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禁断師弟でブレイクスルー~勇者の息子が魔王の弟子で何が悪い~  作者: アニッキーブラッザー
第九章(三人称)

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第五百二十三話 行け

 ジャポーネ中が熱気に包まれていた。


「うおおおお、やれぇ、アース・ラガン!」

「うげ、や、やべえ、えげつない膝がぁ!?」

「いや、あのアオニーってのも相当痛いはず」

「でも、あのアオニーってのもそれでも膝を繰り出している」

「アース・ラガンだけでなく、あのアオニーという者も刀のように折れぬ心の持ち主」

「何とも……誠に武士!」

「あのシノブちゃんが惚れるだけのことはある……侍以上の武士!」


 特に男たちを中心に、これまで王政に対して色々とうっ憤などを持っていた者たちは、その発散をするかのように声を張り上げて叫んだ。

 そして、男たちが叫んでいる一方で……



「はあはあはあはあはあはあはあ……胸が熱い……高鳴りが収まらない」



 王都の中にある、とある屋敷の庭にて、胸を抑える一匹の『翼の生えた猫』がいた……


「僕には地上世界の戦争やら種族がどうとか、オーガのこととか、坊やが語る親友とやらについても分からない。だけど……ただ純粋に歯を食いしばって己を貫く坊やに……苦しくなってしまうではないか」


 完全に蕩け切った顔で頭を抱えてクネクネする猫……それは、天空王子のガアルだった。


「え、ええ? お、王子、何でそんな……怖いじゃないですかぁ。ほんっと、男って野蛮……地上世界なんて特に……」

「わ、わたしも、だ、だめです、うぷ、顔に膝なんて……ガクガクブルブルガクガクブルブル!」


 ガアルと違って側近である二人の天空族は顔を青くして半泣きしている。

 だが、二人と違ってガアルはただ、ときめいていた。


「坊やは……強く、根性や信念があり、かわいくて女性にもモテ……そのうえ……友情にも熱いのだね……なんてかわいい坊やなんだ……でも、そんな坊やにそれほど大切に想われている友……嫉妬してしまうな……僕も坊やともっと仲良くなりたいよ……どうやったら、そこまで坊やに想われる友になれるのか……是非一度会ってみたいものだな、そのアカ氏という者に……」


 と、そんなガアルの隣で……


「……毛皮ビキニと猫耳と尻尾をつけたままってことをこの王子忘れてない?」


 ガアルがイーテェに感化されて拗ね拗ねプンプン猫練習着を着たままであることにツッコミが入る。

 だが、ガアルの頭からはそのことがスッカリと抜け、そして耳にも入らない。



 それほど、熱中していたのだ。



 そして、カクレテールでも――――









「すごい、流石はアースくんだ!」

「オラァ、なんかもう見てるだけじゃ物足りねえ、くそぉ、筋トレしてえ!」

「ヤバイ……」

「さすが、アースくんなんだな!」


 カクレテールでも熱気の渦が巻き起こっていた。

 アースとアオニーの根性比べに感化され、砂浜で男たちは上半身裸になって、シャドーをしたりスクワットを始めたり、とにかくジッとしていられなかった。

 体を動かしてでもいないと、収まらなかった。


「そうだな……あいつは自分との決勝戦でもそうだった……圧倒的体格差があれど、技術と速さは奴の方が上……それなのにあいつは最後には正面からのぶつかり合いをし、そして自分を打ち負かした。それができる男だ……あいつは」


 マチョウは流石にジッとはしているものの、拳を強く握り、そして笑みが抑えきれずに高揚していた。


「そして、師匠の言う通り……言葉では色々と侮辱や罵倒が混じっても、あのアオニーという者もなかなかのものを持っている……アース・ラガン風に言うなら、ハートというものが……」


