第四百八十四話 駆け抜ける世界の感想(1)
「この後、一体どうなるというのですか!? 過去に行った坊ちゃまは今どこに!? エスピお姉ちゃんと坊ちゃまはどうなるのです!? おのれ……おのれ! 闇の賢人……って、二つ名を付けたのはどこの誰ですか!? 闇の外道です! 」
頭を抱えて海に向かって怒りも混ぜて叫ぶサディス。
本来ならクールで落ち着いた年上のお姉さん……な彼女も、既にパリピの鑑賞会構成の被害者となっていた。
「しかし、こうなると……過去に行く前に七勇者のエスピがアースに会いに行った時の態度は……確かに馴れ馴れしすぎだとは思ったが……」
「それじゃあ、七勇者のエスピはアースのことをヒイロさんとマアムさんの息子ってこと以外でも知ってたということになると……」
「分からん……そもそも、先ほどの師匠の話では、アースはあまり過去の者に関わって歴史の歪みを避けるような行動を取っていると……なら、そこまで深く関わらない……のかもしれないが……分からん」
フィアンセイ、フー、リヴァルもまた、まさにこれからどうなる? という今後の展開について話をするも、結局は「どうなるか分からない」という反応しかなかった。
「何とも……自分など途中から展開についていけず、一言も発することもできなかった」
「あはは、私もマチョウさんと同じかな」
「つーか、サディスさんたち以外、みんなポカンすよ~」
もはや話の展開についていけなくなった、マチョウ、ツクシ、カルイを筆頭にカクレテールの住民たちも苦笑しながら頷いた。
「ぬわははは、そうじゃのう。ワシも思わず見入ってしまってたわい。明日も見なければと思うぐらいにな。にしても……あの小僧と会ったのは数か月前……その間になんともまあ、大冒険をしてさらにデカくなっとるではないか。ワシが参戦しとらんかったとはいえ、かつての大戦にまで迷い込むほどにはなぁ……」
「師匠……」
「はてさて、見ものじゃな。これまで通りに過去に深く干渉しない立ち回りをするのか……それとも、運命がそれを許さぬか……う~む……」
バサラもまた続きが気になり、ニタニタしながらも急に難しい顔をして……
「ええい、酒じゃぁ! 酒を持ってこい! もう考えても分からん! 目が冴え過ぎてこれでは寝れんわい! 酒飲んで寝る!」
明日の鑑賞会のためにも早く寝る。そう叫び、皆も「たしかに……」と夜遅くなのに冴え過ぎた目で頷いた。
そんな中……
「たしかに、難しいかもだけどもう寝るかな。ね、アマエももう寝ないと」
「……む~……」
「アマエ?」
流石に子供がいつまでも起きているのは……と、ツクシがアマエを連れて帰ろうとすると、アマエはなんか微妙な顔をしながら空を眺めていた。
「……なんか……最後に出てきた女の子……なんか……むぅ」
「最後の? あのエスピっていう人のこと?」
「むぅ……」
アマエはうまく言葉にはできないのだが「何か胸騒ぎがする」という様子で、まだしばらく空を見上げていた。
「ぷんぷん! ぷんぷん! ぷんぷん! パリピは酷いのです! 天空世界であれだけ私たちにイジワルして、今もこんなことするなんて、私は怒っています!」
いつも笑顔で人々を癒す女神様も、この時ばかりは頬をめいっぱい膨らませて地団駄。
「 う~、いつもはアースのことを想うと幸せでぐっすり眠れるのに、今日だけはアースのことを想って逆に眠れません!」
クロンが怒っている姿を現場の労働者たちも初めて見る。
怒っている姿もかわいい……と、思いつつも、それでもその怒る気持ちを彼らも十分理解できるうえに、むしろ彼らも同じ気持ちだった。
「おいおい、確かにマジでどーなってんだって話だよ」
「ああ。明日の夜には……つっても、気になり過ぎて明日の作業なんてできねえよ!」
気になり過ぎてこのままでは寝れないし、明日も仕事に集中できない。
あまりにも酷いと、怒りと同時に嘆きが響き渡った。
一方で……
