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「レイラ!?」

 私を心配して来てくれたフェリクス殿下は、叔父様に付き添われているように見える私を見て、ほっと息をついて、まず1番初めに私を正面から抱き締めた。

「良かった……。ここに居てくれた」

「フェリクス殿下……」

 痛い程抱き締める腕は、もう離すものかと言わんばかりに体を拘束している。

 心配して走って来てくれたのか、彼からはほんのり汗の香りがする。

 ふわりと安心する人の香りに包まれ、私は思わず泣きそうになってしまった。

 ああ。この方の腕の中が1番、しっくり来る。

 反射的に腕を彼の背中に回そうとしたところで、頭の中に過ぎったフェリクス殿下の声。


 誰にも触らせてはいけない。


 ギクリと思わず身を強ばらせた私は、抱き締め返すことなく、そのまま硬直した。


 私は……あんなことを。他の男性と。

 不可抗力とはいえ、他の男性に押し倒されて、あまつさえ唇を重ねるような真似をしてしまった。

 私が油断していたせいで。


「レイラ?」

 言葉少なに、フェリクス殿下が腕の中に居た私の顔を覗き込もうとして。

「あっ……」

 私はフェリクス殿下と目が合わせられなくなっていた。

 唇に触れた冷たい感触と、口移しされた血の味が忘れられなくて、酷く罪深いことをした自分が穢らわしく感じたからだ。

 私はフェリクス殿下の婚約者なのに。

 正式に発表したばかりだったのに。

 ひたすら心配してくれただろうフェリクス殿下に合わせる顔がなかった。

「フェリクス殿下……ごめんなさい。私……」

「レイラは何も悪くないんだ。あの女を近付けさせた私が悪かった。痛いところはない?」

 よしよしと背中を撫でてくるのが心地良かったというのに、何故か私の手は震えながらフェリクス殿下を押し退けた。

「レイラ?」

 どうしたのだと問いかける視線に返す言葉がなかった。

 心配しないでください、なんてどの口が言えたのだろう。

「ごめんなさい……」

「レイラ?」

 私の様子がおかしいと気付いて、瞳を覗き込まれて、彼と目が合った瞬間、罪悪感が込み上げ、胸の奥が苦しくなった。

「…………」

 泣きたくなんかない。私に泣く資格などないのだと言い聞かせているうちに、すぐ側から愉快そうに笑う声があった。

「空気を読んで、距離を置いてあげれば良いのでは?彼女、困っていますよ、殿下」

「……ブレイン」

 今初めて気が付いたのか、フェリクス殿下は、そこに佇む血塗れのクリムゾンを見て、顔を顰め面にしながら、険悪な声を出した。

 地を這うような低い声には、不快さと敵対心が内包されていた。

 クリムゾンに構っている暇はないのだと、フェリクス殿下は彼を無視すると、私の髪を撫でる。

 ビクリと震える私に、優しく労るように撫でる手が止まった。

 様子を窺うような気配に、私はただ怯えた。

 大罪人だということに気が付かれたら嫌われるかもしれない。そんな自分本位な理由で恐怖している自分も嫌いだった。

 私はフェリクス殿下に優しくしてもらえる資格などないのだ。

 他の男に触れられ、唇を許す羽目になり、最終的には契約魔術を結んだ。

 その痕跡は表向きには分からないというから、尚更、胸が軋む。

 余裕ありげに微笑むクリムゾンから私の姿を隠して、フェリクス殿下は周囲を見渡した。


 フェリクス殿下から見たら、この状況はどういう場面に見えるのだろう。

 叔父様に付き添われた私に、血塗れのクリムゾン。そして焼けたベッドのシーツ。

 整えられてはいるものの、私の髪飾りは消失している。拭われたリップグロス。

 明らかに様子のおかしい婚約者。

 床に落ちている血塗れのナイフ。

 不健全さはないけれど、物騒さは増している。

 特に血塗れのクリムゾン。ちなみにアビスはとっくのとうに姿を消している。

 明らかに事件現場っぽい雰囲気に、フェリクス殿下はまず、騎士たちに現場検証を頼むことにしたようだ。

 おそらく何の証拠も出ないだろう。


 フェリクス殿下は、数人の騎士や、この屋敷の使用人が出入りしているのを眺め、時折指示を出しながら私の肩を抱いている。

 思うところがあるはずなのに、私に問いかけて来ないのは何故?

