第五百四十八話 極秘作戦
ジャポーネの街の団子屋で、店の周りは民衆で埋め尽くされている。
それはこの店に超有名人であるアース一行が訪れているからだ。
誰もが興奮し、会話に聞き耳を立て、一方で店員たちは激しく緊張している。
そんな中で……
「おうよ! 俺様は『猿神・ゴクウ』! かつてピーチの兄貴と共にハクキ率いるオーガたちと大規模な戦争をしたり、『ミクラ』と河童と豚と一緒に旅をしたり、あるときは蟹と喧嘩したりのゴクウだぜぇ! 以後よろしくなぁ!」
と、伝説の住人であることを、それっぽくない自己紹介をするゴクウにアースたちは絶句していた。
「う~わ~」
「すっごぉ、え? 本当に本物なの?」
「し、信じられないわ……いえ、ピーチボーイっておとぎ話だと……」
「うわぁお……俺っち頭混乱中~」
「僕はあまり知らないのだが……」
ゴクウが椅子の上に立って高らかに自己紹介したのに対し、アース、エスピ、シノブ、オウナ、そしてガアルは各々の反応を見せた。
その中で……
『童……こやつに質問して欲しい』
『トレイナ?』
『もうとっくに死んだと思われていた存在……今までどこで何をしていたのか……をだ』
トレイナは一際鋭い目でゴクウを見ていた。
それだけでアースには自分が生まれるよりもずっとずっと昔の頃から、トレイナにとっても因縁があるのだろうと感じた。
だから……
「あ~、ゴクウ……さん?」
「つれねーなぁ。兄貴のダチなんだから、「さん」付けなんていらねえ! ゴクウでいいぜ! その代わり……そのぉ……俺もよぉ、えへへ……アースって呼んでいいかぁ?」
ゴクウはアースのファン。そのため、伝説の住人なのに照れ照れとしてアースに上目遣い。
「い、いいけど……」
「まじ!? ウキー! やったぜぇ! ひゃっほー、『第二竜宮城』に帰ったらみんなに自慢しよーっ!」
アースが了承すると、両手を掲げて嬉しそうに飛び跳ねる。
その姿にアースは息を飲み……
『トレイナ、ほ、本当にこいつ本物か!?』
『……うむ……いや、それより第二竜宮城とはなんだ?』
思わず本物の伝説の住人なのかと疑うも、それでもトレイナは「本物」と頷く。
「で? アース、質問ってなんだぁ?」
「あ……あ~……その、あんた相当昔の人なのにずっと生きてて……で、今まで何やってたんだ? あと、今の第二竜宮城って?」
「「「うんうん」」」
アースの問いにはエスピたちも気になっていたことだと頷いた。
するとゴクウは……
「ああ、俺様たちはな、寿命がスゲー長いから生きてた。でも、戦争もな~んもしてなかった。ピーチの兄貴とかミクラとかイリーとか……あ、イリエシマな! あと、ワンナインとかゴールドとか、そしてカグヤちゃんとか、仲良くなった人間が死んでから戦う理由もなくなっちまったからな。んで、俺様やダチたちは地上や魔界から撤退して、深海世界に引きこもって住んでたんだ。第二竜宮城ってのは、ツナの野郎が最初の竜宮城をドカーンって破壊しちまったから、新しく建てたんだよ」
「「「「…………………」」」」
『……なん……と』
ゴクウの説明にアースたちはポカンとする。
ただ、トレイナだけは真剣なままである。
「え、え~っと、有名な名前が出過ぎててちょっと私も混乱だけど……ツナって……ツナ総司令のこと?」
「おお、そうそう。そのツナな」
そして、頭を抱えながらエスピが自分もよく知る名を尋ねると、ゴクウはアッサリと頷いた。
「昔さ、深海世界のお姫様、『オツちゃん』って言うんだけどな、オツちゃんはイリーが大好きで、恋をして、だけど寿命で死に分かれて、それ以来はずっと心を閉ざして思い出と夢に浸ってたんだ……古代魔法のヴイアール使えば夢の中で会えるからな。俺様たちもしばらく楽しい夢の世界でずっと寝っぱなしとかあったな。ウキキキキ!」
そしてそこから、ゴクウは軽口で話を進めるのだが、その内容は全てが……
「だけど、ある日を境にそれでも耐えられなくなり……オツちゃんがもう一度イリーに会いたいって思うようになり……んで、調べたらイリーもピーチの兄貴も他の死んだ皆とももう一度会えるかもしれない可能性を見つけたんだ……シソノータミに」
「「「「………………」」」」
「でも、当時のシソノータミはトレイナとかハクキ、もしくは人類連合と奪い合ったりだったから、なかなか難しかったから、オツちゃんが暴走して『古代兵器・海爆』とかいうのを使って地上の生物全員殺そうとしたんだけど、それをツナが察知して止めた。俺様たちはそもそもピーチの兄貴たちのように『ナグダ』に『作られた人間たち』には反逆防止で戦えない……ツナもその子孫ということで、抵抗できず……んで……最後はドカンと滅ぼした! そのドカンから少しでも深海族たちを守るためにオツちゃんの親父さんの海神様が戒めに抗って身を挺したおかげで、竜宮城は消滅しても、全滅は免れて、それ以来生き残りを集めて細々と……で、色々と冷静になって、シソノータミの遺跡最深部は力づくでは入れないし、そもそもそんな難しい技術は俺様らにはどうしようもないってことになってずっと諦めてた……そんな感じだぜ!」
「「「「…………………」」」」
「あっ、ナグダってのは分かりやすく言うと古代人な。えっと……正式名称なんだっけ? ま、いいや。そういうの」
「「「「…………………」」」」
「あ、キビ団子きたーーーー! 兄貴、いただきまーす! ウキー! うめええええええ! ちょーうめええええ!」
