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禁断師弟でブレイクスルー~勇者の息子が魔王の弟子で何が悪い~  作者: アニッキーブラッザー
第九章(三人称)

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第五百二十一話 意味がないか

『青膝ッ!』


 殺気に満ちた形相で強烈な攻撃を繰り出すアオニー。

 まさに戦乱の世にて名を馳せた豪傑に相応しい力の持ち主であることは誰の目にも明らか。

 しかし、その戦いを見る者たちの大半がアースに対してそれほど心配していなかった。

 帝国でも……


「うお、スゲーパワーだな、あの鬼」

「ああ。だけど当てられなきゃ意味がないよね」

「そうそう。攻撃が大振りすぎるんだよ。アースに当てたければもっと足を使って細かい連打でリズムを作らないとな」

「その他に魔法で陽動して隙を作って……とかね」

「せっかくの体格とリーチをまるで活かせてないな」

「もっと攻守のバランスをだな~」

「構えがなってないんだよ」


 アオニーは強いが、アースの方が強い。

 アレではアースに攻撃を当てることはできない。

 アースが負けることは無い。

 そういう意味で、どこかその表情は緩んで、民たちは笑ったり口を挟んだりしながら眺めていた。




 そして、「そういう考え」で見る者たちは他の場所でも同じだった。






「強いな。だが……それでもアースならば問題ない。アースの足さばきで十分に回避できる」


 フィアンセイは落ち着いた様子で眺めていた。

 そして、フィアンセイの言葉を誰も否定せずに頷いた。


「確かにね。あの青鬼も強いけど、あのノジャの猛攻を足さばきで回避しきったアースには当たらないよ」

「逆にあのアオニーとやらはアースの拳を回避できるスピードは無い」

「うむ。さらにあいつの拳は相手がいかに強靭な肉体を持とうとも、的確に芯を打ち抜く。筋肉だけでは防げぬのは自分が一番よく分かっている」


 フーもリヴァルもマチョウもアオニーを過小評価しない。

 しかしそれでもアースならば問題なく退けられると確信していた。

 そう、カクレテールでも「戦闘」という意味でアースがアオニーに負けると思う者はいなかった。

 ただ、一方で……



「な~んか……『ぶっ殺してやる』という感じがせんの~、あの青鬼……むしろ……小僧に期待しているのぅ」



 これまで頬杖ついて寝そべっていたバサラが身体を起こし、ニヤニヤと笑みを浮かべてそう呟いた。



「師匠、どういうことです? なぜあのオーガが坊ちゃまに?」


「う~む……普通、戦闘や喧嘩では相手を打ち負かす気持ちを剥き出しにしてぶつかり合うもんじゃ……本気の力を出せば出すほどのう……しかし、あの青鬼は、全力を出してはいるが、小僧をぶっ倒してやろうという気持ちが感じられん……」


「え……?」


「むしろ、引き出そうとしておるように見える。『どうした、もっと見せてみろ』、『お前の力を見せてみろ』的な感じで、期待しておる……気がする。ま、勘じゃがのう」



 根拠はなく、それはバサラの長年の経験や勘によるもの。

 しかし、それほど説得力のあるものはないと、サディスたちは今一度改めてアオニーの姿に注目する。

 すると……


『あ~あ……ほれ……人間はちょっと危なくなったら……すぐに逃げるーべさ。オメーもそうだーべさ。安全な所にいるうちはいくらでも綺麗ごとを並べて、でも危なくなったら我が身可愛さに素早く逃げるーべさ。オメーは所詮そんな人間……んにゃ……そんな……男だーべさ』

 

 ガッカリしたような顔を浮かべてアースに言葉をぶつけるアオニー。

 それは、誰がどう見ても明らかな……


「挑発……ですね。何でしょう……坊ちゃまに正面から掛かってこいと言っているのでしょうか?」

「ぬわははは、そのようじゃのう」

「ま、あの鬼もアースに攻撃を当てられないと悟ったのかもしれんな」

「ん~、でも分かりやすすぎる挑発だね」

「ああ……そんなものに乗るアースでは――――」


 分かりやすすぎる挑発だ。

 そんなものに乗る必要はない……と、誰もが思うところだが……


「……正面から……か」


 マチョウが思うところがありそう呟くと……


「う~ん……アースくんが乗らない……かなぁ?」

「どうっすかね~。あんちゃんは、『アレ以来』から空気読むって感じだし~」


 ツクシやカルイも苦笑した。

 それはかつて、アースが道場でマチョウとスパーリングしたときのこと。

 そして、大会でのこと。


「ぬ? マチョウ殿、どういうことだ?」


 カクレテールの住民たちばかりが何かを思い出したかのように苦笑している様子にフィアンセイたちが尋ねる。

 すると……



「あいつは……あえて受けて耐え切ってみせようという気概もあるということだ」


「……? 気概? いや、どういう意味だ? 避けれるのに、なぜ危ない攻撃を受けると? そんな意味のないことをどうして?」


「意味がない……か。そうでもないと思うぞ」



 それは、フィアンセイやリヴァルやフーには理解できない話であり、全然納得できなかった。

 そんなことに何の意味があるのかと。  


『アカみたいな、え~と……ウスノロ臆病バカはすぐにコロッと騙されるかもだーべさ……ほんと、あいつはオーガの面汚しもいいところだーべさ。そう考えると確かにお似合いだーべさ。腰抜けオーガと腰抜け人間、腰抜け同士のお友達? ま、そんな半端なもんだーべさ』


