第五百五話 ラガーンマン
ラガーンマンの誕生。
その反応は様々……
「いやいやいや、あいつ何やってんだよぉ!」
「アースくん……だ、ださいよ……」
「正体隠すだけだから別にあんな名乗りしなくてもいいのに……あいつ、意外と子供っぽいんだな」
「たしかに、ちょっと……ないかなぁ?」
帝国でかつての級友だったアカデミー生たちは失笑……一方で……
「ラガーンマン……わぁ~、かっけー!」
「うん、かっこいー!」
「ねえねえ、おかーさん、僕もあれやりたーい!」
幼い子供たちからの反応は上々であった。
「……よ、よい子の味方、ラガーンマンか……まぁ、それはさておき……アースの奴……まさか、ノジャと対峙していたとは……」
『しかし、それでもやはり不可解だゾウ。仮にアース・ラガンということを知らなかったとしても、六覇の前に立ちはだかる、無名の強豪の存在について、小生は何も聞いていないゾウ。ノジャはこの時のことを誰にも報告していなかったゾウ?』
宮殿ではラガーンマンに関しては苦笑いだったが、それでもアースがノジャと戦うという事態になったことに、もはやソルジャはガックリと項垂れてしまった。
同時に、ライファントもまた驚きとともに、どうして自分たちはこの出来事を知らないのか、どうしてノジャは報告しなかったのかと疑問が絶えない。
「ラガーンマン……うちの子供が喜びそうだぜ……だが、それはさておき……」
「ああ。あの六覇のノジャとアース・ラガンが戦う……だと?」
「信じられねえ、どうしてこんな……こんなことに……」
「ああ。もう、驚きを通り越して恐怖だ……だって……だってよぉ……」
そしてテラスに集まっている臣下たちは顔を青くして恐怖で震えていた。
それは、これから始まる戦いに身震いしているのか?
違う。
――ふむ、コジロウと別れたか。航海は順調そうであるし、アースとエスピはこのまま魔王軍や六覇とも遭遇せずに無事に――
(((((もう、なんなんだ、この御方は!?)))))
それは、先ほど口走りそうになったライヴァールの発言がまたもや大外れしたことに対する恐怖。
そうやって皆が怯えて視線を向けていることを気づいていないふりのライヴァールは……
「やれやれだな、アース。ソレは流石に流行らんぞ……」
「「「「ヲイ!」」」」
「それにしても、アースとノジャ――――――」
「「「「「ごほんげほんごほんごほんごほんごほん!!!!!」」」」」
ここにきて、何かを発言する前に臣下たちが一斉に咳き込みだして遮られる状況に陥っていた。
「ぼ、坊ちゃま……」
「な……な……なにやっているんだ……アースは……あ、あやつは一体自分を何歳だと思って……」
「は、ははは……あ、ああいうところ、昔のアースと変わってないかも……」
サディスとフィアンセイは頭を抱え、フーは苦笑し、そして……
「なんだか、アースくんの意外な一面というか、ちょっとかわいいところ見ちゃったかな?」
「強く逞しく度量もデカい……と思っていても、まだ15……いや、もう15なのにと取るべきか……」
「いやぁ……ど、どうなんでしょう?」
「オラぁ、見てるだけでハズイぞ!」
「……ノーコメント」
ツクシやマチョウやモトリアージュたちは酷評はできないものの、それでも反応に困っている。
そんな中で……
「おにいちゃん……ラガーンマン……よいこのみかた……おおお! かっこいい~」
「うっほ~~、あんちゃんかっけえええ!」
「す、すごいんだなぁ、アースくん!」
「……ラガーンマンか……その辺に落ちていたものであんなヒーローのような登場をするとは……アース、お前はいつも俺より先に……」
アマエ、カルイ、ブデオ、そしてリヴァルからは高評価だった。
「「「「……ん? リヴァル?」」」」
とにもかくにも、始まる。
「まぁ、格好がどれほど頓珍漢であろうとどうでもよい。必要なのは……中身じゃぁ! さぁ、どうする!」
バサラだけはただ行方だけを気にしていた。
『ちょこざい、そしてうざったいのじゃ!』
『大魔クロスステップ! 大魔ソニックスマッシュッ!!』
『……ほう』
そして、ノジャの巨体から尾を鞭のようにしならせて放つ攻撃を、アースは見事なステップで回避し、それだけでなく反撃の拳をノジャにぶつける。
それは、ノジャにダメージを与えるほどのものではないものの、ノジャの顔つきが変わった。
「ぬお、格好はダサいが、流石はアース! あの強烈な攻撃を全て見切っている! 我ではあの一払いだけでふっとばされるところを……」
「確かに、攻撃は大雑把ですので、小回りの利く坊ちゃまにはむしろ都合がいいのかもしれませんね……」
「……な……に? ダサい……フィアンセイはあのアースの格好をダサいと? ……フィ、フィアンセイは気に入らんのか……」
「でも、アースの攻撃にノーダメージみたいですし、どうやって戦うか……って、リヴァル?」