「まっ、確かにあいつが過去の世界に飛んで、親父さんたちの幼い頃に会ったとかだけじゃなく、まさか戦争までな……なぁ? 師範」
「………ゴウダのところのピッグゴリ……」
「師範……」
ブロが話を振るも、ヤミディレは呆然と空を見上げて仁王立ちしたままだった。
それもそのはず。ヤミディレにとっては、自分の部下ではなかったにしろ、同じ魔王軍に所属していた、顔も知っている部隊長の姿が映ったのである。
その場面にアースが現れ、さらに当時のエスピまで登場したのだ。
「まさか……私が六覇として最前線で戦っていた時代の裏で、このようなことが……アース・ラガン……貴様は何をしていたのだ! なにを……なにを!」
そして、ヤミディレは頭を抱えながら考える。
「……無かったはず……報告は……たしかに、あの時代は世界各地から毎日膨大な戦況報告が届き、私とてその全てを把握しているわけではない……しかし……アース・ラガンと思われるような報告は無かった……大きな事件であれば私とて……だから……これ以上過去の歴史に大きく関わるようなことはないのだと思うが……思うが……あのパリピがそれならここで区切るだろうか? ……うおああああああ、もう、腹が立つ! あの男め、きっと今頃『ひはははは』などと笑っているに決まっている! おのれえええ!」
そして、その叫びは……
「ひはははははははははは!」
正解。
「エスピとアースが現代だけでなく、過去でも出会っていたと……なんということだ」
「問題なのは、この時点でのエスピがアースの正体をどこまで知ることになるか……いや、知ったからこそ現代でアースに会いに来たのかもしれんが……だが、それならエスピがなぜ我々にも黙っていたのかも……だめだ、分からん」
『魔界も大騒ぎだゾウ……それに、ゴウダは死してなお人気はあったからな……そして、パリピが生きていたことによる反響も気になるゾウ』
歴史に名を残す三人、ソルジャ、ライヴァール、そして魔界からライファントも繋がって三人の世界トップレベルの会話が繰り広げられるようで、その中身は三人そろって「分からん」というものしか出なかった。
「パリピめ……生きていただけでなく、世界全土を巻き込むようなことを……というか何故ここで区切る!」
「……そうだな……『なぜここで区切る』……と我らが歯ぎしりするのを楽しんでいるのだろうな……」
『そして小生らはまんまとその策略にはまって奴をご機嫌にさせていると……忌々しいゾウ』
かつての宿敵である七勇者だけでなく、かつての同志だったライファントからも「忌々しい」と言われてしまうパリピであったが……
「しかし、一つだけすぐに確認できることを知ってしまったな……」
ソルジャはそう言って僅かにほくそ笑んだ。
「ベトレイアルのことか?」
「うむ。先ほども絶対的な信頼関係がどうのと言っていたものだが、さてさて、このゴウダ暗殺作戦とは何のことか……是非に問いただしたいものだな」
まるで、「今までの仕返しができる」みたいな少し子供っぽい笑みを浮かべるソルジャ。
だが……
「陛下! 報告が!」
と、本日何度目か分からない伝令が駆け込んできた。
「え……まさか……」
ソルジャも思わず顔を引きつらせる。
既に十数年以上も昔の事であるために、今更これを深く追求することはできないことぐらいソルジャも分かっている。
だが、今までべトレイアルから言われっぱなしだったこともあるので、少しぐらいは皮肉を込めて言い返してやろう……そう思っていたのだが……
「まさか……またベトレイアルから……か?」
「……えっと……べトレイアルからというより、現地からの情報が……」
「……?」
「何やら、緊急でべトレイアル国王がべトレイアル王国の国民に対して発せられたようで、その報告を……」
「声明?」
また何か帝国に言ってきたのかと思ったが、そうではなく現地の情報とのこと。
なら、何があったのか?
