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禁断師弟でブレイクスルー~勇者の息子が魔王の弟子で何が悪い~  作者: アニッキーブラッザー
第九章(三人称)

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第四百七十四話 ありだった

『アース……我は確かにお前に……勇者の息子であることを望んでいた……でも……勇者の息子だったからお前を好きになったわけではないんだ……伝わってなければ何の意味もない言い訳だろうが……ただ……それでも……』


 強く凛々しく、いつも堂々とした誇り高き姫。

 それが、世界から見たディパーチャー帝国のフィアンセイ姫の評価であった。

 しかし、その姫が、か弱い少女のように大粒の涙を流しながら……


『アース……ひっぐ……ごめんなさい……我が一番……自分に都合のいいことしか考えていなかった……』


 初恋でもあり、ずっと好きだった男とのすれ違いを自覚したうえで謝罪をする。

 その痛々しい様子に多くの者たちの胸が締め付けられた。



「なんか……俺とソルジャが酔っ払った勢いで話してたこと……それを幼いころのフィアンセイ姫に聞かれて……あん時は、まだ子供のことだしと思って笑ってたし……そうなりゃいいな~とも俺らも思ってたから……フィアンセイ姫はあれからずっとアースを想い続けてくれてたんだよな……」


「……サディスのこともあったけど、サディス自身は恋愛的なことからは引いていたし……でも、アース自身は何も気づいていなかったのね……」


「あぁ……まさか、一度もフィアンセイ姫を『そういう目』で見てなかったとはな……」


「アカデミーでもずっと一緒だったし……リヴァルとフーが留学していた頃なんて二人で一緒にいるところもよく見たし……私たちもいつか二人がそうなるんだろうなと……」



 ヒイロとマアムは「こういうこと」でも息子のことが分かっていなかったどころか、結果的に国の姫でもあり、自分の友の娘でもあり、ずっとアースのことを好きでい続けた娘を傷つけてしまった。


『俺は……自分のことしか考えてなかったかもしれない……だから……俺も……悪かったよ……ごめん』


 アースもまた、自分の察しの悪さなどを反省してフィアンセイに謝った。

 だが……


「本当に謝るのは俺らだってのによ……」

「せめて『こういう話がある』ぐらいは言うべきだったのに……」


 本来は謝っても謝り切れないのは自分たち大人であった。

 ヒイロとマアムはそのことを改めて突き付けられ、一方で……



「ほうほう……小僧小娘たちの桃色遊戯に興味はないが……『こういう意味』での争奪戦も始まるかもしれんなぁ。何故ならば、『帝国へ忖度する必要なし』と他の人間たちも分かったようだしな」


「「ッッ!!??」」


「魔界側も……あのアース・ラガンはクロンに接しているように、魔族に対する偏見もなさそうだしな」


 

 ハクキは呆れて冗談交じりながらも、ヒイロとマアムが言葉を失う未来予想を発した。


「戦後以降、没落した魔界貴族や種族や部族も数多く……再興を狙う魔族たちも多くいるだろうし、ライファントたちもアース・ラガンとの関係性を構築したいと思うだろうしな……」












