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禁断師弟でブレイクスルー~勇者の息子が魔王の弟子で何が悪い~  作者: アニッキーブラッザー
第九章(三人称)

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第五百二十七話 超えられない壁

 ハクキ登場からの混乱や、その圧倒的な力。

 エルフの集落からすれば十数年ぶりのことであり、当時の大人たちもこのときのことをトラウマのようにその身に刻まれているために、顔を引き攣らせていた。


「あの時は、本当に怖かったよね」

「うん、僕も流石に死を実感したよ……」


 ハクキに手も足も出ずに喰われる寸前だったエスピとスレイヤも苦笑している。

 そして……



「なんとまぁ……そりゃ勝てるわけがないというか、よく皆が生きておったのぅ……」


「当時のオイラたちが束になっても勝てなかったんだ。そりゃエスピ嬢とスレイヤの兄さんだけじゃキツイじゃな~い」



 遥か昔から人類の天敵でもあったハクキの登場とその強さに懐かしさを感じながらも呆れるミカドとコジロウ。

 さらに……


「ううむ……伝説のハクキでござるか……」

「あかんえ。ウチも勝てる気がまるでせぇへん……これで十数年前……」


 表立って魔王軍の六覇と戦ったことがないものの、それでも自分の強さには多少の自信があったオウテイもカゲロウも力の差を実感している。

 ただ、そんな中で……


『死ぬ覚悟で貴様自身が何かをするか? ほぅ、モンスターテイマー以外に何かできるのか?』


 そんな圧倒的な力を持つハクキの前に、エスピとスレイヤが平伏す中で……


『……立場上……とりあえず、足掻いとかないといけないんで。死ななかったとしても……嫁や皆を凌辱なんてさせたくないんで』


 ハクキと堂々と対峙する族長の姿に……


「お、お……お……お父さんがカッコいい!? うそ! お父さんが、い、いつもメンドクサイとか、ガラじゃないとか、そういうこと言ってるお父さんが、何かすごい頼もしそうだよぉ!」


 自分が知っているいつもの父とは違う、真剣さと覚悟を秘めた族長の様子に、アミクスは興奮して声を上げた。


「お、お父さん、アレ、本当にお父さんなの? しかも、なんかすごい強そうな雰囲気まで出ちゃってるんだけど……」

「あ、や、やめて、アミクス。アレはまだお父さんの若かりし思春期特有の14歳病的な……」

「じゅーよんさ……ううん、お父さんこのころもっと年上でしょ? 大体そんな病気初めて聞いたよ!?」

「いいの、男は永遠の14歳やら少年の心やら、まだ俺は本気出してないや封印された右腕の力が的な底知れないキャラ作りに憧れてたりする側面を持っているんだよ」

「……何言ってるの?」


 族長は族長で、当時の自分を見返してすごく恥ずかしがっていた。しかもそれを全世界に、何よりも娘にまで見られていることが、なおさら頭を抱えさせた。

 だが、それでも……



「まぁ……とにかくアミクス、落ち着いて見なさい。これは……この時のこれは……結構心に大きな傷を残すものだから……」


「え? ……なんで? だって……この時のみんな……お父さんもお母さんも皆も、エスピ姉さんもスレイヤ兄さんも、アース様も……それに、当時は立場は違ったみたいだけど、ラル先生だって生きている……みんな無事だったんでしょ?」


 

 そう、現在この地以外の世界各国では「アースは今、生きているのか?」という心配まで巻き起こるほど騒然としているが、全ての経緯を知っている者もいるエルフの集落は例外だった。

 当時はまだ生まれてなかったアミクスも、空に映っているエルフの集落に居る皆が今も生きていることは見たら分かったので、ハクキに対する驚きや恐怖は確かに感じるが、他の地域ほどではなかった。


 だが、族長の言葉の意味は、そうではなかったことをアミクスは知らない。


 このとき、確かにエルフも、アースもエスピもスレイヤも死ななかった。

 だが、それでも確かに、皆の心には忘れられない傷が刻み込まれたのだ。


「は~……あのとき、俺が気を失っていた時、こんなことになってたのか……へぇ~」


 この時のこの場面については、アースも知らなかったために、色々と思うところがある様子で眺めていた。



「そ、そうね……というか、正直私は今こうしてハニーがここに居るのが分かっているからいいけど、もし分からないままだったら、頭抱えてのたうち回っていたわ……きっと、フィアンセイ姫やサディスさんやクロンさんたちもそうだと思うわ……当然、あなたのご両親も」


