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騎士団と嘘つき  作者: koma
小話
76/78

(夜)

恋人同士になってから一ヶ月目くらいのリオとウィルです。

キスの日に書いたSSです。


Twitterから転記しました。


 ──いつになったら慣れるんだろう。


 蝋燭が、夜風に揺らめく。

 リオ、と掠れた声で名を呼ばれ、頬に手を添えられた。

 そのまま、わずかに上を向かされる。

 見下ろしてくる灰がかった青い瞳は、かすかに熱を帯びていた。

 ウィル自身も気付いていないのだろう──この頃彼は、そんな目をすることが多くなっていることに。

 そうしてその度にリオは、慣れない空気に戸惑い、逃げ出したくなる。

 いつもの、自信満々で明るいウィルとは別人みたいで。

 しかし、それを察しているかのように、もう一方のウィルの手は、リオの腕をやさしく捉えていた。

 子供の頃は可愛いとしか思えなかったウィルの、今は綺麗に整った顔が自分を真っ直ぐに見つめてくる。

 リオは思わず、顔を下げた。

 ──夜半。仕事も終わり、夕食も湯浴みも終え、あとは寝むだけのそのひととき。

 北軍にいた頃から、リオとウィルは遅くまで勉強をしたり雑談を楽しんでいた。

 そう。今夜も、そうだったはずだ。

 少し前、リオが寝衣に着替え、寝ようとしていたところ、ウィルが訪ねてきたのだ。

 二人はベッドに並んで腰掛け、キースがうざいだとか、そういう言い方は良くないだとか、いつものようにそんな話をしていた──はずだった。

 それが、どうしてこんな空気になったのか。

 そうだ、会話が途切れてしまったからだ。

 リオは努めて明るい声を上げた。

「ウィル、あの」

「……なに」

「そろそろ部屋に戻ったら?明日も早いし」

「……ん、戻るけど」

 少し焦れたように、ウィルはリオの顔を上げさせた。

 と、顔を少しだけ傾けたウィルが、唇が重ねてくる。

「……っ」

 この瞬間が、どうしても苦手だった──リオは思わず両眼を瞑る。

 毎晩のようにしていても、どうしても、慣れない。

 ただほんの少し唇が重なるだけの、この行為が。

「おやすみ」

 ウィルが囁いて、リオの額にも唇を寄せた。

「……おや、すみ」

 リオは恐る恐る目を開けて、ウィルを見上げた。

 ウィルの瞳には、あの熱がまだ残っている──。

「真っ赤だな──お前、いつ慣れんの?」

 ウィルはくすくすとからかうように笑って、リオの頭をクシャリと撫でた。

「……だって、恥ずかしい」

 リオはウィルを睨む。

 ウィルは名残惜しそうにリオから手を離すと、立ち上がった。

「早く休めよ」

「ウィルもね」

 開け放していた窓から、夜風が流れ込む。

 蝋燭がまた、揺らめいていた。



読んでくださってありがとうございました**

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