 さらに、この光景を見せつけられて、マチョウもバサラがアオニーを評したことの意味を理解した。

 アオニーも骨のある男だと。


「ま、まったく、何を……あぁ、またアースの顔が……ええい、というか男たちは少し静かにしろ! あと、服を着ろぉぉ!」

「アハハ……道場でマチョウさんの豪快な技とかを見ている私たちは免疫あるけど……」

「フィアンセイさんにはまだ難しいみたいっすね~。ま、それはそれとしても、あんちゃんはやりすぎっすけど」


 男たちが熱くなって大騒ぎする中で、フィアンセイは頭を抱えてしまった。

 ツクシやカルイは騒がないまでも、それでもこれは無理のないことかもしれないと理解を示しながら苦笑していた。


『アオニー隊長! 俺らも、今のそいつなら囲んで叩けば、確実に殺せます!』


 すると、オーガの一人がボロボロになっているアースを見てチャンスと思い、卑怯な手出しをアオニーに進言する。

 その瞬間、この場に居る皆も、それどころか世界も憤慨しそうになるのは当然の流れ。

 だが……


『邪魔ぁするでねーべさ!』


 アオニーはそれを拒否した。

 卑怯がどうとか言っていられない戦争の時代において、それはアオニーの部下たちですら驚きのことであった。

 当然「オーガがそんなことを?」と人類が驚くのも無理はないこと。


「ば、ばかな……あのオーガが、助太刀を拒否? あくまでアースと一対一に……分からん! 戦争をしているのではないのか?! アースだけでなく、あのアオニーという者まで……それに、あのオーガは指揮官なのであろう? どうして!?」


 理解できずにフィアンセイは叫んだ。

 アースがワザワザこんなことをするのも、更にはアオニーまでもがそのバカなぶつかり合いにこだわる理由も。

 フィアンセイがそう叫ぶと……



「それはあのアオニーとやらもまた……漢だからじゃ」


「ッ……し、師匠……」


 

 バサラがそう言い切った。



「弟子よ、覚えておけ。戦争で世界は変わる……しかし、人の心は簡単に変わらん。一方で、身勝手なバカ同士の全てをさらけ出したぶつかり合いは、たとえ世界を変えられなくても、当人同士の心には響き合うもの……あのアオニーとやらも、エルフの集落に足を踏み入れる直前までは、淀んだ目をしておったが……ぐわはははは、小僧の全てを引き出すことで、眠れる己も曝け出しおったわい」


「っ、し、しかし……そ、それで命をもし落としたら――――」


「命を懸けても貫き通す……とはそういうことじゃ! オナゴにその世界に足を踏み入れよとは言わぬが、そういう世界もあるのだと理解してやれい。さすれば、ちょびっとはイイ女になれるぞ?」



 こういう世界もあるのだと、バサラはただ嬉しそうに呟いていた。


「理屈じゃないんじゃよ。体が勝手に動いてしまうんじゃよ」


 バサラの言葉にフィアンセイはそれ以上何も言えず、戸惑った様子で隣を見ると……



「うん……僕は……マネできないけど……でも、それでもこのぶつかり合いをこのまま見届けたい」


「フーッ!?」


「どっちがすごい男なのか……うん……こんな気持ち初めてだけど、僕も……胸の奥がこう、グワーッて……」



 童顔で小動物のようなフーも、男としてこのぶつかり合いに感じるものがあった。


「……リヴァル……お、お前は?」

「……俺もだ、フィアンセイ……俺もガラではないというのに……身体は正直なものだ……」


 リヴァルもまた、震える拳をギュッと握りしめた。

 まるで、武者震いでも抑え込むように。



『俺はアカさんへの想いが口だけじゃねえって証明するためだ。でも、テメエは何なんだ? 膝をぶっ壊して、嫌いな人間相手に意地になるのは、何か理由があんのか?』


『どうしたーべさ? 急につらくなって……ついに言葉でどうにかしようと思ったーべさ? まっ……ただ、嫌いでムカつくだけだーべさ……人間も……あの……馬鹿野郎も……』


『……そうかい。つまり、決着つけなきゃ何も言わねえってことだな』


『ふっ……間違いねぇーべさ』


『じゃあ、さっさとぶっ壊れて倒れちまえよ! 大魔ヘッドバッド!』


『潰れんのはお前だーべさ!』



 そして、ぶつかり合いの最中……アースとアオニーは……


「わ……笑っている。アースが……あのアオニーという鬼も……」


 笑った。


「どうやら、小僧も見えてきたようじゃ……友を侮辱されて怒り狂って、目の前が見えなくなるほど暴れ、意地をぶつけ……そしてぶつかり合う中で、ふとあのアオニーという鬼について、少し冷静になって見ることで……色々と感じ取ったのじゃろうな……か~~~~~、イチャイチャしおって、羨ましいのぉ~!」