 時折、肩を抱く手に力が込められるだけは分かった。

 ごめんなさい、と言いたくても、果たしてそれが本当に伝えるべきことなの?

 私は顔を上げられずに俯いていたが、クリムゾンが騎士たちに、何事もなかったように状況説明をしている声を聞いた。

「そうです。光の魔術を使い、これはマズいと思ったので、2人同時に転移させました。リーリエ嬢は確保した後、あの場に再び転送しましたし、会場の顛末はご存知だと思います。残ったレイラ嬢ですが、ご覧の通り彼女の叔父がちょうど居合わせたので、フェリクス殿下がいらっしゃるまで、皆で待機しておりました。ちなみにその血ですが、リーリエ嬢を押え込むのに苦労した結果です。特に事件性がある訳ではないですよ。脅してなんとかなる相手ではなかったので、最終的にはああなりました」

 それらしい理由をスラスラと口にしているが、嘘八百すぎる。

 途中で私を拘束して色々したくせに、そんな素振りを一切見せていないのは、さすがである。

 ちなみに私の髪が解けたのは、転移中の事故だとルナがクリムゾンが発言した後に口添えしていた。ルナも抜かりなかった。

 そうしてクリムゾンは、いつの間にかリーリエ暴走事件の功労者として扱われていた。

「彼女の叔父ですか? どうやら、この屋敷の付近を散策していた折、光の魔術が行使されたのを感じ取って、転移魔術を使って駆けつけたようですよ? さすが魔術研究者ですよね」

 クリムゾンはここに叔父様がいる理由をそう説明した。実際に叔父様なら、やりそうだなと親族の私も思った。

 叔父様ならやりかねないと騎士の方々も思ったのか、彼らは何の疑いも持っていないようだ。

 本物の叔父様は、医務室の奥で拘束されて強制的に、点滴を繋がれて体を休ませられているが、それを知らない彼らは「なるほど」と頷いている。

 ちなみにルナは口を開いた瞬間にボロが出るので、神妙な顔をしながら、ベッドの上の血を指先で辿ったり、周囲の魔力の痕跡を辿ってみたりと、一見それっぽいことをして誤魔化していた。

 本物の叔父様よりもそれっぽく見えるのは、置いておくとして。


 一通り、指示を終えたフェリクス殿下は、私を連れて別室へと移ることにしたようだ。

「挨拶も終わったし、婚約発表も無事に終わってる。今日はもう下がろうか、レイラ」

「……はい」

 後ろを付いてくる叔父様の姿をしたルナと、足取りの軽いクリムゾン。

 ……クリムゾンは何故、この場に残ったのだろうか?

