第八十五話 もう一つの決着を
戦闘の興奮状態で、痛みはあまりない。両肩に牙を突き立てられ、脇腹を抉られ、生温かい血を感じる。
でも、今は掴んだ勝利の余韻の方が大きかった。
「ハニー!」
そんな俺を見守っていてくれた女……つか、まぁ、シノブなんだけど、あいつが駆けつけて来た。
「また、無理をしたのね……まったく、君はあの赤鬼のときといい……今すぐ治療するわ……でもカッコいいわ。血に染まったあなたの裸体、ほんと素敵ごちそうさま」
怒ったような、興奮したような態度で俺に駆け寄るシノブ。
だが、俺はその治療をまず受ける前に……
「シノブ。……トウロウから手当てしてやってくれ」
「……はい?」
「……ア……アース?」
俺よりも、まだ立ち上がれないトウロウを治してやって欲しいと言った。
そんな俺の言葉に、シノブもトウロウも驚いているようだ。
「ハニー……君は何を……このマンティスが君にどれだけのことを!?」
「……まっ、いいじゃねえか。もうこいつとの喧嘩は終わったんだし……後腐れは無しにしておきたい」
「で、でも……」
「……頼む……シノブ」
少し気の進まない様子だが、俺が頭を下げると、シノブは途端にクラクラしだした。
「はぁ……ひどいわ、君……惚れた弱みに付け込むだなんて……先に惚れたほうが負けというのは本当だというのが身に染みて分かったわ」
「………そ、そーか……」
「だから、交換日記の返事くらいはちゃんとしてね」
そう言って、トウロウの元へと歩み寄るシノブ。
正直、ストレートすぎて反応に困ることを言ってくれたもんだ。
照れるわ。
「さて……」
とりあえず、シノブのことは一旦置いておくとして、振り返るとそこには既に決着を付けた様子のブロとダークエルフが居た。
「よう、お疲れさん、兄弟」
「ざけんな。何が兄弟だ。分からずやのバカな兄貴なんていらねーよ」
「カッカッカッカ、つれねーな~。でも、いい喧嘩だったぜ。兄弟の杯を交わしたいぐらいにな」
「ふん、冗談じゃねえ」
こっちはこっちでそれなりの喧嘩だったようで、ブロも笑みは浮かべているけど中々の生傷を負っている。まぁ、元々シツツイの護衛にいたぶられていたんだけどな。
そして、どこかムスッとした表情のダークエルフは溜息を吐いて床に腰を下ろしていた。
「ざまーないね……人間たちに復讐の限り暴れ回ってから魔界に帰ろうと思ったのに、このザマ……さっさと、煮るなり焼くなり殺すなり犯すなりすればいいだろ」
「こらこら、お前さんもそう投げやりなことを言うな」
「な、にい?」
「女とはいえ、イカした喧嘩だったぜ」
「……ちっ……何言ってんだい、あんたは……」
観念したように抵抗する意思をもう見せないダークエルフのスケヴァーン。
これでもう完全決着……ってわけにはいかねーんだよな……
「喧嘩が終われば握手ってかい? ここは地上世界……半分とはいえ、魔族の血を引くなら、この後にあたいがどうなるか、あんたにも分かるだろう?」
「むっ……」
「終わりなんだよ……あたいはもう……」
「………………」
「それとも、あたいを助けてくれるってかい? できもしないんだ……そんな奴と手をつなぐ気はないよ……」
そう言って、スケヴァーンが自嘲気味に、そして投げやりにそう言った。
その言葉に、流石のブロも言葉に詰まらせた。
そして、その時だった。
「わは、わはははははは! まったく、随分と驚かせてくれたがようやく大人しくなったか、バケモノどもめ、もめ!」
ようやく場が落ち着いたと見るや否や、シツツイがズカズカと出てきやがった。
そう、こいつが居るんだ。
「アース、お前は私を侮辱した罪、ブロ、お前は私に逆らった罪で罰を与えてやるが……まずは、お前たちだ、たちだ! 虫は死ぬまでデュエルモンスターでこき使い、スケヴァーンは一生変態専用の裏売春宿で飼殺してやる、やる!」
「シツツイ大臣……あのよ……」
「黙れ、ブロ、もうお前の話など聞く耳持たないない!」
怒りに満ちた形相で、せっかく得た勝利の余韻も見事に消してくれやがる。
さて……
「やれやれ……で、どーすんだよ、ブロ。あんたはこれでも、まだケジメ云々をほざいて、これまで通りこの賭博場で豚の小遣いを稼ぐのか?」
