第四百七十一話 伝説が始まった
『アース……私は……あなたを見てきました。今も目を離しません。あなたを信じて……だから……勝って! アース! 頑張って!』
女神の声援を受けながら、アースが一人でパリピに立ち向かう。
そして、鑑賞者たちの予想を上回るアースの奮闘が繰り広げられた。
だが、それでも徐々にレベルの差が浮き彫りになっていた。
『そいやぁ、ふっとべや!』
『がはっ!?』
『どうよ、オレの足技は!』
パリピの闇魔法や爪による攻撃を警戒しても、素の力だけでパリピは十分に最強クラス。
そしてヤミディレ以上の容赦のない攻撃が、徐々にアースの肉体を傷つけていく。
「駄目だ……アースのフットワークもパンチも確かにレベルは高いが、パリピに致命傷を与えられねえ……」
「それに、パリピもあんなふざけた笑いをしていながらも、油断だけはしていない。しっかりとアースを警戒しているわ」
空で繰り広げられる、息子と宿敵の一対一の戦い。
息子であるアースの傷が増えていくたびに、ヒイロとマアムも顔をつらそうに歪める。
一方で……
「たしかに……パリピもアース・ラガンの大魔螺旋や渾身の一撃には神経を張っている……どれだけフェイントを繰り広げて動き回ろうと、アレでは当てられぬ……しかし、それは『あの方』も分かっているはず……なら、ここで何をする?」
ヒイロとマアムと違い、ハクキは「だからこそここで何をする?」と、アースの狙いに注目していた。
『土属魔法・キロアースウォール!』
『往生際! 足掻き! しゃらくせえ!』
パリピに蹴り飛ばされたアースが、地面を転がりながらも魔法を発動。
土の壁でパリピの視界を奪う。
「そんなキロ級の魔法じゃ何の役にも……いや、まさかアースは!」
「壁で視界を奪って、溜を作ってパリピに強力な一撃を叩きこもうと……」
「浅はかな。そんな狙い、パリピは瞬時に読み取る。むしろ……パリピ自身も拳、大魔螺旋、どちらが来ても構わないように迎撃の態勢……いや、それとも何かあるのか?」
アースの行動に、ヒイロ、マアム、ハクキは「それではダメだ」と反応。
そしてそれはそのまま、パリピの反応にも繋がる。
『おるあああ! ヒハハハ、さあ来なさい? だが全て叩き……は?』
「「「ッッ!!??」」」
そう、ヒイロもマアムもハクキも「ソレ」は予想外だった。
だから、パリピにとっても予想外。
「ぇ……」
「……う……そ」
「なん……と」
逆に言えば、六覇であるパリピでも予想できなかったことであるために、ヒイロとマアムとハクキも予想できなかったのは仕方のないことでもあった。
「あれは、俺の―――――」
そこに立っていたのは、拳を構えているアースではない。
逆手に剣を持って、刀身に雷を纏わせて、飛び込んで……
『これが俺の生涯最後の魔法剣! ファイナル・サンダースラッシュ!』
それは、勇者ヒイロの力を知る者たちからすれば、ヒイロには程遠い力であることは明白である。
身に纏う膨大な魔力や剣気はヒイロとは違う。
しかし、それでも見る者すべてにヒイロを感じさせるその剣は、呆然としているパリピの両手を斬り飛ばした。
「き、斬った!? パリピを……」
「アースがパリピを……斬った! ヒイロのあの技で……アースが……」
「アース……お、お前……」
「アース! っ、でも今……生涯最後って……」
世界の誰もが予想外のアースの魔法剣。しかも見様見真似で放ったヒイロの技。
アースの会心の反撃……パリピに一泡吹かせたこと……そしてそれをヒイロの技で達成した。
ヒイロは一瞬そのことに歓喜しそうになった……が……
「アース……俺は……お前に……自分の技すら……教えてなかっ……っ……」
瞬間、ヒイロはこれまで以上にショックを受けたように顔を落とした。
そう、自分の息子が自分の技で伝説の六覇を斬った。本来なら喜ぶべきものだ。
しかし、ヒイロはこれまでの人生で一度も自分の技をアースに教えていなかったことに気づいた。
アースが小さい子供のころに「どーだすげーだろ」みたいな感じで見せたことはあったが、どうやって身に着けるのか? どのような鍛錬が必要か? コツは?
ヒイロは何も教えていない。
――親父が俺に剣でも教えてくれて……大魔王を倒した勇者の剣でも俺にくれたら……姫様にも勝てるんじゃねーか?
