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禁断師弟でブレイクスルー~勇者の息子が魔王の弟子で何が悪い~  作者: アニッキーブラッザー
第九章(三人称)

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第五百三十四話 誘い以上で応える

『ウガアアア、深海族のくそったれどもの所為で多くの死者が出た! そこで、戦災孤児共へ元気づけるため、俺様はライブを考えている! そこでどうだ! 大魔王様、そして六覇全員で七人のバンドを作って魔界をサイッコーに盛り上げるイベントを俺様は提案する! 大魔王様、どうだぁぁあ!』


 魔界でライファントは目を細めながら、遥か昔を思い出していた。


『……ほう……真面目に言っているようだな。吾輩も長らく魔王軍に所属しているが、大魔王様にそのような提案をするバカは初めてだな』

『ゴウダ、貴様は何を言っているゾウ。貴様が各地で無料ライブとやらをやっているのは知っているが、そこに六覇全員、大魔王様まで巻き込むとはありえないゾウ』

『わらわもそんなメンドーなことしたくないのじゃ』

『ひははは、オレは面白いと思うけどねえ。あっ、ベースは任せろ。チケット捌きも。クスリあり?』

『下らん。私は興味がない。何よりも大魔王様にそのようなお手を煩わせるような提案など言語道断だ』


 遥か昔のいつかの日、六覇全員が顔を出しての会議において、ゴウダがとんでもないことを提案した。

 その提案に、誰もが鼻で笑い、呆れたものだ。


『ああん? 何冷めたこと言ってやがる! なんで乗り気なのがクソパリピだけなんだ! テメエらじゃ話にならねえ! 大魔王様、どうっすかぁ!』

『ゴウダ、貴様大魔王様に向かってなんと無礼な!』


 ましてや大魔王をも巻き込もうとしているその考えに、ヤミディレなどは特に目を鋭くしてゴウダを叱責した。

 そして、大魔王は……



『ふむ……ゴウダよ……余と六覇全員となると七人になる……一般的にボーカル、ギター、ベース、ドラムなどの4ピースに加えるとなると……キーボードを加えたり、ギターを一人増やしたり、ツインボーカルにするなどが考えられるが、やはり七人では相当な腕前が無ければガチャガチャするだけであり、聞いている方も不快であろう。練習時間の暇もあまりない中途半端なものを晒すことになる。面白そうな試みではあるが、余は反対だ』


『『『『『(え、反対理由そこですか!?)』』』』』



 冷静に反対した。心の中でほかの六覇たちがツッコミ入れながら。



『うがああああ、大魔王様ぁ、練習時間は気合と魂で補うんっすよぉ! 俺様はかつてガキの頃……つまらねえ日常にイライラして暴れて腐っていたころ、街にふらりと現れた魔王軍のボランティアの音楽祭……そこに登場した謎の覆面ミュージシャン・ジミヘントレイナリックスってぇのに感銘を受け、あのギターテク……そしてシャウト! いつかあんな最高な音楽を魔界に轟かせるために魔王軍入ったんだ!』


『///////』


『っと、そういやぁ、大魔王様! その覆面、間違いなく魔王軍のボランティアだったっすけど、マジでご存じないんっすか! 誰に聞いてもそいつの素性知らねえって……くそぉ、どこに居やがるんだ』


『ウーム……余ハマルデ心当タリ無イナー』



 曲者の多い六覇において、中には裏で何を考えているのか分からない者もいた。

 しかしその中でもゴウダはとにかく単純単細胞バカであり、ほかの六覇たちはいつも呆れていた。




 しかし、そんな馬鹿が世界の歴史に名を刻み、そして今もまた死して十数年後の世界でその名を多くの者たちが叫んだ。


「「「「「ゴ・ウ・ダ! ゴ・ウ・ダ! ゴ・ウ・ダ!」」」」」

「ゴウダ様あああああ!」

「ゴウダ兄貴いい!」

「やっちまってください、ゴウダの大将ッ!」

「おい、若造どもはちゃんと見とけよ! アレが伝説の六覇最高のロックンローラー・ゴウダよぉ!」


 太陽なき暗い魔界で、各地でボルテージが上がり、雄叫びが轟く。


『へ、へへ……魔力と筋肉操作で……まぁ、あれだ……こうすることによって……見失わねえ……絞ったから軽くなり……スピードも上がって……まぁ、無理やりやってっから……この刺激で……爆発までの時間が一気に縮まったが……瞬殺すっから関係ねえぇぇ! テメエをもう逃がさねえってことだよゴラァァァ!!』


