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禁断師弟でブレイクスルー~勇者の息子が魔王の弟子で何が悪い~  作者: アニッキーブラッザー
第十章

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第五百四十七話 ファン

『童……落ち着いて聞け……なかなか厄介な状況だ』

『何言ってやがる、メチャクチャヤバい状況だろうが!』

『いや、その……そっちよりもっと……』


 トレイナの耳打ちにアースは心の中で声を荒げる。


「いやぁ、にしてもアースッちと会うのは久しぶりだなぁ~。鑑賞会で有名になって色々と何をやっていたかは知っているけど」

「おお、そうか、お前も元気そうだな。そうか元気か。おう、うん、うん! じゃぁ、俺たちは用事が……」

「つれないなぁ! どんだけ久しぶりだと思ってんの!? 色々みんなのこと聞きたいんだよぉ! フィアンセイ姫の気持ちを聞いた後どう思った~とか、あと、他のクラスメートとか……特に、コマンとか……」


 アースは心の中で「早く立ち去りたい」という気分でいっぱいだった。、

 それだけ、アースは目の前の旧友、『オウナ・ニースト』はアースの弱みを握っている人物とも言えたからだ。


『妹にそういうところを見せたくねえよぉ! 俺はエスピにとってはカッコイイお兄ちゃんなんだからよぉ!』

『いや、だから童、今はそれどころでは……だいたい、卑猥本の類の件なら、既に妹どころか世界中に……』

 

 そう、実際のところ、アースが今更慌てても何も意味がないのである。


「お兄ちゃんの友達かぁ~……そういえばノジャたちも騒いでいた……あ~彼かぁ~」

「なるほど、ハニーにアレの提供者ということか……」


 そう、既に鑑賞会を通じて世界が知っているのである。



「大丈夫だよ、お兄ちゃん。私たちはもう全部知っちゃってるし、そのことで私たちがお兄ちゃんをダメって思うなんてことぜっっったいにないから!」


「ええ、『魔法学校パンチラコレクション』とか、『戦士候補生に「くっ、殺せ」と言わせてみた』とか、『卒業式と同時に誘う、マジカルミラー馬車』……だったかしら?」


「ぎゃああああああああああああああああああああああ、そのタイトルを出すなぁぁあああああ!?」



 エスピとシノブが優しく微笑んでアースの肩を叩くが、その優しさが余計にアースの羞恥を抉った。

 ただ、そんなやり取りを……


「きゃああああ、本物のエスピが、『お兄ちゃん』 って呼んでる~!」

「シノブちゃんも本当にアースくんが好きなんだって分かるなぁ~」

「なんというか、この光景を絵にして保存したい」

「スレイヤくんはいないのかぁ?」


 もはやただのファンとなっているジャポーネの民たちはその一挙手一投足に盛り上がる。

 彼らにとって『あの世界的に有名なアース・ラガンと妹のエスピ、そして我らがジャポーネのシノブが一緒にやってきた』という気分なのである。

 そして……



「おぉ~~、アース・ラガン……エスピ……大きくなったエスピが笑ってる……幸せそうに……そっかぁ~、そっかぁ~」


「え?」


 

