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禁断師弟でブレイクスルー~勇者の息子が魔王の弟子で何が悪い~  作者: アニッキーブラッザー
第十一章

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第六百三十七話 出発進行

「マアム……まだ、大丈夫か?」

「……コンジョーで……」


 もはや奴隷を押し込むような檻にて捕らわれている勇者。

 ヒイロとマアムは唇を噛みしめながら鋭い形相で己を保っていた。


「ふん、蟲を入れられてまだ自我を保つあたりは流石だな……だが、いつまでもつかな?」


 そんな二人を檻の外で涼しい顔で嘲笑するハクキ。

 二人は鋭い目つきのままハクキを睨み返す。


「ハクキ、てめえ……俺らに何をしやがっ……」

「あんたともあろうものが、こんな外道みたいなことをするとはね……失望したわ」


 捕らえた二人に「何か」をしたハクキ。

 そのやり方が汚いと罵るマアムだが、ハクキは涼しいままだ。


「ふん、騒ぐな。これから行う盛大な勝負、吾輩が負けたら元に戻してやろう。ただ、相手は貴様らではない……それだけだ」

「んだとぉ……」

「そして、貴様らがどれほど睨もうと……ベンリナーフも既にこちらに。そして、つい先ほど吾輩のところにいる若造が早速やらかしてくれた」


 宿敵でもあるハクキに対してヒイロとマアムがどれだけプレッシャーを飛ばしても、ハクキはそれに乗らない。

 ヒイロたちと戦う気もなければ。殺すようなこともしない。

 ただ生かし、何かをしたうえで……



「新時代に敗れた剣聖もこちらに向かっている。せいぜい慰めてやることだな」


「「え?」」



 ただ、虎視眈々と準備を整えている。



「さて、吾輩は吾輩で準備運動が必要だな……七勇者……今では皇帝となった男を、ウォーミングアップ替わりで捻り潰してやるか」





「筋斗雲よ~~い」

「竜化!」

「ペガサス隊!」


 空から巨大な雲がどこからともなくやってきた。

 タツミヤが巨大な竜となった。

 ガアルの指笛とともにペガサスが現れた。


「よっしゃぁ、乗れ!」

「ワイの背中にも乗せたるでぇ~」

「坊や、僕の後ろはどうだい?」


 帝国に行ってハクキと決着を。

 だが、それでもこのナンゴークから帝国へはまだ距離がある。

 どうやって行くのか? 

 だが、その問題もこれだけのメンツが居ればいくらでも解決できた。


「わあ、すごい! ねえ、先生、どれに乗ればいいのかなぁ~。ドラゴンの背中も憧れるし~、あの雲もすごい!」

「……おかしい……あの筋斗雲とはまさに伝説のアイテムのはずなのに、このそうそうたるメンバーの前に小生ですらもはや驚けなくなった……」

「自分の翼でも行けるが……ふむ、良い馬だ。私はコレを借りるぞ、ガアル」

「ふふふ、評判は別にして、あの伝説のヤミディレに目を付けられるとは幸せな馬だね」

「ひはははは、じゃあオレは筋斗雲――――」

「ウキー、ダメだ、クソパリピ! これは心の清い奴にしか乗れなくてだな~!」

「ワイの背中もオドレだけは乗せたない!」

「ヒヒーン、ヒヒーン」

「うわ、パリピ見てペガサスが嫌がってる……」


 全員まとめて飛行の手段などいくらでもある。

 海を越えてひとっ飛びなどこのメンバーの前では困難にもならない。



「くははは……なんか、本当に豪華なメンバーになっちまったな。コレ、ハクキにはオーバーキルにならねーか?」



 最初は自分と弟妹だけで行く気だったアースも、ここまでくればハクキが気の毒に感じてしまっていた。

 だが、一方で……


『それほど……甘くはない……と、気だけは引き締めよ』

「トレイナ?」


 トレイナの声は少し重かった。

 

『これまで潜伏し、裏社会と繋がって陰で暗躍していたハクキが、十数年の時を経て表舞台に飛び出すのだ……よほどの自信があるのだろう……それにあやつとて鑑賞会を見ていた。童と戦う場面では、決して半端ではない戦力も自然と集まってくるだろうと予測しているはず……それでもやるのだからな』


 トレイナとてアースの力やこの場に集っている者たちの力を軽視しているわけではない。

 一方で、今回の大胆なハクキの行動を「ハクキらしくない」と」どこか思っていることもあり、それゆえに先が少し読めないと感じてもいた。


「押忍」


 アースも負ける気はしない。が、相手を甘く見ることはしない。何よりもトレイナの言葉には絶大な信頼をしている。

 そのトレイナの忠告を無視することなどなく、アースはその言葉を刻んで頷いた。



「ねえ、お兄ちゃん、どれに乗る~? タツミヤ? あの雲? それともペガサス? 私と二人乗りする~?」


「二人乗りなら僕の背中に乗りなよ、お兄さん!」


「いやいや、坊や、ここは僕が!」


「アース様ぁ~、この雲、ふかふかですよ~! 一緒に乗りましょうよ~!」



 そんな気を引き締めているアースを余所に、どこか浮かれている一同。

 エスピもスレイヤもガアルもアミクスも、どこか今から皆で旅行にでも行くための場所取りのようなテンションでアースを誘う。

 