「だろうな……サディスとか『坊ちゃまが~』とか言ってる場面を容易に想像できるぜ」


「んもう、そんな簡単に言って……でも、無事だと分かっている状態で観賞出来て良かったわ」



 シノブもアースの傍らで苦笑。

 だが、そんなシノブの言葉に……


「無事だった……か……そうでもねえよ……」

「ハニー?」

「この場面は……この時のことは、族長の言うように、簡単なことじゃなかった……な? ラル」


 アースがそう呟くと、


「だよね、お兄ちゃん」

「うん、僕たちは忘れてはいけないよね……」

 

 エスピとスレイヤも、そして……


「そうだな……小生らにとっては……」


 ラルもその通りだと頷いた。

 

「お父さんも、アース様も、ラル先生たちもどういうこと?」

「ええ。ハニーたちが助かることに、何か相当な大変なことが……」


 その時のことを知らない、アミクスとシノブは首を傾げる。

 すると、アースは少し切なそうに目を細めて……



「いいや、確かに大変ではあったけど……俺らは何もしてねえ……ただ……助けてもらっただけだ。魂がすり減るほどぶつかり合った結果……俺を認めてくれた男にな」














「なんと……ハクキの喰うとはまさか……そんな……そんな能力が……」


 帝国ではハクキの能力をソルジャたちから聞いた若い兵たちが顔を青ざめさせている。

 そして、色々と想像し、吐き気を催す表情で口元を抑えている。


「ど、どうしてそんな能力を……相手は世界最悪の賞金首ですし、どうしてもっと広めなかったのです?」


 その問いに、ソルジャたちは難しい顔を浮かべる。



「理由としてはやはり……『そういうことをする』のは、あくまでハクキ一人であり……『オーガや魔族は人間を喰う』という勘違いをしてほしくなかったからな……それが、魔族と人間の間で友好を進めるにはどうしても……」


「いや、ですからそれはあくまでハクキ一人であり、他の者たちは実際には違うという情報を―――」


「しかし、アレが『ハクキだけの能力』であり、『ハクキだけの体質』であると言ったとしても……他のオーガにもそういう者はいるのではないのか? ハクキだけではないのではないか? ハクキだけという根拠はあるのか? 言い切れるのか? という疑念は抱くであろう? 実際、ハクキの恐怖を知る古い大人たちの間では『オーガは人を喰う』と思っている者たちもいるし……我らも『ハクキだけ』と言い切れないところもあった」



 ハクキの首は狙いつつも、その悍ましい能力だけは、能力ということだけで割り切れないとして、連合の上層部は大っぴらに公表したりしなかった。

 そして、ハクキ自体がこの十数年間、付き従うオーガたちをまとめて姿を消し、表舞台で大きな行動もとらなくなっていったので、ハクキの名以外はそこまで後世に伝えられなかった。

 しかしこれで……


「陛下……帝都の方も……」

「うむ……」


 人々は知ってしまう。






「おそろしや……人喰いハクキじゃ……」

「うぅ……ワシらの英雄だった御方も……喰われた……」


 鑑賞会をする帝都の中でも、魔王軍最古参であるハクキの恐怖を古い世代の者たちがより一層知っている。

 その何十年もの昔の恐怖を思い出し、老人たちは震えている。


「おじいちゃん、あのハクキの喰うってそういう……」

「喰うんじゃ……むしゃむしゃと……あぁ……今でもワシも覚えている……あの血肉に飢えた鬼……」

「……うぷっ……」

「ソルジャ皇帝陛下やヒイロたちより前の世代……『ツナ』の時代、かつての英雄たちも……」

「ッ!?」


 そして、老人の言葉を聞いた若者たちも顔を青ざめさせ、再び恐怖する。

 

「なんか、お、おれ、そういえばバアちゃんとかにも、悪いことしてるとオーガに食われるぞ~とか言われたことあったけど……本当だったんだ……」

「じゃぁ……他にもそういうオーガが居てもおかしくないよな? ハクキだけって方がむしろ不自然だし……」

「じゃぁ、アースくんがオーガの親友とかの話もしてたけど……でも……オーガが人を食べる種族だとしたら……」


 そして、ある意味で「オーガ」とこれまで関わったり、魂をぶつけ合ってお互いを知るというような行為とは無縁だった者たちの中では、分からないからこそ、聞いた話でオーガをイメージするしかなくなる。