 突如、エスピの傍で涙を流しながら頷いている男。

 それは、先ほどまでガアルと賑やかに語り合っていた謎の男。



「よかったなぁ! 離れ離れになってつらかっただろうけど……大好きな兄ちゃんと再会できて、そしてこれからも一緒にいられるようになって、良かったなぁ!」


「あ、う、うん、どうも……ん~、うん! 私はチョー幸せで楽しいよ!」



 誰かは分からない。しかし、タダ者ではないということは分かる。

 同時に、その男が本当に感動して嬉しそうに感極まっているということも分かり、とりあえずエスピも素直に笑顔で頷いた。


「ふふふ、まぁ、こうやって再会できたわけなんだから、つれない態度はひどいじゃないか、坊や♥」

「うっ、お、王子……」

「一緒に二人乗りをした仲じゃないか♪ ……だっつーの♥」


 そして、頭抱えるアースにそっと肩に手を置くガアル。

 アースを慰め、そして今度は眼前で谷間を……


「いや……マテ、ちょっと気になってたけど、その『だっつーの』って何? 天空世界の今の流行?」

「え? な、何を言って……だって、コレは地上で……オウナ氏、そうだろう!」


 アースの反応に逆に「えっ?」となったガアルがオウナに振り向くと……


「流行じゃない。伝説である。これが再び世にはやるかどうかは君次第。いや、君の手ではやらせるんだ、王子!」

「えっ、ちょ、ま、マテ! ぼ、僕はこの挨拶は誰もが知ってるほど有名なものかと……」

「ウキー! それは俺様も知ってるぞぉ! 俺の仲間の『雉』もオッパイデカくてやるんだからよ! いいよなぁ、だっちゅーの♥ アース・ラガンの友達、センスあるじゃん!」


 顔を赤らめて慌てる王子に対して親指を突き立てるオウナ。

 そんなオウナといつの間に肩組んで笑い合っている……


「……おっ」

「ぬっ!」

「え?」


 アース、エスピ、シノブは眉を顰めた。


『ト、トレイナ、い、今、こいつ……』

『……うむ……追いきれたか?』


 立ち位置的にその男は、自分たちの傍にいたのだが、今の一瞬でいつの間にかオウナのところまで移動して、まるで最初からそこに居たかのように自然と肩を組んでいた。

 そして……



「おい、そこ! 何をしているでござる、貴様らッ!!!!」


「民衆たちも散れぇ! ええい、ここか反ジャポーネ及びテロ活動を――――」



 その時だった。

 群がっている民衆たちをかき分けて、通りの向こうから物々しい空気を発してこちらに近づいてくる、帯剣した者たちが……



「「「「「――――――――がくッ」」」」」


「「「「ッッ!!??」」」」



 現れた……かと思った瞬間、十数人の男たちが一斉に糸の切れた人形のようにその場で倒れた。


「うぇ、なん、え? ジャポーネ侍戦士団……が……あれ?」

「え? なんなの? なんか、現れたかと思ったら急に全員気を失って……」

「転んだ? え? いや、気を失っているぞ?」


 この騒ぎを抑えるために現れたかと思われる侍戦士たちだが、コチラに向かってくる前に全員が一斉に気を失って倒れた。

 謎の事態。

 しかし……


「……な、何をやったかは分かった……だけど……」

「お兄ちゃん……見えた?」

「な、なんだというの? 彼は……一瞬……ほんの一瞬見失い……だけど、次の瞬間には……」

「……不覚にも僕も油断した」


 アース、エスピ、シノブ、そして今度はガアルも目を大きく見開く。

 男はオウナと肩組んだままである。

 だが、実際には違う……


『トレイナ、い、今、こいつ……少しだけオウナから離れて、走って……』

『うむ、15人の侍たちの背後に回り込んで、全員の首筋に手刀を当てて気を失わせ、そしてまた貴様の友と何もなかったかのように肩を組んだ……貴様の友も何も気づいていまい』

『っ、お、おいおい……侍たちだってプロだろ? それなのに誰も気づくことなく……そ、そして、俺は……』 


 アースはここにきて、ようやくオウナとの再会以上の戦慄が全身に走った。

 何をしたのかは感じ取ることができた。

 しかし、だからこそその動きがどれだけ非現実的なものか、そして……


『も、もし、今、こいつに回り込まれたら……』


 もし自分にされたら? 自分は対応できたのか?