 残り僅かな命を更に削ることにより、筋肉や血流のコントロールでパワーもスピードもアップさせるゴウダ。

 

「パンプアップだゾウ……常人ではあの状態のゴウダに触れられただけで肉塊と化すゾウ……それを……」


 かつてゴウダと肩を並べた六覇のライファントも武者震いのような興奮が収まらない。


『大魔パリィ! 大魔スリッピングアウェー! ここだ、大魔フロッグパンチ!』


 それを人間の青年が素手で軌道を変えたり、顔面目掛けて飛んでくるパンチを首ひねりなどで回避する。


「一歩タイミングがズレたら間違いなく取り返しがつかないことになっていたというのに……しかも、あの拳の暴風の中からカウンターまで叩き込み……誠に勇敢だゾウ」


 ライファントはこれまでの鑑賞会でアースの力に関しては十分すぎるほど認めていた。


(大魔王様……もし、このアース・ラガンの到達した姿に貴方様が関わっていらっしゃるのであれば……なんと気持ちの良い若者を導かれたものだゾウ……)


 もはや自分たちかつての六覇や地上の七勇者たちとも遜色ない世界最高最強レベルに割って入る力の持ち主だと。

 しかし、力だけではない。

 正面からゴウダと素手で一対一で戦うということ自体に感服し、敬意を表してしまうほどであった。

 ただ一方で……


『逃げてんじゃねええええええ! 漢なら止まって打ち合わんかああああ!!』


 ゴウダはゴウダでこれだけやるアースに対してものすごく身勝手なことを言っている。


「やれやれゴウダらしいというか……それはあまりにも酷だゾウ」


 と、アースに少し同情してしまった。

 だが……


「そうだー! 殴り合え、アース・ラガン!」

「俺たちはよぉ、技だの速さだの、もう今回はどーでもいんだよぉ!」

「力だ! ゴウダ様の、あの破壊と暴力のロック魂に応えてさしあげろってんだ!」

「いいのか、アース・ラガン! これがゴウダ様のファイナルライブだぞぉ! ゴウダ様が認めた男なら、正面からやり合え!」

「そうだ、殴り合え、アース・ラガン! お前ならできるだろうが! ビビッてんじゃねえ!」

「いけえええええ!」


 それは、アースに対する不満なのか、それとも応援なのかは分からない。

 しかし、ライファントが魔界政府の窓から見える魔界都市の民たち、多種多様の魔人や獣人などの種族が、アースに向かって声を上げていた。


「ふはははは、ゴウダだけでなく魔界の民……いや、ゴウダファンたちもまた酷だゾウ。だが一方で……ヒイロや七勇者たち人間の名を呪いや憎しみの意味を込めて叫ぶ民たちは多かったが……こんなふうに魔界で熱く人間の名を叫ばれるのは……正直記憶にないゾウ。もはや、魔界までもがアース・ラガンに夢中で、しかも要望しているゾウ」


 この奇妙な光景、しかしそのことに対して不謹慎だの理解できないなどとライファントは口にしない。

 むしろ「気持ちは分かるかもしれない」と笑った。


『ライファント……先ほどから魔水晶からそちらの騒音? いや、歓声? 色々と賑やかなのが聞こえてくるんだが……』


 ライファントの手に持っている魔水晶から帝国のソルジャの声。

 その疑問にライファントはまた笑いながら答える。



「ゴウダの……いや、ゴウダとアース・ラガンのライブに興奮を抑えきれぬ民たちが叫んでいるゾウ。というか……そちらの方からも聞こえてくるゾウ」


『む……なるほど……そうか。まぁ、魔界からすれば無理もないだろうね。なんせ、ゴウダがヒイロに倒されたわけではなく、その上で最後の命燃やし尽くす戦いにアースを選んだ……』