六覇のノジャと一対一で戦うことになるアースに、多くの者たちは目を輝かせる一方でフィアンセイたちは戦う者としての視点で見ざるを得ない。
アースが、そして自分たちなら、あのバケモノにどう戦うのか。
「ふん、大雑把のぉ……そんなことはないぞ? 今のはほんの小手調べじゃろう。あやつの尻尾攻撃の真価は、そんな安いものではないのだからのう。今のおぬしらも、束になってもまだ及ばぬ」
「「「「ッッ!!??」」」」
「風林火山が出たら……小僧よ……どう対応する?」
そして、バサラの言う通り、バサラの下で日々強くなっているフィアンセイやサディスたちでもまだ遠く及ばない六覇の真の力を見せつけられることになる。
「やたー! ラガーンマンだー!」
「ラガーンマン! ラガーンマン! ラガーンマン!」
「うわぁ、本物のラガーンマンだー!」
エルフの集落では子供たちを中心に一気に覚醒したかのように喜びを爆発させた。
「うんうん、僕らの救いのヒーロー、ラガーンマンが世界に誕生した瞬間だ!」
「おっしー、お兄ちゃ……ううん、ラガーンマン、イケー!」
スレイヤもエスピも肩組んでエールを送る。
「……ハニー……わ、私はいいと思うわ。子供っぽいところのある男の子には母性がくすぐられるわ」
「ぇ……シノブ、なんで苦笑いなんだよ……え? カッコよくね?」
「……そうね、そういうハニーもカワイ……カッコイイワー……」
アースの傍らでシノブは笑顔なのだが、その口角はピクピク震えている。
「……あれがあなたの書いたラガーンマンの実物なのね……」
「うーん……黒いヘルムと黒いマント……ダークヒーロー的な要素も入れた方が良かったか……」
イーテェも苦笑いだが、族長はとても真剣にブツブツブツブツ。
ただ、そんな中でもっとも声を上げたのは……
「うぅ~~~~、ラガーンマン様ぁぁあ♥ 私の、永遠のヒーロー……ラガーンマン様ぁ~♥ きゃあああああ!」
アミクスだけは涙と蕩け切って紅潮した表情で飛び跳ねている。
思わず皆が振り返ってしまうほど。
「そ、そうだったな、アミクス。お前はラガーンマンの大ファンだったな……」
そんなアミクスの様子ラルが呟くと、アミクスは「ちっちっち」と……
「んもう、ラル先生、ファンなんてレベルじゃないよぉ……ラガーンマン様は私のヒーロー、崇拝する御方で……私の初恋で、私の理想の男性なんだもん! もうラガーンマン様のような方が現れたら……あ……」
「「「「………………あ……」」」」
「/////////////」
「……ハニー……」
大きな胸を揺らしながらも、仕草は完全に幼い少女のように大はしゃぎするアミクス。
だが、あまりにも興奮していたために、自分の発言がなかなか危ないことをすぐに気づかなかった。
アースは腕組んで俯いて無言なのだが、耳まで真っ赤。
「は、はわぁあ! ち、ちが、違うんです、アース様、シノブちゃんも、あ、えっと、い、今のはアレなの、私の初恋はあくまでラガーンマン様の話で、アース様の話ではなくて、あ、でも、アース様がラガーンマン様だから別に違うわけでは……っていうかぁ、嫌いなんてことあるわけなくて、実物のアース様は理想のラガーンマン様以上に素敵な方なので、私の全てを捧げられますし、アース様が胸の大きな人に興味あるって知ったら、私のお胸を気に入ってくださらないかなとか、いやらしい妄想しちゃったりしま……あ、あれぇ? あれ? えっと……ラル先生ぇ~おかぁさん、おとーさん、ねえさ~ん、にいさ~ん」
「お、落ち着け、アミクス……もう、アース・ラガンが頭から湯気出している」
「アミクスぅ……もう手遅れすぎるわよ……」
「あまりにも胸が痛いんで……娘のテンパり告白は……」
「う~ん、アミクスのお姉ちゃんとして私はどうすれば……」
「兄さんも色々と頭がオーバーしてしまっているね……」
もはや誤魔化し不可能なレベルで色々とぶちまけてしまい、半分泣きそうになってしまっているアミクス。
どうすればいいのかと混乱していた……その時だった。
『とう!』
ノジャに捕らえられていたスレイヤが落下。
それをアースことラガーンマンがキャッチ。
そして……
『怪我はないかい? 少年よ』
『え、あ……は、はい……』
『そうか。私が来たからもう大丈夫だ。ここから先は私に任せてくれたまえ。この私の誇りにかけて、君を必ず守ってみせる。ここで見ていてくれたまえ! では!』
それはまさにヒーローがか弱き子供を救った場面であり……
「キャアアアアアアアアアアアアアア!! ラガーンマン様ぁあああああああ♥ 素敵いィ! キャーーー♥♥♥」
「「「「アミクス……まぁ……もういいか……」」」」
「……アミクスの反応は置いておいて……ハニー、やり過ぎ」
「……………」
アミクスはまた奇声をあげて、今の今までの爆弾発言などを全て頭からふっ飛ばしてしまったのだった。
そして、そんな中で……
「ああいうところ、あんたに似たのよ……子供っぽいところとか……」
