(約束)
七夕SS。
北軍時代、11歳になったウィルとリオの夜です。
「なあ。もし、一年に一回しか会えなくなったらどうする?」
銀白色の星の川と、どこまでも広がる夜の闇。
果てがないみたいだ。
リオは思って、隣で同じように窓辺に寄りかかっている少年に視線を移した。──ウィルは、じっと夜空を見据えていた。
「一年に一回?」
リオは首を傾げる。
北軍寮の。まもなく消灯を迎えるはずの宿舎は、けれどまだ少年たちの話し声で賑わっていた。リオとウィルもその例に漏れず、月明かりに満たされた部屋から見事な星の川を眺めていた。
一年に一度。この時期にしか観測できない、珍しい空だった。
──従軍して二年と四月。
リオはまだ、ジャスティン以外の仲間たちに、真実を隠し続けていた。
ウィルがひとつ息をこぼす。
「たとえばさ、将来、別々の部隊に配属されて、オレが西軍で、お前が東軍だったら、ちょっとやそっとじゃ会えなくなるだろ」
「……そっか。そうだね」
そんな可能性もあるんだね。リオはゆっくりと頷いた。
きらきらと音もなく輝く星の群れはこんなにもうつくしいのに。なのに、一年に一度しかその姿を表さない。もったいないことだ。
「うーん」
リオは考える。
今は同室で、食事も稽古も寝る時だってずっと一緒にいるウィルと、一年に一度しか会えなくなる?
この星の川みたいに?
──それはきっと。とても寂しいことだ。
思って、でも、どうしようもないのだと笑みをこぼす。
ちゃんと分かっていた。──一年どころか、永遠にウィルと離れ離れになる日がくるのだと。
「……でもさ、一年に一回会えるだけでも楽しいかもしれないよ」
本当の未来では、二度と会えなくなるのだから。
「離れてる間のこと、色々話せるし」
冗談っぽく言うつもりだったのに。
実際音になった声は、情けないほど小さくかぼそくなってしまった。と、隣から、ウィルの低い声が届く。気付けば、青灰色の星空みたいな綺麗な瞳が、今は不機嫌に歪んでいた。
「ふざけんな。オレはそんなのいやだ。絶対リオに会いに行く」
もしくは上官に掛け合って同じ管轄にしてもらう、と多分本気で言っていた。彼ならやりかねない。
リオは、戸惑い、変な声を出してしまう。
「ええ」
ウィルは、どんな時でも前向きで自分の本音に正直だ。自分のやりたいこと、やらなかったら後悔するだろうことを初めから知っているみたいに、迷いもなく、躊躇もなく、行動に移してしまう。そしてリオは、そんな彼にいつも振り回されていた。
困ることもあるけれど、楽しかった。
「思ったより遠かったらどうするの?」
「早馬を使う」
「一日じゃ足りなかったら?」
「それでも行く」
「そっか、そっか」
「……んだよ」
「嬉しいなって」
ありがとう、と笑顔で言えば、ウィルはやっぱり膨れっ面でリオを見つめてきた。
やがて消灯を告げる鐘が鳴り。
窓辺から離れつつ、ウィルは言った。
「だから、リオも会いにこいよ」
約束だからな。と、小指を絡めとられる。
「うん」
きらめく星明かりの中。
リオはまたひとつ、嘘を重ねた。
読んでくださってありがとうございました。




