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禁断師弟でブレイクスルー~勇者の息子が魔王の弟子で何が悪い~  作者: アニッキーブラッザー
第九章(三人称)

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第五百二十四話 満たされ気が抜けた

「もったいない……歴史の裏でこれほどの男二人が戦い……そのことを世界は知らなかったのだから」 


 滾る戦いに魅了され、帝国にて思わずソルジャが呟いた。

 その「もったいない」という言葉にその場に居た者たちも、そして魔界と繋がっているライファントも頷いた。


『その通りだゾウ。まぎれもなく、熱戦……もし戦争の表舞台で行われていたら、魔界でも地上でも歴史に名を遺して後世に語り継がれていたと言えるゾウ』


 七勇者と六覇すらも認める、二人の男のぶつかり合い。

 アースとアオニー。

 この場にいる者たちだけでなく、今では二人を世界が注目している。

 

「そう思うと複雑ですね、陛下」

「確かにそうですね。だって、あの闇の賢人がこういう機会を提供しなければ、我々の誰もがこの戦いを知らないままだったんですから」

「あのアオニーも、鬼天烈の戦死者の一人というだけでほとんどの人類が知らず、歴史の教科書の備考欄にも載らない程度でしたからね……」


 兵たちも苦笑しながら頷いた。

 

「確かに、アースの所為で教科書の書き換えが今後大変だな……だが今は……どんな結末になるにせよ見届けようではないか」


 いつまで続くかと思われたぶつかり合いも、いよいよ終りが近づいてきた。

 これが最後だと、今まで以上の力を込めて身構えるアースと、それを受けて立つアオニー。


『正気じゃねーべさ。どうして……アカはおめーなんかと……友達になったーべさ?』


 すると、ここに来て決着の前にアオニーがアースに問う。

 それに対して……



『さーな……逆に……俺も疑問だよ。どうしてあんたはそんな……根性あってツエーのに……どうして、あんたは……アカさんを……』


『どうでもいいーべさ! オラはもう、あんなカスどうでもいいーべさ! あいつは死んだ……それでいーべさ』



 アースもまたグチャグチャになった顔でも伝わってくるほど切なそうにそう返すも、それを言わせまいとワザとらしくアオニーは声を荒げて跳ねのける。


「それにしても……ああ……もったいないだけではなく……やはり惜しい……」


 そんなアースとアオニーのやり取りに、ソルジャもまた切なそうに呟いた。


「もし……この二人が……戦争の世に出会っていなければ、同じように喧嘩はするかもしれんが、きっと良い友に……………いや……」

「陛下?」

「いや、違う。そうか……そうではないのか」


 戦争のない時代であれば、きっと喧嘩して互いを認め合って友になれるかもしれない。

 そう呟こうとしたソルジャだが、途中で止め、ハッとしたように自分の言葉を自分で否定した。



『ソルジャ……どうしたゾウ?」


「違うんだ……戦争の世で出会っていなくても、そんな簡単なことではないのだ……何故なら、この時代で出会ったアースと、そのオーガのアカという者が友になれたのに、我々は最初その話を聞いた時は、冗談だと思ってしまっていた……つまり、世界も、私たちもまだそうなのだ」


『ぬ……むぅ……』


「大戦は終わったが……戦争は終わっていない……アースもだから嘆いたのかもしれない」


――くそぉ……戦争なんてさっさと終わらせやがれよ……クソ親父が……


「アレは、ヒイロだけでなく私たちに向けられた言葉だ。私たちでもそうなのだ。もし仮に街にオーガが現れたら……きっと民たちは……」



 魔界と地上も和睦をして十数年。少しずつ友好を進めようと努力している。

 だが、それもまだまだである。

 

「ふふふ……それ以前に私たちは御前試合でアースの大魔螺旋を見ただけでああなってしまったのだからな……アースとアオニーがたとえどの時代で出会っていたとしても、我々が変わらぬ限りはどの時代で出会っても同じなのかもしれん……」


 友達同士の者たちを周囲が認められる世でない限り、何も変わらない。

 ただ、それでも二人の男の決着は着く。男が願おうと願わなくとも、「二人の決着」だけは間もなく着く。



『いくぞぉぉぉぉ! 大魔ダッシュダイビングヘッドバッドッ!!』


『ああ……口だけじゃねえなら……ほんとうにやってみるーべさ!』

 


