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 朝、目が覚めて。

 隣に居たフェリクス殿下が私の髪を優しく梳いてくれていた。

 昨日は遅くまで執務に追われていたけれど、リーリエ様の件で対応に追われていたのだろう。

 疲れているはずなのに、フェリクス殿下はいつも通り爽やかな笑顔で私を見つめている。

「フェリクス殿下。おはようございます」

 間近で目が合ったので微笑んでみれば、彼は何やら幸せを噛み締めるように頬を緩めて目を軽く細めた。

「なんだか、日常って感じがするなあ」

「そんな大袈裟な」

 フェリクス殿下は、ふっと笑みを零すと突然、私に顔を寄せて来て唇を重ねてきた。

 生暖かく柔らかい、ふにっとした生々しい唇の感触。

 突然すぎませんか!? 殿下?

 軽く触れ合わせてから唇を離す瞬間、舌先でペロリと舐められて、心臓が跳ねるかと思った。

 ナチュラルにキスとかしてくるんだもんなあ……。

 フェリクス殿下はそういった羞恥心があまりないのかもしれない。ルナ程とは言えないけれど。

「朝からレイラは可愛いね。キスしただけで真っ赤になるし」

「……」

 私の濡れた唇を彼は、自らの指先でそっと拭う。

 触れる指先がひんやりとしているのは、私の顔が熱いからか。

 なんというか。

 このお人! タチが悪すぎる!! こうやってからかうし!

「レイラ。今日も貴女のことが愛しくて仕方ない」

「……えっ、あっ……」

 戸惑いながらも赤面する私を見て、彼は鼻歌でも歌い出しそうなくらいご機嫌だった。

 ベッドの上で正面から抱き合いながら、キスを繰り返しながら、フェリクス殿下は甘く蕩けた瞳で私を見る。


 普通の話をしよう。そうしよう。

 真面目な話を……。聞きたいこともあったし。あれからリーリエ様はどうなったのかとか。


「殿下、昨日は色々ございましたが、何か連絡事項はありませんか?」

「…………」

 あ、不自然だったかも?

 そう思って急に無言になったフェリクス殿下をじっくり観察していれば。


「少し伝えることが増えたかもしれない」

 先程、私を口説いてからかっていた姿とは別人の、仕事時の彼に豹変した。

 ベッドに横たわったまま、私たちは真剣な話を始めることになったのだ。

 何かと思っていれば、リーリエ様は学校を退学して、その身に危険が迫っているという理由で貴族社会から姿を消したらしい。

 実際のところは危険人物としてマークされ、衣食住を保証された状態で軟禁されることになったとか。あの魔力量は危険だと、判断されたらしい。

 さすがに、王太子殿下の婚約者である私を殺そうとしてお咎めなしなんて有り得ないということだ。

 ただ、いきなり消えてしまうと世間も黙ってはいない訳で。


「リーリエ=ジュエルムの替え玉として任務につくことになった者が居る。男爵家での社交などはその者に任せることになった。信頼出来る者だから、そこは安心して欲しい」

 替え玉!? つまりは、リーリエ様の素行があまりにも悪すぎて?

 以前向けられた殺意を思い出し、私は身を震わせた。

「レイラ、あの女に狙われる心配はもうないんだ。恐ろしい魔力をぶつけられることもない」

 安心して、と囁き、フェリクス殿下は私の頬に優しく口付けると、私の頬を軽く撫でている。

「ただ、世間の目もあるから、その替え玉とそれなりに仲良く話す振りをする必要があって。夜会で対面することもあるかもしれない。またその時になったら話すよ」

「社交の件は、了解しました。こちらも意識しておきます」

「光の魔力は、リーリエ=ジュエルムに提供してもらっているから傍目からは露見されることはないと思う」

 提供ということは、リーリエ様はそれに納得したのだろうか?

 あのリーリエ様が?

 疑問が顔に出たのをフェリクス殿下は、目ざとく読みとった。

「安心して。レイラ。リーリエ=ジュエルムがこの内容に不満を零せる訳がないんだ。そうすることしか出来ないからね。ああ、もちろん彼女が死ぬとかはないから、あまり気にしなくて良いよ。むしろ、悪い夢だと忘れてしまえば良い」

「本当に目まぐるしく状況が変わりましたね……」

「大丈夫。レイラはただ社交をしていれば良いんだ。危険なことは一切せずに、ね。それから、これが一番大切なことなんだけど」

 フェリクス殿下は私を腕の中に閉じ込めて、私の後頭部を自らの胸元に押し付けた。

 まるで自分の顔を見せないように。


「私が指示してユーリが調べて持ち帰って来た情報なんだけど……。人工魔獣召喚の件、あれの犯人はサンチェスター公爵だという確実な証拠が挙がった。以前、捕まえた貴族の男。ほら、レイラの頬に傷を付けた……」

「え、ええ。そんなこともありましたね?」

 フェリクス殿下はまだ頬の傷について根に持っているらしい。

「あの貴族の男は罪人だった。しかも罪を重ねすぎて実家も手を焼いていたという事情があったんだ。この男が実験体にされていた……つまりあの時点では、この情報は公に出回っていなかった。つまり、この男を実験台にした黒幕は、情報が出回る前に、予め情報を仕入れていたことになる」

「情報網が早すぎますね。高位の貴族くらいですよね。知れるとしたら」

「そう。だから、その時期にその情報を仕入れようと動いていた貴族をユーリが炙り出してくれたんだ。記録魔具とか、証拠は様々なところに転がっているからね。その結果、あの時期に例の貴族の男の罪状や背景を調べ上げられるのはサンチェスター公爵家だけだった」

 薄々分かってはいた。

 クリムゾンの情報提供。そこに魔獣召喚について含まれている時点で、そうなのだと私は自然に繋げて考えていた。フェリクス殿下もそうだったのだろう。

 だけど、実際にそれが裏付けで証明されてしまうと、何だか薄ら寒いものがあった。

「事件は全て繋がっていると考えると、よりおぞましい。まとめるとサンチェスター公爵は、人身売買で人を集め、膨大な魔力を手に入れて、都合の良い実験体を確保して、人体実験を施していた訳だ。さらに魔力持ちの子どもたちも集める。それから、人身売買は、跡取りであるブレインが担当していたということだね。レザレクションを使って」

「ブレイン様……が」

 何か引っかかった。人身売買をしていたのは、ブレインではなくて、クリムゾンで……。

 あっ。

 私はフェリクス殿下の胸元に顔を埋めながら気付いてしまった。


 フェリクス殿下は、クリムゾンとブレインが同一人物だと気付いている!?


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