「おいおい、お前ら、遊びに行くわけじゃ……」


 そんな一同に呆れ、アースは気を引き締めさせようとする。

 だが、エスピたちだけでなく、どこか旅行気分なのは―――



「おっとぉ~、アースはこれには乗れませ~ん♪」


「あ?」


「せやで~、アース。ワイの背中にアースは乗せられへんな~♪」


「ん?」


「アース・ラガン……貴様、ペガサスに乗るにしても他の女と乗ることなど絶対に許さんぞ」


「は?」



 アースがどれかしらに乗ろうとしたら、それをゴクウ、タツミヤはニヤニヤしながら、そしてヤミディレはギロリと睨みつけてアースを通せんぼした。

 

「おいおい、お前ら一体……」

「へっへー、ボス~、分かってね~な~」

「なに?」 


 一体どういうことなのかとアースが眉をしかめると、パリピもニヤニヤする。


「ほれ、後ろ♪」

「あ? あ……」


 後ろとは? パリピに言われてアースも今になって気づいた。 

 振り返るとそこには……



「む~~~、アースぅ……」


「んあぁ~~~、ひどいのん!」



 服の裾を指で摘んでアースを引っ張り、そしてその表情はかわいらしくプクッと膨らませているクロン。

 そして頭をアースの腰にこすり付けて存在をアピールするヒルア。


「ひどいのんひどいのん! おにーちゃんは僕の背中が特等席なのん! 他の人の背中や道具に乗るのはひどいのん! 僕の背中は、おにーちゃんと、クロンちゃん専用特等席なのん!」


 それはまるで敬愛する主が自分以外にうつつを抜かそうとする浮気場面に我慢できなくなっているようなヒルアと……



「アース……みんなで行くのはいいんですけど……アースとくっついて乗れるなら……一緒がいいです」


「うぇ?」


「えっと……カクレテールから流れてこの地までお母さんとブロとヒーちゃんと……アースとはあの頃にお別れして以来……そのアースと今度は違う場所、違う土地、違う国、違う世界へ行ける……みんなで一緒にというのは楽しいですけど……二人乗りとかそういうことがアリなのでしたら……一緒がいいです」


「~~~~~~~っ、だ、だから旅行じゃないんだってばぁ」



 そのクロンのちょっと拗ね顔のおねだり……咎めるアースはふにゃふにゃで力がない。


「お兄ちゃん……タツミヤとの戦いでもあんな熟練感あったのに、コッチ方面は相変わらず……ほんとかわいい、ギュっとしたいよぉ」

「お兄さんのこういうところはもう、見守り同時に大切に育てたい……」

「クロン様、千載一遇のチャンスです。おい、カバよ。先に超スピードで飛んで二人でデートとかラブ宿屋で一泊という寄り道も許すぞ!」


 そして、エスピもスレイヤも微笑ましそうに、ヤミディレは鋭い目でクロンにエールを送ったりと……


「さ、アース。ヒーちゃん乗りに関しては私がベテランなのです。では、アースは私の後ろに♪」

「お、おお……し、失礼します」

「えへへ……アース……危ないので両手を私の腰に……ギュッとしないと落ちちゃいますよ? 配達の時は荷物がありましたけど、今は無いので……心置きなくギュッと」

「……ぎゅっ」

「はうっ……うう……えへへ……背もたれがアースなのですぅ~」

「うわ、あ、く、クロン……あ……クロンの頭、髪……い、イイ匂い……」

 

 そして、気を引き締めるはずのアースももはやクロンに構わず桃色の空間を作り上げており……



『……だ、ダメだこやつら……はやくなんとかせねば……』



 危機感を感じているのは、トレイナだけだった。

 とにもかくにも……



「うふふふ~、さーて、皆さん! これよりアースの故郷へ~、出発進行なのです^~~!!!!」


「「「「「オーーーーッッッッ!!!!!!」」」」」




 かわいらしい号令とともに、一同は決戦の地へと向かった。


 




 ただ、一同は知る由もなかった。



「ひはははは、さーて、ひとっとびとはいえ時間もかかるし、決戦は明日の夜……ちょうどいい♪」



 この空の旅の道中で……




「鑑賞会・第五部……放映といこうじゃねえの♪」




 また、闇の賢人はやらかす。


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