「姫様……かわいそう……」

「うん。アースくん……ひどいよ。姫様の気持ちを……」

「え? でも、アースくんは姫様と結婚するとかって知らなかったんだよね?」

「だよね。っていうか、二人が『そういう関係』でなくて、フィアンセイ様の『独りよがり』だったなら……私もアースくんいいなって思ってたし」

「あ、それある! ってか、これ聞く限り、アースくんも満更でもなさそうじゃん! 私たちも姫様に睨まれて言い寄れなかったけど!」

「私だって貴族だし~、つり合いは別に取れると思うし~。なーんだ。アースくんイケたんじゃん!」

「私はリヴァル君一筋だったけど……アースくんアリだよ!」

「う~ん、かわいいのはフーくんだけど……でもさ、今となっては一番将来性あるのアースくんだよね?」

「え、でも、アースくんは帝国でのエリートコースをもう蹴ってるわけだよね……どうなるんだろ?」

「あっ……でも、いつか戻ってくるんじゃない?」


 そして、帝都の若い女子たち……特にアカデミーに通っていた女子たちも「姫様かわいそう」の意見から徐々に「アースくんにいっても良かったんだ」という意見が出始めた。


『我は自分の都合のいいことばかりだけでなく……その……クラスの女子とかがお前に惚れたりしないように色々と言ったり……本当に最低なことをした!』

『いやいや、そんなもん……大した……それは……確かに……そうだよな……』

『……ほへ?』

『そうだ、アレはどう考えてもひどいじゃねえか!  もしあれで俺にもアカデミーで良い思い出の一つでもできれば何か変わったかもしれねーのに!』

『う、あ、あ、ほ、本当にすまない。あ、謝って許されることではないが……本当に人として最低なことを……ん? で、でも、お前は当時、サディスしか眼中になかったってさっき言っていたではないか!』

『それはそれ! コレはコレだ!』


 そんな様々な者たちの思惑とは別に、互いにシュンとなって謝罪し合っていたはずのフィアンセイとアース。

 だが、次第に話の方向が微妙になり、気づけば何故か言い合いが始まっていた。

 とはいえ……


「でも……なんかこういうの初めて見たかも……こんなにアースくんと正面から言い合っている姫様……」

「あ……」

「だって……アカデミーでも、姫様が小言を言われて、それをアースくんは『へいへい』って感じでふてくされてたけど……」


 ちゃんと二人の間に生じた変化も、ちゃんと皆は感じ取れていた。









『だ、だいたい、お前はそうでなくても元々助平なんだ! しかも持っていた本のジャンルにも危険なものがあった! 『魔法学校パンチラコレクション』とか、『戦士候補生に「くっ、殺せ」と言わせてみた』とか、『卒業式と同時に誘う、マジカルミラー馬車』とか、いかにも我らのような制服着た学生を卑猥に写した本ばかり見ていたではないか!』


『アレは、転校したオウナが別れ際に友情の証として……つか、それまであんたに渡ってたのか!? アレらは言っておくけど俺が好んで集めたわけじゃねぇ!』



 最初はフィアンセイに同情したり、言い合いが始まったことでハラハラし始めた者たちが増える中……


「ほ~う、なのじゃ♪ 婿殿もなかなか良い趣味を持ってるのじゃ~♥ バックナンバーだけでなく、最新号も入手して……ぐへへへへ、これで婿殿もわらわにメロメロなのじゃ。アカデミーの制服もわらわサイズの入手しなければなのじゃ♪ ……ん? それはそれとして……オウナ? はて、どこかで……」

 

 ノジャがいやらしい企みを抱いていた。

 だが、ソコにだけ反応したのはノジャだけであった。

 他の者たちは、二人の口論に対して……


「ふふふ……なんか……大丈夫そうだね」

「……うん」

 

 エスピとスレイヤがそう言うと、最初は暗かった他の者たちも徐々に微笑ましそうにうなずき始めた。


「え、な、え?! なんで!? 兄さん、姉さん、どういうこと!? アース様とフィアンセイさんはあんなに激しく口喧嘩しているのに!?」


 その意味が分からず混乱するアミクス。

 そんなアミクスに母であるイーテェはハニかんで肩を叩いた。


「口喧嘩じゃないよ。アレはね、互いに自分の心の中の本心をぶつけているのよ」

「お母さん……」

「どっちかが一方的に言うんじゃない。お互いがぶつけ合う……私もこういうこと初めてできるようになるまで、苦労したな~……お母さんの好きだった人は、私がいくら言っても『はいはい』って感じで冷めてたし~」

「あ……そ、そういうものなの?」


 こういうことが良く分かっていないアミクスがチラリと父である族長を見ると、族長はクールに聞いてないふりをしながら空を見上げているが、周囲の大人たちは深く頷いている。