ベラベラと長い話を一気にして、しかしそのほとんどをアースたちは理解が追いつかないまま、ゴクウは頬いっぱいになるまでキビ団子を頬張る。
「えっと……ゴクウ、わり、話がけっこう難しいんだけど……知らん単語も出てきたし……あ~……たとえば、死んだ人間に会えるとか、どういうこと?」
「ん~? あー、それぇ? 俺様も細かいことよく分かんないんだけど、なんかナグダに作られた人間……人工生命体で、ピーチの兄貴やカグヤちゃんたち世代は『記憶』がデータ化? されてシソノータミのママコンだかマザコンだかにバック何とかが保管されてるから、その記憶を他のボディに移植すれば、思考のチンチンだかもコピー出来て同じ人間を複製できるとかなんとか……な? 俺様はこれを何十回も聞いてるけど全然意味わかんねーんだよぉ」
「あ、お、おお……もう、俺も何言われてるか分からん」
質問して回答が来ても意味不明な内容。もはやアースたちもお手上げだった。
しかし……
『バックアップメモリーを移植……思考ルーチンも組み込まれて、まさに同じ人間を復活させる……まだそんな妄執に……』
トレイナだけはどこか悲痛な目をしてゴクウを見つめていた。
それは、トレイナだけは全てを理解したからである。
そして……
「でも、もうオツちゃん以外もな、好きだった人間に会えないままこれからも何百年もヴイアールだけで生きることに耐えられなくなって、よっしゃ、皆を復活させるぞー! もうツナも戦えないし、深海世界も再び安定したし、今こそ立ち上がれ! って、決起したんだ!」
「「「「「…………え?」」」」」
と、高らかに宣言するゴクウ。
これまでの話の全部を理解できなくても「決起」という言葉の持つ意味に、アースたちはギョッとする。
だが、そこで……
「……って、ああああああああああああああああっ!!!!」
「うお、なに!?」
ゴクウが突然頭を抱えて焦ったように叫んだ。
そして、
「こ、これ……言ったらダメなやつだったかも……極秘作戦って言われてたし……」
そう震えながら口にしてゴクウは途端に涙目になって……
「た、たのむぅ、兄貴! そしてアース! 俺様が話したことは内緒にしてぇ! もしくは忘れてくれぇ!」
と、本気で焦って土下座しだすゴクウ。
その勢い、とんでもなさに呆気に取られてしまい、アースとオウナは……
「おお、俺っちはもう忘れた! 男はシコシコしてれば記憶力も悪いんだから」
「ま、あ、おお……忘れた」
正直、アースも、そしてエスピやシノブは心の中で……
(((忘れられる話じゃないィ!?)))
と思っているが、とりあえず今はそれを口にせずに大人しく頷くことで、ゴクウは感極まったようにホッとした顔を浮かべた。
「あぁ~、良かったぁ、すまねえ、兄貴! アース! 兄貴分や友達に隠し事は俺様としても心苦しいが、なんてったって極秘作戦だからバレると怒られるし、俺様がバラしたことでシソノータミの警備が厳重になるとか、そうなったらスゲー困るんだよ」
「そ……そうか……」
「それにほら、俺様たちはピーチの兄貴たちを慕っている一方で反逆できなきようになってるから、そのルールはピーチの兄貴たちの子孫にも適用される。だから、ツナの時のようなことにならないよう、それに対抗するための仲間集めを秘密裏にしているところでもあるから、内緒にして欲しいんだ!」
「へ……へぇ~…………」
「ツナはあのヤバい力を使用するために、その根源と精神をリンクさせたとかの反動で全身が再起不能のズタボロになってもう戦えないみたいだけど、他にも俺様たちが戦えない連中が出てくるかもしれないしな! ……あああああああああああああああああっ!」
「うおっ!? こ、今度は何!?」
「そうだ、現在その力はアースの親父さんが持ってるみたいなんだけど……ほら、トレイナをドカーンってやったって噂のアレ! アースの親父さん、噂ではアレを副作用も何もなしで使える超絶反則男って噂だから、そんなのに出てこられると困るから、親父さんにも内緒にしてくれ! 頼む!」
「……お……あ~……おれ、最近親父と話してないから……」
「そっか! あ~、良かった! スッキリした~! う~、一時はどうなるかと思ったが、これで俺様も安心だぜ!」
と、ホッと胸を撫で下ろしすゴクウ。
だが、一方でアースたちは……
『い、いやいや……いやいや……なんかヤバいが、とにかく―――』
『えっ、ちょっとお兄ちゃん……なんか、ゴクウがメチャクチャヤバい情報口にしなかった? っていうか、こいつとにかく――――』
『分からない単語が端々にあったけれど……それでもかなりまずいことを話していたと、私にも分かるわ。そして、このゴクウ。とにかく――――」
心の中で叫びだしたい気持ちを抑えながら、各々焦った表情を浮かべ、そして……
『『『とんでもないバカ!?』』』
『……流石に余も頭が痛くなってきた……このバカ猿め……』
トレイナすらも頭を抱える事態だった。
「で、次は俺様からも質問していい?」
「ん?」
「アースは嫁にするなら誰がいいんだ? フィアンセイ? シノブ? クロン? サディス? 俺様はフィアンセイ推し!」
「……はぁ?」
「俺様は分かる……フィアンセイはまだ成長期……数年後には……この四人の中で一番おっぱいデカくなる!」
と、ここに来て話のジャンルが唐突に大幅に変わってしまった。
「あー、それは俺っちも気になってた! うん、今までの話が難しすぎたから、とりあえず、空気変えてくれ! アースッち、誰がいい!」
それに、オウナも乗った。




