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禁断師弟でブレイクスルー~勇者の息子が魔王の弟子で何が悪い~  作者: アニッキーブラッザー
第九章(三人称)

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第四百七十七話 数日後には聖地化する道具屋

 世界は「えっ?」となった。

 クロン、ヤミディレ、そしてアマエたちと何のわだかまりもなく再会を誓い合っての別れ。

 まさに大団円。

 これで終わり……と思っていたのだが……


『行け! トルネードショット!』


 船で異大陸を渡りながら釣りをしたり……


『おーい、兄ちゃん! そっちの餌の入った箱を一個ずつ持ってきてくれ! あと網もだ!』

『あいよーっ!』


 港町で日銭を稼ぐために働いたり……


『ヒハハハハハハハ~、お~い、ボス~! もすもーす♪ ボスの頼れる右腕でもあるオレだよオレ~!』

『………』


 勝手に子分になったパリピから魔水晶を通じて通信が入ったり……


『ほら、兄ちゃん! どんどんいけ!』

『こっちの貝も何も味付けいらねぇ。塩ふいてるからよぉ!』

『おっしゃ、酒もいこうぜ酒も! 将来有望な漁師に乾杯よぉ!』


 漁港で世話になった海の男たちに食事を振舞われたり、まさに自由気ままな旅を満喫しているアースの姿が世に流れた。

 それは、直前まで一緒に過ごしていたカクレテールの住民たちも知らないこと。

 その後のアースの日々である。

 つまり、世界のほとんどの者たちが、アースがそうやって過ごしていたことを知らないのである。





「あいつ……俺らから逃げ切った後、こんな風に過ごしていたのか……」

「ええ。船旅とか釣りなんて小さい頃以来……それにああやって働いたりなんて……」

「一方で貴様らは海で溺れて吾輩に捕まったと……何ともマヌケな話だな」


 ハクキのアジトにて、新鮮な気持ちで息子の姿を眺めているヒイロ、マアム……





「ううむ……我らも経験がないからな……ああいう肉体労働で日銭を稼ぐということは……いや、今復興支援で似たようなことをしているか?」

「知らなかったな。あいつは俺たちと別れた後はこんな風に生活していたのか……」

「あはは、あのパリピが偽造の身分証明云々を言い出したときはビックリしたけどね……でも、アカデミー卒業してないからハンター登録もできないし、こうやるしかないもんね……」

「坊ちゃまがますます逞しく、色々な経験をされているようですね……」


 アマエの姿に焦ってランニングしようとしていたフィアンセイたちも、まさかの続きに足を止めてしまった。






『あ~……とうとう俺もサバイバルか……』


 そんな風にボヤキながら道具屋に足を踏み入れるアース。

 その姿に……


「わぁ! 私たちとお別れした後のアースです! わぁ、これも見せてもらえるのですね! 嬉しいです! あ、アースがマントを……カッコいいです~♡」


 クロンは飛び跳ねて喜んでいた。

 今、アースがどこで何をやっているかを全く知らないクロンにとっては、自分たちと別れた後のアースの姿を知ることができるということが、嬉しくてたまらなかったのだ。


「ふむ……サバイバルか……まぁ、確かにそうであろうな。あやつは金もそれほど持っていなかったであろうしな……それにしても……」


 ヤミディレもまた興味深そうに空を見上げている。

 だが、徐々にその表情が変化していく。


「……この道具屋……」


 クロンはアースの姿が映っているだけでウキウキしているのだが、ヤミディレは徐々に別のことに注目し始めた。

 それは、アースが買い物をしている道具屋にだ。


『君は若いから知らないだろうけど、あんまりそのナイフ持ってると……イメージ良くないぞ? まぁ、使ってるやつも居なくもないけどな』

『俺は気にならないから買う』


 アースが道具屋で手に取った商品。

 周囲の客が止めるのにも関わらず、アースが買うことを決めたそれは……



「あれは、マジカルサバイバルナイフ!?」


 