 その2人を一瞥したフェリクス殿下は、ある空き室へと入ると、2人も部屋に入れると。


「ルナ。部屋の扉にいつものように封をしてくれないか」


 唐突にそんなことを言い出した。


「さすがだな。私だと気付いていたか」

 魔力の奔流が叔父様の姿をしたルナの周りを包み込み、叔父様の姿は別の人間の姿へと変わった。

 人間版ルナ。

 こちらの方が慣れた姿だ。

 ルナは扉の前に封をして、部屋に盗聴防止の魔術を施して、私の隣へ立った。


「人を見る目は幼少期から養っている。それくらい分かるよ。それにしても、ブレイン。この状況に驚かないとはね」

 私の前に立っているフェリクス殿下の声は無機質だった。

 クリムゾンは、おもむろにベッドに腰掛けて足を組むと、呆れるくらい不遜にこう言い放った。

「レイラの精霊のことは、おそらく貴方が思っているよりも前から知ってました。ふふ、殿下は意外と純粋な方ですよね。自分だけが教えてもらっていると思っていましたか?」

 ルナが横で、はあっと溜息をつきながら、「この男は煽らないと生きていけない生き物なのか」とボヤいていた。

 奇遇にも、私も似たようなことを思っていた。

「言いたいことはそれだけか?」

 フェリクス殿下は言葉少なに冷えた声で問いかけて、ベッドに腰掛けるクリムゾンの胸倉を掴むと、恐ろしい形相で拳を振りかぶり──。

「っぐっ!」

 気がついた時には、クリムゾンは呻き声と共に床に打ち捨てられていた。

 か、顔を殴った……!?

 先程までの冷静な立ち回りと一変して、彼の目に宿るのは暴力的な衝動。

 フェリクス殿下は、床に倒れ伏したクリムゾンの髪を掴むと脅すように囁いた。

「余計な口を聞くな。さもなくば、文字通りその口を縫い付けるぞ」

 しーんとした客室に響く冷たい炎のごとき怒りの声は、この世の者とは思えない程。

 乱暴にクリムゾンの髪を離し、その隙をついて、クリムゾンは痛みも何も感じないとばかりにサッと立ち上がり、またベッドに座った。

 そういえばクリムゾンは、確か……痛覚を失っているとか聞いたような気がする。

 殴られたことも、その殺気すら無視したクリムゾンは、皮肉げに嗤う。

「はは、感情のまま暴力を振るうなんて、まだ未熟な子どもですね? ああ。それにしても顔に傷が出来るのは困るのですが。レイラに看てもらおうかな」

「自分の世話は自分ですれば良い」

「殴っておきながら言う台詞ではないですね? ……ところで、殿下。良かったですね? 何も疑われることなく、済んだようで」

「は?」

 何か嫌な予感がする。クリムゾンがフェリクス殿下に向けるものは、悪意の塊だった。

 否応にも分かってしまう。

 これからフェリクス殿下を不快にさせる何かを言うつもりだということが。

 彼はニヤリと口の端を上げると、心から楽しげに挑発した。


「レイラの乱れた髪。乱れたドレスに、ベッドの上の血の跡。さらにレイラの頬の涙の跡。殿下が来るまでにあった痕跡ですよ。あのままですと怪しまれておかしな噂が立ったかもしれない。そうならなくて良かったですね?」

「余計なことを言うな! 馬鹿者」

 ルナが吠えた。

『そうなんですよ。我が主は馬鹿なんです。余計なことを言って人様に不快感を与えるのが好きな捻くれ者でして。ワタクシの苦労がよく分かるでしょう?』

 どこからかアビスの声が聞こえてくるが、姿は見えない。

 フェリクス殿下にはもちろん聞こえていないだろう。

 試しにフェリクス殿下に、彼が精霊持ちだと伝えてみようと口を開きかけたが、契約魔術の効果は既に出ており、声すら出せなかった。

 吐息の漏れる音だけ。

 やっぱり、そうだよね。

 言える時に言わなかったから、こうなったの?


「レイラ、何があったの?」

 フェリクス殿下が私を振り返り、視線が私を射抜く。

「っ……あっ。私は……──っ」

 契約魔術の下りは口に出来なかった。血を口にした下りも。体全体が言うことを聞かなくなるのだ。

 はくはくと喘ぐ私を見て、怪訝な顔をしていたフェリクス殿下は、やがて心配そうな顔つきに変わっていって、私に近付こうとした。


「そうやってキツく問い詰めるやり方をするから、レイラが怯えるのでは? 権力を傘に婚約者にまでなったくせに、随分と余裕がないようで? レイラのことが信用出来ないのですか? 可哀想に。レイラには断る術もなくしておきながら、自分はそれですか」