 

『……今の童なら反応はできる……今の動きぐらいなら回避もできよう。しかし……』


 トレイナの言葉を聞きながら、アースが男を睨みつける。

 すると、男はアースたちの反応に笑みを浮かべ……



「おっ、さっっすが、アース・ラガン! 俺様が何をしたかをちゃんと分かってる……エスピたちもかな? くう~~~やっぱツエーなぁ、あんたたち!」


「お前……一体……ってか人間でもなさそうだし……」


「あっ、でも、そんな怖い顔しないでくれ! 俺様は敵じゃない! 今、むしろようやく再会できた兄と妹の中を裂こうとする不届き物をコツンってしただけなんだ! 俺様はあんたたちの大ファンなんだからよぉ!」



 敵ではない。ファンである。そんな言葉で納得できるレベルの者ではない。

 しかし男は本当に純粋に笑い、


「それに、俺様はたしかに人間じゃないけど、人間は大好きだ! まぁ、一人嫌いなのはいるけど……あ、いやツナは純粋な人間か? と……だけど、俺様の兄貴分だって人間だった……あれ? ピーチの兄貴も純粋な人間だっけ? ……あ~、よくわかんねーけど、とにかく俺様は妹や弟が兄貴を慕う気持ちはよくわかるんだ! だから、ううう、エスピ、スレイヤ、よかったなぁ~」


 そして急にワンワン泣いた。


「それに、アース・ラガンには個人的なファンでもあるんだ! いやぁ~、あの魔王軍のクソ外道パリピをボッコボコにしたのはスカッとしたし、あの狐女の尻をズボッてしたのは俺様も仲間もみ~~~んな腹を抱えて大爆笑よぉ! ついでにハクキもぶっとばしてくれたら……いや、ダメだ! ハクキは、そして『鬼姫』、『ヤシュラ』、『テング』ひっくるめて俺様が倒すんだー! いや、鬼姫はおっぱいでかいから戦いたくねえ……あ、そうだ、アカさんっても別だー! アース・ラガン、いつか、ううう、アカさんと絶対に再会するんだぞぉ~アオニーのためにもおぉ、うおおおん、アカさ~~~ん!」


 とはいえ、それだけで男を受け入れるどころか、余計に警戒するアースたち。

 すると……


「なるほど、あんたいい奴だな! 俺っちもアースッちたちのファンになったからな!」

「おー、そうかー! いいなぁ、あんたとも話が合いそうだ!」


 アースたちの警戒や謎の男に一切無警戒のオウナが……



「なぁ、アースっち、せっかくだしよ、ゆっくりみんなで茶でもしようよ! 俺っちが名物のキビ団子でも奢るぜ!」


「ッッ、き、キビ団子!? おごって、く、くれる!?」



 と、提案した瞬間、男は雷に打たれたかのように衝撃を受け、そしてその場でオウナに対して片膝ついて……



「今日からあんたのことを、俺様の生涯二人目の兄貴と呼ばせてくれ!」


「「「「はっ!?」」」」



 突如衝撃発言をする謎の男。だが、オウナは驚くどころか笑みを浮かべ……


「何言ってんだ、男は出会った時からブラザーでフレンドじゃないか!」

「お、おぉおおお、兄貴イイイ! 俺様は、俺様は、そうか……兄貴と出会うためにここに来たんだ!」

「おう! あ、ってか、名前何だっけ? 俺、オウナ・ニースト」

「あっ、俺様は『ゴクウ』ってんだ、よろしく!」

「おーそっかぁ、絵本のキャラみたいないい名前だなぁ!」

「いい名前か! そうか、ありがとな、兄貴! ってか、さっき王子にあの挨拶仕込んだの兄貴って言ってたけど、兄貴はオッパイ好きなのか?」

「おっぱいが好き? オッパイは好きとか嫌いを超越したもの。オッパイは、始まりにして、帰る場所だぜ」

「おおお、よくわかんねーけど、兄貴かっけー!」


 と、その場でまた二人は肩組んで笑い合い、その状況にアースたちが呆然としていると……



「おーい、アースっちも行こうぜぇ!」


「……い、いや……す、すまん……もうちょい整理するまで待っててくれ」



 と、頭を抱えてしまった。

 ただ、心の中で一言……



『……………本物?』


『うむ』



 トレイナに尋ねて即答された。

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