 さぁ、最後の……そして決着は……


『くっ……なんて一撃……もう……気持ち関係なく、膝が……粉々だーべさ……』

『へ……どーだ……みたかよ。俺は……アカさんと――――――』


 倒れて、満足そうに笑みを浮かべてそのまま地べたに倒れ込んだアース。気を失っている。

 一方で、アオニーはその自慢の膝を完全に粉砕されてしまっている。


「こ、これは……」

『ぬぅ……この決着は……』


 傍目から見て両方立ち上がれそうにない。

 しかし、アースは気を失って倒れ、アオニーは立ち上がれそうになくとも意識はある。

 この場合、勝者は――――


『オラの負け……だーべさ。ここは撤退だーべさ……』


 意識のある方が負けを宣言した。


「なんと!?」

『あのプライドの高いオーガが……ましてや鬼天烈のアオニーが自ら敗北を宣言したゾウ?! ……いや……そうか……』


 勝敗は、どっちが倒れたかではなく、どちらの心が屈服したかで決した。

 本来意識があるアオニーの方が勝ちと言えなくもない。

 しかし、アースがアオニーの土俵で戦ったうえで、アオニーの自慢の膝をあえて食らい続けながら、逆に粉砕したのだ。

 だからこそ……



『プライドが高いからこそ、これで勝ち名乗りを上げるわけにはいかないということだゾウ……』


「なんという……死ぬまで戦うような戦闘集団……あの鬼天烈の一角の心をへし折った……屈服させた……アースが……」


『戦闘で戦って殺されることになろうとも屈せぬアオニーを相手に……お見事だゾウ。アース・ラガン』



 アースの勝利という結果に、アオニーの周囲にいるオーガたちは激しく戸惑っているようだが、この光景を見ている鑑賞者たちは異議を唱えない。



「「「「「うおおおおおおおおおおおおお!!!!!」」」」」


「すげー、アースくんが勝った! あんな、あんな熱血なことまで!」


「やるじゃねえか、あいつ!」


「あのアオニーってのはオーガだけど、まぁ、やるじゃねえか。俺はあのオーガだけは他と違って結構骨があると思ってたけどな」


「僕、あのオーガはそこまで嫌いじゃないかもな……」


「まぁ、しかし最後は正義が勝つってことだよな!」



 そして、大歓声とアースを称える声が帝都からも聞こえてきた。

 中にはアオニーに対する「悪くない」声も聞こえてくる。


「やれやれ……皆も都合がよいものだ……まぁ、それは私たちもだがな」

『小生も否定できぬゾウ』


 ソルジャたちは思わず苦笑してしまう。

 勝敗が決し、肩の力が抜けてドッと疲れたソルジャたち。


「ふう……まぁ、いずれにせよ……」


 そんな中でようやく緊張した空気が和んだことで、この戦いの間ずっと黙っていたライヴァールが……



「これにて一件落着というわけか」


「ああ………………………………え? らいヴぁーる?」


「「「「「………………………………あ」」」」」


『……ゾウ?』



 もう流石に何もないだろうと何気なく呟いてしまった言葉に、その場にいた全員が固まってしまった。






 そう、終わったはずだったのだ……「当事者」たち以外はそう思っていた。



「アースぐん……うぅ、またあんな……『あのどぎみでぇ』に、あんなボロボロになって……」


「ふふ、そうね。アーくんったら、親友もおばあちゃまにも心配させて……怪我が男の子の勲章なんてレベルじゃないわね」


「でも、よがっだ……アオニーには撤退つってた……よがっだ……おで、もしアースぐんとアオニーにが殺し合ったりなんてしてたら……しかも、おでのことで……おで、どうしたらいいか分からながっだ……」


「そうね……あなたは本当に、友達に想われているのね」


 