「だから煽るなと。私の苦労は……一体」

 ルナは私の横でプルプルと震えていた。

「煩い。無駄にほざくな」

「というか、貴方のことだから何があったか見当がついているのでは?」

「さすがの私も詳細は知るはずがないだろう。お前が何かをしたことぐらいしか分からない」

 フェリクス殿下は温度のない声で応えながら、私の方へ足を踏み出した。

 そっと抱き締められ、腕の中へと閉じ込めると、背中をポンポンと軽く叩いた後、後頭部を優しく引き寄せられた。

「……殿下……?」

 私は顔を伏せてフェリクス殿下の胸に顔を埋める形になる。

 彼の体に触れられる度に罪悪感で押し潰されそうになって、体は固く強ばった。

「レイラ。……何があったの? 何をされて、貴女はこうなったの?」

 フェリクス殿下は、何かに耐えるようにぐっと奥歯を噛み締めている。

「何があったんでしょうね? 1つ言えるのは、今夜ここに彼女の叔父は居なかった。つまり、精霊を除くと、あの部屋に居たのは2人きり。俺とレイラだけだったんですよ」

 クリムゾンはおもむろにハンカチを取り出すと、顔についていた血液を拭き取りながら、また余計に煽った。

「……命が惜しくないのか?」

 フェリクス殿下は私を抱き締めながら、クリムゾンに振り返ると、本物の殺気を飛ばした。

 傍に居るからこそ、身体が密着しているからこそ、分かる殺意の衝動。

 それにそもそも、フェリクス殿下の魔力は怒りによって、先程からずっと漏れ出てしまっている。

『あーあ。余計なことを言って……。本当にこの主は人様を煽ってばかりですね』

 アビスの声は呆れ返っている。


 フェリクス殿下に強く抱き締められる度に、胸の内を罪悪感がドロドロと渦巻いていくのが分かる。好きって言ってくれた相手に、私は。

 俯きながら私はもう一度、「ごめんなさい……」と呟いた。

「……レイラ」

 フェリクス殿下の声はやはり固かった。

 言わなきゃ。言うべきことを、言わなきゃ。

 私が何かを言おうとする気配を察知したのか、そっと彼の腕は解かれていった。

 ゆっくりと目線の高さを合わせられて、ここでやっと私は彼の瞳を真正面から見ることが出来たのである。

 そっと口を開く。今度は契約魔術に邪魔されることもない。

「他の男性と2人きりになってしまい、申し訳ありませんでした……」

「……2人じゃない。ルナも居たんだから。……レイラ、目が赤いね」

「……あっ、大したことはありませんから……」

 まともに返事を返すことが出来ない。彼の瞳に見つめられるのが、なんだか辛い。

 思わず目が泳いだ。

「……本当にお前は彼女に何をした? ブレイン」

 クリムゾンに問いかけるフェリクス殿下の声は怒りで僅かに震えていた。

「さあ?なんでしょうね?彼女が泣く姿は珍しいとは思いましたけど。フェリクス殿下は身も世もなく泣きじゃくるレイラを見たことはありますか?」

 煙に巻くつもりなのか、はぐらかすつもりなのか、クリムゾンは曖昧な言葉をわざと選んでいるようだった。

「ふざけるな……。つまり、お前はレイラが泣くようなことしたと。そういう訳なんだろう?」

 私はフェリクス殿下のすぐ後ろでビクリと体を震わせた。

「先程から申し上げている通り、貴方のことだから大体、察しているのでは?」

「そういう問題ではない」

「ふふ、今にも俺を殺しそうな目をしている。レイラが居なかったら、俺は殺られていたかもしれませんね?」

 この重苦しい雰囲気に耐えられなかったのか、ルナがその場で生徒のように手を上げる。

「ご主人の貞操は無事だから、安心しろ。王太子」

『まあ、唇は無事じゃないですがね』

 アビスの言葉に私は無意識に自らの唇を押さえた。

 触れられた感触はまだ消えない。流れる涙の感触と共にしっかりと脳裏に刻み込まれていた。


「精霊は嘘を言わない。ルナが保証してくれているのだから、それで良いではありませんか」

「髪は解かれている。リップグロスは拭き取られている。騎士たちは気付かないようだったが、私に隠せるとでも?」

 知ってるの? ……それともフェリクス殿下は大体を察しているの?

