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お久しぶりです。

引越しの片付けとか全然終わっていませんが、職場の昼休み中に少しずつ執筆して、一本だけ書き上げたので、投稿しようと思います。

色々と作業出来ていなくて申し訳ございません……m(_ _)m

「なんてことだ!」

 そんな第一声と共に自室に帰って来たフェリクス殿下の顔は真っ青だった。

 まさに顔から血の気が引いているみたいな。

「……?」

 今朝と様子が違うことにもしやと思い、本をパタンと閉じて彼を窺う。

 足を動かす度にジャラジャラと鎖の音が鳴り響く。

 青ざめたフェリクス殿下は衝撃を受けたように目をカッと見開くと、つかつかとこちらまで歩いて来て。

「あの? 殿下?」

 がっと鎖を鷲掴みにする。

「まっ、待ってね!? 今! すぐに解くから!」

「え、ええ……、お願いします」

 ここまで慌てるなんて珍しいし様子がかなりおかしい。いや、ここ一日くらいずっと様子はおかしかったけど。

 鍵を取り出したは良いものの、動揺からか上手く手が動かないらしく、彼にしては珍しく苦戦していた。

 フェリクス殿下は、器用なはずだけど……。

 鍵穴に入れる前から、手が震えて見事に入らず、やがてフェリクス殿下はもどかしくなったのか、鍵をポイッと捨てるといきなり鎖に力を込め始める。

 それは一瞬のことだった。

 破壊するために筋肉増強魔術。

 鎖を溶かすために火の魔術。

 私の足を傷付けないために保護魔術。

 凄い……息吸う間もなく、何気に魔術を同時並行して使っている……いやいや! そうじゃなくて!

 何故、鍵を捨てた!?ポイッて何、ポイッて!

 それから。



「ごめんなさい」



「ええっ!? 殿下!?」

 そのまま跪き、頭を下げるフェリクス殿下に私は目を見開いた。

 王族がそう簡単に跪いてはいけないし、頭を下げるのも良くない。

 それからさらにフェリクス殿下は俯きがちになりながら、言葉を紡いでいく。

「死にたい……死ねる……。いや……、私は死ぬべきだ」

 この方は突然、何を仰っているのだろう。

 正気が戻ったのかもしれないと思ったのだが、どうやらその通りで、その時の記憶はしっかりと鮮明に残っているらしい。

「人の尊厳を無視して、人権侵害をしたあげく、レイラには穢れた男の欲望を剥き出しにして、精神的苦痛と肉体的苦痛を与えて、さらに監禁、それから脅迫、もっと言うと付き纏いまでして私は……私は!」

 そこで顔を上げた殿下の目には悔恨の色。それから絶望と衝撃、自己嫌悪、私に対する申し訳なさ。

「というか、足枷を嵌めて恍惚していた自分が信じられないというか、気持ち悪いというか。だって、足枷だよ? そうやって人を拘束して束縛して何が得られるの?人を貶める真似をしてうっとりするとか変態じゃないかな? 何なの? 性癖なの? どんな加虐趣味なの? わざわざ魔術で傷を付けないための処置をしてまでレイラに使うっていう執念深さなんか、もう有り得ない程、気色悪くない? やっていることも気持ち悪いけど、そこまで手間暇をかけるっていうところが特に偏執的だよね。拘束の何が私をそこまで駆り立てたのだろうか!?」

「フェリクス殿下……?」

 そうっと声をかけようとすると、フェリクス殿下はバッと顔を伏せた。

「私のような品性下劣で陰鬱で粘着質な性犯罪者はレイラの顔を見つめる資格がない! 明らかに精神的に病んでいる!! 穢れ切った思考! 邪な欲望の権化! 有り得ない程狭まった短絡的な思考回路! レイラが許可するまで、私は独房に篭って──」

「とにかく、まずは落ち着いてください」


 跪いていた彼の両肩をポンっと叩くと、フェリクス殿下はキョトンと目を瞬かせて、私と間近で目を合わせた。

「レイラ……」

 あっ。ようやく落ち着いてくれたのかな?