 そんな二人をバサラはイチャイチャしていると馬鹿にしたが、それは嬉しそうで、そして羨ましそうな表情でもあった。



「い、いちゃいちゃ……ぬ、ぅ、我には難しい……サディスよ、お前はどうなのだ!?」


「え? ええ……坊ちゃまが……本当に逞しくなられたと……もちろんお顔が心配でハラハラしますが……でも、私はあんな坊ちゃまが愛おしいです」


「ぬわ?! い、いや、待て、お前はアースが野菜を切るために包丁を使っただけで慌てていたのに、何故今は違うのだ!?」


「ちょ、姫様! 包丁は論外です! 指でも切ったらどうするのです! 危ないではないですか! 坊ちゃまに包丁は早すぎます!」


「………………」


 

 唯一自分と同じ考えかもしれないとサディスに振ったが、サディスは違ったことに余計にフィアンセイは頭を抱えた。

 すると……


「お兄ちゃん……カッコいい」

「ッ、ぁ……アマエ?」

 

 それは、鑑賞会中ずっと不機嫌だったアマエから漏れた言葉だった。



「お兄ちゃん、お顔ボロボロ……鼻血いっぱい、変な顔になってる……でも……お兄ちゃんが頑張ってるのカッコいい……」


「カッコいい……か……カッコいい……それは……確かに」


 

 アマエの裏表のない正直な感想に、フィアンセイはハッとした。

 そして改めて、歯を食いしばる根性比べをしている二人を見て、フィアンセイもしだいに心が落ち着いてきた……


「そうか……戦争がどうとか、そもそもそういうことを、もう当事者二人も超越し……今はそんなことを考えているわけでもなく……であれば、ただの鑑賞している立場の我が何かを言うのも無粋……か……ただ、純粋に頑張るアースを目に焼き付け、アースが何を守り通そうとしているのかを知ることが今の我にできること……」


 そんな風に少しだけ目に映る光景に理解を示し始めたフィアンセイ。


「ぐわはははは、そうじゃ。おぬしは頭が固すぎるんじゃ。バカな男たちにしか理解できない領域は、邪魔せずに『ほんと男ってバカばっかり~』みたいに呆れたように笑いながら見守ってやれい」


 そんなフィアンセイに、バサラはまた笑った。



『うるがああああああああああああ!』


『ぐがあああああああああああああ!』



 そして、一向に終わりが見えないぶつかり合い、ついにアースが最終手段に出る。



『はあ……しつけ……なら……もう、これで終わらせてやる! ……マチョウさん……技を借りるぜ』


「……ん? じ、自分?」



 急に自分の名前が出てピクッと反応するマチョウ。

 そして、アースが前傾姿勢を取り……


「おお、アレは!」

「マチョウさんが全力タックルしたりする時の……」

「クラウチングスタートッ! うわお、あんちゃんそれやるっすか?!」

「え……アレでさらに加速してあの膝に顔から!?」


 カクレテールの住民たちならよく知っている、マチョウの必殺タックルを放つための体勢。

 それをアースはここで使う。


「ふっ、こんなところでまさか自分の技を使ってくれるとはな……光栄だ」


 この熱きぶつかり合いの最期に自分の名を呼び、自分の技を使ってくれることに、マチョウは満更ではなく、嬉しそうだ。

 


 そして―――






「ちょ、アース、ま、待ちなさいよ! さ、流石にそれは! そ、そんな、そんな今まで以上に体を投げ出して――――」


 息子の命知らずのメチャクチャな行動に、世界の果てでマアムは喚いてしまい、しかしその声が届くはずもなく……

 


「待って、アース!」



 ただそれでも止めようと声を上げるマアムだったが……



「行け!」

 


 ヒイロは笑みを浮かべながら、逆にエールを送った。

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【新作・俺は凌辱系えろげー最低最悪魔将】
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