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禁断師弟でブレイクスルー~勇者の息子が魔王の弟子で何が悪い~  作者: アニッキーブラッザー
第九章(三人称)

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第五百三十八話 もらい泣き

『俺の本名はアース・ラガン。七勇者のヒイロとマアムが結婚して、二人の間に生まれた子供だ』


 熱きライブに終わりが来たように、この時を越えた旅にも終わりが訪れる。

 アースは己の正体を、エスピとスレイヤ、その場に立ち会ったエルフの族長とラルウァイフに告げ……



『エスピ……スレイヤ…………………ここで……お別れだ』


『『………………………………………え?』』



 ついに、その言葉を告げる。


「あ、わ、あぅ……ああああ、え、エスピ様がぁ……」

「まだ……アース・ラガンの言葉の意味を理解されていない様子……で、でも、それが……」

「だ、だめだ、ワシはもう空が見えん……!」


 その瞬間、エスピの故郷でもあるベトレイアル王国では、ライブの盛り上がりから一変し、今のエスピの気持ちを想うと涙が止まらなくなっていた。


『お兄ちゃん、どっか行っちゃうの? お別れってなに? 私も行くよ?』


 アースがどこかへ行くのなら、自分たちも当たり前のようについていく気だった。

 これからもずっと一緒にいるつもりだった。


「ううう、そ、そうであるよな。そう思われるよな……ぐぅ、つ、つらい!」

「アース・ラガンも引き裂かれそうな表情で……うう!」


 そこで、唐突な別れ。

 事情が分からないエスピに対し、事情を知っている鑑賞者たち。

 

『ごめんな……連れて行けないんだ……エスピ、スレイヤ……ここで……お別れだ。俺はもうこの時代には居られない。未来に……本来の時代に帰る。この時代を生きる今のお前たちとは……ここでお別れだ』

『やだ……やだ……やだぁ!!』


 アースの事情を知っているからこそ、アースのつらさも理解しつつも、それでもエスピとスレイヤの二人に……


「うわああああん、もうダメだ! もうダメぇ!」

「これ以上見れないよぉ、うう、ううう、エスピ様ぁ」

「くそぉ、もう歳か? 目から水が……もう泣きそうだ」

「俺もう泣いてるしィ、うばぁあああああ」


 もはや涙を流すしかなかった。






 ただ、それはすぐにベトレイアルのみではなくなった。


『ごめんなさい! ごめんなさい! もっといいこにする! わがまま言わないよ! お兄ちゃんこまらせない! おかしももういらない! 服もいらない! だっこも減らすから! だから……だから……だから……やだ……やだ……すてないで……すてないで! きらいにならないで! やだ! やだやだやだやだやだやだやだ! やーーーーだーーー! やだやだやだーーーー!』


 それは、カクレテールでも……


「「「「うううう、あやまるなよぉぉぉ、エスピちゃんもスレイヤくんも何も悪くないよぉぉおおおお!!!!


