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禁断師弟でブレイクスルー~勇者の息子が魔王の弟子で何が悪い~  作者: アニッキーブラッザー
第九章(三人称)

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第五百三十九話 走れッ!

「もう……歳ね……アーくんに別れを告げられたエスピちゃんとスレイヤくんを想うと……堪えられないわ」


 手で顔を覆いながら、アヴィアは呟いた。

 だが、アヴィアだけではなく、村中全員が泣いていた。

 当然……


「アースぐんだって、づれぇ!」


 あの男も号泣していた。


「一方的な別れ……きらいじゃなぐで、好き同士だからこそ、言うほうだっで、つれーんだ! おでは、それができなぐっで、でも、アースぐんは……ちゃんと向き合って……うぅうう」


 かつて、自分が何も言わずに、置手紙だけを残してアースの前から立ち去った時のことを思い返し、男はその時の自分をアースと重ねた。



『エスピ。スレイヤ。愛する者との突然の別れ、会えない苦しみは小生も痛いほど理解しているつもりだ。しかし、希望がある。未来に。いつの日か、会うことができる……必ず……なぜなら、未来から来た男がそう言っているのだ』



 すると、そんな泣きじゃくる世界中とエスピとスレイヤの中で、ラルウァイフが二人を抱き寄せながら優しくそう告げた。

 まるで、母や姉のように、大切に二人を抱きしめながら。


『小生も生きるぞ』

「ッ!? お……お嬢……」


 それは、あらゆるものに絶望し、憎しみに捉われ、そしてアオニーが死んで真実を知ってからはどうすればよいのか分からなくなっていたラルウァイフから漏れた決意。



『小生は生きる。血にまみれて醜くなった小生でも、いつの日か胸を張って堂々とアカと再会できるぐらい……誇らしい人生を送り、いつの日か必ずアカに会いに行く。そう誓う。アオニーの分まで……だから、お前たちも強く生き、胸張って会える人生を過ごして……いつの日か、この男に抱きしめてもらえ。なんだったら、殴ってやれ』



 苦笑しながらも、その目は未来を見据えていた。希望を抱いて。


「そっが……よがっだ……よがっだ」


 男もその言葉に安堵したように頷き、そして微笑みながらもまた泣いた。









『いつの日か必ずまた会える。そして、今から言う俺の話を四人とも覚えておいてくれ。近い将来、ヒイロとマアムの間にアース・ラガンという子供が生まれる。そしてその子供が15歳になり、アカデミーの卒業を控え、帝国でアカデミーの御前試合があり、その大会でアース・ラガンは家出する。その後、鎖国国家カクレテールで格闘大会があって、その大会の後から数日経てば俺たちは会える。カクレテールの後はゲンカーンでウロチョロしてる。そのときの俺はお前たちのことをまだ知らない……でも、必ずお前たちのことを愛している俺が会いに行く。そのときは、何発ぶっとばしても構わない』


 アースがまだ生まれてもいない時代から十数年後のことを告げる。

 その時まで、それほど長い年月まで待って欲しいと残酷なことを懇願するしかないアース。

 だが、エスピとスレイヤはそのことを覚えていたのだ。


「そうか……そういうことだったんだな……だからあのときエスピは……」

「ええ……全部このときから始まっていたのね……」


 ヒイロとマアムも全てを理解して涙した。

 それは、カクレテールから出発したアースとの追いかけっこ。

 アース、クロン、ヤミディレ、ガアル、ヒルアたちに出し抜かれてしまったときのこと。

 それでも諦められずに海を泳いで追いかけようとしたところ、ヒイロとマアムはエスピと再会した。



――ふふふ、知らないのぉ? 私が……妹を泣かせる男をユルサナイってことを


――少しは大人になったと自分で思っていても……だんだんと緊張しているから……そう見えちゃうのかな? だって……もうすぐ私の望みが叶うから……あと『数日』で……彼があの『遺跡』に行けばね


――今日来たのは、気まぐれに二人の顔を見に来ただけだから。それともこれから起こる事の緊張をほぐすためなのか……



 そして、エスピが口にした思わせぶりな言葉がようやく繋がった。



「そうかァ……エスピ、お前はこの時のアースの言葉を覚えて……ずっと、ずっと待っていたのか! ずっとアースを想って、待って、再会できる日を……」


「ずっと、アースに会いたかったのね……エスピ……そっか……今にして思えば、私がアースを産んだ時……あの子ったら普段は冷めてるくせに、数日前からソワソワソワソワ様子を見に来てて……てっきりサディスと遊びに来てるとか、私を心配してくれてるとか思ってたけど、そうじゃなくて……それに、そう! アースを……アースを……」