「そうそう。特にお兄ちゃんや族長さんみたいに、自己評価が低いと『好き』って言われないと『こいつ俺のこと好きなの?』って、わからないだろうしね」


「そう、それよ! 私も昔~好きな人に告白したとき……『え? 壺でも買わせる気?』みたいなこと言われたんだから! ほんっと、自分に自信がない男ってのは苦労するんだから!」



 エスピの言葉にイーテェも興奮したように同意して、ますます族長が顔をソッポ向けはじめ、他の大人たちもニヤニヤし始めた。

 

「だからこそ……シノブやクロンはお兄さんにとってはなかなか特別なんだろうね……」

「そうであろうな……ちゃんと言葉にして想いを伝えられなかったことで生じる後悔……小生も痛いほど……痛いほど分かる」


 そして、ラルもまた実感の籠った言葉を口にする。

 それを受けてアミクスは真剣な表情でうつむき……


「そっか……アース様は……積極的に好きって言う……そういう女の子がいいんだ……」


 色々と変化が生じ始めていた。

 ただ、そのことは今は他の大人たちは特に気にすることなく、それどころか映し出されるアースとフィアンセイのやり取りを微笑ましそうにしていた。


『もっとこうやって……全てを曝け出せなかったのだろうな……みっともない嫉妬心も……それを含めて我なのだから……そんな醜い部分も見てもらわなければ……本当の自分をお前に受け入れてもらえなければ、何の意味も無かったというのに……』

『そうだな……十年以上も一緒に居たのに……一緒に居るだけじゃ分からねえことってあるんだよな……やっぱ、言葉にしねーと分からないまま、勘違いしたまま……幼馴染だろうと……親子だろうとな』

 

 互いに激しく言い合ったことで、ありのまま自分を相手に晒す。

 そして……


『仕切り直しだ。世界に飛び出して自由に生きようとするお前に負けないよう……姫としても、戦士としても、一人の女としても……我は……もっと高みを目指して行く。今、この瞬間からな』


 改めて仕切り直し、決意を新たにする。

 アースにフラれて落ち込んで泣くのではなく、やり直す。

 そういう結論に至ったフィアンセイに、エスピとスレイヤは評価し……


「うんうん、いいんじゃない? フィアンセイちゃんか~……」

「今のところ、クロンやシノブほどの得点はあげられないけどね……まぁ、期待を込めて……という感じかな?」


 互いの採点をメモ帳に書き込んでいく二人だった。



 だが、このとき、二人は大事なことを忘れていた。



 ある意味で、天空世界での一連の流れに気を取られて、世界中の者たちが忘れていた。



 互いに握手をするアースとフィアンセイ。かつての友と別れ、サディスやカクレテールの住民であるマチョウやツクシ、カルイたちともこの場で別れることになる。



 もう一人、別れを言わなければならない……絶対に忘れてはならない、『妹』の存在を、アースだけでなく、世界中が頭から抜けていた。

 

「あっ、思い出したのじゃ! オウナ! わらわがたまに帝国に潜入していたときに偶然出会って友になった……『アーナ』の息子なのじゃ! いや~、あやつとの談義はバサラと飲んでいた時並みに盛り上がったものじゃ。そうか、息子がたしかにおったが、婿殿の友であったか……そういえば、あやつは帝国から引っ越してしまったようなのじゃ……」


 一方で……


「え、ノジャはん。今……アーナと言いました?」

「……アーナ・ニースト……でござるか?」


 ノジャのその言葉に、意外にもシノブの両親であるカゲロウとオウテイの二人が反応した。


「え、それは驚き桃の木じゃない!?」

「なんと……ノジャがあやつと……いや、そもそもあの者の息子がアースくんと……」


 さらには、コジローとミカドまで反応した。


「ん? なんなのじゃ? おぬしらこそ知っているのじゃ?」

「あ……ああ……その……数年前にジャポーネに現れ……現在、兄者の……すなわち国王の食客として召し抱えられているでござる」

「……へ?」


 その意外な繋がりをアースは知らなかった。

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