「何言ってんだ、マアム。ありゃあ、どう考えても目立ちたがり屋のお前だろうが!」
父と母は……
「今更貴様らに似ていると言われても息子には迷惑だろうがな……」
「「……わかってるよ……」」
ハクキの容赦ない一言に顔を落とすも、改めて空を見上げる。
「にしても、まさかノジャとアースが戦うとはな……」
「ブランクのあったヤミディレやパリピと違って……全盛期の現役バリバリの六覇と……」
「どんな戦いになるんだ? 確かにアースは強くなった……疑いようがないぐらい。だが……」
「ええ。ノジャと一対一なんて……無謀よ。何の予備知識も対策もなく、ノジャのあの技は……」
ヒイロとマアムの言葉にハクキは否定しなかった。
『にははは……やってくれるのじゃ……よい……久々によいのじゃ! おぬし! 久々に戦いで濡れてきたのじゃぁ! 飼う! 飼ってやるのじゃ! おぬしを狩って飼ってやるのじゃぁぁ♡ 見せてやるのじゃ! 光栄に思うがよい! わらわが戦う気になった相手にのみ見せる戦闘スタイル―――――風林火山!!』
確かに、『本来なら』何の予備知識もなく初見でノジャの技や力を破ることはできない。
「出たぁ!?」
「風林火山……アースに!」
「ノジャも出すべきと判断したか……まぁ、当然と言えば当然だ」
しかし、アースは普通ではない。
初見ではあるが、予備知識が無いわけではないということを、ハクキは分かっていた。
そのため……
『疾きこと――――』
『ラガーングースステップ! ラガーンスプリットステップ! ラガーンソニックファントムパンチ!』
ハクキは驚かない。
「ノジャの足元に入り込んだ! あぶね……いや、技を発動させる前に攻撃を……!」
「うまいわ! ノジャが発動する前に! アースもノジャから何かを感じ取り、発動させる前に動かなくちゃって思ったのね!」
「ああ。それに今のはたぶんノジャは『風』を発動しようとしやがった! あの技は、敵との距離が近すぎると自分もダメージくらうから、できねーんだよな!」
「ええ、つまり接近戦に……あれ?」
ハクキはただ感心する。
そして、ヒイロとマアムも言っていて不思議に思った。
「い、今の、明らかに……アースの奴、分かっていたような動きだったよな?」
「え、ええ……ノジャの風林火山の風が発動する前に……どうして? ノジャの名前は知れ渡っていても、風林火山の性質を、あの子はなんで……」
アースが何の迷いもなく、初見であるはずの風林火山をもっとも的確な方法で破ったからだ。
そんな二人と違い、ハクキは……
「何の迷いもないということは、『助言』に対して何の疑いもなく行動に移したということか……現役の六覇の、一撃くらえば瀕死を免れぬ攻撃に対して、あえて間合いの内に飛び込むという信頼と度胸……なるほど。そして……」
ゾクゾクしたように笑みを浮かべている。
『ほれほれほーーーーれぇぇぇ!!!!』
『ラガーンクロスオーバーステップ!』
風林火山が発動できなくても、その天変地異のような尾を振り回すことでアースを仕留めようとするも、その尾を全て予測、そして見切って回避する。
『……ぬっ……ぬぅ……本当に当たらないのじゃ……アッパレなのじゃ』
「当たらねえ! ノジャの尻尾攻撃が……全部回避してやがる!」
「うそ! 風林火山でなくても、あの尾の乱れ打ちを全弾回避なんて私にもできないわ! あんなの、ミカド様やコジローぐらいにしか……!」
その見事な動きは、ノジャすらも感嘆するほど。
「ふ……いかに助言があろうと、ああいう息つく暇もない攻撃に対する回避は指示では無理……指示を受けてからの回避は無理だからな。つまり、アレに関しては助言ではなく自分の力で回避しているということか……レーダーは完璧のようだな」
そして、ハクキは空を見上げながら目を細めて……
「ラガーンマンではなく、アース・ラガンと認識している今、改めてこの戦いを見ることで、ノジャ本人は今頃どう思っているか―――――」
遠い地に居るかつての同志を想って物思いにふけっていた。
そして、張本人は……
「ぐぬぬぬ……何やら外では盛り上がっているのじゃ。しかし、そろそろなのじゃ……疾きこと風の如ごとくトイレに入り、静かなること林の如く座り、侵略すること火の如く……ぽっ♥ そして、動かざること山の如しで粘って……ようやく、わらわが復活するのじゃ……」
それどころではなかった。
昨日も紹介しましたが、下記にて新作始め、日間ハイファンタジー5位になりました。
まだ読まれていない方は、是非にお読みいただき、応援お願い申し上げます。
『冗談で口説いたら攫われた大魔王~知らなかった? 女勇者たちからは逃げられないよ』
https://book1.adouzi.eu.org/n1660hv/
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