 

 マアムは涙と共に震えながら、かつての記憶を鮮明に思い返していく……



――この子はね、私とヒイロとサディスの新しい家族……アースよ


――あっ……ああ……アース……その名前……


「そうっ! エスピは……アースの名前を聞いたとき、何だかすごく、すごく……それもそういうことで……」



 そして、それはエスピと過ごした昔のことまで遡り、当時のことのあらゆる辻褄が合っていく。



「それだけじゃねえ。エスピは……行方不明だった後にフラッと連合軍に帰ってきた……そのとき、俺が……あいつの頭を……」


――私はヒイロの妹なんかじゃない! 頭も勝手に触るなぁ! 今度触ったら、ぶっとばすだけじゃユルサナイ! 


「はは……嫌だよなあ……そりゃそうだよな、エスピ……お前の兄ちゃんは、この時から一人だけ……アースだけだ……お前の頭を撫でていいのも、アースだけなんだもんなぁ?」



 そして、エスピは照れてたわけではなく本当に嫌がっていたのだと知り、だがそれも全てはそれほどまでにアースを特別に想っていたからだと思い知らされる。

 さらに……



「ふん……それに、運がよかったではないか……貴様ら」


「「え?」」



 しかめっ面のハクキが腕組みしながらヒイロとマアムにそう告げた。



「アース・ラガンが現れたことで、ノジャやゴウダたちの関連で貴様らの勝利に導いただけではない……この後……連合軍なんてどうでもいいと思っていたはずのエスピが、連合軍にちゃんと戻ったことで、七勇者の一角が欠けるということもないまま貴様らは戦力を保てたのだからな」


「「あっ!?」」


「まぁ、連合も戦争もベトレイアル王国も嫌だったとはいえ、エスピには仕方のないことだったであろうな。何故なら……万が一、貴様ら二人のどちらかが死んだら、アース・ラガンは生まれなくなっていたのだからな」



 言われてヒイロとマアムもハッとした。

 エスピがどうして連合軍に戻ってきたのかを。

 一緒に戦っている時、普段はツンケンしているのに、必死に自分たちを守るように戦ってくれていたことを。



「そっか……エスピ……お前は全部アースのために……」


「アースと再会できる未来を勝ち取るために……なんて途方もない……十五年以上も……」



 もう、これ以上ないぐらい泣いたというのに、また涙が溢れるヒイロとマアム。



『未来でお前たちが待っている。だから俺は行く。いいか、何度でも言うぞ? 俺はお前らが大好きだ!! 今度再会したら、この世の全てを敵に回してもお前たちと一緒に居る』


『おにいちゃん……う、あ……あ……おにいちゃあああああん!』


『おにい……さ……ん……』



 全てはもう一度アースと再会するために。

 そして、光がやがて兄と妹と弟を別ち……



『俺は……戻ってきたのか? あいつらは! エスピ! スレイヤ!』


 

 景色が変わった。

 そこはもう、先ほどまでアースが居た場所ではない、海に面した森の中。

 アースは元の時代に戻った。

 本来なら誰もが「アースがちゃんと帰ってきてよかった」と安堵するところだが、この瞬間だけは違った。


『あっ! ……ブレイクスルーッ!』


 辺りを見渡したアースが、焚火の煙を見つけた瞬間、アースはブレイクスルーで走り出し……



「い、いけ……いけ、アースッ! 走れッ! 走れぇええ!」


「アースッ、速くッ! エスピに……そして、スレイヤをッ!」



 そんなアースに、走れと叫んだ。




 勿論、それは世界中から……



――走って、アーくん!


――アースぐん、いげぇ!


――走るのです、アース! 


――坊ちゃま、速く! 早く!


――アース、速く二人の下へ!


――アース君、速くするかな!


――あんちゃん、もっとダッシュッす!


――お兄ちゃん、速くッ! もっとぉ!



