第三百九十四話 クールじゃいられない
似てると思ったのは全然気の所為じゃなかった。
「「そんなことが……」」
空間が歪み、その歪みの向こうから突然現れたシノブ。
現れたシノブは俺を見て切なそうに微笑むものも、カゲロウとオウテイを見た瞬間に驚愕してパニくった。
俺も混乱した。
いや、いきなり人が空間のゆがみから現れたら誰だって驚くものだが、別の驚きもあった。
そして、一度混乱した皆が落ち着いて話をして現状を理解するのに、やはりそこそこの時間がかかってしまった。
「なんてことなの……まさか……ハニーがこの地に居て……逃走していたお父さんたちと会っていたなんて……」
「まさか、オウテイ……さんと、カゲロウさんが、シノブの両親だったなんてな……」
「それにこの地は立ち入り禁止の私有地だっていうのは知っていたけど、まさかエルフ族の集落で……ハニーはこの地の人たちと仲良しで……」
「っていうと、シノブって王族だったんだな……忍者戦士は不遇な扱いとか言われたけど……」
「そして、現在シソノータミに調査に行った帝国と魔界の調査団は安否不明……ひょっとしたら、フィアンセイ姫たちが慌ただしく呼び出された理由ってこのこと……?」
「つうか、俺にワープするためのマークって……あの時か……ドサクサにそんなもんを……」
ざっくりとした話ではあるがある程度の話をして互いの近況を少し理解した俺たち。
まだまだ話さなければならないことは山ほどある。
エスピやスレイヤのこととか、ノジャのこととか、過去の時代に行ったとか、あとこれからのこととかも。
でも、俺はまずシノブが現れた理由と、シノブがオウテイさんとカゲロウさんの娘ってことの驚きでしばらく頭がいっぱいだった。つか、さっきまで呼び捨てだったけど、流石に「さん」付けしないとまずいよな。
シノブもまた、色々な覚悟を持って来たようだが、まさか俺が自分の両親と一緒にいるなんて微塵も思っていなかっただろうし、しばらく頭を抱えていた。
「で……シノブ。あんたは彼のことをハニーって呼んどったけど、それはそういうことなん?」
「「ッッ!!??」」
そして、そんな俺たち二人をニコニコとした表情で口を挟んできたカゲロウさん。
さっきまで真面目な話をしていたというのに……となることなく、何か他の皆も興味津々に俺たちを見てる。
まぁ、流石に知らない人たちならソコは気になるよな。
でも、シノブは……
「別に……そういう風に呼んでいるだけで、私と彼はお父さんとお母さんのような関係でもないし、特に夫婦や恋人同士がやることだってやっていない、友達以上で恋人未満の関係よ」
「ほ?」
あれ? ちょっと意外だった。、シノブはやけに淡々とクールにそう答え……
「そう、今はまだ……私の一方的な片思いよ」
「ほぉ!」
……るわけもなく、俺に対してドキッとするような笑顔を見せながらウインクしてきた。
すると、そんなシノブの大胆な言葉に「ほ~」と部屋にいた皆から声が漏れ……
「ふ~ん……なるほど、いーじゃん。お兄ちゃんのお嫁さん候補……シノブちゃんか~」
「ふむ……僕たちのお兄さんの相手にふさわしいか、ちゃんと後で面接とテストしないとね」
「だはははは、シノブってばキャラが変わったじゃな~い♪ でも、国に居たときよりずっと良い感じしてるじゃない!」
「父として複雑ではあるが……」
「うわ~……お兄さんってば……爆発しろって感じだね」
「あ、あぅ、あ……あ、あの子、アース様のこと……あれ? なんだろう、胸がズキって……」
頬が熱くなるぐらい照れる俺の周りで呑気に盛り上がりやがって。
「は~、甘酸っぱいこと言うやないの、シノブ。でも、しばらく見んうちに大きゅうなったやないか。それに……うん……このお兄はんなら……うん! ええやん! なぁ~、シノブ。お父はんの初めてを奪ったときにウチが実行した作戦と技を伝授したろか? まだ膜はあるんやろ?」
「あるわ。でも、結構よ。奪うんじゃなくて、私は奪ってもらいたいのだから」
そんなシノブを「我が子の成長した姿」という様子で嬉しそうに笑うカゲロウさん……ん? お父さんの初めてを奪った? 奪ったの?
「ふしゃああ! ガルルルル、グルルルルル!」
「え? あら?」
「ぐう~~、ガウガウガウ!!」
と、そのとき、部屋の隅でアミクスにあやされていたノジャが、シノブを威嚇するように飛び出してきた。
その目はシノブを「敵」と認識しているようだ。
「あ~、ダメだよぉ、ねっ、いーこいーこだから」
「グルルル、ガウガウガウ!」
アミクスが慌てて取り押さえるも、ジタバタして今にも飛び掛からんという様子のノジャ。
もしノジャがまた暴れたら、当然アミクスで取り押さえられるわけがない。
「ハニー、この小さな獣人の……ん? ……ンンンっ!!??」
一体何なんだという目をしたシノブだが、すぐに表情が固まった。
それはノジャ……ではなく、ノジャを抑えようとしているアミクスを見てだ。
――バインボインブルン♡
「あっ、かっ……え?」
いや、アミクスというよりも凝視しているのはその胸……
「え、えええっと、あ、あの、その、つ、つかぬことを……その、え、エルフの妖精さん。じ、自己紹介もできていない中で、そ、その、一つ聞かせていただきたいのだけれど……」
「はい?」
「……ソレ……本物かしら?」
「……ふぇ?」
いや、気にするのは無理はない。だって、シノブは気にしているから。だから初めて出会ったときはスーブラとかいうので盛っていたから。
凝視してアミクスのブルンブルンから目が離せないシノブは全身を震わせている。
さらに……
「ガア、ンガア!」
「あ、もう、ダメだってノジャちゃん……」
アミクスはシノブの問いに答える前に、暴れるノジャをもう一度抑えようとしたが、その言葉でまたシノブの表情が変わった。
「え、え? の、ノジャ? あっ、そういえばこの顔……」
会ったことなくても、流石にシノブも知っているよな。教科書にすら乗るような伝説の住人……こんな姿じゃ信じられないけども。
「ちょ、ど、どういうことなのよ、ハニー! き、君は、わ、私たちとカクレテールで別れてから一体何があったのよ!? この大陸に来て、お父さんとお母さんとコジロウ様とも会って、エルフの集落に居て、し、しかも、ろ、六覇のノジャまで……!?」
再び取り乱したシノブは俺の胸倉を掴んで前後に激しく揺さぶってきた。
無理もねえよな。
そりゃ、いきなり現れてこのメンツだもんな。
そして……
「うん、次はそこを説明して欲しいじゃない。お兄さん」
そこで笑いながらも口を挟んできたのはコジローだった。
「とりあえず、ジャポーネで起こっていることは一通り説明した……でも、オイラも……この様子ならシノブも、お兄さんが過去の時代で何をやっていたかも知らないじゃない?」
「ッ……」
「今度は、お兄さんの話をジックリと聞かせて欲しいじゃない。そうやって互いを知ったうえで、今後のことも相談しようじゃない」




