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禁断師弟でブレイクスルー~勇者の息子が魔王の弟子で何が悪い~  作者: アニッキーブラッザー
第九章(三人称)

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第五百十七話 オーガについて

 アースの祖母、アヴィアはデレデレしていた。


『とぉ! エスピだーいぶ! お兄ちゃん、おっきろー!』

『…お兄さん、朝だよ……そろそろ起きて』


 熟睡しているアースを起こすためにダイブするエスピと、優しく起こそうとするスレイヤ。

 その小さな弟妹とアースの三人ワンセットを視界に収めるだけで頬が緩む。


「あのアーくんがこんな立派なお兄ちゃんになっているなんて……それに可愛い! んもう、かわいい!」


 心配で心配で仕方なかった孫のアースが立派に逞しく強く成長しているだけでなく、人から慕われる存在になっている。

 また、そのエスピとスレイヤが可愛らしいということで余計にアヴィアはクネクネする。


「いやぁ、アヴィアさんのお孫さんスゲーなぁ……七勇者にあんなに慕われるし、エルフから歓迎されるし……」

「天空族の時や、あのクロンって娘もそうだったし……アヴィアさんのお孫さん……いや、アース・ラガンってのは本当に種族の壁に執着しないんだな」

「ああ……まぁ、だから……やっぱ、本当……なんだろうな。『彼』のこと……」


 そのとき、アヴィアの様子に苦笑しながらも、村人たちは視線を横に向けて、村の隅の木陰に佇んで空を見上げている一人の男を見た。


「あ~、んもう、あなたもそんな隅に居ないで、ほら、一緒にアーくんを見ましょうよぉ~!」

「あう、あ……あ……」


 すると、そんな隅にいる男に気づいたアヴィアはムッとして駆け寄り、男の腕を強引に引っ張る。

 男はそれでも気まずそうにして躊躇っている。

 すると……


「みんななにしてるのー!」

「あー、ラガーンマンの見てるー!」

「もー、パパとママたちだけズルいー、私もー!」

「おとなだけずっるいー!」


 その騒ぎを聞きつけ、家の中にいた子供たちが次々と出てきた。


「あら、あなたたち。もう、駄目よ? 昨日みたいに……子供の教育には悪いかもしれないものが―――」

「えー、やだー、アヴィアさんのイジワルー! 私たちも見たーい! ブリブリノジャとかおもしろかったもーん!」


 実は今日、村の大人たちは子供たちに鑑賞会に参加させない方が良いのではと考え、部屋で寝かそうとしていた。

 戦争というトラウマな戦いの光景が映し出されたり、何よりもノジャのような教育に悪い存在のこともあってだ。

 しかし、子供たちはそれで引き下がらなかった。

 それどころか、


「私もオニーちゃんと見る~。よいしょっと!」

「あー、ずるいー! オニーさんの膝ぁ~、私も座るもん!」

「もーだめーぇ! オニィは私のお婿さんだもん!」


 そう言って、とても大きな男の膝の中に無理やり座り込んで居座る気満々であった。

 どうしたものか?