 世界中からアースに対して「一秒でも早く、二人のもとへ駆けつけろ」と声が上がったのだった。












「ぐわははははは! いやぁ、興奮してやってもーたわい、ぐわはははははは!」



 そんな世界中の者たちが空ばかりに集中している中、同じカクレテールの島に住んでいる者たちですら気づかぬ浜辺で、バサラは豪快に笑った。


「あ、う、……こ、この―――」

「や、やだ、……」

「ば、バケモノ、き、斬る……ひイ―――」


 突如、いつの間にか現れたバサラの踏みつけを目の前で見せられて、腰を抜かすヨーセイと五人の乙女たち。



「―――――――――ん♪」


「「「「「「ひっ!?」」」」」」



 バサラがただ無言でニコリとヨーセイたちに微笑んだ瞬間、腰を抜かしたままヨーセイ含めて全員が大量の汗を流して固まってしまった。

 言葉にせずとも、本能でヨーセイたちは理解した。


――座ってろ♪


 と、そしてそれを無視した瞬間自分たちはどうなってしまうのかを考えただけで、漏らしてしまった。

 すると……



「再会の乱暴なスキンシップ……迷惑ガメ」


「ッ!? ア、ゲゲ、ゲンブ?」



 バサラの踏みつけで埋め込まれた地中から、ゲンブの声が聞こえ、ヨーセイたちはハッとする。

 だが、バサラは分かっていたかのように笑みは変わらぬまま……


「ふふ~ん、どっせええええい!」


 土の中を掘り起こすように腕で地中を薙ぎ払い、中から出てきたものを宙まで飛ばして……


「グワハハハハハハハッ、冥竜爪ッ!!!!」

「はぁ~―――――」


 再び振りかぶった腕で、今度は鋭い爪を立ててソレを弾いた。

 

「な、なん……あ、ああ……」


 今度こそ確実に死んだ。なすすべなく薙ぎ飛ばされる物体に、ヨーセイたちは恐怖の震えが止まらなかった。

 だが……


「グワハハハハ、相変わらずカッタイのぉ~……亀の頭で固い……ヌワハハハハ、雄としては羨ましいのぉーグワハハハハハッ!」


 バサラは機嫌よさそうに笑ったまま。

 すると、薙ぎ飛ばされた物体……それは、甲羅。


「固いのは頭ではなく甲羅ですガメ……いい歳して子供のような容姿弄りは恥ずかしくないガメ? は~ビッグりガメ」


 そして、大きく溜息吐きながらも甲羅からニョキっと人の手足が伸びる。

 全身緑色の肌にガッシリとした体躯。

 額に手ぬぐいを巻いた、異形の存在。



「ぐわはははは、甲羅と同じで固いことを言うでない。ワシがそこそこ力を入れてぶった叩ける相手は歴史上でもそんなにおらんのじゃからなぁ~。久しぶりにはしゃいだ。どうじゃ? 久しぶりにおぬしの『大怪獣化』で遊んでくれんかのう?」


「イジメられる身にもなってほしいものガメ……あと、遊ぶのは絶対に嫌ガメ……、冥獄竜王と遊ぶなど、グズでノロマな亀の私では……てか、そっちはアース・ラガンとクロンという娘とのアレでだいぶハシャイでいたガメ……」


「ぐわはははは、すまんすまん! で? おぬし、死んだと思っておったがのぉ~国ごと。まぁ、生きとったのは別にいいとして……コソコソ何をやっておるのじゃぁ? それに……そこの……」


 

 チラリとバサラが斜め下を見ると、そこには腰を抜かして失禁している……



「おー、たしかおぬしは……ハゲて容姿が変わった様じゃが、鑑賞会で見て覚えとるぞォ? アースに負けとった、え~っと、ホウケイだかボーコウエンじゃったか? それと、そのオナゴども」


「ヨ、ヨー、せ、だ……」


「こんな亀に誘われて何しとるんじゃぁ? 互いにハゲ同士で仲良くなったか?」



 もはや名前の訂正をすることもできないぐらいに怯えているヨーセイたち。

 ニコニコしながらもそれほどの圧のあるバサラ。

 鼻息一つでも直撃すれば肉片も残らず砕け散る……ヨーセイたちはそう実感し、大口すら叩けなくなっていた。

 そんな中バサラは……



「生きており、前の勇者に復讐する気もないなら、千年でも万年でも引きこもっておればよいものを……小僧が手にした遺産の鍵に目の色でも変えたか?」


「………………」


「それに、こんなムセイだかオットセイだかなんだかの小童を唆して、何に利用する気じゃぁ? 新時代が新時代なりに面白くなってきておるのじゃから―――」


「ぬっ!?」



 笑みは変わらず、しかし嵐のように吹き荒れる圧倒的な威圧で……



「ハクキのアホンダラもおぬしらも、コソコソグダグダなことをして若造どもの時代と世界に茶々入れるでない。老害の害はワシらジジイ世代の中だけで消化せい!」



 容赦なく言い放った。

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【新作・俺は凌辱系えろげー最低最悪魔将】
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