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パカップル回です。
平和です。
変装のために服装を着替えることになって、二人とも、いったん着替えることになったのだが……。
『おそろしく似合わないな』
これはルナの評。
平民の着るような服を着ても、高貴さが隠せないフェリクス殿下は、平民の振りをするのを早々に諦めることになった。
職人風の男性服を着ただけなのに、高貴さが隠せずにチグハグになったのだ。
「伊達メガネを合わせてみたんだけど、無理か」
「フェリクス殿下は王族特有のキラメキがあるので、無茶だと思います。普通に貴族のお忍び風で良いと思います」
「そういうレイラは、何着ても可愛いよね。専属薬屋としてお持ち帰りしたい」
先程から、フェリクス殿下は私に何回か着替えをさせた。
メイド服、ウェイトレス、仕立て屋、そして本業に近い薬屋。
『もはや、この男の趣味なのではないだろうか』
ちなみに、服装を変えるごとに私の髪型や髪飾りも変えていたり、とにかく全身コーディネートを繰り返してくる。
「やっぱり最後の薬屋が良いです。本業に近いので」
髪は三つ編みにしてお下げにしていて、精巧なスミレの髪飾りが頭に付けられている。
「うん。三つ編みも可愛いよね。あ、それからレイラ。伊達眼鏡はしていくこと。眼鏡をして顔が見えない状態でも可愛くて美人なのに、素顔だったら誘拐されちゃうから。私だったら、する」
『何を自信満々に犯罪宣言しているのだろうか』
「ふふ、フェリクス殿下。褒めすぎですよ」
「とりあえず、私は貴族のお忍び風で、行くよ。伊達眼鏡をしていけば誤魔化せるし」
「じゃあ、行こうか!レイラ」
フェリクス殿下は珍しくはしゃいでいるように見えて、少し可愛らしい。
「実は行きたいところがあってね」
「ふふ、殿下が楽しそうで私も嬉しいです」
仕事に忙殺されていた彼だからこそ、こういう小休止には思い切り羽根伸ばしをして欲しい。
薬屋の小娘の服になった私と、お忍び貴族の眼鏡が似合う美貌の青年。
身分差のある男女の物語に出てきそうな登場人物っぽい!
フェリクス殿下が差し出してくれた手にそっと手を重ねると、彼はエスコートしてくれるのかと思いきや、魔力が迸る気配。
大掛かりな空間転移!?
ふわりと髪が舞い上がり、私はその魔力の風に目を細める。
フェリクス殿下の手が私の肩を引き寄せる。
風が治まった頃、私たちは王城の裏に居た。
「護衛はリアムと、私服の近衛騎士が二人隠れている。この時期としては最小限の人数だと思う。ほら、表は人がたくさんだからね」
一般に公開されているからか、たくさんの人がひしめいていた。
王城の料理人がランチを振舞ってくれていて、それが破格の安さで売られている。
「レイラ。こっち」
こうして、無事に王城から抜け出した。
フェリクス殿下は終始浮かれていた。
出かけられることがそんなにも嬉しいのだろうか。
ちょうどお昼ということで、フェリクス殿下は出店が並んでいるエリアに連れて行ってくれた。
軽食エリアで摘めるものを購入しようということになって、二人で見て回ったり、スイーツを堪能するのは楽しかった。
甘いものが好きな私が食後に、ストロベリーミニパフェを口にしている時に、横からちょっかいをかけてくるのは困ったけれど。
「唇の端に少しついてる」
「えっ……ひゃっ!」
ハンカチを出して拭う前に、唇の端にキスするみたいにクリームをペロリと舐めとったのだ。
「ん……甘い」
「なっ……なにを……なにして」
軽食スペースのささやかなベンチで、人目があったというのに、この蛮行。
ざわり、と皆がこちらに注目したのが分かる。
ニヤニヤと囃し立てるようなものもあったりして、いたたまれないのに、フェリクス殿下は何も気にしない。
「伊達眼鏡をお互いしているし、お互いにすぐに知られることはないよね。レイラの眼鏡なんか魔術アイテムだし」
学園の人たちには一発でバレるんです!
認識阻害の魔術がかかっていると言っても、学園の人たちとは、夜会でも顔を合わせている。
つまり眼鏡をしている私、素顔の私両方に会っているのだ。
ちなみにこの時の私たちは、この一場面がある令嬢にバッチリ目撃されて、お忍びデートということで小説のネタにされるのだが、それはまた別の話である。
「と、とにもかくにも、周囲の人たちの視線が楽しそうです……」
「ちょっと耳を澄ませてみたら、身分差の恋とか駆け落ちだとか言われてるね」
完全にこの格好の所為である。
うう……。
「……あの。これは仮定の話です。もしも、の話ですよ?騎士団で貴方がほんの少しの休憩中だった時に、突然現れた私が、貴方に……そのちょっと恥ずかしいキスをいきなりしてきたらどう思います?」
公務の合間に突然、知り合いの者たちの前で前でイチャつくことは、さすがに気恥しくはないだろうか?
そう私は思っていたのだけど。
「え? レイラからしてくれる? 何それ最高! そのまま私からもする」
『ご主人。諦めろ。この男にまともな羞恥心はない』
普段、交尾だとか平気で口にするルナにだけは言われたくない台詞だと思った。
「レイラ、一口ちょうだいって言ったら?」
「えっ、あっ……どうぞ」
カップごと渡そうと色々こっちが慌てていたというのに、フェリクス殿下はスプーンを持っていた私の手を取ると、そのまま一口もらった。
「うん。甘い」
「なっ……えっ…あ……」
「せっかくだから、食べさせてくれる?」
人前だというのに、とんでもないことを要求してくる。
「ああ、それとも食べさせてもらいたい?」
思わず力が抜けた私の手からスプーンを取ると、ストロベリーソースのかかったクリーム部分を取って私の口元へと運んできた。
チラリと周りを見ると期待するような視線が。
え? 何これ。バカップルが期待されているような。見世物になっているような!?
殿下の馬鹿ぁああ!
フェリクス殿下が楽しそうなので、いつか何かの形でやり返してやろうと思った。
ここで抵抗しても余計に騒ぎが大きくなりそうというか、傷口が広がりそうだったので。
顔を真っ赤にしながらも、観念してそっと唇を開いて。
「はい、あーん」
「……」
結局食べさせてもらった。
口元を押さえ、顔を俯かせながら、咀嚼するも、甘いはずなのに味が分からなかった。
普通に食べさせて欲しい!!
そんな心の叫びの中、フェリクス殿下と周りの人たちが楽しそうなのが恨めしかった。