 帝都領土内にある辺境の村でも、もう終わったと思っていた。

 悲しみと、安心で一気に感情が緩み、最初から最後まで泣きじゃくっていた男も、これでもう安心だと、更に泣いた。











「はぁ~~~~~~~、良かった……坊ちゃま……」


 カクレテールの砂浜でサディスも安心してその場でへたりこんだ。

 アースの根性比べを応援をしていても、心配していなかったわけではないのだ。


「う、うむ……か、顔がひどいことなっているが……い、いや、私はアースがどのような顔になろうとも!」


 フィアンセイも涙目になりながらもドッと疲れたように溜息。

 そして他の者たちは……


「うぅ~~~~、またとんでもないものを見せつけられた! 僕、今から島の外周を走ってこようかな?」

「オラァ、このまま寝れるかぁ! 筋トレやるぞオラァ!」

「たしかに寝れないよね……」

「むほー、流石僕らのアースくんなんだな!」

「おいおい、若造共、お前らだけでトレーニング先走るんじゃねえ!」

「俺らもかませろ!」

「うおおおおおお、やるぞぉ!」

「僕も! ね、リヴァルもやるよね?」

「……ああ」


 もうこのまま眠れるかと男たちは燃え上がる。


「あはは、あんちゃんに皆がまた感化されてるよ……」

「うふふふ、そうね。マチョウさんもトレーニングしちゃうかな?」

「無論だ……今宵はいつも以上にハードになりそうだ」

「……アマエもはしる!」


 そう、それだけ皆が感化されていたのだ。

 だが、一方でソレは、この場に居る誰もが「もう終り」と思っていたのだ。

 まだ皆は気づいていない。

 唯一先に気づいたのは……



「ぬわはははは、まぁ、見事に面白い情熱であったわい。アチーのう。弟子どもがこうなるのも当然と言えるのう。どれ、なんならワシがスパーリングの相手に……って……ん?」



 同じく機嫌よさそうに体を疼かせていたバサラ。

 バサラは空を見上げながら首を傾げ……


「そういえば……初日、二日目の頃に比べたら、短いのぅ……」


 アースとアオニーが濃密濃厚な戦いを繰り広げすぎていたことと、皆が満足してしまっていたから、皆も気づくのが遅くなっていた。

 

 そして、すぐに知らされることになる。


 本日の鑑賞会はまだ、始まったばかりだということを。









「ふぅ……終わったか。にしても、アース・ラガンめ……無茶しおって。顔もボロボロではないか。もしこれでブ男になってしまって、クロン様に愛想を―――」


「え? アースのお顔……とっっってもかっこいいではないですか、お母さん」


「……え?」


「だって、あんなに自分を追い込んでボロボロになるまで意志を貫く勇敢さを証明したお顔なんですもの……アースが世界一カッコいいのですが、そのカッコよさと、私の好きがアースで更新されちゃいました!」


 

 と、ナンゴークのマルハーゲン一家の庭で、それまでアースとアオニーの戦いや、アースの親友に対する切ない思いを見せつけられて、あまりウカれてキャーキャー騒がず見届けていたクロンも、流石に張り詰めた空気を緩ませて惚気た。



「ま~……たしかに、冷静にやっていることだけを評価すんなら馬鹿なやつとしか言えねぇんだけど……冷静には見れないっつーか……まぁ、クロン様が惚れんのは分かるね」


「ううむ。ヒイロとマアムの血を引く子……しかし、ヒイロでもマアムでもない……アース・ラガン……強いだけではないというところがまた良いのう」


「うん。私も濡れちゃっ……クロンちゃん、あんな素敵なつがいが居て羨ましい~」


「か、かっこいい……」


「島のザコザコ男子と違ってヤバーい」


 

 マルハーゲン一家も一部始終に心満たされて空気が緩んでいる。

 ただ、その時だった。


「ん? なんだ? 何か様子が……」


 ヤミディレが眉をしかめた。


「どうしたのです? お母さん」

「いえ、何だか……空を……ほら、アース・ラガンは倒れ、オーガ部隊は撤退……という話でしたが、何か様子がおかしいです」


 ヤミディレの言葉にクロンたちが改めて空を見上げると……


『な、に? ……エスピ! これは……』

『う、うん』

『ぬっ、こ、これは……まさか!』

『な……なん……だ……この強烈なプレッシャーは……』


 エスピやスレイヤたちが急に顔を青くして周囲を見渡している。

 アオニーやラルウァイフも汗を流しながら顔を引き攣らせている。



「なんだ? 誰かが近づいているというのか? オーガの増援か? それとも……新手の鬼天烈でも?」


「え!? そんな、それはまずいです、お母さん! だって、今アースはボロボロで倒れています!?」


「あ、いえ……そこまで心配されずとも、あの場には七勇者のエスピも、天才ハンターのスレイヤもおりますので、よほどの者でない限り―――――」


 

 アオニーとアースの決着はついた。

 しかし、まだ誰かが登場しそうな様子。

 とはいえ、エスピたちもいるのだから大丈夫だろうとクロンにヤミディレが告げるのだが―――――





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【新作・俺は凌辱系えろげー最低最悪魔将】
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