「……お前さん……」
「スケヴァーンも、そしてトウロウもこのまままた元の生活……いや、それ以上の惨めな生活に叩き落とし、あんたたちはこれまで通り変わらず地元でダラダラか? それが不良とでも、また言うか?」
俺の嫌味も込めた問いに、珍しくブロが押し黙った。
そう、こいつもここに来て戸惑いだした。
「もうここまで来ると、バケット頭の直営業云々とは話のレベルが違う。そして、あんただってもう分かっているんだろ? トウロウやスケヴァーンたち……そして、この大臣のことも、もう頭を下げてあんたがケジメでボコられるだけで解決する話じゃねーって」
俺にはこの賭博場がどうなろうと、不良たちがどうなろうと関係ない……関係なかった。
トウロウに関しても、魔界に連れてってやるとか、逃がしてやるとか、そういう気は無かった。
ただ、全力でぶつかってやる。それぐらいだった。
ブロに関しても、賛同できないまでも、せめて一緒にこのトラブル処理をしてやるぐらいの気持ちだった。
「あんたほど長く生きてなければ、あんたほど世界を知らない俺にでもそれぐらいは分かる」
「確かに……そうかもしれねーな……でもな……だからって簡単に捨てられねーのが、つらいところだ……」
「分かってるよ。理由はどうあれ、あんたが命を懸けるほど、この街とこの場所にこだわってるのはな……その覚悟は分かってるよ……でも、そうも言っていられねーだろうが」
だが、そのうえで俺は言う。
「俺も最初は、トウロウにそこまでしてやる気は無かった。ただの敵として戦い……そして安い同情で、せめて本気でぶつかってやるぐらいはしてやろーってな。だが、不思議とこうやってトウロウとも全力でぶつかり合ったからか……あいつが例え犯罪者だったとしても……もう……『俺には関係ねー』では済ませなくなった」
喧嘩が終わった今、喧嘩をする前とどうしても心が揺らいでしまっている。
「ふっ……そりゃそーだ……憎しみ合いから、気づいたら認め合い……拳を交えて気づいたら仲良くなってる……そういう喧嘩がたまにあるから……やめられねー。で? お前さんはどうしろと言うんだ?」
「どうしろとは言わねーよ。ただ、俺はこうする」
そう言って、俺はシツツイと向き合う様に、シノブに治療を受けて起き上がれないトウロウの前に立った。
「アース……お前、何をしている……いる」
「あんたこそ……俺のライバルに何しようとしてやがる?」
「お前……自分が何をしているか分かっているのか、のか!」
何をしている? それは、帝国の大臣に反発しているということだ。
大臣への反発は、言ってみれば帝国への背信行為。
まっ、今さらだ……
「俺に不良のルールもケジメも関係ねえ。気持ちのいい喧嘩をし合ったライバルを、テメエみてーな豚に連れて行かれるぐらいなら……俺ァ、まだまだとことんやってやる! トウロウをこの賭博場で死ぬまでこき使う? なら、こんな腐った場所は、俺がぶっ潰してやる!!」
「な、な……なにいにいい!?」
それが、俺の答えだった。
だからこそ……
「お前さん……潰すって……おいおい……」
「だから……ケリをつけよーぜ……ブロ……今は、あんたら不良の流儀に従ってやるよ……」
「ッ!?」
「あんたは、自分を曲げねえ。折れねえ。命だって懸けるほどに。だからこそ、今さら考えを変えてこの賭博場を手放すことはできねーだろ?」
どこまでも自分を貫き、弱みも見せず、ただ不良として生き続ける男。
その姿に、俺は今まで見たことのない男としての一つの生きざまを見せつけられた。
だからこそ、もうこいつは言葉でどうこうなる男じゃないとも理解した。
「俺が力づくで決めてやるよ」
結局、これしかねーってことだ。
「お前さん……そんな体でまだ……?」
「これで丁度いい。元々、あんたも似たようなもんだろう」
互いにボロボロ。しかし、ここから先のことを決めるには、この体を使ってぶつかり合うしかない。
「……俺とあんたで決着を付ける……」
「ふっ……お前さんが勝てば俺らも解散……俺がお前さんに勝てば今まで通り……そういう決着が望みか?」
ここから先、どうするか?