「ねえ、おじいちゃんたち。オーガって種族はそういう種族なの?」

「一応そういうのはハクキだけではということは聞いたことあるが……」

「そう……でも……でも……」


 その結果、オーガは本当に友達になってもいい種族なのかという言葉まで飛び交う。


「ハクキだけかもしれなくても、ハクキだけじゃないかもしれない……いくらアースがオーガの親友が居るって言っても、それはアースが強いからで……やっぱりそんなの――――」


 ハクキだけとは言い切れない。

 それは、アースを見ていればどうにかなるかもしれないと少しずつ思い始めた者たちに対し、「人とオーガの超えられない壁」のようなものを見せつけられたような気分であった。







「ま、喰う能力はぶっちゃけあのハクキにとってはおまけみたいなもんじゃ。実際、喰う相手より自分の方が強いんじゃからな」


 と、バサラはその能力について、ハクキ自体の素の力の前では大したものではないという様子だが、それでも「そういうことをする存在」というだけで、皆は震えた。


「く、喰うか……強いだけでなく……そんな……」

「まるで野生の獣……負ければ喰われるという……なんという……」

「じゃ、じゃあ僕たちももし戦って負けたら……」

「殺されるのではなく、喰われる……か……喰われる……竜と戦ったときも、奴らは我々を喰うつもりで襲ってくるわけで……そういうことは珍しくもないのだが……言葉を発し、言葉を理解できるものを喰う相手を……」


 強さだけでない恐怖の要因に、フィアンセイたちも寒気が止まらない。

 


「ま、確かに言葉を理解できる相手を喰うというのは、なかなかメンタルがすり減るからのう……モンスターマスター共や、古代魔法で動物の言葉を分かるものとかもあるが……基本は菜食主義者になるのう」


「し、師匠……本当に……人を喰うオーガは……その、ハクキだけしかいないのでしょうか?」


「そんなもん知らぬわ。大体、うぬらとて牛や豚を食うであろうが。ミノタウロスやオークが何とも思っておらんと? ワシら竜も獣を食うし、別に人間を食えぬわけではない。ワシは食わんがな。それを殺しと割り切るか、食事と割り切るか、弱肉強食と割り切るか、それとも超えられぬ絶対の壁と捉えるかはうぬら次第」



 アースがオーガに友達が居るのなら、その友達が世間に受け入れられないのなら、自分たちの世代でどうにかその認識を……と、軽はずみに思っていたことをフィアンセイたちは恥じた。

 こういうことを確認しなければ自分たちは「そういうもの」に拒絶や拒否の意思を示してしまうと。


「ワシもハクキをぶっ殺したほど嫌いじゃが、そういう能力に対しては特に思うところはない。ただそういう体質を持って生まれてしまった……それだけじゃ。そこを責めるのはハクキが哀れ。まぁ、あやつはそういう同情も偏見も差別も屁とも思わず、『分かる者だけ分かっていてくれればよい』という奴だからのう……いや、意外と拗ねるか? あやつ、微妙にガキっぽいところもあるからのう! ぐわはははは!」


 そして、バサラの言葉に皆も何も言えなくなってしまう。

 今ここで議論しても、自分たちの目の前にオーガが居るわけでもなく、ハクキやアオニーやアースの親友のオーガとも会ったことがあるわけでもないのだから。

 ただ、それでも……


「まぁ、仮にその壁があっても……あの小僧はその壁の向こう側……『こっち側』なのじゃろうがな」


 アースは自分たちの戸惑っている線や壁の向こうに居る。

 それをまざまざと突き付けられた。

 そして……



『誰の妹と弟を食おうとしてやがるこの変態クソ野郎がああああァアアアアアアアッッ!!!!』



 そして、アオニーとの一騎打ちの果てに気を失っていたアースが飛び起きて、そのままとにかくハクキめがけて殴った。


「アースが目を覚まし……って、いきなり殴るか?!」

「坊ちゃま! って、状況分かっているのですか!?」

「相手はハクキなのに!? し、しかも、もうアースにはそんな力は残っていないのに!?」

「いや、そ、それに、ふ、普通にアースのパンチをハクキはくらったぞ?!」


 ピンチの状況下、アースが立ち上がり、とにかく問答無用でハクキを殴った。


「おお~、起きおったか小僧! よし、殴れ! もっと殴れ! ぼっこぼこに殴り殺してやれい!」


 バサラは嬉しそうにハシャグ。

 そしてアースの拳がハクキの顔面を捉えたことに世界が揺れる。

 だが……



『うおぉ、お、こ、拳が潰れ……なんって固さしてやがるんだ、こいつ……』


『ふふ、吾輩に対して武器も持たずに拳で殴り掛かるとは、大した度胸だ。おまけに殴った拳の骨が折れていないとは、なかなか鍛えられているな。随分と不細工な面構えになっているが、アオニーをあんな状態になるまで追いつめたのも頷けるな』