 大人たちが溜息を吐いたそのとき……


「あら? あなたたち、それ……なに?」


 アヴィアが何かに気づいた。

 それは、子供たちがそれぞれ模様の入ったアクセサリーを身に着けていたからだ。

 村では見なかったもの。

 すると……


「あのね、これはオニーちゃんの手作りなのー!」

「うん、お守りだって、オニーさんがくれたの!」

「えへへ~、いいでしょー! この『石の首飾り』~♪」


 精巧で細かく紋様の掘られたアクセサリー。


「あら~、スゴイ上手ねぇ! へぇ~、あなたこんな特技もあるのね!」

「うお、ほんとだ……これ、街で売れるレベルじゃ……」

「あんなデッカイ指でどうやってこんな細かい細工が……」


 それを手作り? とアヴィアたちは素直に感心した。

 そのことを男は誇るわけでもなく照れくさそうに俯いている。

 これだけデカく、強そうでいて、なんと繊細なのだろうかと。

 だが……



『げえぇぇぇぇええ!? 魔王軍のオーガの連中う!? 百人ぐらいいる!?』


「「「「「ッッッ!!!???」」」」」



 朝早くのエルフの集落で、族長がそう叫んだ言葉が、村に、そして男に一瞬で緊張が走った。

 エルフの集落の近くに魔王軍のオーガの軍がいる。

 その存在に、空に映るエルフたちも顔を強張らせる。


『オーガって……魔王軍最強の軍で、更に狂暴で残虐で……』

『そんな奴らが……百人だぞ!?』


 村の大人たちは、そしてアヴィアは特に悲痛の表情を浮かべる。

 男は余計に俯いて縮こまる。


「オニーちゃん、どうしたの? ねえ、どうしたの?」


 何も知らない子供たちは心配そうに男の顔を伺うが、男は顔を上げられぬまま、ただうつむいたままであった。

 しかし、そのときだった。



『そのオーガなんだけどさ……うん、一番えらそうだったやつ……うん。うん。……青い鬼? 角が一本?』


「ッッ!!??? え……えっ!? な、……え?」



 膝の上の子供たちを落としてしまうほど勢いよく、男は立ち上がった。


「ちょ、ど、どうしたの?」

「ひゃ、オニーちゃん、急に立たないでよぉ~」


 そして、全身をワナワナと震わせていた。

 その尋常でない様子に、アヴィアたちも戸惑った。







 その頃、帝都では……


「うわ、マジかよ! 昨日はあの幼女闘将やらアマゾネスときて……今回はオーガかよ!」

「アースのやつ、また魔王軍と……しかも、相手はオーガッ!?」

「う~~わ~~、オーガって、あの六覇最強のハクキが従えていた、確か魔王軍最強って噂の軍だよな?」


 相変わらずのアースのエンカウントぶりに卒倒。

 そして……


「さっきはあいつがエルフの……しかもタケノコ先生に出会えてディスティニーシリーズの話をできたりでスゲー羨ましいと思ってたけど……」

「ああ、オーガは無いな……」

「だよな。オーガって戦争知らない俺たちですら知ってるぜ。最悪で凶暴で凶悪の種族ってよ」

「うん。人間を笑いながら引き裂いて、女の子には酷いことをしたりとかっていう、最低の種族でしょ?」

「ああ、そんなのと、しかも戦争中に関わるとかゼッテーごめんだよ」

「むりむりむりー! 戦争じゃなくたってオーガとか無理!」

「だな。魔族の……あのクロンちゃんとかはスゴイ可愛くて良い子だけど、オーガはなぁ~」


 戦争を知っている者も、知らない者も、オーガという種族を「話で」知っている。

 その危険性ゆえに、その名を聞いただけで拒否と拒絶の反応を見せる。

 そして……


「でもよ、アースはあのヤミディレやパリピ、そしてノジャとも戦ったんだ! オーガが何だってんだ!」

「そうよ! アースくん、エルフの人たちを守ってあげて! オーガなんて倒しちゃってよ!」

「そーだ、オーガは根絶やしにしろー!」

「がんばれアース、オーガをぶっ殺せー!」

「ってか、現代までディスティニーシリーズが続いてるってことは……『そういうこと』なんだよな?」


 これまでの鑑賞会でアースの強さを知ったからこそ、帝都民たちは一斉にアースに声援を送った。








 一方で宮殿では……



「聞いているか?! ライファント、何か知らないか!? オーガの部隊がエルフをとのことだが、この時期に何か聞いてないか?! 聞いていないのか!?」


『落ち着くゾウ、ソルジャ皇帝! 小生も驚いているゾウ! いや、ノジャの件はノジャが情報操作していたということで納得したが、流石にこれは……いやいや、コレは……しかも……』


「しかも?」


『あのエルフの族長は言った……角一本の青い鬼と……百人ぐらいのオーガを引き連れてと……それは恐らく、独立別動隊・アオニー隊……』


「アオニーッ!? あ、聞いたことがあるぞ、その名前! たしか、鬼天烈大百科の!?」


『うむ……しかもアオニーは、ハクキの部下の中でもトップ10に入る猛者中の猛者……はうわッ!?』


「え……どど、どうした?」



 ソルジャとライヴァールとライファントが大慌てであった。

 そして、魔水晶の向こうでライファントは震えながら過去を振り返り……



『そ、そういえば、アオニーは記録では戦死ではなく……任務失敗と隊を壊滅させた責任を取らされて処刑と……思い出したゾウ! たしか、ノジャが休暇を取っていた時……魔王城で大魔王様、小生、パリピ、ヤミディレで会議をしていたときにその話題があった気が……』