 先ほどまでライブで滾ってその場でスクワットしたり筋トレしたりと燃えていた連中だが、男も女も関係なく今は泣いていた。


「うぅ、エスピ姉さん……そうですよね、そうですよね、愛する坊ちゃまと……」

「い、いかん、我ももう……」

「こんなの、泣くなって方が無理かな」

「私も限界ッすぅ!」


 サディスやフィアンセイ、ツクシやカルイもボロボロ泣き、さらには……


「ぐすん……エスピちゃん、もうお兄ちゃんとバイバイなの?」

「ッ、アマエ……」

「エスピちゃんもスレイヤくんも、お兄ちゃんの妹と弟なのに、なんでお別れなの!? なんで!」


 最初はエスピとスレイヤに嫉妬全開だったアマエが、二人の涙に感極まってしまって、カルイにしがみついて泣きじゃくった。

 かつて、ヤミディレ、クロン、アースに置いて行かれたときの悲しみを思い出したのだ。



『ボクたちも連れて行ってよ! ボク、別にこの時代がどうとかこだわらないよ! お兄さんが未来に行くなら、ボクたちも連れて行ってよ!』


『ごめん。ほんとうにごめんな、二人とも。もっと一緒に遊んでやりたかった……カリー食いたかった……もっと……もっと……』



 子供でありながらも、ちょっと冷めた一面もあるスレイヤすらも、年相応の子供に泣きじゃくり、アースの腕にしがみついて必死に叫んでいる。

 普段は小生意気なスレイヤだからこそ、今の必死な姿に見ている者たちは余計に涙を流した。



「ぐわははは~、まったく、エスピという小娘ならまだしも、あのスレイヤとやらも、そして小僧も一緒に泣きおって……男が別れに泣くなどだらしないのぉ~……」


「「「「「ッッ!!??」」」」」



 だがそのとき、浜辺で誰もがもらい泣きする中で、バサラの嘲笑うような言葉。

 それは、いかに自分たちを鍛える今の師とはいえ、看過できないことであった。


「師匠、今のは―――」

「聞き捨てならな……あっ……」


 サディスやフィアンセイたちはじめ、涙目ながらもバサラを睨みつけようと振り返ったら……


「ぐひん……あ~……しかし、最近……花粉症とやらかのぉ……ぐすん……あ~、目が痒いし鼻水が止まらんわい」


 花粉症だと言い張ってるバサラの姿に、思わず一同噴き出してしまった。



「やれやれ、あ~、ちょいと鼻かんでくるわい」


「「「「ぷっ……」」」」 



 そして、目をゴシゴシとかきながら、バサラは顔を見せないようにそそくさと皆の前から離れていった。

 だが、その間にもアースたちの別れは続く。


『ごめんなぁ……お前たちを泣かせる最低最悪のお兄ちゃんで……ほんとうに、ごめんなぁ……』

「あっ……坊ちゃま……」


 そして、アースが引き裂かれそうな表情で漏らすその言葉に、フィアンセイやサディスはハッとした。



「その言葉……そ、そうか……アース……そういう……」


「今のは……あ……嗚呼……坊ちゃま……エスピ姉さん……」


――ごめんね、サディスちゃん。でもね、私は……十数年以上前から……妹を泣かすような男だけは、何があっても許さないって決めてるの



 以前、一度エスピがカクレテールに唐突に現れた際、サディスたちの前でエスピが口にした言葉。


「わ、私はてっきり……妹を泣かせるお兄ちゃんと言うのは……坊ちゃまがアマエを泣かせていることと……そして、エスピ姉さんの言っていた十数年前からの兄的なのは旦那様だと……そうでしたか……嗚呼、そういう……」

「で、では、エスピ殿は……うぅ、スレイヤ殿も……じゅ、十数年前から……アースを……」


 あのときのエスピの言葉の真意を知ってしまった。

 その言葉の意味をこうして知ってしまえば、余計に心が震えてしまう。


『エスピにはリボンをあげたし、スレイヤにはこれをプレゼントだ』


 泣きじゃくってアースから離れないエスピとスレイヤ。

 そしてアースはスレイヤにあるものを渡す。


「あっ! あ、あのナイフ……ねえ、リヴァル! ほら!」

「フー、分かっている……マジカルサバイバルナイフ!」


 アースが現代でスレイヤの道具屋で買ったマジカルサバイバルナイフ……


――このナイフもそうだよ? それに……このカロリーフレンド。これだって、栄養満点だよ?


 現代の道具屋で、アースと遭遇したスレイヤが、『これ見よがし』に見せびらかしていた『ボロボロのサバイバルナイフ』……そのときのことを一同は一瞬で思い出し、同時に戦慄して震え上がった。



「あ、あのとき、スレイヤ君がアース君に見せていたボロボロのサバイバルナイフは……このとき、アース君がスレイヤ君に渡して……じゃあ、スレイヤ君はそれから十数年間、ずっとそのナイフを……そのナイフをずっと大事にッ!」


「な、なんて……なんて話っすか! それにエスピちゃんのリボンだってあんちゃんが……あ……あぅ……こんなの……そんなの……泣くなって方が無理っすよぉおおおお!」



 既に泣いていたツクシもカルイも、限界突破の号泣であった。



『いいか、お前たちは一人じゃねぇ。この世界で俺のことを知っているのはお前たちだけだ。世界は知らなくてもお前たちは俺のことを知っている。だから、二人……仲良くな』


『ふたりじゃやだ……おにいちゃんいない……おにいちゃんだけいない……さんにんがいいよぉ……』


『お前たちがもっと大きくなった未来で……必ず俺たちはもう一度会える。絶対にだ。そのときは、いっぱいカリー食べよう。いっぱい遊ぼう。ずっと……一緒にいよう』



 そう、誰もが理解した。

 それは『幼い時のエスピとスレイヤ』がどれだけアースを愛していたか。

 そして『現代のエスピとスレイヤ』がどれだけ今でもアースを愛しているのかを。

 どれだけ、『今のアース』と再会できることを待っているのかを。

 だから、世界中が涙した。

 ただし…… 







「ふっ……あのバケモノが空に意識がいっているのは運がよかったガメ」


 一部を除き……


「懐かしくもあるが……別に今は再会したくない……だから、バサラに気づかれたら流石に面倒ガメ」

 

 カクレテールの住民たち集う浜辺とは反対側から、ヨーセイたちを引き連れたゲンブがそう漏らした。


「お前は……あの竜王だとかいう化物の知り合いなのか?」


 ヨーセイが興味本位で問うと、ゲンブは少し考えるような様子で……


「なかなか難しい関係ですガメ。我ら種族は魔族とも人間とも争っていた……バサラもそうでしたガメ……が、バサラは諸事情でその争いから引いた身ゆえ、因縁はあれど恨みはない……が、でもメンド臭いガメ……」