 ハクキは無傷。むしろ殴ったアースの方が痛がっている。

 避けるまでもないと判断したのか、いずれにせよハクキは殴られてもむしろ笑っていた。

 そんなアースに……


『お、お兄さん、ダメだ! そいつは……六覇最強のハクキだ!』

『お兄ちゃん、戦っちゃダメ!』


 スレイヤとエスピが必死にそう叫ぶ。

 アースも流石に驚いた様子だ。


「そうだ、逃げろ、アース! そいつに今のボロボロのお前が勝てるわけがないんだ! 逃げろ!」

「坊ちゃま、駄目です!」


 六覇最強のハクキ相手に、今のボロボロになったアースではどうしようもないとフィアンセイたちが叫ぶ。

 だが、アースはハクキに驚いたものの、ビビる様子も逃げる様子もなく……


『はっ、はぁ、はぁ、……ああ……そうみてーだな』


 と、受け入れた。


「バカな、何故そうも落ち着いていられる! アース!」


 リヴァルは堪えきれずに声を荒げた。

 自分たちはこうして安全な場所で鑑賞しているだけなのに、次々と出てくる伝説たちに腰を抜かしたり、声を上げたり、そして力の差と恐怖に震えたりしている。


「どうして……どうしてお前は……立ち向かえる! 逃げないのだ!」


 アースにいつか追いついてみせると誓ったリヴァルだが、どうしてアースはここまで? と、苦悶に満ちた表情を浮かべる。

 だが、アースがビビらない理由は簡単で……



『今さら、六人のうちの一人に会ったぐらいどうした。ヤミディレ、パリピ、ノジャ……もう、六覇はお腹いっぱいなんだよ』


「「「「そりゃそうだ!!!!」」」」



 既にアースは六覇の半分と出会って、しかも戦っているのだ。四人目に会ってももうそこまで驚かないどころか、六覇慣れしてしまったという世界でも稀な存在だった。

 もちろんそんなアースに……







「「『そりゃそうだ(ゾウ)!!」」」



 と、ソルジャたちやライファントら帝国でも同意の声が上がり……







 そして……


「そりゃそうだわな!」

「たしかにあの子……ヤミディレ、パリピ、ノジャと戦ってるのよね……しかも勝ってるし……冥獄竜王なんてのにも立ち向かったし……」


 ヒイロとマアムも息子の壮絶すぎる人生からすれば確かにその通りだと納得してしまうものだった。

 そしてハクキは……


『それに……それに、どんだけ大物だろうと、伝説だろうと……六覇最強だろうと……仮に『今』の勇者ヒイロより強かろうと……最終的には大魔王トレイナよか弱ぇんだろうが! つーか、やらなきゃ、いけねーんだろうが!』 


 続けて叫ばれるアースの言葉を、十数年ぶりに改めて聞き……


「ふふふふ……ふはははははははは、そういうことだな! はははははは、なるほどな……くくくく……大魔王トレイナより弱い……確かにな! 六覇がどうこう以前に、確かにそれならアース・ラガンが吾輩に怖気づくハズがない……ふははははは!」


 十数年前と違い、改めて聞いたアースの言葉の真意を理解し、笑いが収まらなかった。

 そして……



『ぬううんんっ!!』


『がはっ―――――』


 

 猛るアースを、アオニーが背後から殴って気絶させた。


「……え!? ちょ、ま、え!? なんで!? あのオーガ!」

「うそ……うそ! ちょ、アースが! そんな!」


 アースが立ち上がり、反抗する意思を示した瞬間、アオニーが背後からアースを叩くという予想外の行動。

 その予想外の言葉にヒイロとマアムだけでなく、世界が言葉を失う。


「そして、ここに繋がるわけか……」

「「ハクキ!?」」


 そしてハクキはそれを目を細めながら見て……




「……アース・ラガンにも……そしてアカとやらにも……いつか伝えてやらねばならんな……あやつの最期の言葉を」



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【新作・俺は凌辱系えろげー最低最悪魔将】
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