もう不良なら不良らしく、ここから先は喧嘩の勝敗に委ねろと俺は告げた。
「な、お、おい、アース! ブロ! お、お前たち、わ、私を無視して何をして……何をする、する!?」
「は? へ? ちょ、どーなっているんだい? あんたら、仲間じゃないのかい?」
「ハニー?!」
「アース……」
勿論、この場に居る誰もが呆れた顔して驚いてやがる。
だが、仕方ねえ。もうこれしかないんだから。
体中に刻まれた痛みに関わらず、ただ、肉体ごと相手にあらゆるもんをぶつける。
だから、もう縛りは解禁で良いよな? トレイナ。
『やれやれ……』
トウロウの時には封じたこの力で、俺はブロに引導を渡してやる。
「そして、一瞬で終わらせてやる! ブレイクスルーッッ!!」
怪我でだいぶ痛んだ体でも、魔力を使ってなかったから十分使える。
後は、さっきと同じように、恐れず身を投げ出すだけだ。
「……ったく……ギラギラしてるね、お前さんは本当に……大人しく、不良のままで居させてくれりゃいーのによ……」
「いつまでも夢みたいなことほざいてんじゃねえ!」
床を強く蹴ってブロの元へ。もう、ステップでタイミングをズラすとか小細工は使わない。
ただ、真っすぐブロへと駆けた。
「いくぞ、オラアアアア!」
「ちっ、うおおおおお! 魔極真三日月蹴りッ!!」
前蹴りでのカウンター。俺の肝臓を突き刺す……が、
「ガッ……か、構うかァ!」
「ッ!?」
「大魔テンプル!」
一瞬、ブロの足に止められたが、構わず前に出て、ガラ空きのこめかみに一撃叩きこんでやった。
「つっ、ぐっ……お前さん……」
「へへ、トウロウとの戦いで学んだぜ。街であんたと喧嘩した時……俺はあんたの蹴り技を全部回避しようとしたため、無駄な動きが多くて逆に翻弄された。だからこうやって、多少の被弾を恐れずに飛び込めば、いくらでもやりようはある!」
俺に拳を叩きこまれて床を転がったブロが、痛みに顔を歪めながらも笑みを浮かべて来た。
俺の肉を切らせて骨を断つやり方に「やってくれたな」と言いたそうな顔だ。
「ったく、こんな短い間に成長して……羨ましいぜ! 魔極真三段連続回し蹴り!!」
「いつまでも同じ場所に留まってる奴にゃ無理ってもんだ!」
「けっ、お前さんに俺の人生が分かるのかい!」
「それは、足で語るんだろうが! 不良不良不良不良、不良って言葉を都合よく言い訳に使いやがって!」
蹴りはパンチの3倍の力はあるとトレイナが言っていた。
つまり、一撃受けて一発殴り返すのは本来なら割に合わない。
先に痛手を負うのはこっちだ。
でも、俺は倒れねえ。
「不良を言い訳にはしねーよ……こんな人生歩んでるのはテメエの所為だってのも分かってるさ……でも、そんな俺たちだからこそ、手に入れたこの場所は何よりも大事なんだよ……お前さんにはただの汚ねぇ人間たちの欲望渦巻く腐った空間に見えるかもしれねぇ。でも、俺たちには宝。だからこそ、簡単に割りきれねーのさ」
「だから、俺がぶっ壊してやるって言ってんだ!」
ブロが踏み込んで、トウロウに抉られた俺の脇を狙う。