 その間にもアオニーのアースへの挑発やアカへの侮辱は止まらない。

 その見え見えの単純な挑発に……


『安い挑発……とは言わねえよ。言っておくけど、高くつくぜ? 勝つんじゃなくて……証明するための戦いってことで……わーったよ。逃げねえで、証明してやるよ! テメエの膝、逃げずに俺の頭でぶつかって、逆に砕いてやらぁ!』


 アースは乗る。


「な、なんだと、アース!? しかも、あ、頭!?」

「え、あ、アース!? 何言ってるの!? なんで……」

「な、何を考えているのだ……あいつは……いや、それは流石に……あの膝の威力は本物……」


 まさにマチョウたちが予感していた通りの展開になったことに驚くしかないフィアンセイたち。


「嗚呼……んもう、坊ちゃま……」

「ふっ、しかしあいつらしい……」

「うん、アースくんらしいかな」

「あんちゃん、漢だからねぇ~」


 そんな状況下でサディスやマチョウたちは「やっぱり」と苦笑していた。

 そして……


「グワーッハッハッハ、なるほどのう……あの青鬼は小僧から全てを引き出そうとし、そして小僧は青鬼の全てを受け切ろうと……根性比べか……」


 バサラは目をキラキラさせてこれ以上ないほど楽しそうにしている。


『あんたに一つ教えてやるよ。戦闘において必要なものは何かってことをな』


 アースが走り出す。

 しかも、あえて前傾姿勢で加速して、顔面の位置が丁度アオニーの膝で蹴りやすい位置に。


『スピード、パワー、テクニック……そしてハートだよ!』


 そう叫び……


『大魔ヘッドバッド!』

『青膝ァァァァァァ!』


 爆裂音が―――


「だ、わ、わああああ、アースぅぅううう!?」

「ほ、本当に突っ込んじゃった!? え!? な、何も策略なしに、本当に!?」

「あ、あれを……顔面で受けた……」

「ひぅ、ぼ、坊ちゃまのお顔が……」

「……ただ受けるだけでなく、ワザワザ加速して顔面で受けるか……」

「うわぁ、さ、流石に見ただけで痛い……」

「うおぉおおおお、あんちゃん?!」


 その瞬間、何でこんなことになっているか分からないフィアンセイたちも、こうなると予感していたマチョウたちも一斉になって声を上げ、顔を青くした。

 

「よいぞぉ! 豪気ッ! もっとやれい!」


 バサラだけは更に煽った。

 そして、その望み通り、まだ始まったばかり。







『まァ……ま……まだ、いくぞオラァァァァァァ!! 大魔ヘッドバッド!』

『ぐっ、あ、ぐっ、ガキイイイイイイ、青膝アアアアアアアア!!』


 アースが粉砕された顔面で再び飛び込んで、アオニーもまた膝を繰り出す。

 これだけで世界中の多くの者たちが過激すぎる場面に目を覆う。

 それは……


「ちょ、アースぅ、うわ、ちょ、なにやってんのよぉ!? あぁ、いたっ、見ているだけで痛い!? ちゃんと固い額で受けてるけど、でも、だ、だからって!」


 七勇者として戦いに生きてきたマアムですらも、自分の息子のメチャクチャな戦いに悲鳴のような声を上げ、目をそらしそうになり、そしてアースの訳の分からない行動に喚くしかなかった。

 これまで夫婦そろって一緒にアースの行動や衝撃の真実などに驚いてきた。

 だから今回も……となるはずが……


「す……すげえ……アース……すげえ」


 ヒイロはマアムと今回だけは違った。

 驚いてはいるが、それはマアムとは違い、思わずアースに見入ってしまうような驚きであった。



「ちょ、ヒイロ何言ってんのよ、アースがとんでもない意味のないバカなことを―――」


「ああ、バカだ。あんなことは誰もやらないバカなこと……いや、違う。誰もやらないんじゃねえ。あんなこと誰にもできねえ。だからスゲーんだ!」


「ヒイロ……?」


「だってそうだろ? 相手は鬼天烈の称号を持った強豪。その相手を前に……あんなこと……できねえ。あんな膝に対して、自分から走って顔面から突っ込むなんて……勇気……信念……根性……そう、まさにあいつが言った、とんでもねぇハートってのがなきゃできるわけねえ!」


 

 興奮しながら語るヒイロは、どこか目が輝き、ゾクゾクした笑みを浮かべて拳を熱く握りしめていた。

 それは遠く離れた地に居る、バサラと同じような目と興奮。


『俺は……折れちゃいね……ぇ……ヒビ一つ入ってねぇ!』

 

 そして、一回や二回で終わらない。アースはまだ行く。


「……は、はは……すげーよ……あいつ……すげえ! 意味がどうとか、そんなもんじゃねえ! 伝わるかどうか!」


 息子の強さや成長がどうのとか、自分たちの知らないところで息子がとか、そういうこれまでの鑑賞会で抱いていたものとは違う。


「すげえ男だ……アースは」


 男としてすごい、とヒイロはアースに感じていたのだ。

 そして……


「……なるほどな……どうりで……こんなことをやっていたのか」


 ハクキもヒイロと同じように笑っていた。

 そして、これまで抱いていた疑問の一つが解消した。


「アース・ラガンはまともな戦闘ならアオニーを圧倒出来たはず……それなのに、どうして『あの時』のアース・ラガンがブサイクなツラでボロボロだったのか……こういうことだったのか」


 ようやく謎が解けたと笑いながら、ハクキもまた拳を強く握りしめた。






 他の地でも――――



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