――わりーな……俺もお前に教えてやりてーが、仕事が忙しくてな~……
だからこそ、今のはヒイロが教えた技ではなく、アースが自分の知らないところで見様見真似で自分の努力で手に入れた技。
そして、それは……
『今の戦い方を身に着けて、半年。だけど俺は魔法剣だけは10年以上努力してきた。俺に魔法剣は合っていない。俺がこれからどれだけ努力をしても、俺では親父を超えることはできない』
もうすでに分かっていたはず。
御前試合でもアースは言っていたこと。
――俺は親父でもなければ、母さんでもない。俺は俺に合ったもので、俺の道を行く
だからこそ、アースはそう宣言した。
『俺の魔法剣では親父は超えられねえ。それでも、俺の10年間は全くの無駄だったわけではない……って……今日……今この瞬間に繋がったんだ』
アースの魔法剣。
その努力を見ることも、その先へ導くことも、それどころか父として息子の魔法剣を受けてやることを一度もないまま……
『俺の十年が、親父たちのかつてのライバルだった六覇に一矢報いることができた。それだけでもう十分だ! そして、これが俺の決別の剣! そしてここから先は、俺の道! さあ、ケリを着けてやるぞ!』
アースは決別を宣言した。
「俺は……俺は! 本当に……あいつに……何も残してやれてねぇ……」
既に何度も抱いていた後悔ではあるが、呆れられるとか、これまでのような家出とか、親失格とかそういうのとはまた別な感情。
何も息子に残せぬまま、ヒイロはアースから決別を叩きつけられた気分であった。
「ふはははは、流石に吾輩も予想外であったな……落ちていた剣を拾って……いや、違うな。最初から組み込まれていた。すべてはこの瞬間に至るために……あの瞬間、あの場所に蹴り飛ばされ、完全にパリピの思考の死角を突くように……同じ立場なら吾輩もくらっていただろうな」
ハクキはハクキで、予想外の方法でパリピに致命打を与えたアースに、そこに至るまでの流れを感じ取って、脱帽したようにため息を吐いた。
『いくぞゴラあああああ! 大魔ハートブレイクショット!! 大魔ソーラプレキサスブロー! 大魔スマッシュッ!!』
『ごふっ!?』
そして、再びアースは躍動する。剣を捨て、拳でこれまで溜め込んだものを爆発させるように、パリピに叩きつける。
これまで足を使って距離を取ってのファイトスタイルから一転し、拳を振り切れる接近戦を望む。
心臓、鳩尾、顎を跳ね、パリピの動きを止め……
『が……ま、て……人の話しを……』
『知るか! ちゃんと話を聞いてもらえないのは、全部……全部テメエの所為だアアアアアアア!』
伝説をボコボコにする。
「うむ……強い!」
かつての同志であるパリピがボコボコにされている光景に、ハクキは笑って頷いた。
そして……
『私のハニーがヤバヤバのヤバだわ! 素敵すぎるわ! もう、十分だから……これ以上私を惚れさせたら、惚れ死にしちゃうわ!』
『いけー! アース、そこです! そこです! えい、えい、えいーっ! ガンバです!』
『坊ちゃま! 今こそ……今こそ知らしめるのです! アース・ラガンの力を!』
シノブ、クロン、サディスが叫ぶように、そこにはもう勇者の息子が六覇と戦っているのではなく、アース・ラガンが戦っているのだ。
「いけ……」
ヒイロとマアムは流れる涙を振り切りながら、拳を握って、そして立ち上がって叫ぶ。
「い、いけ……いけーーー、アース! やっちまえ! パリピをぶっ倒せ! お前の力をもっと、どうしようもねえ馬鹿な親に、お前のことを知らない奴らに、世界に、すべてに……アース・ラガンの力を見せつけちまえ!」
「アース、私たちなんかを、伝説だろうとなんだろうと殴り飛ばして、あんたはもっと行っちゃいなさい! どこまでも!」
これまで、アースのことで驚くリアクションしか出せなかったヒイロとマアム。
アースの戦いぶりにも、驚く以外では分析したり、戦士としての立場で見ていた。
だが、二人は初めて声を上げて声援を送った。
そして、声援は二人だけではない。
世界だった。
「よっしゃあああ! お兄ちゃん、ぶっとばせ! パリピをぼっこぼこにぶん殴ってやれー!」
「これだ、ボクたちはこれを待っていたんだ! さあ、お兄さん、思う存分やってくれ!」
「ぬおおお、婿殿おぉ、わらわが許すのじゃ! 死んでないけど、もうその変人パリピをぶっ殺すのじゃぁ! 顔面ぶっ潰してやるのじゃぁ!」
この瞬間を待っていた。その気持ちを爆発させて、エルフの集落では大盛り上がり。
エスピとスレイヤとノジャが飛び跳ねたり、その場でシャドー。
「剣を使うアース様も素敵……でも、やっぱりアース様はこっちの方がかっこいい! パンチパンチパンチ!」
アミクスたちにとってはアースがそもそも剣を使うこと自体を知らなかったので、そっちの方に驚いていたが、それでもやはり拳こそがアースの本来の姿だと興奮してHカップをバインバイン揺らしながら飛び跳ねる。
「ヒイロの技か……そしてこれが生涯最後……泣けることを言うじゃない……」
そんな中、コジローは切なそうに苦笑していた。
