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騎士団と嘘つき  作者: koma
<北軍編>
16/78

(美味しい食事)3

 教室の席は、やはりまばらに埋まっていた。

 どこに座ろう。

 教室を見回すと、見知った背中が目に入った。それで思わず、ウィルの肘部分のシャツを引っ張る。


「あ。あそこ、テイル達がいるよ」


 前の方の席にテイルのクセ毛と、周りより頭ひとつ分飛び抜けたジエンがいた。

 けれどウィルは顔を向けることもなく近くの椅子を引いてしまう。


「オレはここでいい」


 ウィルが腰を下ろすのと同時に、教室がにわかに静まりかえった。


「おはよう」


 にこやかな挨拶と共にジャスティンが入口に立っていた。教室中の寮生は皆、椅子を倒さんばかりの勢いで立ち上がった。ウィルも渋々ながら着けたばかりの尻を上げにかかる。

 ジャスティンは教卓の向こうに立つと、一段高いそこから教室を一瞥した。と、淀みなく動いていた視線が、リオのところでぴたりと止まる。

 そうしてにこやかに微笑まれた。


「きみ、リオ君だろ?」

「…は、はい」


 突然名指して話しかけられ、反応が遅れる。

 ジャスティンは興味深そうに、リオの方に一歩踏みだした。


「聞いたよ。今朝の食事を作ったの、君なんだって?」

「はい」

「とても美味しかったよ。教官室でも好評だった」

「ありがとうございます」


 にこりと、ジャスティンは笑い続ける。 


「本当においしかった。どこで習ったの?」

 

 どくり、と心臓が鳴ったような気がした。こちらをじっと覗く、細められた目が怖い。


「お母様から?」


 ふるふると、顔を横に振る。


「いえ」

「では?」

「…祖母です」

「へぇ」


 その瞳が、動けないリオにまた一歩近づいた。観察するように眺めまわされる。


「細いね。まだ入ったばかりだって聞いたけれど。ここでは身体が資本だ。食事と睡眠はきちんととらなければいけないよ」

「…精進いたします」


 恐怖を押し隠し、ジャスティンを見上げ返す。


「はは、難しい言葉を知っているんだね」


 ジャスティンが小首を傾げると、いつかみたいに金髪の隙間で耳飾りが揺れた。

 唐突に話題を変えてくる。


「少し前に、トマス君って子が入ってね。彼もリオ君くらい細かったな」


 試されているのだろうか。リオは一層身構える。


「とても熱意のある子だったんだけど、昨日、除隊になった」

「除隊…?」

「隊を抜けること。残念だよ。うちには合わなかったみたいだね」


 また募集ちょうたつに行かないと、と独り言のようにジャスティンが息をつく。

 

「まあね。何も珍しいことじゃない。ここはとても厳しい場所だから。熱意や根性だけではどうにもならない」

「はい」

「-君も、そうならないといいけれど」


 憐れむように言って、ジャスティンはリオの短い髪を撫でた。 


「自分で切ったの?」


 くすりと、笑われた。


「ジャスティン教官」


 と、すぐ隣から、低い声が届いた。

 顔を向けると、酷く顔をしかめたウィルがジャスティンを睨みあげている。


「なんだい、ウィリアム君」

「一人に構ってないで、さっさと授業始めてくださいよ。で、さっさと終わってください。オレ達野良仕事で忙しいんで」


 ウィルの鋭い眼差しを悠然と受け止めて、ジャスティンは頷いた。


「ああ、ごめんね」


 そうして、また教卓に戻っていく。


「じゃあ授業を始めるよ」

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