憶させる便利な魔術だ。
「もし、君が見つけられなかったとしても私も動くから気にしないで。まあ、もし私が見つけても第一発見者はニール、君だよ」
「……なるほど。一人の騎士が偶然、真実を見つけるというシナリオなのですね」
「うん。そういうこと」
この二人の共謀? そういえば、この二人が何やら真剣に話していたような気がする。
『ご主人の言った通りだな』
感心したように言うルナ。
「ルナ。そのまま、ニール様を追いかけてくれる?」
『承知した』
こうして爆弾犯ではなく、公爵家の屋敷捜索が始まった。