「うむ。ゴウダの頭にはもはやこれから来る連合軍を巻き込んでの爆発など何も考えていないゾウ。ただ、自分の最後の相手に全てを出し尽くしてぶつけようとしているゾウ」



 確信を込めてそう口にするライファント。


『うおおおおお、大魔螺旋アース・スパイラル・ブレイクゥゥゥッ!!!!』

『うお、ごおおおあああああ!!??』

『風穴開けてふっとべぇぇぇ!!』

『舐めんなクソガキャぁぁぁ!』


 ライファントの耳には空からはゴウダとアースのライブ、魔界からは民たちの熱狂、そして魔水晶からは……


『いけぇ、アース、伝説を倒しちまえッ!』

『だけど、あのゴウダってのもスゲエ……やっぱ、流石は伝説の六覇!』

『うおおお、アース、大魔螺旋でぶち抜けぇ!』

『げえええ、大魔螺旋を弾いた!?』

『とにかく二人ともすげーえええ!』


 人類の熱狂も聞こえてきていた。


「やれやれ……小生もあの時代にアース・ラガンと出会って戦うチャンスもあったゾウ……そう考えると惜しかったゾウ。小生も、このアース・ラガンと……」


 その興奮ゆえか、自らもアースと戦ってみたい、自分もゴウダのように何もかもを忘れて全力でぶつかってみたいと思ってしまうほどに。


『ライファント……お前こそが、ヒイロで満足してもらわないと……』

「ふっ、半分冗談だゾウ、ソルジャ。だが……そちらも思わないゾウ? 王だの総統など、そういった肩書や背負っているものを忘れ、一人の武士として存分に……という気持ちを」

『……どうだろうね。私はこの十数年政務ばかりで槍も碌に振るっていない……どちらかというと、今も剣を振り続けているライヴァールの方がわかるんじゃないかな?』

「そうか……ん? ライヴァールは猿轡嚙まされているゾウ?」

『はは、そのつもりだったがもうやめた……いまさら何を言っても言わなくても遅いからね……」

『ふっ、確かにそれもそうだゾウ……」


 ライファントとソルジャが苦笑している間も地上と魔界の民たちは身勝手に「アースに殴り合え」と声を上げる。


『大魔コークスクリュー・ヘッドシザースッ!!』

『んごっ!?』

「「「「『『『うおおおおお、ファイヤァァァァァー!!!!』』』」」」


 その声に、またライファントとソルジャはクスリと笑い、


「にしても、魔界だけでなく人間たちも酷だゾウ」

『ああ、ゴウダと殴り合えなんて……それがどれほど恐ろしいことか……ゴウダと一対一で戦うだけで恐ろしいというのに』


 人間も魔族もゴウダも身勝手な……と笑っていると、猿轡から逃れていたライヴァールが……

 

『まったくだ』


 話に加わり……



『一般的に技や戦法は力のないものが力あるものに挑むために使うもの。それらを駆使して強きものを倒すのだ。それは何も恥じることではない。だからアース、殴り合いの誘いに乗ってはならん。ゴウダと一人で戦えるだけで誇れるべきことだ』


「うむ……だ……ゾウ? ……ん?」



 ライヴァールの考えに同意するように頷いた……ところで、ライファントはハッとした。


『ちょ、おま、ライヴァール!?』

『『『『ライヴァール様ぁ!?』』』』


 向こうでソルジャたちもハッとしたように声を上げた。

 

「ぬ、ぬぬ……ライヴァールがそう言う……と、いうことは?!」

『あっ、いや、待て、……そうではなく!?」


 ライヴァールも自分のこれまでの傾向にハッとなり慌てて……


『そ、そうだ、うむ、アースはゴウダと拳と拳で正面から殴り合うだろう! って、アースの拳はすでに破壊されて……いや、それでも正面から殴り合うであろう!』


 と、あえてライヴァールは言い直した。

 ということは? 

 すると、アースはすでに両腕がダメージを受けてまともに拳を振るえない状態になっていた。

 ここから殴り合うのは不可能。

 そのとき、


『ガハハハハハハハハ、貧弱うぅぅぅ!! 終わりだああああ、アーーーースゥゥゥッ!!!!』


 ゴウダの巨大な右拳。筋肉操作で文字通り巨大化させた拳。

 これはステップや上体反らしなどでは逃げられない。

 触れられたら間違いなく消滅。

 すると……



『大魔螺旋ヘッドバットッ!!』


―――――ッッ!!??



