第四百十四話 進化した六覇
「だって、わらわ……わらわ……いい子にずっと待ってたのじゃ! だから、ラブラブな交尾したいのじゃ!! 足でナニを踏み踏みしてペロペロ舐め合って陰毛ごっそり剃って涙目にして、最後は尻―――」
そんなこと言われても……
これは引くを超えて遠くまで逃げたくなる。
「それに、婿殿は見た感じまだ童貞っぽいのじゃ! わらわだって初めて奪われたのだから、こっちも婿の初めてを奪って何が悪いのじゃ!」
「あら、ハニーの初体験を無理やり奪おうというのなら私だって黙っては……え? 初めてを奪われた?」
「そうなのじゃ! わらわのキュートでプリティーな尻に、この男は――――」
って、こいつこんな状況下であのことまで……
「そ、それは事故だ! アレは事故だ! いや、俺が悪かったかもだけど、あれは戦争の殺し合いの最中に……」
「何を言うのじゃ! 偶然の産物で尻を開発されてたまるかなのじゃ! 貴様にはわらわの味わった屈辱と貞操と強制開発に対し、生涯償う義務があるのじゃ!」
俺に飛びついて胸倉掴んでぶんぶん前後に揺すってくる。
正直、俺も気の毒なことをしたとは思ってる。
だがしかし、それで俺の生涯を……となると了承するわけにはいかないわけで……
「え? は、ハニーが……いくら中身はあれでも……見た目は幼女の……お、お尻を?」
「あ~、シノブよ……小生もこのことは分かっているが、言えぬというか……何も聞かないでやって欲しい」
「でも……となると、ハニーってオッパイよりもお尻の方が……お尻……お尻ね……お尻ならば!」
「いや、シノブ?」
って、あれ? シノブが何かブツブツと……つか、お前もラルウァイフもノジャを止めるためになんか諭してくれるんじゃなかったのかよ!?
「とにかく、バサラの弟子だろうが何だろうが、この恋は譲れぬのじゃ!」
おかしい……女の子に告白的なことをされるのは初めてじゃない。
シノブとクロン。
想いを伝えてもらったら、いつも顔が熱くなって照れくさくなって悶えてしまった。あっ、そういえばフィアンセイにも告白されたんだった。
だけど、これはどうだ?
赤くなるとは思えない。むしろ、今の俺の顔は青くなっているんじゃないか?
「だったら、なーに? じゃあ、お兄ちゃんを力ずくでヤル気なの?」
「ボクのお兄さんへ恋のアプローチは解禁でも、凌辱行為をしようというなら話は別だよ、ノジャ」
そんな俺を守る様に、両脇をガッチリと固めてノジャと向かい合うのはエスピとスレイヤ。
「アアン? ガキども……わらわとヤル気かなのじゃ?」
そして、完全に戦闘モードの鋭い目つきになったノジャ。
マジか? これ、ミカドに続いての連戦? 流石にこれは……
「って、ちょっと待て! このままこいつと戦うのか!? 連戦で!?」
「大丈夫だよ、お兄ちゃん! いくら相手がノジャでも……実は私とスレイヤくんは過去に何度もノジャと戦ったんだから」
「うん。彼女の風林火山は、今のボクらなら見切れる。何よりも今はお兄さんもいる。三人ならミカドの時同様に―――」
焦ってしまったが、ハッとした。
エスピとスレイヤの言うように、俺は一人なわけじゃない。
何よりもミカドとの戦いは激しかったとはいえ、俺たちは特に大きな傷を負っているわけではない。
それに、ノジャの風林火山は俺だって過去に――――
「動くこと雷霆のごとし!!」
「「「ッッ!!!???」」」
そのとき、雷を纏った激しい尾の一撃が俺たちの眼前を駆け抜け、俺たちのすぐ目の前の足音に巨大なクレーターが出現した。
「な……え?」
「い、今のは……風林火山の……火?」
「いや、ち、違う……火ではない……風でもない……今のは……」
完全に不意を突かれた。
それは、俺も見たことのない力だった。
いや、というより今の感じ……一瞬、アレっぽく……
『ほほう……ノジャめ……新しい技か……しかもこれは……少々、余や童……ヤミディレとも違うが……原理はアレと同じことを……』
トレイナも唸っている。
ちょっと待て、ここに来て……
「ぬわははは……風林火山の火は九つの尾をまとめて叩き下ろす一撃必殺……しかし、あまりにも単純すぎるゆえに見切られやすく、さらにわらわは無防備……風も速度のある技だが一撃の威力は軽く、被弾を恐れず間合いの内側まで入り込まれたらこれまた無防備……ゆえに、それらの欠点を克服したのが……速度と威力と防御すらも兼ね備えた『雷』の力……」
雷……こいつ、まさか十数年前よりさらに強く……って、え?
「ちょ、ハニー! 何をやっているの!」
「エスピもスレイヤも何をぼーっとしている! 大将軍がすぐそこに!」
そのとき、俺もエスピもスレイヤもハッとして振り返る。
するとそこには、ニヤニヤといやらしい笑みを浮かべたノジャが腕組みして立っていた。
「えっ……」
「うそ、い、いつの間に!」
「馬鹿なッ!?」
慌てて俺たちは飛び退いて距離を取った。
それほどまでに、俺たちはノジャに接近されて背後を取られていたのだ。
気づかなかった。
「ばかな……いくら今の技に驚いたからって……」
「私たち……後ろを取られるほどボーッとしていたつもりは……ないんだけどね……」
「高速移動したとしても、その気配を見逃すなんて……」
そう、ありえなかった。
たとえ、レーダーを発動していなくても、たとえ少し油断していたとしても、命を取られるかもしれないほど相手の接近を許すなんて。
トレイナだって俺の感覚が向上したのを認めてくれた。
それなのに、まったく気づかないなんて……
『完全なる気配断ち……それは存在感すらも……驚いたな。戦後から十数年の平和な世界……しかし、それでも己を高めるために研鑽していたのだな……ノジャ』
トレイナも感心するぐらい……まずいな。
「ぬわははは……これがもう一つのわらわの新技、『知りがたきこと陰のごとし』。完全なる気配断ち……ほら、たまにおるのじゃ。目の前にいても自分から声を出さないと気づかれなかったり、最初から傍にいたのに声掛けたらてビビられたり、見失われたり、そんな……異常なまでに影が薄い存在……それが今のわらわなのじゃ」
ミカドの本気と対峙したとき、まずいと思ったものの、やはり洗脳されていた影響からか、ミカドの本来の持ち味は活かされていなかったっぽい。
だからこそ、俺たちも三人がかりで押し切ることができた。
しかし、このノジャは……
「これが今のわらわの『究極進化奥義・風林火陰山雷』……スレイヤ、エスピ、貴様らもまだ知らぬのじゃ」
「う、そ……」
「ぬわははは、特に陰はいざというとき婿殿を攫……っと、それはさておき……とにかく、うぬらは本気のわらわを知らぬのじゃ。十数年前のわらわの力しか知らん婿殿も、今のわらわを知らぬのじゃ」
進化した六覇。
まずい、こいつが強くなっていることは想定外というか……これはさっきのミカドとの闘いよりもある意味で……
『しかし、ノジャはそれでもハクキに勝てなかったわけか……ベンリナーフと二人がかりで……ノジャが進化しているというのなら、ハクキ……貴様は余の知る貴様から、一体どれほどに……』