 そうだとしたら、私はどんな顔をして彼を見れば良いのだろう?

 労るように頬を撫でるフェリクス殿下の手つきに甘えたくなるのに、それをする権利が私にはあるのだろうか?

 触れさせるなという約束を守れずに、他の男性と秘密の約定を結んだこの私に。

 上手く説明が出来ない。契約魔術についての一切が口に出来ない。

 言えるのは、彼と口付けたことだけだ。

 でも、それだけを言ってどうなると言うのだろう。どうしてそうなったのか理由が一切言えないのに。

 フェリクス殿下が私の唇を軽く撫でた瞬間、動揺して、あからさまに震えた。

「…………」

 フェリクス殿下は私に何も問わなかった。

 もしかしたら全部、分かっているかもしれないと思いながらも、私からそれを確認することが出来ない。

 幻滅される……?

 よっこらせ、と言いながらベッドから立ち上がったクリムゾンはフェリクス殿下の前に立つと、不敵な笑みを浮かべた。

「貴方はレイラに八つ当たりせずに済むんですかね?レイラは悪くない。それなのに貴方の独占欲が彼女を傷付ける」

『どの口がそれを言うのだと、ワタクシとしましては大いに突っ込みたい所存にございます。我が主も大概なので人のことを言えません、ええ』

「とりあえずお前は黙っておけ」

 ルナはクリムゾンとアビス両方にそう言った。


「ああ。ちなみに、ですが。レイラとはある契約魔術を交わしまして。時折、彼女が口を噤んでも、それは術式のせいなので、責めたりするのは止めてくださいね」

 クリムゾンは契約魔術のことをあっさりと口にした。

 私は全く口に出来ないというのに。

 ……そういう約束だから。

 私の方は例の件を全く口に出さないという約束を誓わされた。

 それなら、クリムゾン側は、私に何を誓ったのだろうか?

 それを彼は教えてくれないまま、この局面である。

 クリムゾンは本当によく分からない人だ。

 契約の時は、私の意思を完全に無視したくせに、他の部分では妙に気遣うところがあったりする。さっきも、今も、私が周りに誤解されないように取り計らっていた。

 そこで気を使うくらいなら、最初からやらなければ良いのに……。

「契約魔術? もしや、先程から様子がおかしかったのは、彼女に何かを口止めしているせいもあったのか」

「話が早くて助かります。さすがです。殿下」

 パチパチパチと乾いた拍手が響く。

 フェリクス殿下は冷たい眼差しを向けている。


『いやあ。我が主は本当に人の神経を逆撫でするのが上手くて。これはある種の才能かと』

「良いからもう、余計なことは口にせずに黙れ」

 ルナはまた2人に向けてそう言った。


「そう。契約魔術。俺と彼女にしか分からない秘密の約定。ある意味、俺と彼女の繋がりとも言えますね? 俺たちはある秘密を共有している。最初に言っておきますが、この契約魔術。特殊な方法で術式を練っているので、痕跡も見つけられませんし、そのおかげで契約破棄も出来ませんので、無意味な努力はしないように」

「っ……! ……はっ……」

 フェリクス殿下は、ゆっくりと息を吐いた。

 今にも掴みかかりそうな様子だったが、深呼吸をして気持ちを落ち着かせた後、彼はようやくこう口にした。

「……彼女が何を知った? それは、命に関わることか?」

「彼女には何の問題もありません。……ただ、貴方も余計なことに首を突っ込むのは止めた方が良いですよ? ……なんてね。それが仕事なんでしょうからこれ以上は言えませんが」

「…………レイラが何を知ったか知らないけど、1つだけ言っておく。私の婚約者におかしな独占欲を抱くのは止めてくれ」

「……本当、貴方はそれが言いたいがために、婚約したようなものなんでしょう。本当に、気に食わない」


 フェリクス殿下を挑発していたはずのクリムゾンが、最後に殺気を込めてそう言った。


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