 ヤミディレが思わず声を上げた。


「お母さん、知っているのですか?」

「え、ええ……正式にはマルチツールナイフと呼ばれるものですが……魔王軍の兵士の中で愛用されていたもので、私も使っておりました」

「へ~、そうなのですか」

「……あ、クロン様、私への呼び方ですが……」

「あ、お母さん見てください! また何かアースは手に取ってます!」

「い、いえ、ですから母では……」


 魔王軍が使っていたものだからイメージが悪い。だが、アースはそんなことは気にしないので買う。

 だが、ヤミディレが気になったのは「そこ」ではない。


「なに!? アレは……カロリーフレンド!? あんなものまで売っているのか!」

「え? え?」

「アレも魔王軍の兵士が所持していた栄養のある携帯食です!」

「へぇ~、知りませんでした。そういうのをちゃんと買うなんて、アースは物知りですね!」

「……いえ……確かに、アース・ラガンがそれをチョイスしていることにも驚きですが……それよりも驚いたのは……よくあんなものが売られていたものだなと……」

「?」

「たとえ、戦争が終わったとはいえ、人類の宿敵であった魔王軍の兵士たちが愛用していた品物の数々……アース・ラガンは『気にしない』と言っても、先ほどの他の客たちのように、やはりイメージというものがあります……ですので、地上の道具屋にアレが普通に売られていたということに驚いたのです」


 そう、ヤミディレが驚いたのは、アースがそれを買ったことではなく、そもそもその品物が店に置いてあるということだ。

 イメージだけではなく、製造は魔界であるために魔界から仕入れなければいけない。

 あまり売れる要素のないものをワザワザ魔界から仕入れて店に並べているということに、ヤミディレは驚いた。


 もっとも、数日後にはカロリーフレンドとマジカルサバイバルナイフは世界的に大ヒット商品となるのである。


 だが、今はそれよりも……


「あっ、見てください。アースが香辛料のコーナーに行きました! わ、スゴイ種類があります!」

「ん? あ……確かに……そうですね……うむ……私たちが色々な道具屋を渡り歩いて仕入れたスパイスもあの店ならば全て揃っている……ぬぅ……ゲンカーンにあんな優良な道具屋があったとは……」

「ん~~~~~、残念です。一緒に居ればアースとカリー作りをしたりできましたのに……」

「ふっ、そうですね……とはいえ、アース・ラガンも既に金も尽きているようで、アレらは買わないようですね」


 建設現場で大繁盛の女神のカリー屋を開いているクロンたちにとってはひどく関心を持つ場面だった。

 すると……


『そこのお兄さん……買わないの?』

『ッ?! あ、えっと……あんた……ここの店員さん?』

『ん? ああ……ボクのことを知らないのかい?』


 香辛料コーナーに背を向けて振り返ったアースの目の前に、一人の男が立っていた。

 エプロンを身に付けた、整った顔立ちの若い男。

 そして、感情の起伏を感じない無表情で人形のような眼でアースをジッと見る。


「……ん? ……ん? あの男……どこかで……」


 ただアースが店員に話しかけられる。それだけのことだが、ヤミディレの眉がまた動いた。


『君はこれを買うんじゃないの? このスパイス……必要なんじゃないの?』

『あっ、いや、ちょっと手に取っただけで……』

『うそだよ。必要でしょ? なのに何で買わないの? ボクは分からない。君はどうして買わないの?』

『いや、ただ、か、金が足りないな~と思って……』

『お金? お金がどうしたの? 足りないなら交渉でもすればいいじゃないか』

『は、はぁ?』

『なんで、何かをする前に諦めるのか……分からないな……ボクには君が分からない……どうしてなんだい?』


 いずれにせよ、突如現れた店の店員がアースに詰め寄り、訳の分からないことをしゃべりだした。

 その状況、そして現れた謎の男にクロンたちが首を傾げる中……


『スレイヤ店長~』


 他の客たちが男の名を呼ぶ。その瞬間、ヤミディレはハッとした。



「スレイヤ?! ……スレイヤだと!? まさか、あ、アレが……いや、確かに資料で顔だけは見たことあったが……」


「え? お母さん、あの店長さん? のことも知っているのですか?」


「……あの男が……かつて、ノジャやゴウダがぼやいていた、あのスレイヤなのか?」



 