「どうしたのですか?」

 とりあえずまずは話をしてからだと、思っていたら彼は真面目な顔でこんなことを聞いてきた。

「レイラ、私に触れても平気なの? 私のような穢れた身の者に触れるなんて……。これ以上レイラのことを穢したくない」

 私が肩をポンっとしたことで、何故かそんなことを気にし始めたらしい。

 しかも本気で言っている。

 目が本気だった。

 彼はどこまで覚えているのだろうか。

「昨日、散々私のことを抱き潰したことはどのくらい覚えてますか。それに今夜もしたいとか何とか……」

「ああああああ」

「って、ええええ!? 殿下、何もそこまで」

 壁にガンガンと頭を打ち付け始めたフェリクス殿下を慌てて止める。

「いや!とんだ身の程知らずで恥知らずなんだよ、私は!嫌だと泣くレイラを無理矢理……あんなっ……」

 どうやら全部覚えているらしい。

 ふ、不憫すぎるわ……。

 ベッドの上で座っている私を見て、彼はハッとしたように私から離れた。

 少しずつ、じりじりと距離を置こうとする殿下は完全に動揺している。

「レイラ。私に近付いてはいけない……」

「殿下、事情を説明しますから」

「私は二重人格者か!! なるほど!」

 二重人格者なら人格交代しなければおかしいのだが、混乱のあまり、フェリクス殿下はよく分からないまま納得している。

「いや、待ってください。色々とおかしいです。人格交代していないですよね!? 貴方の意思はそのままだったはずです!あれは正真正銘貴方の意思です!!」

「ああ……。であるならば、私は死ねる……。私の意思でレイラにあんなことを……」

「あっ……」

 落ち込ませるつもりはなかった。

 壁に額を付け、どよんとしたオーラを纏い始めるフェリクス殿下。

 収拾が付かなくなるので、手っ取り早く説明することにした。

 リーリエ=ジュエルムの魔術により精神汚染をされかけ、抵抗しようとした結果、フェリクス殿下の精神は混乱した。

 自傷行為もするところだったため、やむを得ず、叔父様の新薬『満月の狂気』の服用させたこと。

 副作用により、深層心理や心の奥底に沈めていた欲望が表面化し、増幅されてしまった結果、狂ってしまったということ。

 それらを順序だてて説明した。

「つまり、フェリクス殿下。これは事故です。それに元来の外面の良さを発揮していらっしゃいましたので、私と御家族の方々以外は皆、普段通りの殿下に見えていたはずですよ」

「最悪だ」

 第一声がこれである。

 ベッドに腰かけるようにと誘ってみたら、「私をベッドに誘ってはいけない」と虚ろな目で仰ったので、結局彼は私から遠い場所にあるソファで話を聞いてくれていた。

「殿下、心配なさらないでください。私たちは口が固いです。何があっても今回のことは──」

「あああああ……。よりにもよってレイラに、一番カッコつけたい相手にあんな醜態を晒し続けるなんて。私があんな生き恥を晒すなんて……最悪だ」

 ソファで頭を抱えているフェリクス殿下の声は固く、悲しみに満ちていた。

 もしかして、すごーく落ち込んでる?

「ヴィヴィアンヌ医務官がヤバい薬を研究しているのは知っていたけど、まさか私がアレを服用するとは……」

「はい、そうです。だからここ最近のフェリクス殿下に落ち度はありません」

「と言っても、無意識下にある欲望を増幅しているんだから、私にああいう一面があることに変わりないと思うんだ」

「…………」

 私は笑顔のまま固まった。

 どうしよう。正論すぎて何も言えない……!

 だんだん不安そうな顔になっていくフェリクス殿下に言える言葉。

 言える言葉っ……!

