第三百九十五話 何度も驚き顔
「ちょ、は、ハニーが私たちと別れた後に……古代の技術によって過去の時代に飛ばされていたですって!? 何なのソレは!」
信じられないような話を、全てを信じてもらう前提で話をするしかなかった。
「んふふ~、それでね、お兄ちゃんはまだちっちゃい頃の……心を閉ざして人形のようなただの兵器として過ごしていた私と出会ってね……んも~、正義のヒーローみたいに助けてくれてね~、優しくて~、あったかくて……このリボンもくれて……あっ、ダメ……なんか改めて思い出したら私も涙出てきちゃった」
「そう、正義のヒーローだった! 我が強く、周りなんて誰も信じないで生きてきたボクをも救ってくれた。お兄さんがいなければ、ボクは当時魔王軍のノジャに捕まって……どうなっていたことか……」
だけど、正直一回一回が驚くような話の連続となってしまい、更には途中からエスピとスレイヤも身を乗り出して話をしだしたので時間もかかる。
「なるほど……信じられないけど、確かにそうでないとオイラの疑問も解消できないじゃない」
「なんと……時を越える……そのような摩訶不思議な力が存在したでござるか」
「せやけど、七勇者のエスピはんが明らかに年下のお兄はんを慕っとるのもそれが理由やったんか……」
「それは本当。現に十数年前に俺はエスピとスレイヤと一緒にこの地にやってきたお兄さんと会ってるから。一応……俺が書いたこの『ラガーンマンの冒険』にもザックリ書いてるから」
「当時魔王軍だった小生とも会っている。大将軍と戦うアース・ラガンとな……」
「ふぇえええ!? ノジャちゃんってそんなにスゴイ人だったんだ……そっか、本に出てきた『九尾のロリィ』って……でも、そんなスゴイ人に勝っちゃうラガーンマン様……アース様はやっぱり……すてき……」
過去の世界に行ったこと。
そこでエスピと出会ったこと。
コジローと遭遇した時のこと。
スレイヤと出会ったこと。
ノジャや魔王軍と戦ったこと。
エルフの集落に行ったこと。
そして……
「それじゃぁ……お兄さんと旅に出ていたはずのエスピ嬢が急に連合軍に一人で戻ってきたのは……お兄さんが未来へ帰ってしまったからってことじゃない?」
「うん。そして、絶対に戦争に勝たないとって……ヒイロとマアムが死んだらお兄ちゃんは生まれないからって……だから私は……」
「なるほど……そういうこと……しかし、ノジャとまで出会うどころか戦っていたとは……ヒイロとマアムが知ったらなんていうか……」
いつも飄々としているコジローも流石に驚くことばかりだったようで、何だか疲れてしまった様子。
かつて自分が戦っていた時代の裏で起こっていたことを今になって知り、もう何が何やらという様子だ。
「ん……?」
だが、そこでコジローは一つ何か引っかかった様子。
それは……
「待って欲しいじゃない。そういう理由でお兄さんとエスピ嬢とスレイヤ氏がエルフの人たちと過去に出会って仲良くなったってのは分かったけど、エスピ嬢がこの辺り一帯の土地をあの時買ったのは……エルフの人たちのため?」
「あ、うん……あの時ね、前に住んでいた集落が魔王軍に襲われて住めなくなっちゃったからね……そこでお兄ちゃんが競馬で当てたお金を私に託してくれたの」
「ああ、そういう……そういや、お兄さんはあのときに大穴を当てて……ん? 魔王軍に襲われた? それがノジャ?」
「ううん。鬼天烈大百下とハクキ」
「ああ、なるほど。それなら、ノジャがこの地に居ても問題ない……え?」
一つの引っ掛かりを解消してホッとした顔を浮かべたコジローだが、それは一瞬のこと。
エスピがサラっと言った名前に、顔を引きつらせて固まった。
当然……
「「「「え…………」」」」
シノブもオウテイさんもカゲロウさんも固まり……
「え、えええ!? ちょ、は、ハニー!? は、ハクキってあの、六覇最強って言われたあの!?」
「拙者らの世代でも長年恐れられたあの……」
「また懐かしくもあり、恐ろしい名前が出てきたもんやな~……」
ある意味で予想通りの反応を皆が見せてくれた。
「あのハクキとも遭遇し!? ……よ、よく生き延びたじゃない。ヒイロやマアムも、七勇者が唯一勝てなかった、あのバケモノに……」
「そうよ、ハニー! 君はどうしてこう六覇ばかり引き寄せるの!?」
六覇最強のハクキ。その名がどれほどのものかと皆が分かるからこその反応だ。
だけど……
「まぁ、確かに……でも、あんときは……逃がしてくれた奴が居たからな」
そう、あいつが居なければ……。
それを思い出し、俺も、エスピもスレイヤも族長も、そしてラルウァイフも少し切なくなる。
あの、青い鬼のことだ。
「ま、そういうわけで俺らは何とか生き延びて、そんで俺が未来に帰った後もエスピとスレイヤと、そしてこのラルウァイフもこの地をずっと守り続けてたってわけだ」
「は~……なるほどねぇ……なら、エスピ嬢たちがここに強い思い入れを抱いているのは当然というわけじゃない……しかし、まさかハクキが……」
「でも、たぶんハクキは俺のことは分かってないと思うぜ。アース・ラガンって名乗らなかったし、それにあんときの俺はあいつと会う前の戦闘でボコボコの顔になってたしよ」
「まぁ……そうであって欲しいが……なるほどねぇ。それじゃぁ、オイラやヒイロたちが知らない歴史の裏で、お兄さんは魔王軍の六覇……ハクキとノジャの『二人』と会っていたと……そういうわけじゃない?」
「………………」
「……ん?」
その問いに俺は思わず言葉に詰まった。
「「「「………………」」」」
それは、エスピもスレイヤもラルウァイフも族長もそうであった。
何故なら、もっと深く関わった六覇がもう一人いたからだ。
「……ハニー?」
もう驚いてばかりだったシノブも不安そうに俺の裾を掴んでくる。
すると……
「あの、アース様。姉さんも兄さんも……」
意外にもそこで口を開けたのはアミクス。
そしてアミクスはその手に族長が書いた本を取り出して……
「この本の流れが実話だとして……それなら、九尾とか青鬼とか分かったけど……英雄ラガーンマンの最後の戦い……『巨神・ジャイアント』はいつ出てくるの?」
「「「「「あっ……」」」」」
「「「「きょしん……?」」」」
ラガーンマンの冒険で思ったけど、小説として書かれてたからか、族長はたぶん登場人物の本名を使用してないのかな?
でも、偽名を使っても一発で分かる……
「きょしん……え? ま、まさか……巨神? ……それって、魔、魔巨神~……な~んてこと、ある、わけ……じゃない?」
「「あっ!?」」
「ハニー……えぇ?」
そしてコジローもオウテイさんもカゲロウさんもシノブも、今日何度も見た顔になった。