 アースは拳ではなく頭に大魔螺旋を作ってぶつけた。

 

「な、なんだとだゾウ!?」


 ゴウダの拳に向かって頭突き。

 言葉にするだけでも震えてしまうことをアースはやった。

 さらに……



『大魔螺旋アース・スパイラル・ダイビングヘッドバットブレイクッ!!』


『やりやがったなコラぁぁぁあ!! ロックンロール・ビートルズヘッド!!』



 アースが追撃の頭突きをしようとしたら、ゴウダもまた頭突きを返してきた。

 鐘の音が鳴るというものでは足りないぐらいの轟音が世界に響く。



『大魔螺旋アース・スパイラル・ダイビングヘッドバットブレイクッ!!』


『ロックンロール・ビートルズヘッド・ワンスモアァァァァァァァッ!!』



 さらに、もう一発互いに互いに頭突きし合う。


『あ、アース……ちょ、ライヴァール! き、君が、君はあああ、殴り合う予想は確かに外れた……外れてもっとメチャクチャなことになってるではないか!?』

『……な、なんでなんだ………』


 魔水晶からはソルジャがライヴァールの胸倉つかんで激しく揺さぶって、ライヴァールは白目をむきそうになっている。

 だが、ライファントは……


「し、信じられぬゾウ! アース・ラガン……拳同士で殴り合うとか云々を超越し……頭と頭をぶつけあう!? ゴウダ相手に生身の人間が!? 世界史上そんな存在これまでいなかったゾウ! 小生でも無理だゾウ! ゴウダと頭突きし合うなど、他の六覇でも! そもそも小生らは頭突きどころかバンドすら断った程度……そ、それを……アース・ラガン……アース・ラガンッ! なんという男……漢だゾウ!」


 脱帽した。



「ゴウダの誘いに、誘い以上の行為で応える漢など初めて見たゾウ!」



 全ての肩書や自分の立場を忘れて、一人の男としてライファントはアース・ラガンに惚れた。

 それは、ライファントだけでなく……


『はあ、はあ、けっ、……は、はは……ガーハッハッハッハ! やりゃできんじゃねぇか! 小細工するよか、今の方がよっぽどいいツラしてんじゃねぇか!』


 ゴウダも心から嬉しそうに笑っている。

 そして……


「すげえぇ! あ、あのゴウダ様に、ず、頭突きぶつけ合うとか!?」

「ああ……アオニーの時のアレを……ゴウダ様になんて……」

「できるか?! あんなこと誰にできるってんだ! あのゴウダ様……魔界史に残る魔巨神ゴウダの巨大な拳に頭をぶつけるなんて……そんなことできるやつが他に誰がいる!?」

「ゴウダ様……嬉しそうに笑っていらっしゃる……認めているんだ……嬉しいんだ……ゴウダ様にとことん応えるアース・ラガンが……」

「なんて漢だ……アース・ラガン……」


 魔界中から聞こえてくる。

 アース・ラガンに脱帽する声を。


「くそぉ、ゴウダ様ァ、負けるなー! アース・ラガンもやれー!」

「うおおお、ゴウダ様! ゴウダ様!」

「ゴウダ様! アース! ゴウダ様! アース!」

「二人ともサイッコーだァ!」


 ゴウダとアースのライブ。


「ゴウダ、小生らと組むよりも……もっとすごいバンドを組めたようだゾウ。この歓声がその証だゾウ!」


 ついに魔界が二人へ向けてコールした。


「大魔王様……変わりますゾウ! 今日、何かが変わるゾウ……間違いなく! 人間と魔族の何かが……この戦いで……いや、このライブで変わるゾウ!」

 

 本来は武骨で真面目なライファントだが、目を輝かせながら胸の高鳴りを抑えきれずに、ただライブ客の一人となって声を上げていた。


 太陽なき暗黒の魔界が、熱く激しく燃え上がっていた。

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【新作・俺は凌辱系えろげー最低最悪魔将】
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