「魔極真ミドルキック!」
「ここだ!」
「ぬっ、なっ、にい?!」
ブロの右の中段蹴り。だが、俺はそれを事前に察知した。
俺はそれを回避せず、あえて一度受けて、そしてその足を左腕でガッチリ挟んで捕まえた。
後は空いている右手でブロの右足内腿に抉りこんでやる。
「大魔スクリューフック!!」
「な、が……あっ、ヌガアッ!!」
ブロの顔から笑みが消えて苦痛だけになった。そして同時に俺の拳に残る感触……イッたな……
「ぐっ、あ……つっ……お前さん……」
右足を破壊。ブロの足が止まる……かと思ったが……
「さっきも言ったろうが……あんたは……もったいねーって……このままいつまでもここを―――」
「だから……簡単に言いなさんな!」
「うおっ!?」
ブロはあえて壊れているはずの右でハイキックしてきやがった。
俺も咄嗟に腕で防御したが、腕がしびれる。まだ、ブロには力がちゃんと残ってやがる。
「俺は見ての通り半魔族……人間でも魔族でもない……そんな俺の居場所なんて地上にも魔界にも無いはずだった……でも、一度喧嘩して……ぶつかり合ったら……不良たちとは分かり合うことができた……共に地元を守る仲間として俺を受け入れてくれて、共に戦ってくれた……共に笑ってくれた……時には泣いてくれた……そんな俺が、あいつらをほったらかしにして、知らん顔できねーさ!」
俺が防御した瞬間、すかさずローキックで俺の足に衝撃を与えてきた。
「ここは、俺だけの場所じゃないんでな!」
まともに食らったら、やっぱり痛ぇ。
一発で足が痺れて膝が僅かに崩れ……
「すまねーな、お前さん。体を張ってくれてうれしかったが……終わりだ!」
俺の崩れた片膝をブロが踏み台にして駆け上がり、その勢いのまま俺の顔面に膝蹴りを……
「魔極真シャイニングウィザード!」
「大魔ヘッドバッド!」
「いっっ!!??」
その膝めがけて、俺はヘッドバッドを繰り出してやった。
もう、俺には慣れたこと。目も瞑らなければ、受ける衝撃もハッキリ言って想定の範囲内。
「うお、あ、がっ……つう……」
だが、ブロにとっては痛恨の一撃だろう。
俺の額に、ブロの右膝を完全に砕いた音が聞こえた。
そして、膝と腿の二か所の破壊により、もうブロの右足は使い物にならねえ。
「へへ……自分を理解してくれた仲間のためか……そういうの……分からんでもないぜ。俺も……肩書も家も関係なく、誰でもない『俺自身』を認めてくれる人が欲しかった……だからこそ……そんな人が出来たら……どうにか応えて……そしてその人のためならばいくらでも自分を懸けて……分かるぜ……その気持ち」
「なに?」
「でも、俺にも分かるってことだから……つまりそのことと、不良であることと、地元にとどまり続けることは別に関係ねーんじゃねぇのか?」
「つっ……それを言っちゃ……身も蓋もねーな!」
右足が使えなくても、ブロはまだ戦意が折れてねえ。
残った左足だけで高く飛び、そしてそのまま左足を振り上げて、叩きつけようとしてくる。
「魔極真・天空カカト落とし!!