「ヒイロの代名詞とも言える技……オイラたちの世代や世界が期待したのは、父の技を受け継いだ勇者の息子が六覇の残党を討つために放つ未来への希望を示す一撃……という展開。それが、父の技も道も継がずに、決別を込めての一撃に……ま、息子をそこまでにさせてしまったヒイロやマアムやオイラたち無責任な世間の所為……醜いエゴ……仕方のないことじゃない」
コジローは目が見えないからこそ、目が見える以上に感じ取ることができる。
伝わってくるアースの声……
「お兄さんがこれでもかと活き活きしてるじゃない。だからこそ、これが正解……さ、もっと見せつけてやるじゃない! アース・ラガンくん!」
ヒイロとはかつて何度も死地を乗り越えてきた戦友なだけに、コジローにとっては切なさを感じる場面でもあった。
しかし、それは自分たちのワガママ。エゴに過ぎない。
改めて「これがアースの正解」とコジローも思い、次の瞬間にはコジローも年甲斐もなく興奮しながら声援を送った。
一方で……
「……読めなかった……ワシも……コジローもエスピもアース君の狙いをまったく読めなかった……つまり、アース君はワシや六覇や七勇者の予想外の戦術を……。しかもあの剣は偶然ではない……フィアンセイ姫たちと一緒にではなく、一対一でパリピと戦うと決めた時点ですでにこの展開になるように……あの場に落ちている剣を拾い、尚且つパリピに気づかれぬように……ありえぬ」
ミカドだけは驚愕に震えていた。
「油断もせず、警戒した状態で、実際に戦っているパリピが裏をかかれる……何手先まで考えて……こんな読みをできるものなど……ワシの人生でも一人ぐらいしか…………一人……ぐらいしか……ッ!!」
そして、エルフの集落以外でも世界各地で沸き起こる大歓声。
マチョウとの決勝戦を遥かに上回る熱気の込めた声援。
相手が六覇のパリピであり、なおかつこれまでヘイトを溜めたからこその展開に、帝都も大歓声。
勇者の技と決別し、拳で六覇を圧倒するアースへの「アースコール」が鳴りやむことは無かった。
「す、すごい! アースが……あのアースがあのパリピを圧倒している! 信じられない……私たちの宿敵であったあの六覇のパリピを」
「私がベンリナーフと連携で戦ったあのパリピを相手に、一人でここまで……」
宮殿で見上げるソルジャとライヴァール、二人の七勇者も震えと驚きが止まらなかった。
「いや、だが熱くなって前のめりになり過ぎだ! アース!」
「ライヴァール……?」
だが、戦いに生きた七勇者として市民と同じように興奮してはしゃぐだけではなく、状況を冷静に見てライヴァールがハッとなる。
「アースは先ほどまで距離を取って戦いながらもパリピの攻撃を完全に回避しきれなかった。パリピが両腕を失ったとしても、攻撃ばかりに意識を向けていては、防御が疎かになって、パリピの足技に反応できん!」
「っ、確かに……パリピは狙っている目をしている!」
「防御が甘い! やられる……」
そう、パリピは六覇の怪物。ゆえに、接近戦も可能。
アースが攻撃ばかりに意識を集中していれば、その意識の死角をついて……
『がーっ、このガキ! オレの蹴りで―――』
そして、パリピもライヴァールの予想通り、「ほら見たことか」と前蹴りを放ち……
『大魔ショートアッパー!』
『がっお、おごおおおおおっ!?』
その蹴りに対して、アースは右のショートアッパーをパリピのアキレス腱に叩き込み……
「……あ……」
「な……に?」
ブチっと断ち切った。
そして、アースが拳を掲げる。
それはもうコジローが抱いた想いのように、「勇者の息子が、父の意志を受け継いだ技」ではない。
アース・ラガンの代名詞となった技。
それが、「本来は誰の技だったか」などはもう誰も気にしない。
ヒイロとマアムも叫ぶ。
「キメろ、アースッ!」
「私たちが倒しきれなかったパリピを……あんたの手で!」
それは、世界の全人類の声となって空に向かって放たれ、そしてアースの右腕には巨大な螺旋の渦がうねりを上げる。
『大魔螺旋・アース・スパイラルブレイクッ!!!!』
『ア゛————————ッ!!??』
アースの代名詞の技が、ついに伝説を穿った。
パリピの胴体を貫き、引き裂いた。
「か、勝った……」
「アース……」
「お見事」
もはや誰の目にも明らか。
戦闘不能で転がるパリピ。
立っているのはアース。
「勝っちまいやがった……あいつが……アースが! 俺たちの宿敵だった、あのパリピに……」
「アースが……あの子が勝った……あの魔王軍の……魔界の……歴史に名を残す伝説の……闇の賢人・パリピを! 私たちが倒しきれなかったあのパリピを、アースが倒した!」
勇者の息子が六覇のパリピを倒したのではない。
アース・ラガンが六覇のパリピを倒したのだ。
『ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!』
「「「「「ウオオオオオオオオオオオオオオッッッ!!!!」」」」」
拳を握りしめて雄たけびを上げるアースと一緒に、世界が吠えた。
その世界の声を感じながら、ハクキは微笑みながら……
「新たな伝説が……始まったな」
ゾクゾクしたような表情でそう呟いた。
「勉強不足な魔法蹴撃士~勉強しながら最強の足腰で♥イロイロ♥学園無双」
https://novel18.syosetu.com/n5097hp/
こっちもよろしくお願い申し上げます。