ソルジャがたちがその報告を聞くと……
「え~……なんでも……『昨日から行われている空の鑑賞会は、闇の賢人パリピという魔族の中でも最も悪しき愉快犯が行っていると思われる。そんな悪魔が我らベトレイアル王国を乏しめるような、根も葉もない事実無根の情報を拡散しているようだが、決して惑わされぬよう注意せよ。人が時を越えて過去に行くなどありえない。天空世界もおとぎ話。ゆえに、鑑賞会で流れているアース・ラガンの物語はすべて捏造の可能性もある』……とのことです。それを明日には王都だけでなく王国全土に流布しようと……」
「おお。そうきたか……さんざん自分たちはこっちを責めてきておきながら……」
ベトレイアル王国の王政は、即座に「これは事実無根だ」と大々的に報じる。
もちろん、それを鵜呑みにするほど世界の人々もバカではない。
だが、確かにアースが現在どこにいるかも分からない状況下では、「これは本当にあったこと」と誰も証明することはできないのである。
仮にアース本人、エスピ本人がべトレイアル王国の国民の前に姿を現して話をしたところで、「言葉だけ」ではすべての者たちに「全部本当のこと」と証明して納得させることはできない。
が……
「ひははははは、捏造ねえ~……いや~ほ・ん・と、思った通りに動いてくれるパナイカス国家♪」
パリピもまたリアルタイムでその情報を得ており、そして「予想通り」と笑っていた。
「でも……どうされるのです? 見ている人たちは夢中でも……実際これが本当かどうか証明できるかと言われたら……」
そんなパリピの反応に冷静に状況を見ようとするコマン。
だが、パリピは悪魔の笑みを浮かべて……
「何言ってんのさ~、コマンちゃん。実際これが本当かどうか証明できるかと言われたら? 証明すりゃいいじゃな~い」
当たり前のように、そう告げた。
「え……いえ、でも、そんなのどうやって……アースくん本人や七勇者のエスピ本人に話をさせるとか? でも、二人ともやってくれないと思いますけど……」
「ひははははは、そうじゃないそうじゃない。アースくんの記録が全部本当にあったことだと……物的証拠を見せつければいいのさ」
「……物的証拠? それって何を……あの懐中時計とか?」
「ひはははは、違う違うって」
コマンはパリピが何を言っているのか分からなかった。
これまでのアースの鑑賞会の内容が全て本当にあったことだと証明する物的証拠とは何か?
すると……
「コマンちゃん、通信用の魔水晶を用意して。天空世界のガアルちゃんと話をする」
「は……え? 天空世界? ガアル王子に……ですか? しかし、あなた様と話をあの人たちがするとは……」
「だいじょーぶだいじょーぶ、ボスの右腕の立場として連絡するから♪ ボスのために一肌脱いでほしいとガアルちゃんにお願いをすれば大丈夫」
「お、お願い? 何を……それに、ボスというかアースくんの右腕という立場だからって、話は……」
「大丈夫。それならガアルちゃんは聞いてくれる。俺がかつて手籠めにして堕とした愛人天使ちゃんたちから仕入れた情報によると……ガアルちゃん、最近スカート履いてるみたいだし♪」
「は?」
パリピはパリピで天空世界には裏で繋がっている者たちがまだ居た。
とはいえ、天空世界や天空王を含めてアレだけ非道なことをやらかしたパリピの言葉など、天空世界の王子であるガアルが今更聞くとは思えない上に、そもそもお願いとは何か?
まだパリピの言葉の意味が分からないコマンだが……
「なーに、お願いは簡単なこと。ちょっとペガサス隊で周りを囲みながら、あの移動可能な雲で、地上から視認できる高度でブラっと世界中を飛行してほしい、ってだけだから♪」
「……え……」
「まずは明日の朝、べトレイアル王国上空からオナシャスってね♪ その次は、帝国♪」
本当にパリピは物的証拠を世界中に見せようと考えていた。