俺の脳天を真っ二つにする威力はあるのではと思わせるパワーを込めて振り下ろす足技を、俺は……
「ここだ! 大魔スマッシュ!」
「ッッ!!??」
「テメエら、いつまで自分の居心地のいい場所でダラダラしてんだよぉ!!」
目を見開いて、その足技を見極めて、拳を叩き込む。
「―――――ッッ!!??」
俺の拳とブロの足がぶつかり合う。その瞬間、俺の拳の指が恐らく数本折れた音と……
「ぐお、がああああああああああああああ!!」
ブロのアキレス腱が破壊される音と、呻き声を上げる声が響いた。
そして、両足を破壊されて苦痛に歪むブロに……
「歯ぁくいしばって、ぶっとべ!」
「ッ!?」
「大魔オーバーハンド!!」
トドメの一撃。
街では一度も当たらなかった。フォームも滅茶苦茶なただ勢い任せの大振りパンチ。
しかし、それがようやく当たった。
「はあ、はあ……まっ、それでもあんたらがいつまでもここに居たいというならそうすりゃいいさ……元々俺はあんたらの仲間じゃねーんだ……ただ……俺は俺で勝手にやらせてもらうぜ」
顔面をぶん殴られ、激しく床に叩きつけられながらフロアの壁まで激突するブロ。
意識は失ってないようだが、もう……
「カッ……は……ツエーな……ったく……『師範』と……『同じ』……ブレ……スルーってだけじゃねえ……ガハッ……留まらず……道の先へと行こうとする……力……かつての俺らみてーに……」
壁に打ち付けられたブロは、もうその体に力は無く、こっちに向かってくる気配も無い。
「そうだ……俺はもう……マフィアが壊滅したとき……もう、燃え尽きていたんだ……そして……この道の先には何もねえと知りつつ留まって……せめて仲間たちとの居場所だけでも守ろうと……勝てねーわけか……」
ただ、ブロはどこかスッキリしたかのように俺を見て何かを呟く。
「……おい、さっきからブツブツ何言ってんだ? もうこねーのか?」
すると、俺の問いにブロはゆっくりと顔を上げる。
「なぁ、お前さん……随分と色々余計なお世話だったりお節介をしたりと……なんか、お前さんのガラじゃなさそうなんだが……どうしてだ? そんなに、あのマンティスのトウロウって奴と仲良くなったのか?」
その問いに、俺は苦笑した。
そう、俺は本来ならこういうことをするような奴じゃねえ。
不良でもない俺がどうしてここまで?
「ついこの間……魔族だけど……誰よりも心優しい奴と俺は親友になった」
「……なに?」
「でも、誰よりも優しいからこそそいつは……自分が傍にいると俺に迷惑だからって言って、姿を消した。俺が弱かったから親友を安心させてやれなかった……種族の壁なんて関係ねーよって、口だけでしか証明できなかったからかもしれねえ……」
そう、あのときの後悔と無力さを俺は一生忘れねえ。
「だからよ、たとえ魔族とはいえ……多少なりとも拳で互いに繋がり合うことができた奴を……俺には関係ねーなんて言ってこのまま見て見ぬ振りしたら……俺のことを親友だと思ってくれたアカさんに報いれねえ……そう思ったらよ……やっぱり……どうにかしなくちゃならねえ……そう思ったんだ」
「……そうかい……お前さんも……色々ととあったんだな」
俺の言葉を真剣に聞いて、ブロはどこか納得したように息を吐いた。
「……仕方ねえな……ギラギラしていた頃の俺たちみてーな男が……引導を渡してくれたんだ……」
「ん? ……いいのか?」
「ああ。もういい……答えは出ちまったからな」
すると、ブロはそう言って笑った。歯が抜け落ちてちょっと間抜けだが、ガキみたいに眩しい笑顔だった。
「……お、おい、おい、ど、どうなっている、いる! おい、そ、それでどういうことだ、とだ! ブロ! アース! お前たちは勝手に暴れて、何なんだ、んだ!」
ようやく落ち着きだした俺たち二人にシツツイが「いい加減にしろ」と声を荒げる。
すると、もう答えを出したブロは迷いのない表情で言う。
「すまねーな、シツツイ大臣……俺はぁ、ここを潰そうって言うこいつに勝てそうにねーや……」
「……なにいっ!?」
喧嘩の末に決断したブロの答え。
「本当にすまねー……そして……世話になったな」
「きさ……まっ!!」
そして、壊れた両足を引きずって這うようにしながら、ブロはトウロウやスケヴァーンたちを守るように、そしてシツツイと向き合いながらそう言った。