 そう漏らすゲンブは少し昔を懐かしむ様子であったが、そのゲンブの言葉に乙女たちは反応した。


「ちょ、に、人間と争ってたって……え? じゃあ、私たちはなんで?!」


 慌てたようにそう口にするのは、乙女の一人のチヨ・ローイン。

 自分のこれまでの人生を全て捨てて故郷から離れるにしても、その勧誘してくる人物が人間ではないだけでなく、人間と敵対しているというのだ。

 いかに自分にはもうこの地に居場所がなく、ヨーセイがついていこうとしているからといって、本当に大丈夫なのかと不安があった。

 だが……



「確かに人間と争っていたですガメ……だが……私も人間にもいい奴も死ぬほど恨みたい奴もいるというだけで、人間全てを否定しないガメ。実際、かつて私の恩人であり、相棒だった方も人間だったですガメ」


「ぇ……?」


「遥か昔。まだ私が幼かった頃……浜辺で遊んでいた私を見つけた人間の子供たちが気味悪がってイジメたですガメ……しかし、そんな私を救い、手当までしてくれた心優しい方もまた人間だったですガメ……その方への恩返しとして私は国へ招き、そして我が国の姫と――――――と、それは話が長くなるので、また追々ガメ」


「っ、お、追々って……」



 かつて人間と争っていたが、別に心配しなくてもよいという様子のゲンブだが、それだけで納得できない乙女たち。


「それに……勧誘はあなたたちだけではないですガメ……」


 だが、それを更に安心させるようにしようとしたゲンブに対し……


「なに? 僕『だけ』ではないと……何だと? お前はさっき、僕が唯一選ばれたと言っていたが……それは、嘘か?! まさかこの僕を特別に選んだわけではなく、僕もその他大勢の一人だとでも言いたいのか!」


 訝しげに睨みつけるヨーセイ。

 するとゲンブはゆっくりとした口調で……



「んん? いいえ。『勧誘』はしているガメが、『力を与える存在』として選ばれたのはあなただけガメ」


「ほ、本当だろうな?」


「あなたは紛れもなく唯一のトクベツですガメ。その他大勢をいくら誘っても、貴方が唯一特別であることに変わりないガメ。『力』を得られるのはあなただけガメ。あなたは……アース・ラガンさえ現れなければ……ヤミディレにとっても重要な存在になっていたのは事実ガメ」


「……そうなのか?」


「ええ。あなたはあの大会でアース・ラガンに負けた……が、実は才能的な話だけで言えば、あなたとアース・ラガンに実際のところ、そこまでの差はないですガメ。特に魔法に関しては。彼はただ、あなたに知略と技術とスピードとパワーと努力と経験と……あ〜、いや、あなたの油断で勝った……(……それも才能ではあるガメが……って、今のアース・ラガンはもっととんでもないガメが……)」


「っ、あ、ああ、あいつは卑怯な不意打ちと、ちょっと俺が油断したのをいいことに……」


「そう、あなたは油断したですガメ。言ってみれば、ウサギと亀の競争で、自分が速いと思い込んでいるウサギが競争の途中で昼寝をして、その油断しているところを亀が追い抜いて勝つような……(まぁ、アース・ラガンは油断しないウサギだろうガメ……いや、ウサギは違うガメ……油断しない鷹? 鳳凰?)」


「むっ……」


「だが、あなたが油断せず、さらに己の真の能力を引き出せば……ガメ? (そして、ヤミディレもおそらく彼の才能自体には気づいていたガメ。だが、アース・ラガンの方に魅力を感じて、努力もしない、中毒になった自惚れ屋に見切りをつけたガメ)」


「……ふん……ならいい。別に僕は目立ちたくもないが、その他大勢と混ぜられるのは不愉快だからな」


「誤解が解けてよかったですガメ」



 多少ヨーセイが噛みつくも、さらりと柔らかい口調で回避し、ゲンブは海の彼方を見つめる。


(さーて……あっちの勧誘はどうなっているガメ? ジャポーネ……我が大恩あるイリエシマ様の故郷は私が行きたかったが……あの『バカ猿』はちゃんと仕事しているガメ? まぁ……最近までハクキが暗躍していたっぽいガメ、猿が行きたい気持ちは分かるガメが……)


 少し溜息を吐き、そして……



「グワハハハハハ!!!!」



 さあ、行こうと思ったその時だった。

 


「ガメ?」


「ひっ!?」


「「「「「ひいいっ!?」」」」」



 突如、ゲンブやヨーセイたちを覆い隠す巨大な影。

 振り向いたそこには…… 

 

 

「なんか、死んだはずのなっっっっつかしいの、見イイつけたーーーーーッ!!!!!」


「げっ……」



 豪快に笑う冥獄竜王が、巨大な腕を振りかぶって、ゲンブ目がけて容赦なく叩きつけた。

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【新作・俺は凌辱系えろげー最低最悪魔将】
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