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騎士団と嘘つき  作者: koma
<都編>
52/78

(騎士になった日)2

 * 


 宴は、その夜遅くまで続いた。


 気心の知れた仲間たちに囲まれ、美味しい料理を食べて、リオは心も身体も温かく満たされていた。

 そんなふうに酩酊する兵士たちも増えた頃、監視役の青年がリオに囁いた。

 

「リオさん、お酒は駄目ですよ」


 リオは振り返り、頷く。


「分かってます」


 軍部からついてきたこの青年は、リオよりニ、三ほど年上の若い将校だった。上官から厳重に監視せよと命じられた青年は、いつでもリオを拘束できる位置について見張っていた。

 彼の手をてこずらせるつもりは、リオにはない。

 けれど、自分の私的な話を聞かれるのは、気恥ずかしかった。

 だがこれが条件で釈放を許されたのだから仕方がない。

 リオは青年がついてくるのを意識しながら、ホールの奥、長椅子の方へと歩み寄った。


「アデル様」

「あら。なあに、リオ」


 飲酒したらしいアーデルハイトは、頬から首筋にかけてほんのりと赤く染まっていた。長椅子に腰かけたまま、にこにことリオを見上げて来る。オーウェンが心配そうに介抱していた。


 リオは考える。

 今じゃないほうが良いだろうか。

 でも出来るだけ早い方がいい。

 リオは明日にはまた軍に戻されてしまう予定だった。 


「お話しがあるんです」


 リオはきゅっと軍服の端を掴んだ。

 緊張すると、いつもこうしてしまう。

 幼い頃から、この癖は治らなかった。


「……何かしら」


 まるでそれまでの酔った様子が嘘だったかのように、アーデルハイトが真顔に戻る。そうして細い眉を不安気に寄せた。


「皆にも、聞いて欲しい」


 リオはそばにいるウィルと、長椅子の向こうに立っていたキース、それからオーウェン、皆に目を合わせる。心臓がドクドクと鳴った。本部で拘束されている間中、ずっとリオは考えていた。自分が何をしたいのか。これから、どうしたいのか――。


「今回のことで、迷惑をかけたのは、わかってる。悪かったって思ってる……」


 ついさっきまでの喧騒が嘘のように辺りはしんとしていた。

 中には眠ってしまった兵士もいるようだ。どこからかいびきが聞こえてくる。


 リオの声は、だんだんと小さくなった。


「でも、出来たら、私はまだ……アデル様の騎士でいたい……んです。駄目……でしょうか」  

 

 言い終わって、リオは視線を下げた。

 反応が怖かった。

 なんて図々しいのだと言われたら諦めようと、自分に言い聞かせる。


 それでも、出来ることなら――


 と、俯いたままのリオの耳に、アーデルハイトの声が届いた。


「なんだ、そんなこと」

「びっくりした。今さら辞めるとか言い出すのかと思った」

「そのつもりで動いていましたが」


 アーデルハイトが胸を撫で下ろし、キースが笑いだす。オーウェンは困惑していた。

 あれ?

 リオははっとウィルを見上げる。


「良かったな」


 ウィルは言って、柔らかな笑みを浮かべた。優しくて、温かな、すべてを包み込むような笑顔だった。ウィルはまた一段と大人になったような気がした。


「これでずっと一緒にいられる」

「う……ん」

「もう料理人になりたいとか、言わないよな」

「うん……」

「よし」


 ウィルは満足そうに頷いた。

 と、その時。アーデルハイトが名案を思い付いた!と言うように両手を合わせた。


「そうだわ!改めて任命式をしましょ!リオの騎士服も、もう少し可愛いのにしなくっちゃ」

「え」


 可愛いのなんて、似合うはずない。

 リオは即座に首を振る。


「いや、いいです、今のままで」

「遠慮しないで。私がしたいの、させて。フリルはつけないから、約束するから」


 瞳を輝かせ、上機嫌で詰め寄って来るアーデルハイトに、リオはおろおろと狼狽える。

 キースが「主君命令だよ」と笑った。

 他人事だと思って、とリオは睨みつける。

 ウィルは爆笑、オーウェンはやっぱり困り顔。

 そしてその少し奥では、監視役の青年将校が顔を背けて肩を震わせていた。

 

 


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