 



 そして、それは他の場所でもそうであった。


「……ライヴァール……今の……聞いたかい?」

「ああ……驚いたな。だが、確かに身に纏う雰囲気が只者ではない……アレが私たちの時代から噂になっていた、ハンター界の神童と呼ばれたスレイヤとはな……随分前に引退したとは聞いていたが……」


 たとえ面識がなくても、その名だけは世界に轟いている。


「陛下、ライヴァール様、ハンター・スレイヤについては私も聞いたことがあります。当時の連合軍もスカウトしようとしていたようですが……」


 ソルジャもライヴァールも、そして宮殿に居た者たちもザワついた。



「ああ。戦に興味がないとのことで断られたようで、結局私たちも面識が無かったが……たまに会議で名前を聞いたり、かつての戦争では六覇のノジャと一悶着あったという噂は聞いたことがあるな……」


「あの頃は戦が過熱していた……そうだ……ハクキに敗れたり、ゴウダを倒したり、……私もパリピと……そう、七勇者と六覇の戦いが最も熱く激化していたころ……。あの時代において力ある者は子供であろうと戦いに身を投じていた……それを断って英雄になる気もなかったものには、こちらこそ興味を持たなかった……」


「確かにそうだね。あの頃はエスピですら戦っていた。そうそう、エスピも当時は少しの間行方不明になっていたけども、ちゃんと私たちの所へ帰ってきたな。それからのエスピの戦いぶりは鬼気迫るものがあった」


「ああ……そうだったな……。エスピは口数の多い子供ではなかったが、戻ってきたころのエスピの目には強い決意が宿っていた。エスピもまた私たちのように『世界と人類のために』という想いを抱いていたのだろうな」



 そんな風に昔を懐かしんで話をするソルジャとライヴァール。

 英雄二人のその何気ない過去の会話は、兵たちにとっては憧れの者たちのスゴイ会話ということもあり、皆が目を輝かせた。



「いずれにせよ、英雄になろうとしなかった男が、ハンターの道を極めるでもなく、まさか田舎町の道具屋店長に落ちぶれているとはな……ハンターの業界はあまり知らんが、もったいないものだな……そして、情けない……」


「ふっ、厳しいものだな、ライヴァールは……」



 人々が目を輝かせる歴史を作った七勇者だからこそ、自分たちのように戦おうとせず、名を上げようともしなかったスレイヤという男に思うところがあるライヴァール。


 一方で、そもそもスレイヤのことを「知らない」者たちからすれば……


 特に帝都の若者やその業界に詳しくない民たちからすれば……


『さて、そこのお兄さん。君はスパイスを選ぼうとしていた。これを使って料理をするのだろう? ボクは分かっている』

『は、はぁ……』

『もし、お金を気にしなくてもいいのなら……君は何を選ぶんだい?』


 道具屋で、お金が無いからこれ以上の買い物はしないというアースに詰め寄る怪しい変な男としか思わず……


「おい、何だよあの店員! アースにベッタリとしつこくね?」

「うん。顔はカッコいいな~って思ったけど、すごい怪しいよね!」

「なんか店の客の人たちは目を輝かせてるから有名な店長なのかもしれないけど、連中はアース君のことを知らないからさ……」

「そうそう、アースの正体とか強さを知ったらマジでビビるっての!」

「アース君のことを何も知らないのに、あんなにエラそうに馴れ馴れしく……アース君は買わないって言ってるのに、どういう神経してるのかな~?」


 それどころか不愉快にしか思わなかったようで……


「なんかあの店長……誰だか知らないけどウザイよな?」


 ……という言葉に帝都の者たちは頷いていた。


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【新作・俺は凌辱系えろげー最低最悪魔将】
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