 人間、必死になると月並みな言葉しか言えなくなるのかもしれない。

「私は気にしていませんよ、殿下」

「いや、気にしようか!?」

 即座にフェリクス殿下から突っ込みが入った。

 彼は頭を抱えたまま、唸っている。

「レイラはそう言うけど……さすがに。あぁ……己が憎い……」

 どうやらフェリクス殿下は、私が本気で気にしていないことに気付いている。

 私にとっては、好きな人の一面なので、殺されさえしなければ、気にしなかった。

 私自身もそうだけれど、人間は表には出さない一面というものを誰しも持っている訳で、それが普通と違うとかそうじゃないだとか議論することは無意味だと思うのだ。

 せっかく、その人の新たな一面を知ったのなら、ほんの少しの理解への足がかりにするべきだと私は思う。

 人が他人を全て理解することなど出来ない。

 想像して推し量ることしか出来ないのだから。


「殿下。そんなに気が咎めるようでしたら、私から一つお願いを──」

「何かな? レイラのお願いなら、何でも聞くよ?」

「っ……!?」

 復活が早い。少々食い気味に、彼はソファから腰を浮かせていた。

 切り替えが早いとでも言うのか、先程まで色々と深く悩んでいる様子だっというのに。

 フェリクス殿下は基本的には理性的で合理的な性格をしていて、感情に引き摺られることがあまり好きではない。

 私にこれ以上落ち込んだ姿を見せたくないという意地なのかもしれない。

「それで、何をお願いするのかな?」

「式典に参加させていただいても良いですか?日にちが変わったりはしていますか?」

「式典……? ああ、カーニバル五日目、六日目、七日目に変更はしたけど」

「それに参加させてくださいませんか? 私も、仕事をしたいです。部屋に閉じこもってばかりではなく」

 あれだけ部屋に閉じ込めることに固執していたフェリクス殿下だ。

 正気に戻っている今の状態でも影響は残っているかもしれないと不安になったけれど、そんな展開にはならなかった。


「レイラの身辺は不安だし、なるべく私の傍に居ると約束してくれるなら」

「あ、ありがとうございます!」

 過保護さは変わりないが、閉じ込めるような気配は全くなかった。

 完全に副作用が消えていることに安堵して、思わず微笑んでみる。

「……っ」

 何故か、フェリクス殿下が怯んだ。

 あれ?

「待って。そんなに可愛く笑ったら、皆がレイラに惚れるかもしれない」

 おや? 何だか、昨日と言っていることが似ているような?

 ま、まさかね?

「大袈裟に言っている訳ではないんだ。レイラは普通にしているだけでも女神で天使で妖精なんだよ。そんな貴女が微笑んだら凄まじい破壊力に決まっている……。と、とにかく無防備にしてはいけないよ。私に対しても警戒するように!」

 褒め殺され、しかも熱心に言い含められた。

 どういうことなの?

「……殿下…………そのっ……」

「何かあったらすぐに魔術で対抗するんだよ?私相手でもね」

 フェリクス殿下の過保護度が大幅に上がった。

 というか、どうやら自分に自信が持てなくなったらしいフェリクス殿下が、自分の危険性をも訴えていた。

 フェリクス殿下にとっては大分トラウマになった出来事だったらしい。

「はあ、頭が痛い……」

 理性がなくなると言っても、フェリクス殿下の場合は限定的で、しかも記憶が丸々残っているというのだからタチが悪いと思う。

 私が気にしなくても、彼にとっては衝撃が走ったはずだ。

 これを黒歴史というのだ。もし似たような状況だったら羞恥で死ぬかもしれない。私だったら、死ぬ。

 フェリクス殿下はさらに溜息をつくと、額に手を当てて驚くべきことを口にした。


「話が変わるけど……実はリアムの居場所が分かった」

「ええ!?」

 脈絡もなく告げられた驚愕の事実。

 あれだけ探して見つからないというのに!

 今も手がかりなしで捜索班も苦労に苦労を重ねている。

「色々と混乱していたが、失った記憶が蘇ってきたんだ。……ということで、犯人は私だ。私がリアムを転移させた」

「…………」

 確かに、フェリクス殿下が一枚噛んでいるなら、話は別な気がした。


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