(夜)
恋人同士になってから一ヶ月目くらいのリオとウィルです。
キスの日に書いたSSです。
Twitterから転記しました。
──いつになったら慣れるんだろう。
蝋燭が、夜風に揺らめく。
リオ、と掠れた声で名を呼ばれ、頬に手を添えられた。
そのまま、わずかに上を向かされる。
見下ろしてくる灰がかった青い瞳は、かすかに熱を帯びていた。
ウィル自身も気付いていないのだろう──この頃彼は、そんな目をすることが多くなっていることに。
そうしてその度にリオは、慣れない空気に戸惑い、逃げ出したくなる。
いつもの、自信満々で明るいウィルとは別人みたいで。
しかし、それを察しているかのように、もう一方のウィルの手は、リオの腕をやさしく捉えていた。
子供の頃は可愛いとしか思えなかったウィルの、今は綺麗に整った顔が自分を真っ直ぐに見つめてくる。
リオは思わず、顔を下げた。
──夜半。仕事も終わり、夕食も湯浴みも終え、あとは寝むだけのそのひととき。
北軍にいた頃から、リオとウィルは遅くまで勉強をしたり雑談を楽しんでいた。
そう。今夜も、そうだったはずだ。
少し前、リオが寝衣に着替え、寝ようとしていたところ、ウィルが訪ねてきたのだ。
二人はベッドに並んで腰掛け、キースがうざいだとか、そういう言い方は良くないだとか、いつものようにそんな話をしていた──はずだった。
それが、どうしてこんな空気になったのか。
そうだ、会話が途切れてしまったからだ。
リオは努めて明るい声を上げた。
「ウィル、あの」
「……なに」
「そろそろ部屋に戻ったら?明日も早いし」
「……ん、戻るけど」
少し焦れたように、ウィルはリオの顔を上げさせた。
と、顔を少しだけ傾けたウィルが、唇が重ねてくる。
「……っ」
この瞬間が、どうしても苦手だった──リオは思わず両眼を瞑る。
毎晩のようにしていても、どうしても、慣れない。
ただほんの少し唇が重なるだけの、この行為が。
「おやすみ」
ウィルが囁いて、リオの額にも唇を寄せた。
「……おや、すみ」
リオは恐る恐る目を開けて、ウィルを見上げた。
ウィルの瞳には、あの熱がまだ残っている──。
「真っ赤だな──お前、いつ慣れんの?」
ウィルはくすくすとからかうように笑って、リオの頭をクシャリと撫でた。
「……だって、恥ずかしい」
リオはウィルを睨む。
ウィルは名残惜しそうにリオから手を離すと、立ち上がった。
「早く休めよ」
「ウィルもね」
開け放していた窓から、夜風が流れ込む。
蝋燭がまた、揺らめいていた。
読んでくださってありがとうございました**