「なに? 処刑……任務失敗で……任務失敗?! え、そ、それって……」


『どのような任務であったかは小生も把握は……し、しかし……』


「そ、それはつまり……そ、そういうことか?」



 そう、そういうことなのだ。


「ちょ、ちょっと待ってください、陛下……あの、アースくんが……」

「ゴウダ軍、ノジャ軍に続いて……ハクキ軍も?」

「鬼天烈大百科とか教科書にも載ってるぅうう!」

「ああ、特に鬼天烈のトップ3は、六覇や七勇者クラスって言われてたぐらいの……」


 そう、まさに魔王軍の中でも大物中の大物の称号を持った強豪。

 名前を聞いただけで震える兵もいるほどだ。

 そしてライヴァールも目を細め……


「なんと……アースは歴史の裏でそこまで関わっていたのか……それにしても鬼天烈大百科まで……」


 同時にしんみりしながら……


 

「鬼天烈大百科……懐かしい……特にトップ3は確かに強かった。『鬼姫』、『ヤシュラ』、『テング』……別格の怪物だった。ソルジャと私とベンリナーフ……それぞれ一騎打ちで何とか討ち取ることができたほどだからな……」


「「「「「……………………………………ん?」」」」」


「……ん?」


『は?』



 と、そこで、ライヴァールの一言に、兵たち、そしてソルジャとライファントは変な声を上げた。



「なんだ? ソルジャまで……まさか忘れたわけではないだろうな?」


「い、いや、覚えているし……じ、事実なんだけど……で、でも……あれぇ?」


「いずれにせよ、アオニーと戦ったことはないが今のアースならば……ハクキさえ出てこなければ乗り切れるはず!」


「「「「『バッ(学習ゼロ!?)!? いや、流石にソレはシャレにならない!!??』」」」」









 そして、ソレと深く関りのある世界の果てでは……


『オーガということは、相手は狂暴残虐であり、魔王軍最強にして最恐のハクキ将軍の部隊だ! 貴様らごときで勝てるものか! ミナゴロシダ……女も子供も容赦なく凌辱されて死以上の苦痛を与えられる。そうだ……優しさや情けなど欠片もなき鬼たちだ! ……そう……あの人とは違い……』


 エルフたちの捕虜となったダークエルフのラルウァイフが、オーガの情報を収集しようとしたエルフたちを一笑して、声を荒げた。

 その光景を見ながら……



「そういうことかよ……ハクキ! つまり、お前がアースに興味を持っていたのは、こういうことだったからか!?」


「なんてことなの……あの子ったら……ハクキ軍の……しかも鬼天烈大百科とまで……」


 

 ヒイロとマアムは「こういうことか」と声を荒げた。

 だが、ハクキは真剣な表情で空を見上げながら首を横に振った。



「少し違う。吾輩があの男をアース・ラガンと知ったのはつい先日の事だ……」


「「……あれ?」」


「ただ……貴様ら二人もここから先は少し黙って見ていろ……今からだ」


 

 椅子の背もたれから背中を外し、少し前のめりになってハクキは空を凝視。



「見たいのは……ここからだ……アオニーよ……お前がどうしてあそこまで―――」


 

 すると、その時だった。


『薄汚い人間が! 貴様らのような者たちの所為で……あの人は……誰よりも心優しかったあの人は……』


 アースたちの存在に気づいたラルウァイフが、ノジャの時のことやこれまでの人間に対する憎しみも込めて怒鳴りつけると、アースが……



『うるせえよ! 白いエルフも黒いエルフもよってたかって、人のことを汚ぇとか言ってくんじゃねえ! 別に俺だって自分や人間ってのが綺麗とまでは言わねぇけど、俺だって戦わなくて済むならそうしてーよ! 信じちゃもらえねーかもしれねぇけど……俺はオーガに親友がいるんだからな!』



 アースのその叫びは……


「ッ!? な……なんだと!?」


 ハクキは立ち上がり……


「は? え……え!?」

「……え? アース……何を……」


 アースが叫んだ……



――俺はオーガに親友がいるんだからな!



 この数日間の鑑賞会を見続けた世界中も知らなかった真実。

 その言葉に世界に新たな衝撃が走った。


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【新作・俺は凌辱系えろげー最低最悪魔将】
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